【知ってほしい】家族の世話をする子どもたち「ヤングケアラー」とその環境

通信制高校

教育問題

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2021/05/10

「ヤングケアラー」という言葉を知っていますか?
ヤングケアラーとは「家族にケアを要する人がいるために、家事や家族の世話などを行っている、18歳未満の子ども」のこと。

そんなヤングケアラーですが、文部科学省と厚生労働省が行った最新の調査では、通信制・定時制高校の生徒にはヤングケアラーの割合が高いという結果が出てきています。

通信制高校では9人に1人がヤングケアラー

ヤングケアラーという言葉は、ここ5年ほどで日本でも広まってきましたが、その実態は国も十分に把握できていませんでした。
そこで厚生労働省と文部科学省は、ヤングケアラーの問題を扱うプロジェクトチーム(PT)を立ち上げ調査を実施。
2020年4月12日に、この調査結果が公表されました。調査では以下のような事がわかってきました。

▼世話をしている家族がいる生徒の割合

  • 公立中学:5.7%( およそ17人に1人 )
  • 全日制高校:4.1%( およそ24人に1人 )
  • 定時制高校:8.5%( およそ12人に1人 )
  • 通信制高校:11%( およそ 9人に1人 )

▼ 1日に7時間以上を世話に費やす生徒の割合

  • 公立中学: 11.6%
  • 全日制高校:10.7%
  • 定時制高校:9.7%
  • 通信制高校:24.5%

いずれも、通信制高校の生徒が最も家族のサポートに時間を割いている割合が高いことが分かります。

進路に関する質問では、中学生のうち、「進路の変更を考えざるをえないか、進路を変更した」という生徒が4.1%、「学校に行きたくても行けない」と答えた生徒が1.6%でした。
通信制高校生では、「当初通っていた学校を辞めた」という生徒が12.2%、「アルバイトや仕事ができない」と答えた生徒が8.2%となっており、子供たちの生活や学業に、家族の世話が大きな影響を与えていることが伺えます。

※調査方法
中学生・全日制高校:2年生、合計約13,000人を対象にしたWEBアンケート調査 通信制高校:各都道府県から1校ずつ抽出してインターネットでアンケートを実施。回答者 約800人

※参考元: ヤングケアラーの実態に関する研究 報告書

家事や世話に追われて選択肢が狭まる子どもたち

中学生・高校生が家事や家族の世話で1日に何時間も費やさなければならないとなると、当然、やりたいことができない、他の生徒が選べる道を選べないという状況も生み出します。
その結果、 通信制・定時制高校の生徒の負担割合が高くなっている可能性も大いに考えられます。

日本ケアラー連盟理事という立場でこのPTにも関わっている※ 立教大学コミュニティ福祉学部助教の田中悠美子先生は、
「たとえばお母さんに精神疾患があるなどの場合、日中はお母さんが不安定だったり寝込んでいたりするためにそばにいなければならず、お父さんが仕事から帰ってきて家にいる夜など、時間が取れる時に勉強するとか、時間をやりくりしなければならない可能性はありますよね。
また、ひとり親家庭で親が働いていない、あるいは働けないという状況で、子どもが働きながら定時制・通信制に行っているということ、さらには高校という選択肢すら考えられないということも、可能性としてはあります」とのこと。

また田中先生は、関西の母子家庭に触れた実例からこう言います。

「お母さんに精神疾患があるために、娘さんが定時制を選択したという事例がありました。彼女は日中は会社勤めをして、夜は学校に通うという選択肢を自ら選びました。
彼女自身は前向きではありましたが、選択肢の幅という意味では、ケアをしていない子どもと同等のものが与えられているわけではありません。
私たちは『ライフチャンス』という言葉を使うのですが、ヤングケアラーの場合は家庭の状況のためにライフチャンスが得られにくいということは言えるのではないかと思います」

※画像はイメージです

※日本ケアラー連盟と PTのよる「ヤングケアラー」の定義の違い
▼日本ケアラー連盟の定義
家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子ども
▼国の調査(PT)による定義
児童福祉により軸を置いて『子どもの権利が侵害されている』という点に立ちながら定義しているため『幼いきょうだいの送り迎え』も含むなど、日本ケアラー連名よりもやや幅広い定義になっている

国や自治体による対策は?

