「ありえない」そう思っていた通信制高校へ進学を決めた家族の理由

通信制高校

不登校

2022/08/31

(イメージ)

「通信制高校だと全日制のような学校生活が送れないのではないか?」——通信制高校を検討する親御さんの中にはそのような不安を抱いている方も少なくないでしょう。しかしながら、通信制高校の中には全日制と同じようにスクーリングし、同級生と触れ合いながら学んでいけるところもあります。

菅原悟さん・陽子さんご夫妻の長男・謙くん(仮名)は、通信制高校の2年生。明るい笑顔としっかりとした受け答えが印象的ですが、中学生の頃には不登校を経験しました。子どもの不登校に両親はどう向き合い、そしてなぜ通信制高校という選択をしたのか。お話しを聞かせていただきました。

不登校になった という現実を受け入れられなかった

―― 謙くんは中学生の頃に不登校になったそうですね。

陽子さん:1年生のときはそこそこ通っていたんですが、2年生ぐらいから休む頻度が増えてきました。

悟さん:だけど、部活は一生懸命やっていたんですよ。授業に出ないで部活だけ出る、みたいな。でも、3年生になるときにコロナで学校がなくなって、6月くらいに再開したんですけど、そのときにはもう完全に登校しない感じになりました。

―― どうして学校に行けなくなってしまったんでしょう。

悟さんまず、朝起きないんです。「身体が動かない」って感じで。なので、病気も疑って病院にも連れて行ったんです。検査によると、性格的に得意なことと苦手なことのギャップが激しい傾向があるということでした。
病気というほどではないけど、集団の中では生きづらいかもしれない、と。

陽子さん:できることは普通よりできるし、できないことは普通よりできない。平均取ると普通よりちょっと上くらい。だけど、差が激しいから理解されづらいという診断だったんですね。発達障害とかではなく、誰にでもある得意と不得意の差が激しいということらしいんです。

悟さん:具体的には、物事をうまく整理できない。学校で配られたプリントを持ち帰ってこれないとか、テスト範囲や夏休みの宿題が把握しきれないとか。でも、一見、ちゃんとしているから1年生のときには学級委員を任されたりしたんですが……。

陽子さん:やっぱりできないことが多くてクラスをまとめられない。それよりも自分が荷物を出しっ放しにしたり、忘れ物をしたりするので、先生から「お前は何でそんなこともできないんだ」と言われてしまう。
それで、同級生からもからかわれるようになって、自信を無くし、学校に行けなくなったのかな、と。

悟さん:ただ、精神的に病んで引きこもっているとか、人との関わりをまったく持ちたくない、ということではないし、友だちも普通にいるんです。
部活の友だちもいまだにゲーム仲間として付き合っていますし。「居場所がない」という風には見えない。家でもコミュニケーションは普通に取れていました。

―― 不登校になったときはどんなお気持ちでしたか。

陽子さん:私たちの感覚では「学校は熱でも出さない限り休むもんじゃない」っていうのがあったから、つらかったですね。本来、学校に行っている時間帯にずっと家にいるわけなので。「こんな状況でいいんだろうか」というのがありました。

悟さん:僕は息子の不登校という現実を受け入れたくないという感情があったと思います。このままいくと道から外れてしまうっていう、恐怖感というか危機感というか、そういうのがありました。

(イメージ)

「この学校に行きたい!」という本人の意思を尊重

―― 進学先として通信制高校を選んだ経緯を教えてください。

陽子さん:私はカウンセラーの方に相談していたんですけど、そこで「通信制という選択肢もありますよ」と教えてもらい、合同説明会が開催されるっていうのを聞いて参加したのがきっかけです。

悟さん:もともとは都立高校に行かせたいと考えていたんです。授業には出ていませんでしたが、勉強すれば都立は何とかなるだろうと思っていたので。
ただし、出席日数が足りないので滑り止めとして受験できる私立がない。そこではじめて通信制高校という選択肢を考えるようになったんです。それまでは通信制高校について知らなかったし、ありえないと思っていました。

―― 「ありえない」と思ったのはなぜですか。

悟さん:僕のイメージでは「働きながら通うところ」というのがあって、部活で汗を流したり、クラスメイトと触れ合ったりっていうことが経験できないと思ったんです。

陽子さん:将来、進学や就職する際にも不利になるんじゃないかという懸念もありました。でも、いざ説明会に参加してみたら通学できるところもあるし、そんなに悪くないかも、と。
都立に受かったとしても通えなくなってしまうリスクを考えると、通信制のほうがいいのかもしれないと思うようになりました。

―― 最終的に現在通っている通信制高校に入ることを決めたポイントは?

