「不登校は不幸じゃない」って? 小幡和輝さんと今井紀明さんが考える”不登校を不幸で終わらせない”ヒント

不登校

先輩に聞く

2018/06/26

生き方の選択肢が広がる中で、「無理して学校に行かなくてもいい」という考え方が徐々に広まっている。しかし、不登校の子どもと向き合う親の立場で考えると、さまざまな不安が生じるのも事実だ。

そんな中、不登校経験を肯定するムーブメント「#不登校は不幸じゃない」がSNSで広がっている。全国100都市でのイベント開催を予定する同ムーブメントには、すでに約700人の協力者が集まっているという。

同企画の発起人であり、自身も不登校の経験をもつ起業家・小幡和輝さんと、定時制・通信制高校の生徒を現場で支援するD×P代表・今井紀明さんに、「#不登校は不幸じゃない」のムーブメントの背景と、不登校を不幸にしないためのヒントを聞いた。

●お話を伺った人

小幡和輝(おばた・かずき)
NagomiShareFund & 地方創生会議Founder/内閣府地域活性化伝道師。「#不登校は不幸じゃない」発起人。1994年、和歌山県生まれ。約10年間の不登校を経験。当時は1日のほとんどをゲームに費やし、トータルのプレイ時間は30,000時間を超える。その後、定時制高校に入学。地域のために活動する同世代、社会人に影響を受け、高校3年で起業。様々なプロジェクトを立ち上げる。
2017年、47都道府県すべてから参加者を集めて、世界遺産の高野山で開催した「地方創生会議」がTwitterのトレンド1位を獲得。その後、クラウドファンディングと連携した1億円規模の地方創生ファンド「NagomiShareFund」を設立し、地方創生の新しい仕組みを構築中。GlobalShapers(ダボス会議が認定する世界の若手リーダー)に選出。

Twitter:https://twitter.com/nagomiobata

小幡和輝オフィシャルブログ:http://www.obatakazuki.com/

●お話を伺った人

今井紀明(いまい・のりあき)
認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長。高校生の時、子どもたちのための医療支援NGOを設立し、当時紛争地域だったイラクへ渡航。現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後日本社会から大きなバッシングを受ける。その後、通信制高校や定時制高校の生徒が抱える課題に気づき、2012年にNPO法人D×Pを設立。

Twitter:https://twitter.com/NoriakiImai

認定NPO法人D×P:http://www.dreampossibility.com/

「無理やり学校に行かせるのはダサい」っていう雰囲気になればいい

――現場で若者に関わるお二人から見て、最近の不登校はどのような状況なのでしょうか?

今井:不登校には、学力不振やいじめなど複合的な理由があります。でも最近、僕が現場でよく聞くようになったのは、「授業に出なくてもテストの点数が取れてしまう。学校に通う意味が分からない」という意見です。

もちろん今も、いじめや教師から否定されるといった「ネガティブな不登校」はあるけれど、学校に通うことに価値を感じなくなってきた層がもしかしたら増えているのかもしれない。

小幡:それは僕も思いますね。例えば、スタディサプリのように家で勉強できるツールがあったり、SNSで学校以外のコミュニティと繋がることができたり、ここ数年で環境は変わってきています。でも学校って、全然変わっていない。今の学校の仕組みが社会にとって適切な状態かと言われると、ちょっと疑問はあるんですよね。

今井:小幡くん自身、不登校期間が長かったんだよね。何年ぐらいだっけ?

小幡:もともと学校はたまに休んでいたのですが、小学2年生からの7年半は完全に不登校です。筋金入りですね(笑)。

今井:ところで、いま小幡くんが力を入れている「#不登校は不幸じゃない」って、どういう意図や経緯で立ち上げたの?

小幡:夏休み明けは、1年で最も子どもの自殺が増える時期なんです。それで夏休み終盤の8月19日に、全国で「子どもの駆け込み寺」を作りたい、と思ったのがきっかけです。これまで学校という枠によって悩んでいる子どもたちの相談をたくさん受けてきましたが、当事者同士が直接つながれる居場所を作りたいな、と。

――8月19日、具体的には何が行われるんですか?

小幡:自らの不登校体験談を伝えてもらう5~10人くらいの小規模なイベントを、日本全国100カ所で開催します。各地の主催者の多くは、不登校経験者です。

現在、協力者は続々と集まってきており、Facebookグループには700人近い方が参加しています。なかには、小学生がイベントを企画したいと手を上げて、お母さんと一緒に主催している地域もありますよ。

――なぜ全国でイベントをやることに?

