時間をかけるから分かることがある。中高生に知ってほしい本の選び方・読み方

専門家に聞く

2021/10/04

読書の秋がやってきます。コロナ禍で秋の行楽を楽しむことも難しい中、代わりにゆっくりと読書を楽しむのもよいですね。でも、「本ってどう選んだらいいかわからない!」「大人に勧められる本は面白くなさそう……」と、本を手にするところにハードルを感じてしまっている人も、多いのではないでしょうか。
また、「読み始めても、いつも最後まで読み切れない」「途中で飽きちゃうことが多い」と、読書に対してネガティブなイメージを持っている人もいるかもしれません。

そこで今回は、そんな人でも本を読むことがちょっと楽しくなる「選び方」や「読み方」について、ブックセレクターの川上洋平さんにさまざまな提案をしてもらいました。

中身を気にせず、まずはゲーム感覚で選ぼう

書店や図書館に行くと、膨大な本がずらりと並んでいます。好きな作家やジャンルが決まっている人ならともかく、特に目当てのない状態でその大量の本の中から1冊を選ぶのは、至難の業です。
読みたい本が決まっていない人は、「まずはゲーム感覚で気軽に選んでみるといい」と川上さんは言います。

「たとえば何か色を決めて、その色の表紙・背表紙のものを探してみたり、“朝起きてすぐ10分読むなら?”と体験する時間を決めて探してみたり。何か縛りを設定して探してみると、ぐっと選びやすくなりますし、選ぶ過程も楽しめますよ」

選ぶのが楽しくなりそうなルールをいくつかピックアップしてみましょう。

  • その日着ている服、履いている靴と同じ色の本
  • 朝起きてから10分、夜寝る前に10分、登下校中の電車内、など限定された時間で手にしてみたい本
  • 友達をイメージして、その人の雰囲気に近い本 (友達と一緒に、お互いに相手のイメージに近い本を選び合うのもオススメ!)

このとき、実際の本の中身については気にしないのがポイントとのこと。

「本の内容については考えず、まずはルックスで選んでOKです。みなさん、どうしても本をマジメに捉えすぎてしまいがちなのですが、もっと感覚で選んでもいいんです。本は人間と同じで、どんな服(表紙)を着ているか、何歳か(古そうな本か最新刊か)、どこの出身か(出版社はどこか)など、パッと見てわかる情報もあれば、付き合ってみて初めてわかる良さ、あるいは苦手な部分などがあるものだと思います。出会ったら最後、ずっと付き合わなければならないわけではありませんし、嫌だったら途中で離れてもいい。最初の10ページで嫌になったらやめてもいいんです。逆に、もう少し付き合ったら面白くなるかもと思えば、読み続けてみる。それくらいの気軽さで、まずは直感で“いいかも”と思ったものを選んでみてください」

人間でも、会った瞬間から相手のことが全部わかるわけではありません。はじめからルールを厳しくしすぎず、「嫌いだったら嫌いでいい」とゆる〜く選んでみることで、思いがけず「運命の相手」に出会えるかもしれませんね。

文豪のビジュアルで選ぶのもアリ!

本といっても小説から実用書、専門書などさまざまなジャンルがあります。興味を持っている事柄があるなら、もちろんそれをヒントに選んでみるのもオススメです。

「興味のあるジャンルの中で気になる人がいたら、その人の本を探してみるのもいいと思います。作家でなくても、案外いろいろな有名人が本を出しているので、“会ってみたい!”と思う人の本を探すと見つかることが多いですよ。ファッション業界の有名人、テレビで見た科学者、お笑い芸人や俳優など。そういう人たちの本を読むと、テレビやインターネットで見ていたよりもずっとその人を近くに感じたり、より理解できたりします」

さらに「人縛り」で行くなら、国語の便覧に載っている文豪の写真から選んでみるのもいいとのこと。

実は、後世まで読み継がれている人気の文豪は、わりとイケメンであることが多いんです。夏目漱石、芥川龍之介、太宰治、三島由紀夫など……タイプは違いますが、そこそこ顔がいいですよね。その中から、“この顔好き!”と思う人の本を選ぶのも、作家のキャラクターを身近に感じながら読めて面白いですよ」

このように人で選んでみた場合、1冊読んで「この人の本はつまらない」と判断してももちろんかまいませんが、何冊かチャレンジしてみると面白さがわかってくることもあると川上さんはいいます。

「1人の作家、著者の作品でも、書かれた時代によって全然雰囲気が違うことがあるんです。時代背景によって風景や登場人物の動き方、考え方が変わっていたり、書き手が置かれた状況によって雰囲気ががらりと変わったり。そういうことに気がつくと、読書の面白さにはまっていくかもしれません」

この人のこういう作品は好きだけど、こういうのは嫌い……とわかってくると、選ぶ基準もより具体的になっていきそうです。

「最後まで全部読む」だけが読書じゃない!

