中高生の妊娠不安が増加 その背景と大人に知っておいて欲しいこと

教育問題

専門家に聞く

2020/08/21

新型コロナウイルスの感染が拡大し、学校が休校になるなど社会が大きく動いた20年春以降、中高生たちの妊娠にまつわる不安が増加しているといわれています。
つまり、「妊娠してしまったかもしれない」という不安を抱える子どもたちが増えているというのです。

青少年への正しい性教育の啓発に取り組むNPO法人「ピルコン」の理事長・染矢明日香さんによれば、

「3月くらいから中高生からの相談が増え始め、政府が一斉休校を要請してからピルコンが受けた相談件数は、前月の2.7倍に。赤ちゃんポスト“こうのとりのゆりかご”を運営する熊本市の慈恵病院でも、4月に過去最高となる75件の相談が寄せられ、神戸市の相談機関である一般社団法人“小さないのちのドア”でも10代からの相談が3倍に膨れ上がったそうです」

実際に妊娠をしているかどうかは別として、そのような不安を抱える子が、3月の休校以降に急増しているとのこと。

「5月からは多少減ってきましたが、夏休みが近づくにつれてまた少しずつ増加傾向となりました」と染矢さん。
妊娠不安を抱える中高生が増えている背景には、どういった事情があるのでしょうか。

コロナ禍で性に関わる不安が高まる現状

コロナ禍で妊娠に関わる悩みを持つ子が増えた背景を、染矢さんは次のようにとらえています。

「まずは学校が休校になったことで、親の目が届かないところで子どもだけで過ごす時間が増えたこと。性の知識がない中で行為を行ってしまい、その後、不安にかられる子が増えています。
また、コロナ感染が広がる不安の中で、月経が止まったり不規則になったりしてしまい、原因がストレスなのか妊娠なのかわからないという子も」

膣外射精を含め避妊をせずに性行為をしたり、行為中にコンドームが破れたりといった妊娠の可能性がある場合には、「すぐに産婦人科・婦人科等を受診し、、緊急避妊薬を処方してもらってほしい」と染矢さんは言います。

とはいえ、ピルコンに送られてくるメール相談のうち、およそ6割は緊急避妊薬が有効にならない、性行為後72時間以降に送られてきているとのこと。

「もしかしたら」と悩みながら、月経が来るのを祈るように待っている子が多いのです。中には、下着をつけたまま抱き合うなどの妊娠の可能性が極めて低い行為にも関わらず、その後ずっと不安を抱えているという子もいるのだとか。

月経が遅れている場合には薬局などで市販されている妊娠検査薬を使い、早く確かめることが大切です。妊娠検査薬は、一般的に生理予定日を1週間過ぎた頃から妊娠を判定できます。また、月経が不規則な人は性行為から3週間後が確認の目安の時期になります。

さらに深刻な状況に陥っている子も……

「外出自粛と言われても、家庭が安心できる環境ではない子どもたちにとっては居場所がなく、パートナーといるときだけが自分らしくいられる時間だという子も多いんです。
中には、家族から性暴力を受けている子どももいます。また、パートナーから性暴力を受けてしまっている子もいます。性暴力をする側も、ストレスのはけ口が他に見つからないという状況が考えられます。

また、相談は女の子からばかりではありません。『性欲をどう発散していいかわからない』『自宅にこもりきりでマスターベーションばかりしてしまっている』といった男の子からの相談もあります」

染矢さんはこの現状をふまえ、「性行為には妊娠のみならず病気に感染するリスクもあることを認識し、お互いに心の準備ができてから同意のうえで、安心して行うものだと知ってほしい」と話します。

相手の体を使って一方的に自分の性的欲求を満たすことは暴力であり、性行為は、相手の気持ちを確認・尊重し合い、お互いに体と心を大切にし合えてこそ幸せにつながるもの。このことを大人が子どもたちにきちんと伝えなくては、AVやネット等の暴力的で誤った情報から性行為を学ぶ状況が続いてしまいます。

いざという時の緊急避妊薬 でも手に入れられない…

現在はオンライン診療を実施する病院も増え、病院に行くのは抵抗があるという場合もオンラインで受診してもらい、緊急避妊薬を手に入れることができます。しかし、それでも子どもたちにとって手に入れるのには高いハードルがあります。

