コロナ休校期間の名門私立校に学ぶ「勉強方法」以外の大切な教育姿勢とは

専門家に聞く

2020/09/25

新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年3月から6月まで、全国ほとんどの学校が休校措置をとることになりました。しかし、オンライン化が思うように進まない、学習に遅れが発生するなど、さまざまな問題が噴出。これを契機に、教育のあり方を今一度見直す必要があるという声が高まってきています。

ではこうした状況下で、いわゆる「名門」と呼ばれる私立校では、どのような教育を行っていたのでしょうか。いち早くオンラインに切り替えて授業を進めていたのか、最近よく耳にする「単純な学力だけでない、思考力、課題解決力を高める教育」をこの機会に進めていたのでしょうか。

これまで多くの学校取材を手がけてきた教育ジャーナリストのおおたとしまささんは、こう言います。

「やはり有名校のオンライン対応は早かったと言えます。オンラインで授業をするのは私立の先生たちにとってもほぼ初めての経験。その中で試行錯誤をしながら、今までの教室でのやり方にこだわらず、オンラインに最適化して生徒を惹きつける授業をやっていたところもありますね。

たとえば、東京・荒川区の開成中学・高校では、1学年300人ほどの生徒に一斉に数学のオンライン授業を行ったそう。
授業には学年担当の数学の先生全員が参加し、複数の先生たちで掛け合いをしながら授業を進めているという話を聞きました。教室でのライブ感、人と人との摩擦感を、先生たちが複数集まることで実現しているのが面白いです。教科書に書いてあることを伝えるだけではない生の授業を、オンラインでも試みたということですね」

ただ、おおたさんはこうも続けます。

でも、有名校が特別にすごかったかというと、そうは思いません。先生たちの自由度が公立校に比べれば高い分、底力を見せられた場面はあったと思いますが、それが有名校はすごいということにはならないかなと思います」

主体的な学びをしていた生徒たちは特別?

休校期間中には、開成や麻布、灘といった有名私立校の高校生たちが、ビデオ通話ツール「Zoom」を使って自主的に学習会を開いていたとか、小中学生にオンラインで家庭教師をする事業に参加していたとか、さまざまなビジネスのアイデアを発表し合うビジネスプラン大会を企画したといったことがニュースでも話題になりました。

そのため世間では、有名校では自主的に学んだり、普段はできないような学びに積極的に取り組んだりという生徒たちが多かったという印象があったと思うのですが、おおたさんは「どこも、そう大きくは変わらないですよ」と話します。

「主体的に多様な学びをした生徒もいるとは思いますが、実際に通っている生徒たちに話を聞いてみると、そういう子はごく一部です。ほとんどの子は学校の課題に追われているか、ゲームなど好きなことをやって遊んでいるかのどちらか。主体的な学びをする子はしますが、決して名門校の生徒だからという理由ではないと思います」

おおたさんが取材した有名私立校の生徒の中には、動画コンテンツを徹底的に分析していた子もいれば、さまざまなボーカロイドの音源を聴いて研究し、自分で歌も歌ってみたという子もいたとのこと。ただ、「彼らは面白いですが、課題は終わっていないと言っていましたし、そこに有名校と公立校など他の学校との違いがあるとは思いません」と言います。

大人が信頼感を示すことが、ポジティブな姿勢につながっていく

では、名門私立校から学ぶべき教育内容や、他の学校が取り入れたほうがよいことはないのでしょうか。

「あくまでも僕の個人的な印象ではありますが、有名校に共通していたことをあえて挙げるならば、学校側がこの危機において生徒を管理しようとするのではなく、『君たちは大丈夫だよね』と信頼していることを示していた点です

と、学校が生徒に対して示していた姿勢が印象的だったとおおたさんは言います。

「たとえば麻布学園の場合は、校長が《アイザック・ニュートンは、学生時代にペストの流行で大学が閉鎖となり、ロンドンから離れた郊外でゆとりある思索のなかで万有引力の法則を発見したと言われています》とニュートンの話を例に出して、生徒たちにこの期間を有意義に過ごしてほしいというメッセージを送っていました。