小幡:最初は東京で大きなイベントをやろうと考えたんです。でも、ピンとこなかった。なぜなら、そこに集まれるのはせいぜい200人くらいですし、東京以外の子は来られない。本来一番サポートが必要な子には届かないと感じました。それなら、不登校経験がある人自身が主催者になって、全国でやったほうがいいな、と。

実は僕自身、以前は不登校の経験を隠していました。でもある時、不登校に悩んでいる子たちに自分の経験を話す機会があったんです。そこで子どもたちから感謝されたことによって、過去の自分と改めて向き合えた。僕自身も、不登校経験を完全に肯定できたんです。だから主催者がいま悩んでいる人の力になることで、過去の不登校経験を肯定できるようになってほしいんです。

7月には、小幡さん自身の不登校経験を綴った書籍『学校は行かなくてもいい――親子で読みたい「正しい不登校のやり方」』(健康ジャーナル社)も発売予定だ

今井:不登校って、親にとってはネガティブなイメージがあると思うんですが、子どもにとってはそこが良いスタートラインになるかもしれない。学校に行かないからこそ、才能が発揮される場面もある。小幡くんはそのトップランナーだよね。

小幡:僕の場合は、高校生で起業するというちょっと極端なケースですけどね(笑)。改めて考えてみると、学校ってすごく閉ざされた空間なんです。先生がいて、クラスの中にもスクールカーストがあって、「勉強ができる」「スポーツができる」くらいでしか評価してもらえない。でも外に出れば、もっと違う面で評価されるかもしれないですよね。

今井:D×Pでは、高校生向けのコワーキングスペースを運営しています。そこに通って来ている高校1年生の神名くんは、中学生の時にバネの研究で論文を書いて賞までもらっていた。ところが、起立性調節障害で朝起きられず、登校できないことを先生によく思われていなかったそう。それで、友達はいたけれど、自然と不登校になっていった。でも高校生になった今は、企業から研究費をもらって光学の研究をしている。この子は、無理して学校に通っていたら埋もれていたタイプかな、と。

「#不登校は不幸じゃない」は、そういう子も社会として受け入れよう、育てていこうよというムーブメントにつながるんじゃないかと思う。だから、大人全体に向けたメッセージかもしれないね。

小幡:空気を作るっていうのがいちばん重要で。「無理やり学校に行かせるのはダサい」っていう雰囲気になればいいな、と。大切なのは、学校に行かないことで余る時間をどう使うか、ということなので。

不登校とフリーランスには親和性がある

今井:小幡くんは学校に行くこと自体を、否定しているわけじゃないんだよね。

小幡:はい。学校という仕組みが合う子もいれば、合わない子もいるという話です。学校に行っている子は、その時間に勉強したり運動したり友達をつくったり、将来のスキルにつながることをやっています。もし同じ時間、家でごろごろしていたら置いていかれてしまうかもしれない。けれど、逆にその時間をデザインやライティングなど興味のある分野の勉強に充てれば、尖がった人が出てきて価値が生まれる。

例えば、将棋の藤井聡太さんや野球の大谷翔平さんくらい成果を出せば、学校に行かなくてもあまり関係ないじゃないですか。つまり、分かりやすい成果があれば、不登校でもいいという雰囲気になる。「不登校だけど自分でデザインを勉強して、月10万円稼いでいます。学校の勉強より、もっとデザインを勉強したい」という高校生がいたら、「無理して学校に行かなくてもいいんじゃない?」って言う大人もいると思うんです。

今井:学校の勉強も大切だけど、無理に学校に通わせると生きづらさを感じてしまう子もいるしね。「#不登校は不幸じゃない」ムーブメントで、不登校の子をインターンとして受け入れる企業が出てくれば面白いよね。

小幡:コワーキングスペースが受け入れに協力してくれると良いんじゃないかなと思っています。フリーランスの利用者も多いので。

僕は、社会人のなかで不登校を一番肯定してくれやすいのはフリーランスの方だと思っているんです。フリーランスの方って、会社というコミュニティや仕組みが合わなくて、独立しているケースも多い。不登校は学校が合わなかった。こう考えると、両者は通ずるところがあると思うんです。もしコワーキングスペースで、フリーランスの方々が持っているライティングやデザインのスキルを高校生が学べたら、将来の仕事へもつながっていきますよね。

「不登校=引きこもり」ではない

――親の立場で見ると、「不登校になると、引きこもりになるんじゃないか」という不安もあると思うのですが……。

今井:ちなみに小幡くんが考える「引きこもり」って、どういう状態?

