通信制高校1年生の挑戦!釜石に若者が集まる場所をつくりたい

先輩に聞く

2024/09/19

「釜石に若い人向けの服が買えるお店、若者が集まれる場所をつくりたい」
進路について考え始めた中学3年生の頃に起業を決意し、一歩踏み出したという岩手県釜石市在住の小笠原皐(さつき)さん。
現在は通信制高校に通いながら、母親とともにお店の開店に向けて準備を始めています。
お店の名前は「crush on(クラッシュオン)」、オリジナルブランドのグッズ販売やダンス、小さなイベントができるスペースをつくる予定です。皐さんの母親が経営するお店「古着たすいち」と同じ建物にオープンさせ、釜石の若者が集まるにぎやかな場所を創設していきたいとのこと。

今回は皐さんと母親の梓さんにインタビューし、高校生で起業を決意したきっかけや、現在の状況について伺いました。

起業塾に参加した母を見て、やりたいことを考えるように

—— まず、皐さんが起業しようと思ったきっかけを教えてください。もともと自分で事業を起こすことに興味があったんですか?

皐さん:いえ、中学1・2年生までは、学校の進路相談のときにも全日制高校へ進学するつもりだと話していました。でも中学3年生になって、具体的に進路を決めていこうとするタイミングで、母が釜石市が主催する起業塾に通い始めたのを見て、「自分が本当にやりたいことは何だろう」と考えるようになりました。中学時代には少し学校に行きづらい時期もあって、通信制高校に通いながら、自分のやりたいことに挑戦したいと思ったんです。

—— 高校進学ありきではなく、もっと選択肢を幅広く考えてみたわけですね。

皐さん:はい。もともとダンスをしていて、そこで出会った人たちのファッションがいいなと思っても、釜石市にはそういった服を買えるお店がないんです。仲間と集まってダンスの練習をしたくても場所がなく、それなら自分でつくりたいと思いました。

—— 服を買ったり、ダンスのためにスタジオを借りたりしようと思ったら、釜石の人たちは現状、どこに行くんですか?

皐さん:1時間半~2時間かけて、盛岡市など内陸まで行くことになります。釜石市には2011年の東日本大震災後にイオンができて、そこで服も買えるんですが、ブランドが限られていて、全員が自分の好きな服を買えるわけではありません。ネットショップで買う人もいますが、実際に見て買い物ができる場所がイオンくらいしかないんです。釜石にはカラオケ店もなくなってしまって、高校生が遊べる場所が本当にないんですよ。

梓さん:公民館のような場所でダンスをすることもできるんですが、部屋を借りるための手続きが高校生にはハードルが高く、「今ちょっと使えるかな?」と空き状況を見てすぐに借りられる場所はないんです。

—— 中学生や高校生が遊ぶとなったら、必然的にイオンになっていくわけですね。

梓さん:子どもが小さい頃から家族でイオンに行って、その子どもたちが中・高生になってもずっとイオンという感じですね。

—— お母さんはなぜ起業塾に通おうと思われたんですか?

梓さん:すぐに起業をしたいというよりも、物をつくったり絵を描いたりすることが好きで、いずれはそれを販売するなど、仕事にしていけたらいいなと思って起業塾に参加しました。

皐さん:そんな母を見て面白そうだなと思って、2024年度は私がその起業塾に参加しています。

梓さん:2023年度に私が参加したときに、スタッフの方に「娘も興味を持っているんです」と話したら、「高校生でもぜひ」と言ってくださったんですよ。

—— 若い世代が地元で起業してくれたら、地域も盛り上がっていきますよね。

母親と一緒に開店に向けて準備中

やりたいことに時間を割ける通信制高校に進学

—— 起業したいという話は、中学の進路相談でもしていたのでしょうか。先生はどう受け止めていましたか?

皐さん:中学2年生までは全日制高校を志望していたので、「通信制高校に通いながら起業をしたい」と話したときには、先生はびっくりしていました。「もったいない」「もっとよく考えてみたら」と言われましたが、押し通した感じです。

—— お母さんはどう受け止めたのでしょうか。

梓さん:私は、本人がやりたいことをやるのが一番かなと思っています。今の時代、全日制高校に通うことがすべてではなく、さまざまな選択肢がありますよね。私の知り合いでも、子どもが通信制高校に通っている人が多くなっていて、選択肢のひとつになってきているのかなと思います。

—— 学校選びはどうしましたか?

皐さん:いろいろな高校を調べて、体験授業に行ったり資料を見たりして検討しました。最終的には、授業料などの費用面と、スクーリングの日数で決めました。自分のやりたいことに時間を使えるように、スクーリングの日数が年間15回くらいで授業日数の少ない学校に通っています。

—— スクーリングが少ない高校の場合、自分で勉強の計画を立てて管理したり、授業がなくても自分で学ばなければならなかったりと、大変さもあると思いますが、どうでしょう。

皐さん:自分で教科書を見て理解しながらプリントをこなしたり、課題の提出に向けてスケジュール管理したりするのは大変ですが、何とか頑張っています。だいたい教科書を見れば何とかなるんですが、数学は「どうしてこうなるの?」と悩んでしまうこともありますね……。でも頑張っています!

