カリスマ数学教師イモニイが語る「自分で考える子ども」になる秘訣とは?

生徒・先生の声

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2020/04/02

去る3月7日、「子どもがどんどん自分で考えるようになる秘訣とは?」と題されたワンダーラボ主催のトークイベントが開催されました。

イベントに登壇したのは、栄光学園(神奈川県)での授業や「みんなの学び場『いもいも』」での活動で個性的な授業を展開するイモニイこと井本陽久さんと、井本さんの栄光学園での教え子で、思考力を育てるアプリ「シンクシンク」の開発などに携わる川島慶さんのお二人。

「“学ぶ”とは」「“考える”とは」という興味深いお話について話してくれました。

なお、本来、観客を入れて開催予定だった本イベントですが、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況を受け、有料配信のみに変更となりました。


ご来場予定だった方々には残念なところですが、形を変えてもお二人のテンションはまったく変わらず。最後まで楽しくテンションの高いトークとなりましたので、参加できなかった方にもこの記事で、お二人の熱量が伝わればと思います!

井本 陽久(いもと はるひさ)※左
栄光学園中学・高校数学非常勤講師。2019年より、花まる学習会顧問。
栄光学園中学・高校卒、東京大学工学部精密機械学科卒。92年より栄光学園中学・高校 数学教師を務める。児童養護施設での学習支援を20年以上継続。
著書に『プライム数学 幾何Ⅰ・幾何Ⅱ』(Z会)、関連書籍に『いま、ここで輝く。—超進学校から飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡の教室—』(エッセンシャル出版社)などがある。
 
川島 慶(かわしま けい)※右
ワンダーラボ(旧花まるラボ)代表。
栄光学園中学・高校卒業、東京大学大学院修了。公立小学校や国内外児童養護施設での学習支援を多数手掛ける。思考力育成アプリ「シンクシンク」を開発、世界150カ国100万ユーザーを持つ。毎年算数オリンピックの問題制作に携わり、2017年より三重県数学的思考力育成アドバイザー。共著書に、算数脳パズルなぞぺーシリーズ『迷路なぞぺー』『新はじめてなぞぺー』『絵なぞぺー』など。2020年、花まるラボからワンダーラボ株式会社に社名を変更し、感性と思考力が育つ通信教育「ワンダーボックス」をリリース。

学びの本質は”日常生活”に

イベントは井本さん、川島さんがそれぞれスライドを交えてお話をしてくれました。

井本さんは最初に「私はこういう場では、子どもたちがいかにかわいいかという話しかしないんです」と前置きし、教鞭を執られている栄光学園での生徒たちの写真を映しながらエピソードの数々を披露。

行儀よく授業を受けていると思いきや、よく見ると友人たちのメガネを集めて何重にもかけている生徒。
課題のレポートを漫画で描いてくる生徒と、それに対抗心を燃やしてもっと凝った漫画を描いてくる別の生徒。
集めた答案の端が折れていると思ったら、生徒が鉛筆でトリックアートのように書いたものだったという話も。

「子どもたちは、やっちゃいけないことやってる場合じゃないことを喜んでやるんです」という言葉は、いくつもの写真とともに示されるので説得力抜群です。

しかし、これらのエピソードはただ参加者を笑わせるために披露されたものではないことが、だんだんとわかってきます。その象徴的なものが、学校の壁を登りたがる生徒の話でした。

落ちたら危険なところにも登ろうとするので、「そんなに登りたいんだったらボルダリングをやったらどうだ」と諭すと、それはイヤなんだと生徒は答えたそうです。

「だって、ボルダリングの壁は登るために作られたものじゃないですか」

井本さんは、「学びの本質はここにあるんです」と言います。あらかじめ用意されたものをこなすのではなく、さまざまな観点から考えれば、日常生活で周囲にあるものでも挑戦の道具に早変わりするというわけです。

不自由な環境でこそ学ぶ子どもたち

井本さんは、「イタズラも授業も、自分の考え方、やり方でやって、なおかつそれがジャッジされないことが大事」だと言います。

子どもたちは「ふざけ・イタズラ・ズル・脱線」が大好きですが、一般的な“授業”とは、子どもの「手持ちを増やす」ことを重視します。

「手持ちを増やす」ためには「再現力」が必要となるため、ドリルが増えて、結果的に子どもにとっては「つまらない」ものに。そして子どもの脱線は「“授業”では邪魔」となってしまいます。

また、「できるかどうか」で評価すると、子どもたちは近道をすることを覚え、躍動感のない学びになってしまうそう。

逆に、 井本さんが 重視している思考力とは、「今ある手持ちで何とかする」力だと言います。
手持ちが少ないほど工夫しなければならず、それを楽しむことができる子どもほど伸びる。その力を伸ばすためには、「不自由な環境で自由にさせること」が大切なのだと井本さんは話します。

今ある手持ちで何とかする力 の育て方

今ある手持ちで何とかする力を伸ばすために井本さんが行っている授業があります。

子どもに2人1組のペアを組ませ、片方の子には目隠しをし、片方の子はヘッドホンで音が聞こえない状態にします。その上で、目隠しをした子にのみ買うものを告げて、2人は言葉を使わずに近所のスーパーでそれを買ってくるという課題です。