陽子さん:それはもう完全に本人の意思です。本人を連れて行って説明を聞いたんですけど、話を聞いているうちにだんだん目が輝いてくる様子がわかりました。来る前は全然乗り気じゃなかったのに、帰りには「ここに入りたい」と。
生徒たちが楽しそうにしている様子を見ることができたので、「ここなら大丈夫」と思ったようでした。

悟さん:僕はその時点ではまだ都立に行かせようと考えていたんですが、仕事から帰ってきたら本人が「ここに行きたい!」というのをプレゼンするんです。
「パパは都立に行かせたいだろうけど、僕には無理だ。入ってもたぶんまた不登校になっちゃう」と。それで、「実は僕は将来車の整備士になりたい。こっち(通信制高校)はいろいろできそうだから、ここで勉強して整備士を目指したい」って言うんです。

そんなの初めてですよ。息子がキラキラした目で自分のやりたいことを話したのは。それだけ強い意思を示しているんだから、これはもう本人の意思を尊重してあげるべきだろうと思いました。

友だちが増え、教室に通って授業を受けられるように

―― 入学して謙くんの様子は変わりましたか。

悟さん:入学当初は緊急事態宣言中のため、登校することができなくて、ほぼオンラインでした。なので、友だちができる機会もそんなに多くはなかったんです。

陽子さん:秋ぐらいになって、先生が「イベントあるから手伝って」みたいな感じで誘ってくれ、そこに参加することで友だちが増えていったみたいです。2年生になってからはすごく楽しそうにしていますね。

悟さん:だんだん自分に自信が持てるようになってきたみたいで、今は自分から声をかけて友だちを作ったりもしています。

陽子さん:毎日登校しているわけではないのですが、「自分の気持ちと身体が乗ったときに行けばいい」っていう心のゆとりができたのが良いみたいですね。それから、先生が理解しようとしてくれるし、理解してくれているというのも大きい。

今の通信制高校の先生は、こちらが何も言っていないのに「もしかして昔、責任あることを任されて挫折したことないですか?」って……。たくさんそういう子を見ているから、わかるらしいんです。

悟さん:それに、「居場所がない」と感じないように、先生がうまく生徒たちをつないでくれているみたいなんですよ。息子から聞いたところだと、先生から「仲良くしてあげてね」と紹介された子がいて、それで声をかけて友だちになったそうです。

―― 良い変化が生まれてきているんですね。

悟さん:僕も前みたいにガミガミ言わなくなりましたね。以前は僕自身が焦っていて、ついつい強く言ってしまっていたんですけど、それがなくなった。
最近は息子が「あの頃はつらかった」って、当時の心境を話してくれることがあるんですが、僕の言い方が彼の自信をなくさせてしまっていたんだなと反省しました。

陽子さん:友達もできたので、以前のような心配は無くなりましたね。ただ、進路に関してはまだ不安なところもあります。全日制と比べるとやっぱり授業量が少ない気がするので、大丈夫かな、と。

悟さん:進路説明みたいなことも学校でやってくれるみたいなんですが、その辺は実際に動き出してみないとまだ何とも言えないので、不安は不安ですね。今は「やっとスタートに立てた」っていう感じで、そこはホッとしています。

―― 最後に通信制高校を検討している方へメッセージをお願いします。

陽子さん:学校の先生にも言われたんですけど、通信制高校に入るのは今どき特別なことじゃないんですよね。周りにも通信制に入っている子がけっこういますし。学校によってはうちの子みたいに教室に通って勉強できるところもあるから、友だちとの学校生活もちゃんと送れます。

悟さん:今は本当に多いんですよね。不登校の子って。僕らのときの感覚だと1学年に1人くらいだったけど、息子のときは1学年に10人くらいいましたから。

そう考えると、通信制高校も一般的な選択肢になってくるのかなという気はしますね。なので、同じように子どもの不登校に悩んでいる方がいるなら、通信制高校を検討してみるのも良いと思います。

(イメージ)

本人はどう感じていた? 不登校時の気持ち

―― 不登校になった当時のことを、当事者である謙くんにもお聞きしたいと思います。中学校のときに学校に行けなくなったのは、何が理由だったんですか。

謙くん:最初に頑張りすぎて、できる人みたいに思われちゃって……。でも、結局できなくて、周りからは怠けているみたいに捉えられちゃったんです。そう思われるのがすごく嫌だったし、「ちゃんとやらなきゃ」というプレッシャーを感じて学校がつらくなりました。

―― 頑張りすぎちゃったというのは?