「オンライン診療は決済方法がクレジットカードのみの場合が多く、子どもだけで受けることができないことも。また、処方箋が届くまでにタイムラグがあり、その間に避妊効果が期待できる72時間を過ぎてしまうこともあります。
親との関係性がよくなかったり、性行為をしたことを伝えられなかったりする子どもにとって、必ずしも使い勝手がいいとは言えません。また、価格も6000円以上と高額なため、買えない子も多いでしょう」

そこで、ピルコンでは産婦人科医らと共に「緊急避妊薬の薬局での入手を実現するプロジェクト」を立ち上げ、2020年7月21日に約6万7000筆の賛同署名と要望書を国に提出しています。

緊急避妊薬が身近な薬局で買えるようになれば、望まない妊娠を避けられる人が増えるはずです。また、自由診療で価格を産婦人科医が自由に決められる現状よりも、もう少し安く買えるようになる可能性もあると言います。

「ただし、緊急避妊薬も避妊の成功率が100%ではありません。緊急避妊薬の妊娠阻止率は24時間以内の服用で95%、48時間以内で85%、72時間以内だと58%となっています。それでも、早く服用できれば避妊できる可能性が高いのです。
今もまさに手遅れになってしまっている女性たちがいる中で、早急に薬局で買えるようになればと思っています」

女性の妊娠や避妊の問題は、女性の健康にとって大きな問題でもあります。「緊急避妊薬の認知が進むことで、性行為や避妊がもっとケアされるものとして社会全体に認識が広まれば」と染矢さんは話してくれました。

性はタブーじゃない、心と体を守る大切なこと

最後に、このように中高生の不安が高まっている時期だからこそ、親や周囲の大人たちに考えてほしいことを染矢さんに伺ってみました。

「まずは、学校教育で正しい知識を伝えてほしいと思っています。学校の性教育は精子と卵子の話、つまり生殖に偏っていて、身近な行為としてイメージがしにくいものになっています。

世界では、性の知識を広げるために『あなただったらこんなときどうするか』を考えたり、ロールプレイングを取り入れたプログラムを行ったりしている国も多くありますが、日本は出遅れています。将来に役立つこと、より良い生活を送るために必要なことという視点から実践的な教育を行うことが重要です」

そして、身近な大人たちには、性行為は悪いこと、後ろめたいこととして子どもたちから遠ざけるのではなく、大切な人や自分の体を大切にするために必要な情報として、子どもたちにきちんと伝えてほしいと言います。

「『自分の体は自分で守れ』という人もいますが、子どもたちのほとんどは、守り方を知らないのです。

10代の性行動をタブー視したり、いけないこととして叱ったりする大人が多いですが、それでは正しい情報を得て選択肢を増やすことができません。
普段から性について話し合っておくことや、困ったときに責めずにその子自身の気持ちを尊重しながら、今後の選択をサポートする姿勢を持っておくことが大切です。

また、妊娠の不安を抱える子に対して『遊んでいる』『不用意だ』と感じる人も多いでしょうが、その背景にはこれまで大切にされた経験が乏しい不安定な成育環境や人間関係、あるいは性的にいやな経験をしたことがあり、そうしたさまざまなことを前向きにとらえるために行動している子もいます」

こう聞くと難しいなと感じる方もいるかもしれませんが、今はアメリカの性教育NGOが無料公開している性教育動画「AMAZE」や、株式会社TENGAヘルスケアが運営する中高生のための性教育サイト「セイシル」などもあるので、そうした情報源を子どもに伝えたり、一緒に見ながら勉強したりするのもいいのでは、と染矢さん。

ピルコンでも中高生が無料で参加できるオンラインイベントを行っているので、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

取材協力

NPO法人ピルコン 理事長・染矢明日香さん

自身の経験から日本の思いがけない妊娠・中絶の多さに問題意識を持ち、大学在学中より学生団体ピルコンを立ち上げ、性の健康の啓発活動を始める。その後民間企業でのマーケティング職を経て、2013年にNPO法人ピルコンを設立。自分事として性の健康を伝える若者ボランティアの育成をしながら、中学校、高校、大学等で200回以上、3万名以上の対象者に性教育講演を実施。イベントや啓発資材の企画、動画コンテンツの製作・発信、政策提言を行い、思春期からの正しい性知識の向上と対等なパートナーシップの意識醸成に貢献。

<文・取材/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。