あなたはプロフェッショナルとアーティストどっち? 好きなことは仕事にするべきか――DJと会社員を19年間両立するBUBBLE-Bさんインタビュー

先輩に聞く

2018/06/14

進路を考える時に「好きなことを仕事にできたらいいな」と考える人は少なからずいるだろう。しかし、自分の好きなことで人からお金をもらう生活が、具体的にどういうものなのか、考えたことはあるだろうか。

会社員でありながら音楽活動を19年間続けてきたBUBBLE-B(バブル・ビー)さんに話を聞いた。

東京での音楽活動は、追い風になる

BUBBLE-Bさんは1976年生まれの41歳。新卒で就職してから、ずっと会社員として働きながらDJやDTMによる作曲といった音楽活動を続けてきた

――大学卒業時に、音楽で食べていこうとは思いませんでしたか?

そんな実力はないんだろうなと思っていました。ちょっとチャレンジしてみようと思ったことはあったのですが、田舎の公務員家庭で育った一人っ子というのもあり、親は「好きにしろ」とは絶対に言ってくれない感じで。

当時は、滋賀の実家から大阪の近畿大学に通っていました。在学中、パソコン通信やインターネットを通じて、今も付き合いのあるいろいろな人と知り合い、東京での音楽活動は何もかもがケタ違いなことを知ったんです。「東京で働きながら、東京で音楽活動がしたい!」と思うようになり、就職を利用して、大学卒業のタイミングで上京しました。

――やはり、音楽をやる方にとって、東京での音楽活動は特別な思い入れがあるものなのでしょうか。

う―ん、本当は地元が一番だと思うのですが、当時はとにかく仲間と知り合いたかったし、自分の音楽を受け入れてほしいという思いがありました。当時住んでいた滋賀県で、自分のまわりにはロックバンドをやっている人しかおらず、テクノ系が好きな自分と趣味が合いそうな仲間を見つけることはほぼ不可能だったんです。

東京は、音楽などの芸術活動をやる人にとって追い風になる場所だと思います。人がたくさんいるし、音楽を好きな人がたくさんいるから、多少マイナーでも自分の音楽を聴いてくれる人がいるんです。活動を取り上げてくれるメディアもありますね。

実際に、東京で活動を始めたくらいの時期は、イベントをすると300人キャパの会場が満員になった、なんていうこともありました。「ナードコア」というスタイルを武器に、当時の東京のサブカルチャーの熱狂の渦に飛び込んだようなものだと思います。これは地元では絶対考えられないようなことでした。その時の流れが、形を変えつつ、20年経った今も続いている感じです。

たくさん時間があったら、曲作りをしないで寝てしまう

――先ほど「音楽で食べていけるとは思わなかった」とおっしゃっていましたが、この19年間、会社員をしながら音楽活動を続けてきて、音楽活動で独立することを考えたことはなかったでしょうか。

19年のサラリーマン生活で、楽しいこともたくさんあったのですが、要領が悪くて世渡りも下手なせいで、いろいろうまくいかなくなって悩んだり、鬱っぽくなったりした時期もあって。そんな時は、もう会社を辞めて好きな音楽で食って行った方がいいのでは……と思ったこともありました。

人に相談すると、「サラリーマンを辞めてミュージシャンになった方がいい」と言われることもありましたが、そうしませんでした。自分の音楽でお金を稼ぐということに何の自信も無かったからです。

でも、そんな時でも音楽活動をすることで、バランスを取ってきたんだと思います。

そんな中、2011年に4カ月ほど、会社を辞めて引きこもりのニート生活をしていた時期があったんです。今思えばたくさん時間があったあの時が、音楽活動で独立するチャンスだったのかもしれません。

BUBBLE-B feat Enjo-Gの曲『走りのセダン』をプレイするBUBBLE-Bさん(奥)

――なぜ独立しなかったのでしょうか。

その4カ月で作ったのが、たった3曲だったんです。それまで会社員として働きながら、月に3曲ほどのペースで作曲していたので、4カ月で3曲はかなり少ないですね。

さあ曲を作ろうと思っても、明日も一日中家にいるんだと思うと、じゃあ明日でいいや、となってしまって。4カ月間、昼寝とクルマの洗車ばかりしていました(笑)。「自分は時間があったら曲を作るよりも寝てしまうタイプの人間なんだ」と、その時気付きましたね。

具体的に言うと、スケジュールを立てるのが苦手なんです。そういうタイプは、音楽家として独立するかどうか以前に、自分で時間の使い方を決める働き方自体が向いていないんじゃないかなと。そしてまた会社員に戻りました。

――BUBBLE-Bさんは、フリーランスであるより、会社員であることにメリットを感じているんですね。

管理されるラクさみたいなのもあるんです。会社に出社することで、昼夜が逆転することもないので健康的に過ごせますね。会社での仕事が自分に合っていたり、楽しい部分のある仕事だったりしたら、ラッキーですよね。あとは、社会保障とか(笑)。

あと、音楽とは別の昼間の仕事があるから、創作に厚みが出るというのもあるかもしれません。

お金をもらって言われた通りに作曲するか、お金をもらわないで好きな曲を作るか

――出社して作曲するような会社があれば、音楽活動を仕事にする可能性はありましたか?

