セックス経験のある高校生は10%超 学校では教えてくれない「性」の本当の話

専門家に聞く

2019/11/06

どんどん変わっていく自分の体に戸惑ったり、好きな人とのスキンシップに興味が湧いたり。大人になっていくにつれ、自分の性や、性的なコミュニケーションについて考えることは増えていきますが、学校の保健の授業だけではよくわからないという人も多いのではないでしょうか。先生や親に詳しく聞くのも何だか恥ずかしい、という人もいるかもしれません。

2017年度に日本性教育協会が実施した「第8回 青少年の性行動全国調査」では、性交経験のある高校生男子は14.6%、高校生女子は19.3%となっています。キスをした経験では、高校生男子が31.9%、女子40.7%、中学生男子9.5%、女子12.6%。性的な体験は中高生にとって、決して「縁のないもの」ではありません。

ところが、きちんとした知識がないことで、不安や悩みを抱えたり、望まない事態になって傷ついたりする中高生も少なくありません。

では、自分や大切な人を守るために、性についてどんなことを知っておくべきなのでしょうか。

今回は、そんな「性」の話を、中学校や高校で性教育の講演を行っている産婦人科医の遠見才希子先生に聞いてみました。

学校の授業だけではわからないことだらけなのはなぜ?

中学生や高校生が持つ性の悩みには、いったいどんなものがあるのでしょう。普段、中高生たちと接することの多い筆者がよく聞くのは、こんな悩みです。

「生理が不順で、来たり来なかったりする」
「生理痛が重くてつらい」
「好きじゃない男子とついエッチをしてしまった」
「コンドームをつけてって自分から言いづらい」
「ピルを飲んで避妊したいけど、絶対に大丈夫なの? 副作用とかない?」
「セックスをしたいって彼氏が言うけど、自分はまだしたくない」
「下着姿の写真を送ってって言われて、送っちゃった」

月経の仕組みや、受精して妊娠するということは学校で習ったけれど、なんだか自分のことではないような話だし、自分の悩みの解決になるようなことは教えてもらえない。そんなふうに感じている生徒はたくさんいます。

ではなぜ学校では教えてもらえないのでしょうか?

「文科省の学習指導要綱には、『受精・妊娠までを取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする』と書かれており、妊娠に至るまでの過程や性行為については取り扱わないと解釈すると言われています。学校や家庭では性をタブー視することもあり、適切な情報を得る機会がないことで悩んだり、よくわからないままにリスクを負ってしまったりする生徒も少なくありません」と遠見先生。

また、性に関する授業はまだ男女別に行われることもあり、これについても遠見先生は、「一緒だと恥ずかしいと思う生徒もいるかもしれませんが」と前置きしたうえで、問題があると言います。

「男女で分かれることで、互いの性のことを十分に知ることができず、相手を尊重することにつながらなくなってしまう場合もあります。また、男子と女子の2つに分けるのは、性の多様性への配慮にも欠けてしまいます」

こんなふうに、学校の保健体育の授業には課題が多いのが現実。なのでここからは、中高生に知っておいてほしいこと、考えてほしいことを紹介したいと思います。

「生理中の鎮痛剤は本当に痛くなったときに飲む」は本当?

「初経から1~2年は排卵が起こらない月経もあり痛みはあまり強くありませんが、初経から数年経つと排卵が伴う月経になると、痛みが強くなります。
あと、痛くてどうしようもなくなってから薬を飲むという人もいるかもしれませんが、鎮痛薬は痛くなる前に予防的に飲んだほうが効果は高いんですよ。月経などに関する悩みがあればぜひ婦人科を受診してくださいね」

大人もこうした知識がなく、先生に「体育の授業を休みすぎなのでは」「鎮痛剤は本当に痛くなったときに飲むように」と言われてしまったりすることもあります。

そのために「自分はおかしいのかも」「ガマンしなくちゃ」と、苦しんでしまう子も。

「困ったとき、不安に感じたときに、子どもが自分でどうにかしようしたり、一人で抱え込んでしまったりしないように、親が適切な知識や情報を持ったうえで、オープンなコミュニケーションをとれるようにしておくことも大切です」

と遠見先生。セックスについて話すのはお互いに気まずいかもしれませんが、何か困ったときに子どもが悩みを打ち明けられるように、日頃から話しやすい環境をつくっておくことが大切だとのことです。

都内の高校で性教育の講義をする遠見先生

どうなったら妊娠する? もし妊娠してしまったら?

