ジェンダーギャップ解消が未来につながる!女子生徒がプログラミングを学ぶ意味

生徒・先生の声

教育問題

2022/01/24

今、日本の大学等における理工系分野の女子学生の比率は、OECD加盟国中36カ国の中で最下位となっています。

OECDが「自然科学」「情報」「工学」の3分野に分けて各国を比較したところ、平均はそれぞれ52%、20%、26%でしたが、日本は自然科学で27%、工学で16%(情報には特化されたデータなし)でした。

現在先進国の間では「STEM(科学・技術・工学・数学)教育」が重視されるようになっていますが、その中で日本、とりわけ女性の活躍は、遅れをとっていると言わざるを得ません。

また、経済産業省が2019年に公表した「IT人材需給に関する調査」において、今後のIT人材の不足数を試算したところでは、需要の伸びが約3〜9%だった高位シナリオの場合、2030年には約79万人が不足するとされています。需要の伸びが1%程度の低位シナリオでも、不足人数は約16万人です。
ちなみに、同調査によれば2018年の段階で、IT人材の不足はすでに22万人にも上っているのが現状です。

この不足数を考えても、女性のIT人材をどれだけ増やせるかは日本の大きな課題と言えるでしょう。

そこで今回は女性のSTEM分野への進出について、女子中高生を対象にIT・STEM教育の機会を提供する「一般社団法人Waffle(ワッフル)」に詳しく話を伺ってみました。

インタビューを受けてくださったのは、Waffleのインターンとして活躍する村上綾菜さん(お茶の水女子大学大学院・修士課程1年)、西野麗華さん(津田塾大学2年生)。学生のお二方は、ご自身の体験も踏まえながらお話をしてくれました。

理系志望の女子生徒が少ないのはなぜ?

── まず日本では諸外国と比較しても、とりわけ理系分野でのジェンダーギャップが大きくなっているのには、どのような背景があるのでしょうか。

村上綾菜さん(以下、村上)「学校教育の中で、まだ旧来の固定観念が抜け切れていないのが、背景のひとつだと思います。先生たちが、女子生徒がIT分野や理系方面に進むというイメージをうまく持てておらず、『女子は理系に進んだら大変だよ』などと言ってしまう方もおられます。生徒と進路の話をするときに、『IT業界で女性はどのように活躍しているんですか』と聞かれても、答えられない先生も多いようです。同じように、メディアの制作側にもそういう人が多く、中高生が見るようなドラマの中にも、プログラミングやIT分野で活躍する女性はあまり出てきません」

── つまり、先生や保護者世代が持っている職業観がアップデートされておらず、それが生徒・学生世代に未だ影響を及ぼしているということですね。

西野麗華さん(以下、西野)「そうなんです。先生や保護者たちの世代の考え方がアップデートされないと、古い職業観が再生産されることになってしまいます。実際、女子生徒が医療・看護などの道に進みたいなら理系もアリだけれど、工学部については『女子だと就職先はないよ? 結婚も難しくなるよ』と言う学校の先生もいました。また、私も塾の先生に、『理系は受験科目に数Ⅲがあるから厳しいのでは』と、文系を勧められた経験があります」

村上「私は高校生のときに数学が好きで、大学では理学部情報科に進みました。でも、周りの大人たちが積極的に勧めてくれたわけではありません。進学してみたら楽しく学べているので、もし周りからもっと話を聞けていたら、より多くの選択肢があったのではないかなと思っています」

── そういった大人たちの職業観によってしまうと考えると、地域格差もありそうですね。

西野「私は宮城県出身ですが、周りはITに疎い先生ばかりでした。学校にプロジェクターが導入されたのですが、先生たちが使いこなせず、一度使っただけですぐに紙に戻ってしまいました。学校の場合は一般企業と異なり、専門スキルを持った情報システムの担当者すらいません。忙しい先生たちの中から、やれる人がやることになっているので、学校によってもIT化の進み具合がまちまちなのです」

── まずはすべての学校でIT化が進み、先生たちがその利便性や重要性を認識した上で、進路指導をしていく必要があるということですね。

STEM分野では、今こそ女性の視点が求められている!

── 次に、女性がプログラミングを学ぶメリットについてお聞かせください。女性だからこそ、というメリットはありますか?

村上「女性の場合、妊娠・出産や育児などのライフイベントによって、仕事から離脱せざるを得ない場面がどうしても出てきます。その場合、IT関係の仕事は自宅でできることも多く、大きなメリットだと思います。たとえば、3年かけて遂行するような、途中で離脱しにくいプロジェクトに入っていると、妊娠・出産の選択ができないこともあります。でも、IT分野なら両立できるプロジェクトも多くあります」

西野 「ITの場合はまさに令和の”手に職”。自分のスキル次第で、ライフイベントによっていったん離れざるを得なくてもスキル次第で稼いでいける仕事ですし、柔軟な働き方ができます」