—— 勉強と起業の準備はうまく両立できていますか?

皐さん:はい。今はお店の建物修繕をしているところなので直接店に行ってできることはそんなにありませんが、SNSの投稿やメディアからの取材対応などを進めています。

梓さん:釜石市では高校生の起業家は珍しく、いろいろなメディアからお声がけいただいて、その対応でも忙しくしている状態です。

復興イベントなどで出会った人たちも準備をサポート

—— お店の準備状況についても、詳しく教えてください。

梓さん:もともとお土産店だった建物を使って開店する予定で、今は修繕を進めています。古い建物なので天井が抜けていたり、少し土地の傾きがあったりして、そうした部分を直しているところです。店舗の隣にオーナーさんがいて、建築士の資格も持っている方なので、助けていただいています。修繕が終わったら、内装は自分たちでDIYでつくり上げていく予定です。

—— オーナーさんの他に、手伝ってくれる方々もいますか?

皐さん:私が小さい頃から、母が地域のイベントによく連れて行ってくれたんですが、そこで出会った方々が手伝ってくれています。復興関連のイベントでつながった人や、応援してくれる友達もいます。

—— 中学時代までのお友達の反応はどんな感じなのでしょうか。

皐さん:私の周りではまだ「全日制高校が当たり前」という感覚があって、私が通信制高校に進学すると言ったときには「どうして?」という反応だった子たちもいたんですが、今は「頑張ってるね」と言ってくれています。

—— 現在は開店に向けてクラウドファンディングもされていますが、SNSで拡散してもらうには若い方々の力も必要ですよね。クラファンに挑戦しようというのはどちらのアイデアだったんですか?

梓さん:私です。釜石の名所「釜石大観音」には、そこに続く仲見世通りがあるのですが、2017年に店舗数ゼロになってしまったんですね。そこに新しくカフェをつくって賑わいを取り戻したいという方が、クラウドファンディングを活用していたんです。自分たちも同じように、いろいろな方の力を借りてお店をつくることにも、意味があるのではないかなと思いました。

皐さん:クラファンは今ラストスパートなので、頑張っていきます。

—— クラファンも活用しながら開店することで、地元の方だけでなく全国の多くの方に愛着を持ってもらえるお店になりそうですね。

<クラウドファンディングからのご支援はこちら>
CAMPFIRE/高校1年生(と母)、釜石を面白くする店を作りたい!
https://camp-fire.jp/projects/775112/view

もとはお土産店だった古い建物を修繕して活用

若者たちだけでなく、多様な世代と関われる居場所にしたい

—— お店のオープン後のイメージは、もうバッチリできていますか?

皐さん:はい。釜石は大学や高校への進学のタイミングで出て行ってしまう人が多く、若い世代が集まったり遊んだりできる場所が少ないので、若い世代も含めていろいろな世代の人たちが集まれる場所になれたらいいなと思います。

—— 若い人だけでなく、上の世代との交流ができる場でもありたいということですね。

皐さん:若い世代が集まれる場所がない現状では、どうしても友達の家に集まりがちで、外に出て行くことがないんです。そうすると、いろいろな世代の人と関わることができません。ですから、私たちも集まりやすく、上の世代の方にも来てもらえる、そんな交流のある場所にしたいんです。

—— 居場所というと世代が分断されがちな中、多世代が交流できる場所は大切ですね。

皐さん:また、自分がダンスをしていて感じたのが、若い世代が自分の好きなことを表現できる場所も少ないということです。文化祭に向けてダンスなどの練習をしたくてもそういう場所がないので、ちょっとした初めの一歩でも、やってみようと集まれる場所があったらいいなと思ったのが、レンタルスペースをつくろうと思った理由です。世代を問わず、自分のしたいことが表現できる場所にしたいですね。

—— 年内にオープン予定ということで、楽しみですね。最後に、今後自分がどんなふうになりたいか、お聞かせいただけますか。

皐さん:私は通信制高校に通っていますが、今はまだ通信制高校への進学に対して抵抗がある大人や同世代の子もたくさんいると思います。でも私がお店をオープンして、釜石市や沿岸地域を盛り上げて多くの人に知ってもらうことで、「こういう選択もあるんだよ」ということを伝えていけたらいいなと思っています。

—— お母さんからも、皐さんと同じ世代の中・高生や、保護者の皆さんに向けてメッセージをいただければ、と思います。

梓さん:高校生がお店を開店するというと、「すごいね」「うちはとても……」という人も多いですが、やってみればどうにかできてしまうんですよね。固定概念に縛られずに、自分がやりたいと思ったら、挑戦してみたらいいのでは?と。学生時代でなければできないこともきっとありますし、今できる挑戦を楽しみながら生活してくれたらいいなと思います。

—— ありがとうございました。

取材協力

小笠原皐さん・梓さん

<取材・文/大西桃子>

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この記事を書いたのは

大西桃子
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。