コロナ以降 子どもの心の不調が増加…親や大人が気をつけたいポイントは

専門家に聞く

2021/06/30

新型コロナウイルス感染症対策で日常に大きな変化が起こって1年以上となります。新型コロナウィルス対策で起こった社会の変化は、一体子どもにどのような影響を及ぼしているのでしょう。

国立成育医療研究センターの調査チームが1年以上に渡って行っている「コロナ×こどもアンケート」の、2021年2月~3月にかけての5回目となる調査報告では、特に中高生の「こころの健康」が昨年2020年の夏以降低下傾向にあることがわかりました。

国立成育医療研究センター「コロナ×こどもアンケート」報告書より
※日本語版「KINDL-R」尺度により身体的健康(左)と精神的健康(右)を測定
※「コロナ×こどもアンケート」の同調査項目の結果と比較(対象者集団は同一ではない)

グラフを見ると、全国一斉休校があった2020年春から「からだの健康」が右肩下がりになり、「こころの健康」は特に中高生が下がり続けているのがわかります。

実際に起こっている心の不調では、以下のようなものが挙げられました。

  • コロナのことを考えるとイヤだ……42%
  • すぐにイライラしてしまう……37%
  • 寝つけない・よる目が覚める……24%
  • 自分や家族を傷つけてしまう……20%
  • ひとりぼっちだと感じる……16%

また、学校・その他でのコロナの影響について子どもたちに尋ねる質問では、先生や大人に対しての「話しかけやすさ・相談しやすさ」が減ったと答える声が51%と、全体の半数を超えていました。
さらに、「勉強の大変さ」が増えたと答えた子も全体の41%に上っています。

国立成育医療研究センター「コロナ×こどもアンケート」報告書より

コロナによって起こった変化で大人もストレスを抱えているためか、子ども視点では大人に相談しづらいと感じていることも多いようです。

親子の時間は増えた一方、それが原因のトラブルも

では、実際に子供の心を診療するクリニックにはどのような相談が寄せられているのでしょうか。
東京で児童・思春期精神科外来を持つ「しろかねたかなわクリニック」で子どもの心の問題に詳しい臨床心理士の小林未果さんに話を伺いました。
(以降、具体的なケースについては個人情報の保護のために、個人が特定されないよう配慮をしております)

「外出する機会が少なくなり、親子で過ごす時間が増えたことは決して悪いことではないのですが、これまで自宅で確保できていたパーソナルスペースが干渉されて、お子さんが疲れてしまっているケースも増えています。心配だからこそ過干渉になってしまうようです。これまで家族間で保たれていた適切な距離感が崩れてしまったことにより、親だけでなく子どもにも負荷がかかるということが増えているのです」

特に思春期だと親子の距離感は難しそうですが、そんな子どもたちが自分でストレスや悩みを対策することはできるのでしょうか。

「もし中学生以上であれば、家庭の外の大人に相談してほしいです。身近な親戚でもいいですし、スクールカウンセラーなどでもいいです。思うままに話して、聞いて、いろいろな価値観に触れると、気持ちが楽になることも多いと思います。また、話す以外の方法として、気持ちを文章にしてみたり、絵を描いてみたり、歌ったり音楽を聴いたり、自然に触れるのも良いと思いますよ」

少しでも不安を感じたら、その気持ちを一人でため込まず誰かに話したり、さまざまな方法で表現したり、自分の好きなことで気分転換をするよう心がけてほしいとのことです。

心が疲れている子供に対し、大人が気をつけたいこと

それでは、保護者にはどのようなことができるのでしょうか。

「不調を訴える子どもの多くは、その兆しが不規則な生活として表れます。単純に思われるかもしれませんが、規則正しい睡眠と食生活という基本的なフォローをしてあげるのが大切です。中には不調に本人が気づいていないケースもあります。その場合はただ『おかしい』と言うのではなく、『前は○○だったけれど、今は△△~』と以前との比較をする形で、本人に客観的に伝えてあげてください」

もし不調に気づいても、医者に相談することをためらってしまう保護者もいると思いますが、どうなったら医療機関に相談するべきなのでしょうか。

ご飯を食べられなくなった、眠れなくなった、といったことでも十分医療機関を受診する理由になります。まずはメンタルクリニックではなくかかりつけ医に相談するのでもいいと思います。アクセスのしやすい医療機関に相談をしてみてください」

実際にクリニックには、次のような相談事例があったそうです。

「全国一斉休校になってから、時間の使い方がコントロールできずに昼夜逆転してしまい、ゲームばかりして塞ぎ込んでしまった、という中学生がいました。聞いてみると、これまで自宅に長時間いることのなかった親御さんが、テレワークでずっと家にいるとのこと。普段見る機会のなかった子どもの日中の生活が見えるようになり、いろいろと気になることを口出しされる機会が増えてしまったのが、つらかったようです

働き方も変わったことによって、家庭の中の様子も大きく変わってきた今、こうしたケースは多そうです。
この家庭には、ゲームをする時間はきちんと区切ること、その代わりゲームをするなどの自由時間には親がディスタンスをとってあげることを提案したそうです。

「相談を受けていて思うのは、当然ながら『大人もコロナで疲れている』ということです。ストレスや疲れの中で、子どもに対して『こうあってほしい』『こうなってほしい』という思いが平時以上に大きくなってしまうことがトラブルの原因になっている例が、多く見受けられます」

大人も自分をいたわってあげて

身近な大人がストレスをためていると、子どもがそれに反応してしまうということもあるため、保護者のみなさんはまず自分の心を落ち着いてよく見つめてみることも大切だと小林さんは言います。

「保護者からの相談を聞いていると、大人が自身の心配事を子どもに投影してしまうという傾向が見られます。たとえば、大人にとっては慣れないテレワークですが、子どものほうはオンライン授業にすんなり適応できている。でも、親としては『ちゃんと勉強できているの?』と心配になって過干渉になってしまうといったことが、よく見られます」

社会に変化が起こっても子どもは思った以上に柔軟に適応できるため、もっと信用してあげても良いということでしょうか。

「特に思春期の子どもは、親が思っているよりはるかにさまざまなことを考えて行動することができます。ですから、同じ家の中にいてもずっと心配して見ているのではなく、適度な距離感をとってあげると良いように思います。そして大事なのは、親として頑張っているご自身もコロナで大変な思いをしているでしょうから、まずは自分をいたわってあげてほしいですね

大人にとっても子どもにとっても、コロナ禍で抱える問題はそれぞれにあります。自分自身がどのようなことでストレスを感じているか、イライラするのか、悲しい気持ちになるのかを見つめ直して、表現してみるのも良いのかもしれません。

最後に、子どもたち自身が考えたコロナ禍でのストレス解消法をまとめた『気持ちを楽にする23のくふう』 という冊子(2021年5月発行)から、一節を引用したいと思います。

でも、そんなとき、自分のストレスに気がついて、みんなの中にあるいろいろな「くふう」の引き出しから「いま」できることをためしてみると、毎日がちょっと楽になるかもしれません

いろいろなアイデアを試して、今この時を乗り越えたいですね。

<取材協力・監修>

しろかねたかなわクリニック

インタビュー:臨床心理士・小林未果先生
監修:医師・木村元紀先生、医師・市田典子先生
https://shirokanetakanawa.jp/index.html


<資料提供>

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター

https://www.ncchd.go.jp/index.html

<取材・文/中島理 >

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この記事を書いたのは

中島理

1981年、北海道生まれ。バーテンダー・会社員を経てライターへ転身。ムックを中心に編集や執筆に携わる。引きこもり経験を持ち、若年層の進学・就労にまつわる心の問題に関心。