謙くん:最初に学級委員をやったんですよね。そのときに最初は何とか誤魔化していたんですけど、途中から何ていうか誤魔化しきれなくなってきて……「あいつ、サボっている」みたいな雰囲気になったんです。
約束とかを覚えるのが苦手で、会議があるのを忘れて部活に行っちゃったりして怒られていました。

そういうのもあって友だちからの「いじり」がエスカレートしてしまって……。ちょっかいで叩いたり蹴ったりってあるじゃないですか。そういうのがちょっとダメでしたね。

―― 不登校になると親と話さなくなる子もいますが、ご両親との会話はありましたか?

謙くん:日中はあまり喋りませんでしたが、夜は喋っていました。学校のある時間帯に家にいることが気まずかったし、「学校に行きなさい」と言われるのもつらかったので、日中はダメでしたね。
とくに3年生の最初の頃は「学校に行け」と厳しく言われていたのでつらかったです。自分がどれだけ行きたくないかっていうのを、もうちょっとわかってほしいという気持ちでした。

でも、3年生のときの先生が良い先生で、自分の気持ちを聞いてくれて、それを親にも伝えてくれたので、それでわかってもらえたのかな、と。

見学で感じた雰囲気の良さが入学の決め手に

―― 高校に行きたい気持ちはありましたか?

謙くん:そうですね。親から都立高校に行けと言われていたので、最低限都立に行ける学力はつけなきゃと思って、自分から頼んで家庭教師をつけてもらいました。そのときは都立に行くつもりでしたね。
ただ、そのときも「高校に行きたい」というより「行かなきゃいけない」という感じだったんです。

でも、今通っている通信制高校の説明を聞きに行ったら、教室にいる生徒たちがすごく楽しそうで、先生とも友だちみたいな距離感で仲良く話している。こういうところだったら行きたいなと思いました。

―― 実際に通ってみてどうですか。

謙くん:今の学校は自分と似た雰囲気の子が多いというか、否定される感じがないので、話しかけやすいですね。先生がイベントなどの手伝いに誘ってくれたりもして、他の子と話す機会を作ってくれますし。みんなと仲良くできる雰囲気で、「居場所がない」っていう感じはありません。

僕は将来整備士になりたいと考えているんですが、今の学校では整備士専門学校の先生が来て体験授業をしてくれたりもします。専門学校や企業とつながりのある学校なので、いろんな体験ができるのが楽しいです。

―― 勉強も友だちとの付き合いも楽しそうですね。

謙くん:登校して友だちと喋ったり、午後の授業に一緒に出たりするのが楽しいですね。午後の授業は自由選択なんですが、スポーツやネイル体験とか、いろんなことができて面白いです。興味のある授業がなければ、午後は友だちとショッピングしたりして過ごしています。

通信制高校も立派な選択肢。「通信制だからできない」ということはないと思います。全日制が不安だったり、全日制では経験できないことにチャレンジしてみたいというのなら、通信制高校を検討してみてほしいですね。

——-

何らかの理由で学校に通うことができない、通うことが苦痛だというお子さんの進学先として、通信制高校が選ばれることが増えてきています。

謙くんも、通信制高校に進学したことで、自分に合ったペースで登校できることで心の余裕ができ、また保護者が心配していた友人関係も円満ということで、個性に合った環境を手に入れることができました。

どの通信制高校を選ぶかによっても合う合わないが出てきます。菅原さんご家族のように実際に説明を聞いたり見学したりして、自分に合った学校を探してみてはいかがでしょうか。

(取材・北澤愛子/クリスク 文・大越啓)

この記事をシェアする

この記事を書いたのは

通信制高校ナビ編集部