セックスについては、中学生や高校生たちが自分の心身を守るためにも、知っておきたいことはたくさんあります。

「よくわからないけれど、聞きづらい」という子も多いと思いますが、たとえば避妊の知識などは、自分だけでなく大切な相手を守るためにも欠かせないものです。

正しい避妊はどれ?

次の説が正しいか間違っているか、みなさんはわかるでしょうか。

  • コンドームをつけていれば100%妊娠することはない
  • 膣外で射精をすれば妊娠することはない
  • 膣外で射精をしても、あとから膣内をよく洗えば妊娠することはない

この①〜③は、いずれも×です。

コンドームの避妊失敗率は約14%といわれており、正しく装着しないと脱落や破損が起こりやすくなります。コンドームよりも効果の高い避妊法は低用量ピルや子宮内避妊リングです。腟外射精や洗浄は避妊になりません。

予想外の妊娠をしてしまう・させてしまうことは年齢に関係なく、よく起こってしまっています。まずはこうした知識を知っておくことが大切です。

妊娠してしまったら? 望まない妊娠を防ぐためにはピルが必要?

「日本では今、1日あたり約40人の10代が中絶をしています。成人も含めたら、1日あたり約450人」と遠見先生。

もし、コンドームが破れたり脱落してしまったり、性被害に遭ってしまったりして、妊娠の可能性があるという場合には、セックスからなるべく72時間以内に緊急避妊薬(通称:アフターピル)を服用すれば、妊娠の確率を抑えられるということも覚えておいてほしいと言います。

アフターピルは産婦人科などで処方され、価格は7千円〜2万円ほど。ただ、性暴力被害の場合は、警察やワンストップセンターに連絡すると、無料になることがあるとのこと。

「女性が使う低容量ピルは月経不順を改善することにも使われていますが、ごくまれに血管が詰まる血栓症という合併症が起こるので、症状に注意しながら使う必要があります。また、ピルでは性感染症は防げないので、性感染症の予防にコンドームは必要です」

「セックスで起こり得ることを知ったうえで、『自分の体のことを自分で決める』ということが大切です。知ったうえで、今その年齢でセックスをするとどんなことが起き得るのか、満足できるセックスができるのか、妊娠や感染症の可能性をどうとらえるかを考えてほしいですね。セックスに絶対安全ということはありませんが、より安全で満足できるセックスについて、子どもも大人も考える必要があると思います」(遠見先生)

性感染症が広がる様子など、実験を交えながらわかりやすく解説

相手の体や気持ちに関心を持っている?

性を考えるときに重要なのは「相手を尊重したうえで、自分の体のことを自分で決められること」であり、自分の体と相手の体を尊重する気持ちだと遠見先生は言います。

中高生を対象にした性教育の講義でも、遠見先生は生徒たちにこんなことを問いかけていました。

「”愛の反対は無関心”という言葉があります。セックスは愛の行為であってほしいと思っている人でも、相手の気持ちや体のことをよくわかっていないのは”無関心”。まずは関心を持って、自分と相手を大切にするってどういうこと? ということを考えるきっかけにしてください」

そして、最後にこんなメッセージをくれました。

「たとえ失敗しても傷ついても、また”1回きり”の1日がめぐってくる。どこからでもやり直せるはずだから、大丈夫ですよ」

取材協力

遠見才希子先生(産婦人科医)

「えんみちゃん」のニックネームで大学時代から全国の中学校・高校を中心に性教育についての講演を行う。これまで訪れた学校は700校以上。著書に『ひとりじゃない~自分の心とからだを大切にするって?』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

公式ブログ https://ameblo.jp/emmskk/

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。