「家事は女性にやらせればいい」昭和感覚を引きずる先生に出会ったらどうする?

教育問題

2020/02/07

2020年の年明け早々、インターネット上で、ある有名な中高一貫男子校の校長がメディアに投稿した記事が話題になっていました。

記事の内容はこのようなものでした。

  • 子どもを自立させるためには、18歳になったら″風呂なし3万円″の部屋で一人暮らしさせよう
  • 実家暮らしだと、彼女がつくるシチューよりも「やっぱりお袋のシチュー」となる
  • パンツも脱ぎ捨てっぱなし、暗くて寒い部屋で一人暮らしをすれば、彼女がシチューを作ってきてくれた時「このまま一緒にいよう」と結婚が早まるはず

この投稿には、下記のようなたくさんの批判が集まりました。

「今どき家賃3万円の部屋って相当劣悪なんですけど」

「“子ども”の中に女子が入っておらず、ただパンツを洗ったりシチューを作ったりするだけの役割になっているのがひどい」

「このご時世に、まだこんな性別役割分担を決めつけている教育者がいるとは」

たしかに、ジェンダーバイアス(性別による偏見)が強くかかった記事で、批判されるのもやむなしといったところでしょうか。これが教育現場にいるトップの意見ということで、「今の学校は大丈夫なのだろうか」と不安になった保護者の方もいらっしゃるかもしれません。

昭和の時代の価値観をもった教育者がまだまだ学校の中にたくさんいて、ときに現代にはそぐわない古い考え方をふりかざします。

そんな中、令和を生きる中高生たちはどのようなことに気を付けておくべきなのでしょうか。

今回は、『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)など受験・教育関係の著書も多く持つ、中学受験専門塾スタジオキャンパス代表・矢野耕平さんにお話を伺ってきました。

差別、根性論……学校には古い考え方がまだ残る

「ネットの記事は私も読みました。あの記事を有名男子校の校長が書いたということで、男子高や有名難関校のイメージが悪くなったという人もいるかもしれません。ただ、あれは校長個人の意見であり、学校の精神とは切り離して考えるべきだと思います」

と前置きをしつつ、矢野さんはこう話します。

「実際、教育現場に、昭和的な価値観にしばられている大人がいるのは確かです。男子高に限らず、ある私立女子校の職員室で、男性校長が“あの教員は女のクセに生意気だ”と言った、という話も聞いたことがあります。
“体調が悪くても気合いで乗り越えろ”というように、何でも“気合い”で片付けようとする先生もいますよね。もちろん、きちんと人権を意識して指導されている教員も多くいますが」

学校だけでなく、一般企業の中にもまだまだ男尊女卑的な考え方や根性論をふりかざす大人はいますが、教育現場は特に多いほうなのでしょうか。

学校というのは閉鎖的な空間です。外からの目がなかなか入りづらく、社会の当たり前が通用しないこともあります。2019年には教師間のいじめ問題が大きく報道されていましたが、ああいうことが起こりうる空間なんです。
特に私立の場合は、教員の異動がないため、同じ人がずっとそこで働き、同じ環境が続いていく。同調圧力がかかる中で、暗黙知が引き継がれていく。そのため、昭和的な価値観が根強く残りやすい場所だとは言えると思います」

学校は、社会の中で「今はこれはダメだよね」と広まりつつあるルールにも、なかなか気付きにくい環境なのかもしれません。

となると、心配なのはそんな学校で10代の多感な時期を過ごす生徒たちですが……。

さまざまな価値観を知ることが、批判できる力につながる

大人との接点がまだ少ない中高生にとって、親や先生の価値観は、自分の価値観の形成に大きな影響を及ぼすはずです。

先生だけでなく、親の価値観がそのまま引き継がれている子もときどき見かけます。最近多いのは、特定の国民を差別し、ヘイト的な発言をする子ども。完全に親の影響ですね。日本はもっと人権教育をしっかりすべきだと思いますが、学校でも昭和的な価値観を持つ大人が多く、うまくいっていないのが現状です」(矢野さん)

では、古い価値観に縛られていたり、人権を軽視するような大人に出会ったりしたときに、“それはおかしいのでは?”と疑問を持てるようにするには、どうすればいいのでしょう。

「とにかくたくさんの本を読むことです。子どものうちから健全な批判精神を養うには、どんなジャンルでもいいので、面白そうな本を片っ端から読んでいくことをしてほしいです。

そうすることによって、“親が必ず正しいわけではない” “学校の先生が言っていることがすべてではない”ということを、子どもたちはわかるようになっていくのです」(矢野さん)

中高生の間にたくさんの大人と出会って話を聞き、多様な価値観を学んでいくというのは、やろうとしても難しいこと。でも、たくさんの本を読むことで、世界中の、またさまざまな時代の人々の価値観をどんどん学んでいくことはできるというわけです。

これからの時代を生きていくには、身近な大人たちの意見だけでなく、多様な考え方を知って自分なりに考えることが重要です。まずは読書から、スタートしてみてはいかがでしょう。

取材協力

矢野耕平さん(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表)

大手進学塾で十数年勤めた後、2007年に中学受験指導スタジオキャンパスを設立。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』(ともに文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』(SB新書)など。

<取材・文/ 大西桃子 >

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。