臨時休校対策で広がる学習支援 「オンライン教育」は浸透するのか

教育問題

専門家に聞く

2020/03/23

国内で新型コロナウイルスの感染が広がる中、2月27日に安倍晋三総理大臣は全国の小中学校、高校などの休校を要請。これを受けて3月から、ほとんどの学校が臨時休校に入り、春休みまで続行されることとなりました。

休校による不安、心配事はさまざまありますが、特に突然1カ月も休みになることで学習に遅れが生じてしまうのではと懸念する声が上がっています。

そこで、今活躍しているのがネットを利用した教育サービスを提供している企業やNPOなどの団体。有料コンテンツを休校の間や春休みいっぱいまで無料開放したり、教材を無料でダウンロードできるようにしたりと、学習面で子どもたちをフォローしているのです。

これを機にオンライン学習に初めて取り組む子どもたちも出てきていますが、今後インターネットを使った教育は広く浸透していくのでしょうか。

今回は、休校支援で活躍している企業・団体に、その取り組みと今後の展望について伺ってみました。

自治体や学校・学習塾への問い合わせは急増

まずは休校要請のあったその日から、休校となった学校などに対して、オンライン学習教材とその利用に関するオンライン研修の無料提供を発表したさいたま市のNPO法人eboard(イーボード)。

もともと「学びをあきらめない社会の実現」をミッションに掲げ、子どもの貧困や地理的格差、不登校などの課題と向き合い、ネット上で学び直しも含め無料の学習支援を行ってきた団体です。代表理事の中村孝一さんに、今回の対応についてお聞きしました。

「学校での勉強ができなくなったときだからこそ、オンライン教材としてお手伝いできることがあるのではと考えました。弊団体では、全国の休校措置が決まる前の2月27日より、無料公開を発表しました。すでにその時点で北海道や千葉県市原市、大阪市などの休校が決まっており、今後も増えてくるであろう休校に際して、学習環境のサポートができればと考え、提供させていただくことにしたのです。その後、急な全国休校が決まったため、問い合わせが急増しました」

現在までに10以上の自治体、300以上の学校や学習塾などに対してアカウントを発行、家庭へのお知らせへの支援などのサポートも提供しています。

「継続的に通常の7〜8倍のアクセスをいただいています」とのことでした。

ただし、急な休校要請で学校側もオンライン教育にすぐに切り替えられるとは限らず、サポートを断念する例もあったそうです。

「3月2日の月曜日から休校が決定していた学校も多く、そうした学校に対しては、アカウントの発行ができたとしても、保護者や生徒への周知が間に合わない状況でした。このことから、学校と保護者とのコミュニケーション手段として、従来の電話や手紙以外に、メールなどの連絡手段が確保されていることが重要だと感じました。また現在ICTが導入されている学校の多くは、端末の持ち帰りを禁止していることが多いため、BYOD(Bring your own device=個人保有の機器を持ち込んで使うこと)での端末導入も検討されるべき要素かと思います

教育現場ではまだまだIT化が進んでいないため、こうした支援が届かないケースも多いようです。

今後、オンライン教育が浸透するためには、「学校・教育現場と家庭・生徒との、教材を通じた連携が必要」と中村さんは話します。

「すでに個人でオンライン教材を利用している家庭は増えており、オンラインで学習している子どもも多くいます。ただ、学習意欲の高い一部の限られた子が利用しているのが現状で、今回の多くの会社の無償開放も、オンライン学習を認知していただく契機とはなれど、一時的な拡大にしかならないのではと思います。浸透するにはまず、学校での学習と家庭学習が、教材や学習履歴を通じて接続していること。また、意欲が低く取り組みづらい子もサポートできるような仕組み作りなどが必要なのではないかと思います

オンライン教育の効果を最大に活かすためには?

