「高校に行きたくない!」 という中学生のあなたに伝えたい3つのこと

生徒・先生の声

専門家に聞く

2021/04/23

新学年がスタートするこの時期。
中学2、3年生たちは学校・塾の先生や親から「そろそろ受験を考えないと」と言われる季節です。それに対して「気が重いなぁ」と感じてしまっている中学生もいるかもしれません。
「どうして高校に行かなくちゃいけないんだろう」と進学に対してあまり前向きになれない人もいるかもしれませんね。

筆者は東京都内で、主に低所得世帯の中学生を対象に無料で勉強を教える「無料塾」というものを運営しています。無料塾でも、これまでにそんな中学生たちをたくさん見てきました。
「高校なんて行きたくない!」
そう、ハッキリ口に出して言う子もいました。

「勉強は得意じゃないし、学校も好きじゃないから」
彼らは高校に行きたくない理由をそんなふうに話します。

でも今の時代、高校に進学しないという選択は、その先の人生においてかなり不利な状況に自分を追い込むことになってしまいます。
逆に、高校に進学するというステップそのものは、自分自身を大きく成長させることにつながっていき、社会の中で生き抜く力を大きくアップさせてくれます。
今回はそんな話を3つの切り口からお伝えしたいと思います。

伝えたいこと① まずは中学卒業後の現実をデータで見ておこう

「高校に行きたくない、でも行かなくちゃいけないのかな……」
そんなふうに悩んでいる人には、まず現実をしっかり見ておくところから始めてもらいたいと思います。
物事を判断するときには、やみくもに自分の感情だけを判断材料にせず、できるだけ情報を集め、自分の置かれた状況を広くとらえて見ることが重要です。

今の日本で、中学生のうちのどれだけの人が高校に進学するかみなさんは知っているでしょうか。
答えは、文部科学省が行っている「学校基本調査」に載っています。令和2年度の調査結果によると、高校への進学率は98.8%です。つまり、100人いたらだいたい99人は高校に進学しているということです。ここには通信制高校も含みます。
では、高校に進学していない残りの0.12%の人はどうしているかというと、実践的な職業教育、専門的な技術教育を行う「専修学校」に進学していたり、国や自治体が設置している職業訓練を行う「公共職業能力開発施設」に入ったりしています。
また、働き始める人も0.2%います。0.2%ということは500人に1人ということです。

どうして500人に一人しか働き始めないのか?

98.8%が高校に進学し、中卒で働く人は0.2%。
日本ではもう何年もこういう割合になっていますから、「中卒の子たちをたくさん採用しよう!」と張り切る会社はたぶん多くはないのでしょう。
「早く働いてお金を稼ぎたい」と考える人もいるかもしれませんが、たいていは非正規雇用のアルバイトとなってしまい、正社員や契約社員として就職できるところは少ないのです。
こちらもデータを見てみましょう。

厚生労働省がまとめている「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職・就職内定状況」(令和元年度)では、高校を卒業して新たに就職する人への求人数は約48.4万人だったのに対して、中学を卒業して新たに就職する人への求人数は1696人となっていました。全国で、ですよ。

働くことはお金を稼ぐこと

ちなみに、筆者が運営する無料塾に通う生徒たちの場合は、「高校に行かずに働きたい」と言って就職をした子は今まで一人もいません。
「高校に行きたくない」という気持ちを口にする子はいても、結果的には高校に進学していきます。

本人たちと将来の話をしていると、
「うちにはお金がないから早く働きたいけど、高校は出ないと仕事を見つけるのは難しいし、自分のやりたい仕事を選ぶことはできないから」
という話がよく出てきます。
「今はまだやりたいことが決まらなくても、もし決まって専門学校に通いたい、と思ったとき、高校を出ていないと入れないから
という理由で高校に進学する子もいます。

やりたいことが決まっている子も、専門学校を出てより有利に効率的に就職をするために、まずは高校に進学していきます。
筆者が見てきた生徒たちの場合は、裕福な家庭の子どもたちに比べて、お金を稼ぐことの大切さや、お金がないときに暮らしが大変になることを知っていますから、より現実的で確実な道を選ぼうとしていく傾向にあるのです。

伝えたいこと② 学校が苦手・勉強が心配 でも選択肢はたくさん

「中卒では雇ってくれるところも少ないし、お給料も少ないよ!」という話は、「高校に行きたくない」と言ったときにだいたいの大人が教えてくれることだと思います。
そうは言っても、学校という場所が苦手で、明るいイメージを持てないという人もいると思います。
中学校の間に勉強が遅れてしまっていて、高校ではもっとついていけなくなってしまうのではないかと心配する人もいるでしょう。
勉強が遅れているから、受験してもどこにも受からないのではと思っている人もいるかもしれません。

でも今は、高校にもいろいろな場所があります。中学校までとは違う学び方ができる高校もあります。いくつか紹介してみましょう。

●チャレンジスクール(東京都)