では、本をより楽しく「読む」ためにはどんな工夫ができそうでしょうか。
前述のとおり、「読み切る」ことにこだわらない意識が大切だと川上さんは話します。

「読み切ることをゴールにしてしまうと、読み方がどうしても限定されてしまいます。本の読み方にも、特定のページを何度も読み込んで理解したり、斜め読みをして必要な情報だけを得たり、好きなフレーズだけ口に出してみたり、関連する内容の別の本で知識を補完したりと、多様性があります。表紙を眺めているだけでも、その本を味わうことはできます」

「最後まで読み切らなければ読んだとは言えない」というプレシャーを感じながら読む必要はなく、読むという行為をもっと広く考えるのがポイントです。
選び方と同様、読み方にもルールを設定する方法がある、と川上さんは次のように提案してくれました。

  • 1ページ目までで必ずいったん止める。そこで面白いと感じたら読み進める
  • ページを開かず、表紙を眺めてリラックスする
  • 本を小道具として、ファッション感覚で持ち歩いてみる

読み方については、海をイメージしてみてください。浅瀬で足をつけるだけだったり、ダイビングのように深いところまで潜ったり、一カ所で釣りをしたり、ただ眺めて気持ちを落ち着けたりと、海にはさまざまな楽しみ方がありますよね。深い領域まで潜ってみたら、浅いところにはいなかった生き物に出会えるかもしれません。でも、初心者がいきなりダイビングで深いところに潜らされると、海を苦手に感じてしまうかもしれません。一方で、浅瀬にしかいない生き物もいますよね。本もこれと同じです。どう楽しむかは人それぞれだったり、そのときそのときで違っていいんです」

「本」だからこそ、体験できること

ところで、昨今はさまざまな情報がインターネットで得られ、動画も気軽に見られるようになりました。しかし、あえて「本」を選ぶことの良さはなんなのでしょうか?

「本を読むのには時間がかかるので、本から何かを得ようとするのは非効率に思えるかもしれません。ただ、世の中には時間をかけてやっとわかるということがたくさんありますよね。本は人間のようなものだと先ほど言いましたが、まさに人間も時間をかけて向き合ってやっとわかるものです。単なる文字に表された情報だけでなく、感情や情熱といった深いところまで潜れるのが、本です。簡単に検索して調べられるものと比べると、そういう深くて豊かな体験ができるのが、いいところだと思います」

今は電子書籍も多く出ていますが、やはり紙の本とは違うのでしょうか。

「もちろん、知りたいことをすぐに調べたいときや、資料としてアーカイブしたいときなどには電子書籍はとても便利です。ただ、How to本でも電子で読むよりも紙で読んだほうが、より身につくという感覚が、僕自身にはあります。より身体的に頭に入るという感じです。また、物質としての本は、その本とどこで出会ったか、誰が勧めてくれたか、どういうシチュエーションで手にしたかといった体験により結びついていきます。読み手が血を通わせてきたからこそ、そこに存在するという本もあります。いかに情報があったとしても、情報をたどるだけでは出会えず、偶然その日そのとき、その場所にいなければ出会えなかったという本も。デジタルにはデジタルの良さがありますが、紙の本には、大切な思い出のワンシーンに残ったり、人と人とをつないだりと、より人生を豊かにしてくれる可能性がたくさんあるんです」

「本を読む」ということは、ただ「文字を追って内容を頭に入れて、何かを感じたり知識を得たりする」ためのものではない。
これを前提に選ぶところから始めてみると、読書に苦手意識を持っていた人も、がらりと読書観が変わりそうですね。

取材協力

川上洋平さん

book pick orchestra代表、選書家/ブックセレクター。本と人との新しい出会いをデザインする「book pick orchestra」代表。美術館やホテル、カフェ、オフィス内のスペースへの選書、ひとりひとりに本を選ぶイベントや、本から人をつなぐワークショップなど、選書にとどまらず、さまざまな場所で人と本のあいだをつなぐ体験をデザイン、企画している。

<取材・文/ 大西桃子 >

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。