村上「また、今はFemale(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけ合わせた造語で、『FemTech(フェムテック)』という言葉が出てきています。女性ならではの健康や働き方などの問題を、テクノロジーによって解決するサービスや商品のことを言います。特にこの分野では、女性ならではの視点が重要となります。
既存の業界でいうと、自動車業界では一時期、エアバッグのテストケースに女性が入っておらず、主に男性に合わせて作られていました。そのため、妊婦さんに反応しづらいという問題があったのです。この分野にも、最初から女性の視点が入っていればすぐに問題解決ができたはずです」

── 女性がSTEM分野に進出していくことで、女性だけでなく、社会に対しても優しい技術がどんどん増えていくということですね。

西野「私は、女性だから理系分野は苦手だと思ったことはないんです。『OECD生徒の学習到達度調査(PISA)』では、数学的リテラシー、科学的リテラシーの分野で、日本は有意な男女差がなく、かつ女性もOECD平均を上回っているのに、多くの女性が苦手だと思い込んでしまっています。これを何とかしたいですね」

Waffleが主催する女子中高生向けITイベントの様子

「理系は無理」と決めつけず、視野を広げるための一歩を

── では、中高生がプログラミングを始めようと思ったり、理系分野への就職に興味を持ったりした場合、具体的にどんなことから手をつけるのがよいのでしょうか。

西野「今はオンラインで気軽に参加できるプログラミング講座がたくさんあるので、まず参加してみるのがよいと思います。続けなくてはいけないと思うと気が重くなりがちですが、お試しで参加できるものもたくさんあります。
Waffleでは、女子中高生がウェブサイト制作を通じて、コーディングやIT分野のキャリアを知る『Waffle Camp』というオンラインプログラムを提供しています。講師も村上さんのような受講生と年齢の近い人で、親しみやすいのでオススメです。また、昨年秋には、現役の女性エンジニアさんなどが仕事ぶりや学生時代の話をしてくれる『Waffle Festival』も開催しました。こうしたイベントで、実際に働いている女性の話を聞いてみるのもよいと思います」

── 「Waffle Camp」に参加された生徒さんたちの反応はいかがでしたか?

村上「最初はコードの羅列を見てうわっと思ったという子も、ウェブサイト作りをしているうちに、好きなYouTuberを紹介したいなど『あれやりたい、これやりたい』ということがたくさん出てくるんです。女性がメンターであることで、話が聞きやすかったという声もありました。興味を持ったらまず何でもやってみればいいと思うのですが、実際は行動するまでのハードルが高いと思うので、こうしたイベントでIT分野に触れてみてほしいと思っています」

── イベントの他に、自宅ですぐできるものとしては、何かありますか?

村上「すぐ手を動かしてみたいと思ったら、『progate(プロゲート)』(https://prog-8.com/)というサービスはキャッチーなアイコンとキャラクターで取り組みやすくなっているのでオススメです』

── イベントに参加したり実際に手を動かしたりすることで、漠然としたイメージが具体的になっていき、将来の選択肢に結びついていくとよいですね。では最後に、今後STEM分野に女性が進出していくために、Waffleさんではどういったことを伝えていきたいか、お聞かせください。

西野「私は文系理系の両方が学べる学部に通っていますが、たとえばデータ分析を学ぶと、それを使って社会課題に対して数値的な根拠を持って説明できたり、文章だけでは伝わないものを伝えられるようになったりと、文系にも役立つことが多くあります。私の専攻は政治学ですが、統計的に説明することの重要性を実感しているところです。中高生のみなさんにも、自分は文系、理系と決めつけるのではなく、広い視野で学んでほしいなと思っています」

村上「今は、誰かと競うよりも自分の好きなことを表現したい子が多いと思います。そして、自分を表現する手段のひとつが、ITです。まずは技術よりも『何がしたい』ということに目を向けて、自分の好きなものを表現していいんだよというメッセージを軸に活動していきたいと考えています。興味を持って学んだことはすべて力になるので、楽しくスキルを身につけてもらって、自分の力にしてほしいですね」

西野 「Waffleでは自治体とコラボレーションして、情報が届きにくい地域の生徒たちにもアプローチしています。プログラミングを学ぶというと、どうしても首都圏で情報に敏感な家庭の子が参加者の中心になりますが、自分にはITは関係ないと思っている子にこそ、多くの選択肢を持ってほしいと考えています」

── 必ずしも理系の道に進むわけでなくとも、理系の技術や知識が活かせる場面が増えているのが今の時代だと思います。男女関係なく、学ぶ機会や将来の選択肢を広く持てるようになるとよいですね。今回はありがとうございました。

Waffle Campの模様

取材協力・写真提供

一般社団法人Waffle(https://waffle-waffle.org/

WaffleCamp(https://www.camp.waffle-waffle.org/


村上綾菜さん

お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科理学専攻修士課程1年在学中。大学では情報科学を専攻。現在、一般社団法人Waffleのインターンとして、女子中高生限定オンラインコーディングコース「Waffle Camp」の講師や教材制作を担当。

西野麗華さん

津田塾大学総合政策学部2年在学中。大学では政治分野のジェンダーギャップを中心に勉強中。現在、一般社団法人Waffleのインターンとして、全国の女子中高生向けに「Waffle Camp」を届ける活動をしている。

<取材・文/大西桃子>

※2022/01/24 17:00
一部内容に誤りが合ったため修正いたしました

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。