このように、大人が生徒たちの生活を管理しようと締め付けるのではなく、学校は学校として最低限のことはするけれど、君たちは自分で自由に考えて行動してみてよというメッセージを出していた学校が多かった印象です」

このように信頼感を持って接してもらえることで、生徒たちは自信を持つことができ、自分から学ぼうという意欲や、新しいことに挑戦しようという勇気を与えられたのではないか、とおおたさんは話します。

学力の前に大切な自己肯定感

「学力が高い子だから信頼されれば主体的な行動ができるということではなく、偏差値にかかわらず、自己肯定感を持つことができれば主体性を伸ばすことはできると思うのです。

逆に言えば、有名私立校に限らず、公立校や、学校以外の周囲の大人でも同じことができたと思いますし、実践されていた例もあったはずです」

教室で決まった時間に勉強をさせることができないから、代わりに課題でがんじがらめにして管理しよう……、確かにそうなってしまうと、子どもたちの主体性は育たず、勉強に関して意欲を失うことにもなりかねません。

ポジティブな気持ちで学びに向かうには、「自分を信頼してくれる人がいる」という満たされた気持ちが重要だということです。

コロナ禍での大人のふるまいこそが、今最も重要な教材

また、おおたさんはこのコロナ禍での教育において大切なのは、「この事態に対して、大人がどういう姿勢を見せるか」だと話します。

今まで教育の世界では、主体的な学びや実社会に根ざした学び方に変えるべきだと言われてきました。各教科の学習を個別にするのではなく横断型の学びが必要だ、といった話です。でもこれは短絡的だと感じます。ひとつの物事でも、理科の分野からはこう見える、社会からはこう見える、国語からはこう見えるというように、物事には多様な角度からの見え方があります。

それぞれの分野から人類が英知を集めて物事の見方を教えてくれるのが、教科の学習。そして、新型コロナウイルスによって先の見通しがきかなくなった今、この事態を各分野からどう見ていくかを示すのが、大人の役割なのではないでしょうか」

課題発見、問題解決能力が必要だと言い続けてきた大人たちが、実際に多様な角度から物事を見て、どのように今ある危機を乗り越える知恵を出していくか。子どもたちが目の当たりにする大人たちのふるまいこそが最高の教材になっていくはず、とおおたさんは言います。

科学的なファクトチェック(事実確認)や、情報をどう選ぶかというリテラシー、経済を回すための知恵。社会の中で自分が持っている自由とは何なのか、必要なマナーや気遣いとはどういうものか。子どもたちのロールモデルとなる大人たちこそが、今子どもたちが学んでいる教科書だというわけです。

また、休校になったことでオンライン教育にも注目が集まり、これを充実させるべきだという声も高まってきていますが、「大切なのはそこではない」とおおたさん。

「オンラインで教育ができることは発見だったと思います。でも、教科書をなぞることはできても、自然や社会の一部として生きている自分というものをリアルに感じながら学ぶことができなければ、人は育つことができません。オンラインだけで教育を進めれば、友達や仲間、信頼できる先生といった人との関わりを知らないままに社会に出ることになります。大人はオンラインで人間関係もできると感じた人もいるかもしれませんが、それはすでにリアルの中で人間関係を構築できるスキルを培ってきたからです」

大人にとっては最適と思われるものが、本当に子どもたちにとってベストなものなのかは今一度、考えてみる必要がありそうです。

また、大人たちは方法論だけにとらわれて「名門校のやり方をまねしよう」と考えるのではなく、一人一人の世界に対する見方や行動が、そのまま子どもたちの教材になっていく。
これを忘れてはいけませんね。

取材協力

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。麻布中学・高校出身、東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立し、教育関連の取材・執筆を中心に活動、講演活動も行う。近著に『中学受験の親たちへ〜子どもの「最高」を引き出すルール』(大和書房)など。2020年10月には『麻布という不治の病:めんどくさい超進学校』(小学館新書)を発行予定。

<文・取材/大西桃子>

この記事を書いたのは

大西桃子
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。