東京都立の高校には、「チャレンジスクール」と呼ばれる学校が6校あります。
ここは小・中学校時代に不登校を経験した生徒や、高校を中途退学した生徒など、いろいろな生徒が通う学校です。チャレンジスクールでは遅れた分の勉強を丁寧に見てもらえます。
また、コンセプトは「学校生活を通じて自分の目標を見付け、それに向かってチャレンジする学校」となっていて、授業も情報やビジネス分野、アート分野、福祉分野など多様な科目が揃っています。
時間帯も午前・午後・夜間から選ぶ3部制となっていて、朝起きられない人や働きながら通いたい人に向いています。
入学試験は小論文(作文)・面接・志願申告書の3つで、学科の試験や中学校の内申点は問われません。
筆者の教え子では、中学時代に不登校だったけれど、チャレンジスクールではしっかり勉強を見てもらえて、友達や彼氏・彼女もできて楽しく通っているという子たちが多いです。

●エンカレッジスクール(東京都)

東京都にはエンカレッジスクールに指定された高校も6校あります。
チャレンジスクールに似ていますが、こちらは中学校で学習が遅れてしまった人の学び直しを応援してくれる全日制の高校です。授業では中学校の復習から丁寧にやってくれます。
エンカレッジスクールの受験では面接、小論文(作文)や実技検査が行われます。

筆者の教え子でエンカレッジスクールに進学した子たちは、中学時代のテストでは20点、30点が普通だったけれど、高校に入ったら80点、90点がとれて自信がついたという子や、就職のサポートをしっかりしてもらえて、やりたい仕事で正社員になれた子もいます。

●通信制高校

そして、なんと言っても今面白いのは通信制高校です。
通信制高校と一言でいってもさまざま。実践的にビジネスやITスキルを学べる学校や、アートや美容を学べる学校など、自分の好きなことを追求できる学校もいろいろあります。
大学進学をしっかりサポートしてくれるところもありますし、通い方も週に数回、月に2〜3回、年間5回程度であとはオンラインで授業を受けるなどさまざまです。
詳しくは当サイトで検索すればたくさん出てくると思いますので、ぜひ調べてみてください。

筆者の教え子では1人通信制高校に入学した子がいましたが、在学中からイラストレーターやデザイナーのセミプロとして活動を始めて、現在はプロを目指してより高度に学べる専門学校に進学しています。

学校に毎日通えるかどうか不安だったり、勉強についていく自信がなかったりしても、こうした高校を選べば安心して学ぶことができるのではないでしょうか。
他にも、工業や農業など、自分の興味のあることが決まっているなら、専門的なことを学べる高校もあります。
「将来はおばあちゃんの農家を継ぎたい」
という筆者の教え子は農業高校に進学して、「学校の実習で田植えをした」と真っ黒に日焼けして笑顔を見せてくれました。

伝えたいこと③ 進路を決める、受験をするプロセスこそが重要

高校進学をネガティブに感じている人の多くは、単に「受験が嫌」ということも多いです。
これは多かれ少なかれ、受験生はみんなが思っていることです。

たしかに、テストの点で競わされ、そこで負けないように勉強しろ、勉強しろと周りの大人たちに言われる日々は、憂鬱です。もっとやりたいことがあるのに、受験勉強のためにその時間がとれなくなることもあります。
受験のシステムには理不尽なこともたくさんありますし、そもそも偏差値で自分を評価されるのは嫌なものです。

でも、そんな嫌な受験でも、経験することには大きな意味があります。
それは、受験というプロセスを体験することそのものが、大人になったときに、この社会を生きていく力につながっていくということです。
社会に出たら、受験のように嫌なことや理不尽に感じることはたくさんあります。
何かがほしいときには、努力をしなければ手に入らないものだらけです。
ずっと楽をして生き続けることができる人はいません。

受験は、何か目の前に乗り越えなければいけない山が現れたとき、それをどのように乗り越えるかを考え、実践する練習です。

周りの状況をしっかり見たうえで自分の立ち位置を確かめて、どのように一歩進むか考えること。
目標を達成するために必要なことなら、ちょっとしんどくてもガマンして続けること。
うまくいかないときに、どこが悪いか分析して修正すること。
時間をむだにせず効率的に使うにはどうしたらいいか工夫すること。
どういうときにやる気が出て、どういうときに落ち込むか、自分自身を分析すること。
他人と励まし合ったり、競い合ったりすることで互いに成長すること。

これらは、受験を通してすべて経験することが可能です。
そして、こうした練習を積めば積むほど、生きることはラクになっていきます。逆に、こういう経験がない人は、何か目標ができたときにどう進めばいいかわからなかったり、ちょっと失敗しただけですぐ諦めてしまったりします。ゆえに、ほしいものが手に入りづらくなってしまいます。
「逃げる」選択肢ばかりとってきた人は、重要な場面で何も成し遂げられません。

受験という体験を経て、筆者の教え子たちはかなり人間として成長をしているなと感じます。社会を生きていくのに必要な「ものの考え方」「自分自身の捉え方」「感情のコントロールのしかた」を身につけていきます。

最初は「高校なんて行きたくない」と言っていた子たちも、キラキラした目で高校1年生の4月を迎えるのです。
みなさんもぜひ、自分を輝かせるためのチャンスとして、高校進学を考えてみてください。その経験が、必ず自分のプラスになっていくはずです。

<文/ 大西桃子 >

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。