実は、新卒入社時にゲームのサウンド制作の職を受けて受かったんです。でも、オフィスが東京からはかなり遠い所にあったので、自分の音楽活動ができなくなりそうで、辞退しました。

「アーティスト」と「プロフェッショナル」という言葉がありますが、それぞれ違うと思っていて。かなり大雑把に分けると、やりたい時に自分のやりたい表現をする人が「アーティスト」。クライアントがいて、お金をもらいつつ、どんな曲を作るのか先方からの指定通りに制作を進める人が「プロフェッショナル」だと思っています。

――BUBBLE-Bさんは……。

僕は「アーティスト」でしょうか。自分から人に言ったりはしませんが。自分のペースで作りたい曲を作っているので、クライアントを相手にした「仕事」としての制作ではありません。だから、自分の音楽活動は副業ではありません。

もちろん、純粋な「アーティスト」と「プロフェッショナル」しかいないわけではなく、アーティスト寄りのプロフェッショナルもいれば、プロフェッショナル寄りのアーティストもいるでしょう。

自分の好きなペースで好きな曲を作って、それが売れて、余裕で暮らしていけるくらいのお金も稼げれば、それが最強ですよね。そこにはいつの時代も夢がありますね。

――自分の好きなことを「仕事」にするかどうかを考える際には、自分がアーティストタイプなのか、プロフェッショナルタイプなのか考えた方がいいということですね。

はい。プロフェッショナルタイプの人は、好きなことを仕事にする、好きなことでお金を稼ぐことに向いていると言えるでしょう。自分の表現スキルの他に、社会の中で繋がりを作って、うまくサバイバルするスキルも必要だと思います。

アーティストタイプの人は、自分のオリジナルの表現が広がることに幸せを感じる人でしょう。オリジナルの表現だからすぐには売れなくても、他の仕事をしてでも表現を追求することが幸せな人だと思います。アマチュアで自分の表現活動をする人もこちらでしょう。自分を振り返って、何がしたくて、その後どうなれば幸せなのかを考えたいですね。

後先考えずに、まず作ろう。そして仲間を探そう

――進路や将来に悩んでいる人にメッセージをお願いします。

アーティストか、プロフェッショナルかという話をしましたが、今すぐにそれを考えて悩むことはあまり意味が無いと思います。まず何でもいいから音楽活動を始めて、自分はどう感じるのが幸せなのかを、少し経験してからでも遅くないと思いますね。CDが昔ほど売れなくなってる今、音楽での「稼ぎ方」もどんどん変化していますし。

まずは後先考えずに、曲を作りたいなら、稚拙でもいいから作ってみる。楽器を弾きたかったり歌を歌いたかったりしたら、とにかく練習する。その後それで食えるかどうかは、結果の話だと思います。

そして、YouTubeやTwitterなどに作ったものをアップしましょう。学校で仲間ができなくても、音楽を通じて日本中、世界中に仲間を作ることができます。その人たちは、音楽を好きでいることをやめない限り、ずっと仲間です。

仲間ができたら、実際に会って、一緒に演奏したり、力を合わせてイベントをやったりしましょう。すごく楽しいことが増えて、人生が変わりますよ。

(取材・執筆:田島里奈 編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材協力

BUBBLE-B

音楽家、DJ。滋賀県出身、神奈川県在住。少年期からマッドテープを量産し、J-POPとフュージョンとハードコアテクノに洗礼を受け、1995年からサンプラーとシーケンサーを揃えてテクノのトラックメイキングを開始。マッドテープ魂はそのままに1998年頃にはサンプリングを主体としたテクノであるナードコアを標榜する。空手とテクノを融合させたパフォーマンスユニット「カラテクノ」のトラックメイカーとしても活動。DJとしてはJ-POPを追及し、少し懐かしの曲からネクストヒットを感じさせる最新の曲まで、お客さんのお酒を美味しくするための選曲を心がけている。ほかに、飲食店1号店トラベラー、麻婆ドーファー、旅人としての活動もしている。

WEB:http://www.bubble-b.com/

Twitter:https://twitter.com/BUBBLE_B

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2018年6月14日)に掲載されたものです。

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