まさに「不自由な環境」に置かれた子どもたちは、ジェスチャーで買うものを共有し、手を取り合って目的のものを探します。

互いの特性を生かすために、その場で思いついた策を駆使して解決に向かう姿に、井本さんは「子どもは勝手に学ぶんです」と結論づけます。
そのためには、子どもたちの興味、関心を大人がジャッジせず、そのままにしておくことが大事なのだとか。

学力とは「意欲×思考力×知識(スキル)」

続いて登場した川島さん。

子どもの頃から算数・数学が好きだったという川島さんは、自分がテストを受ける際にも「これはいい問題だ」と思ったら、しみじみとそのよさに浸るというタイプだったそうです。

実際に、ご自身が「実にいい問題だ」と思われたという、「マス目のAからBまで行く最短距離のルートはいくつかあるか」という問題を画面に表示し、そのポイントについて説明されました。

やがて川島さん自身が「面白い問題を考える」ことに全力を注ぐようになり、思考力を育てる教材作りが彼のライフワークになっていきました。そして、それを多くの子どもに届けるためにはアプリという形式が最適と考え、後に世界150カ国100万ユーザーを持つ思考力育成アプリ「シンクシンク」の開発につながったそうです。

「シンクシンク」を使ったフィリピンの学校での授業の映像も紹介されました。その中には、それまであまり集中していなかった一人の子どもが、問題解決の糸口を見つけて表情が変わる瞬間が映っていました。このように「子どもが躍動する瞬間」こそ、川島さんの求めるものなのです。

川島さんは、学力とは「意欲×思考力×知識(スキル)」で表すことができると言います。

この3つの要素の足し算ではなく、かけ算なのだと。つまりそれぞれのレベルが高ければ高いほど、その結果である学力は飛躍的に伸びていくというわけです。

さらに川島さんは「論語」から、 この言葉を引用しました。

「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」

これは、「あることについて、ただ知っているよりも好きだという気持ちがある方が上。好きだという者より、楽しんでいる者の方がさらに上」という意味です。この言葉からも、学びを楽しむことの重要性が分かります。

「知的なワクワク」を引き出すには?

子どもの学びを伸ばすために大事なのは、「知的なワクワク」を引き出すことだと川島さん。

「知的なワクワク」とは、英語の「WONDER」という単語に置き換えることができ、それを築くのに必要なのは「Feel」「Think」「Make」の3要素だと。すなわち、子どもたちが「自分で感じて」「自分で考えて」「自分で作る」こと。

これがワクワクの秘訣であり、それを引き出すためには与える側が今できる最高のやり方を提供し、さらにそれをアップデートし続けることが重要だと言います。ここに、川島さんが開発するアプリの基本理念も伺えます。

子どもの学びは「遊び」と「縁」に尽きる

最後はお二人が揃って登壇され、配信視聴者から寄せられた質問に答える質疑応答の時間が設けられました。

出された質問には他の視聴者から「いいね」がつけられるようになっており、それが多かったものを紹介します。

質問①「お二人は子どもを叱ることはありますか?」

井本さん:イラッとすると叱ってしまうこともあります。実は叱り方はあまり上手ではなく、うまく叱ろうと思っても的を外してしまいます。

川島さん:基本的には叱りませんが、命に関わるようなこと、危ないと思ったときには叱ります。

質問②「子どもがワクワクすることはゲームばかりなのですが大丈夫ですか?」

井本さん:多くの親御さんの悩みですよね。ポイントは「不自由かどうか」ということ。思ったようにコントロールできるものだと、子どもにとって意味がありません。子どもは不自由なことをすごく楽しみます。

川島さん:作業ではなく、良質な試行錯誤を伴うゲームであれば、良いと思います。「ゲームだから悪いもの」と決めつけずに「ゲームでも良いものはある」という感性もある、と思えたら素敵ですね。

質問③「自由と放任の違いとは?」

井本さん:基本的に、子どもが何かやっているときには手を出さないほうがいい。不自由かつ整っていない環境でこそ子どもは育つもので、結局はその子の持つ「縁」に尽きる。その「縁」を大事にしましょう。

配信の予定時間がここで終了でしたが、その後も質疑応答は続きました。

2時間以上にわたったお二人のお話は、楽しい中にもためになる、子どもとの接し方について参考になる要素が多く含まれていました。

「教室でできる一番大事なことは、異なる人たちと『受け入れ合う』こと」

そう、最後に語ってくれた井本さん。

不自由や違いの中から子どもたちが得る学び方を、大人も学んでいく必要がありそうです。

<取材・文・写真/高崎計三>

取材協力

主催:ワンダーラボ株式会社

https://wonderlabedu.com/

協賛:小学館「HugKum(はぐくむ)」

乳幼児~小学生ママ・パパのための育児情報メディア

https://hugkum.sho.jp/

この記事を書いたのは

高崎計三
1970年、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年に有限会社ソリタリオを設立。編集・ライターとして幅広い分野で活動中。