このヤングケアラーを巡る状況について、国はPTを立ち上げて対策に乗り出しました。この動きによって、改善は図られるのでしょうか。

「新聞記事やYouTube、SNSで自分の経験を語る方が増えていることもあって、国もようやく調査を始めました。
ヤングケアラーの問題は介護問題、児童福祉、医療などが複合的に重なっていて、制度横断的、省庁横断的な支援が求められる格好のテーマなんです。そういうこともあって、昨年から国が推進しているという背景があります」

国は会議を4回開催して、5月中には骨太の計画を打ち出す予定でいるとのことですが、

「相談窓口を明確化し、メディアを使ってもっと広く知ってもらう機会を増やすのは大事なことです。ですが、国が旗を振って自治体がどう動くかというのは、なかなか読めない部分があるのも事実です」

独自に動き始めている自治体も

たとえば鳥取県では児童相談所に窓口を設けてヤングケアラー相談を実施。
神戸市では専門部署を新設し、本人や周囲からの相談を受け付ける窓口を開設しました。
また埼玉県では昨年、「埼玉県ケアラー支援条例」を制定。
自治体も、さまざまな活動を開始しています。

ただ、こうした動きがすぐに問題解決につながるというわけではなく、もっと細やかな対応が必要だと、田中先生は話します。

そもそも学生や子どもが、行政の窓口を訪れたり電話したりということ自体が難しい。だからこそ周りの大人が気づいたり、学校で気づいたりということが大事なんです。
学校に通っている子たちに関しては、保健室の先生やスクールソーシャルワーカー(SSW)がお話を聞く機会を設ける動きは、もっと活発になっていくと思います」

日本ケアラー連盟としては、SSWを各校に1人配置できるようにしてほしいと訴えているとのこと。

「今はSSWの配置はブロックごとで、それでは子どもたちと顔見知りというような状態になるのはなかなか困難ですから」

先生たちは日々の業務でかなり多忙で、そこまでの対応を望むのは酷です。「地元での身近なネットワークで対応ができるようになるのが理想ですよね。時間はかかると思いますが」と田中先生。担い手を増やすことが重要になるようです。

※画像はイメージです

多様な背景に目を向けて、各ケースをひもとくことが大事!

ヤングケアラーについてはもうひとつ、「多様性」の問題も指摘されています。ヤングケアラーとひとくちに言っても、彼らが抱えている状況は一人ひとり違います。

「ヤングケアラー」という言葉が定着するのは望ましいことです。
しかし一方で「支援の対象者だから」ということで変なレッテル貼りをされたり、スティグマ(“普通”とは異なるということから偏見の対象とされてしまうこと)になってしまったりする危惧があります。それは学校での対応にもつながってきます。

「ヤングケアラーは日常の時間をケアに取られることによって、遅刻したり欠席したりしがちになるという問題があります。進路相談にあたっても先生たちの理解が深まって、授業態度や成績だけではなく、そういった背景も気にかけてもらえるようになればいいと思います。

ただ、これは埼玉県の調査で実際に出た意見なんですが、自分がヤングケアラーであることを自覚してはいるが、『学校は自分にとって安らぎの場』だから、『できるだけそっとしておいてほしい』という生徒もいるんですね。現状をわかってはほしいが、過干渉にされたくはないということです。
こういう場合、闇雲に『何でも話してごらん』というのは得策ではありません。適切な関わり方を求めて、対応方法もスキルアップしていく必要があります。

SSWのように、困ったときに話を聞ける人がいるようにする環境作りが必要だと現場が気づくようになって、ようやく動き始めたというところです」

介護、非正規雇用、子どもの権利など、課題自体が多様

認知症の祖母がいる家庭では、ケアマネージャーが「高校生のお子さんがいるならデイサービスの帰宅時の対応もできる」と期待され、ケアプランを組んでいる場合もあると言います。また母子家庭の場合は母親が非正規雇用という場合も多く、コロナ禍でさらに状況は悪化しています。

「裕福な家庭ならベビーシッターを使えばある程度解決できる問題もあります。しかし経済状況によって、使えるサービスの幅が狭くなっているんですね。だからひとり親が働く状況も改善されないといけない。
子どもや孫の負担増につながっている介護保険サービスの現状も、見直す必要があります」

ヤングケアラーは、ひとくくりに解決しようとするのではなく、さまざまな背景、それぞれの当事者の思いに細かく目を向けていくことが必要な問題だと田中先生は言います。

ケアの負担を負っている子どもも、部活や受験勉強、友達づきあい、アルバイトなどの青春の時期を過ごしたいという思いがそれぞれにあります。『もっとこうしたい』という声を聞いて理解することが大前提で、そのためにいろんな施策、制度を見直していかなければ、問題の解消には向かいません。課題はいろいろつながっています」

前述の埼玉県など、ヤングケアラーの問題に着手している自治体では、セミナーやシンポジウムなども開催しています。
私たち一人ひとりがこうした催しに参加するなど、この問題について関心を持つこと、そうした意識を広げていくことも、解決への道の第一歩となるかもしれません。

取材協力

田中悠美子先生

日本ケアラー連盟理事、立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科助教

<取材・文/高崎計三 >

この記事を書いたのは

高崎計三
1970年、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年に有限会社ソリタリオを設立。編集・ライターとして幅広い分野で活動中。