NPO法人eboard・中村さんのお話からは、オンライン学習に慣れていない児童・生徒へのフォローも課題になりそうだということがわかりました。

このことについて、映像授業の無料配信という形で学習支援を行っている一般社団法人CAMEL(キャメル)の代表・大塚意生さんもこう話してくれました。

「ときどき、CAMELに登録する方法がわからないという親子もいて、“貧富の格差”とはまた違う、“情報格差(デジタル・デバイド)”を感じます。スマホを使いこなせない親子もいました。これをカバーするには、もっと平易なマニュアルが必要だとも思います。家庭にPCがあり、当然のように家族全員でWi-Fiを使い、知りたい情報にいつでもアクセスできる環境の有無は、家庭に“文化格差”をもたらしているのかもしれません

まだまだ家庭によって環境の差があることも、特に公立の学校ではオンライン教育が普及していかない原因になっているのかもしれません。

CAMELも今回の臨時休校に対応して、これまで対象としていた貧困家庭などに限らず、休校中の子どもたち全体に学習コンテンツを無料開放しています。今後は、生活困窮家庭や養護施設の子どもや、不登校・長期入院中の子どもなどに、より確実に届けることができればという思いから、「条件さえ整えば、誰でも利用できる無料コンテンツとして開放する可能性もある」と大塚さん。

そのオンライン教育がもたらす効果についても、大塚さんは詳しく話してくれました。

「フィンテック(金融と技術を組み合わせた革新的なサービス)が銀行の窓口をATMに変え、今や、スマホがATMや現金の代わりになろうとしているように、これまで学校や塾で教えていた教育の情報も今後デジタル化は可能です。それによって、日本中・世界中の子どもたちに、いつでも、どこでも、何回でも授業を届けることができるようになります。ただし、これはあくまで教育の“知識の部分”となります

オンライン教育の最大のメリットは、知識の部分をこれまで以上に補強できること。ただし、このメリットを活かすために重要なのは、「人間の関与」だと言います。

「人間が関わらない教育はありません。CAMELの学習でも人間の関与が必要です。教育を担う大人が子どもの進捗状況を把握してあげること、LINEなどで応援してあげること、教室に来たときにチェックテストをしてあげることなどができれば、オンライン学習はより効果を発揮します。間違えたところを考えさせて、正答へと導き、褒めてあげるというプロセスは教育においてとても大切です」

このことを考えると、もし休校中の我が子にオンライン学習をさせる場合には、「自分一人で取り組ませる」のではなく、どこまで進んだのかをチェックしたり、できたことを褒めたりと、寄り添う気持ちがポイントとなりそうですね。

プロの予備校講師などが教えてくれるCAMELの映像授業

休校中も安心な見守り機能も!

最後に、スカイプを利用した小・中・高校生向けのオンライン家庭教師「まなぶてらす」を運営する株式会社ドリームエデュケーション(千葉県市川市)の代表・坂本七郎さんにもお話を伺いました。

まなぶてらすも、通常は平日夜と土曜のみ開室している「ネットで自習室」を、休校の間は平日朝9時から夜9時まで無料で開室しています。

「『ネットで自習室』は、オンライン上で小中学生・高校生が参加できる自習室。子どもたちは自分の手元を写して、勉強している様子をみんなに見せることができます。参加者がお互いに勉強している姿を見せ合うことで、意欲的に自習ができる仕組みになっています。また、この自習室には常に見守りの先生がいて、録画もしているので、安心して利用できます」(坂本さん)

職場などの外出先からでも子どもの勉強の様子がスマホで確認できる「リアルタイム見学機能」もあるため、休校中の子どもが自宅でどう過ごしているか心配な保護者にも便利そうです。

「今回の休校措置では、自宅で親の帰りをひとりで待つ子どももいるはずです。そんな状況の中で、子どもたちが自宅でも心細くならずに、安心して勉強ができる仕組みを整えようと思い、自習室を一般にも無料開放しました。2月26日の千葉県市川市の市内一斉休校を受けての対応だったのですが、その後すぐ、政府から全国一斉休校要請があり、結果的に準備していた自習室の仕組みが全国の子供たちにも役立つ形になりました」(坂本さん)

現在は全国の子どもたちがこの平日の自習室にアクセスしていると言います。

「今回の休校期間中に多くの親子がオンライン型の学習を経験することで、その利便性と効率の良さに加え、オフラインとの垣根がほとんどなくなっていることに気付き、さらに利用者は増えていくと思います」と坂本さん。

今回の取材では、オンライン教育とひと言で言っても、その形はウェブ教材、映像授業配信、自習というようにさまざまな形があることもわかりました。

学校が休校になっても、また子どもによってさまざまな事情があっても、多様な形でオンライン教育が普及していけば、より多くの子どもたちが充実した教育を受けられるようになるのではないでしょうか。

また、その際には「人が関わる」ということも大きなポイントとして挙げられそうです。

この機会に、オンライン教育の有効な使い方を考えることは社会全体で必要なことだと言えるでしょう。

取材協力

<取材・文/ 大西桃子 >

この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。