小幡:家族以外との接点がまったくない状態ですね。

今井:それは大きな課題だよね。特に経済的に厳しい家庭だと、より孤立が生まれやすい。交通費が出せないという理由もあって、移動に対する恐怖感が強いケースもある。あと、いじめを受けた経験のある子は、周りからの目線が怖くなって引きこもるパターンも多い。とにかく大切なのは、第三者が関わっていくきっかけづくりかなと思う。

――引きこもりにならないようにするには、どうすればいいのでしょうか?

今井:方法は3つくらいあります。まず1つ目は、趣味のつながりでネット上、もしくは外部とのコミュニケーションをとって、外に出るきっかけを作る。2つ目は、家庭教師がきっかけになるパターン。「勉強は教えない家庭教師」みたいな形で、一歩を踏み出すケースがあります。3つ目は、昔からのつき合いで一緒にいる人、例えば親戚のおじさんなど第三者を頼って動くきっかけを作る。とにかく時間をかけて、焦らないことが大切です。

でも、経済的に苦しい家庭などは、誰もその子に関われず孤立してしまうケースもある。そういう子はTwitterでもなんでもいいから声をあげてほしいし、僕たちに連絡してほしい。

――学校の先生は、どう対応すればいいのでしょうか?

小幡:「#不登校は不幸じゃない」をやっていると、たまに先生からもメッセージをいただくんです。先生自身も、「本当は”辛かったら来なくていいよ”って言いたい。でも、ある意味で突き放してしまうことになるから、立場上言えない」と。良い高校、大学に進学させるという評価軸があると、先生が不登校を積極的に肯定するのは難しいですよね。

今井:最近、「先生が一番大変な立場だな」とすごく思っています。先生が批判され過ぎていたり、精神的に病んでしまったりする事例も増えていますよね。そういう状況だからこそ、学校以外の世間の目が変わっていかなきゃいけない。

小幡:子どもたちの選択肢が少ないのは大きな問題です。例えば社会人だったら、仕事が合わなければ転職、起業といった選択肢がある。でも子どもにはほとんど選択肢がない。先生も選べないし、「自分に合わないから転校したい」なんて、そう簡単には言えないですよね。

今井:学校以外のところにいる僕らがやらなきゃいけないのは、「いろんな方向性があっていい」と伝えるのと、「可能性をいっぱい見せてあげる」ことかな。

「なんで学校行きたくないの?」って聞かないでほしい

――不登校の子を持つ親はどうすればいいのでしょうか?

今井:まず、否定しない。そしてちゃんと理解する。子どもが持っている感性や視点は、僕ら大人とはまったく違うものとして考えたほうがいいです。考えたこともないような行動をとったり、ムーブメントを起こしたり……。そんな場面を何度も見てきました。僕自身、生徒から学ぶことも多いですよ。

例えば、今は一つのコミュニティだけに所属している方がリスクのある社会になってきている。これって、副業や転職が一般的ではない価値観の社会で生きてきた親世代からは、なかなか理解しづらいとは思うんです。でも、この変化を理解した上で子どもに関わることが重要だと思いますね。

小幡:あと、「なんで学校に行きたくないの?」って聞かないでほしいですね。大人でも自分の本当の気持ちを理解するのが難しいように、結局、子ども自身でもわからないんですよ。僕自身も、今でこそ不登校だった理由を明確に話せますが、当時は「なんとなく」みたいな感覚で、うまく言語化できませんでした。それに、もし何か答えたら、親はそれを解決しようとするじゃないですか(笑)。

今井:たしかに、自分が置かれた状況を言語化できないことがあるのは、知っておいたほうがいいよね。

小幡:僕の親は教師でした。教師の子どもが不登校になるケースは結構多いんですよ。「勉強ができて当たり前」っていうプレッシャーがありますからね。親の立場上「学校に行かなくていいよ」って言えないことも分かった上で、毎朝ケンカしていました。それを3カ月くらい続けて、最後に親が折れてくれた。僕が言うのもなんですが、親も辛かったと思います。

だからこそ、僕も頑張らなきゃいけない。不登校が間違っていなかったこと、不幸ではないことを証明するために。

(取材・文:村中貴士 企画・編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材協力

「#不登校は不幸じゃない」実行委員会

Facebook:https://www.facebook.com/futokof/

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2018年6月26日)に掲載されたものです。

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