「体験の格差」で学力にも大きな影響 埋めるためにできることとは?

教育問題

2021/12/17

新型コロナウイルスの感染流行が始まって以降、学生などの若者や子育て世帯の貧困問題が社会問題として大きく浮上してきています。
もともとあった「子どもの貧困」「若者の貧困」が、コロナ禍で職を失ったり、アルバイトやパートなどで働ける時間が少なくなってしまったりしたことで、一層深刻化していると言われているのです。

子どもに関して言えば、家庭の経済状況が悪化することにより、学びの機会が減ってしまったり、学力格差が開いてしまったりということが懸念されています。

実際、家庭の収入と子どもの学力には相関関係があるというデータは、平成30年に国立大学法人お茶の水女子大学が発表した研究結果で明らかにされています(中学生の保護者有効回答数67,309)。

<「世帯収入(税込年収)」と学力の関係>中学3年生の場合

世帯収入国語A国語B数学A数学B
200万円未満70.261.951.238.0
200〜300万円71.864.554.940.3
300〜400万円74.067.858.442.7
400〜500万円75.670.061.245.0
…………………………
900〜1000万円80.576.471.253.5
1000〜1200万円82.478.974.356.2
1200〜1500万円82.879.674.457.5
1500万円以上82.578.873.956.8
「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」より

ご覧のとおり、世帯収入によって国語・数学の点数に有意な差が出ています。収入が多ければ学習塾に通ったり、必要な参考書や問題集を買ったりと、さまざまな教育を受ける機会が増えるため、学力が高くなるのは当然かもしれません。

しかし、当研究結果では、学習塾や教材といった学習に直接的に関わる経験のみによって、学力が左右されるわけではないということが示されています。

この続きを、貧困家庭で生まれ育ち、イベント登壇などでも活躍するライターのヒオカさんと一緒に見ていきたいと思います。

読書、習い事、旅行……子どもは多様な体験を通じて学ぶ

ヒオカさんはご自身の経験から、「単に教育機会に恵まれるかどうかだけでなく、〝体験の格差〟も子どもの学力に影響を与えている」と言います。

「友達の家に遊びに行くと絵本や図鑑、歴史漫画などがあって、うらやましく思っていました。お金のあるなしは、読書体験のほかにも、ピアノやスポーツなどの習い事をさせてもらったり、博物館や美術館に連れて行ってもらったり、家族旅行をしたりといったさまざまな体験の有無に関わっていきます。
こうした体験を通じて、子どもは知識を蓄積させていったり、好奇心を刺激されてもっと知りたいと行動したりしています。その積み重ねが、学力に表れてくるのだと思います」

クラスメイトが旅行先で名物を食べた、有名なスポットに行ったという話を聞いても、自分にはそうした経験がないのでよくわからないまま相づちを打っていたというヒオカさん。

「キャンプのようなアウトドアでさえも、交通費やレンタカー代が出せない、テントなどの道具を買えないという理由で行けませんでした。行動範囲が狭くなってしまうことによって、物事を学ぶ機会は本当に限られてしまうと感じます」

習い事を通じて学校の先生以外の大人と関わったり、旅行に行きさまざまな地域でその土地の文化に触れたり、外食に行って外国の料理を知ることや、食べ方のマナーを覚えたりすることも、子どもたちにとって重要な学びとなります。
しかし、そうした体験にも格差があります。
この、「子ども自身にはどうすることもできない体験の格差が、子どもの学力や将来の選択肢にも影響を与えている」という問題には、あまり目を向けられていないのが現状なのです。

「お金がなくてもやる気があれば」差は埋まるのか?

子どもの格差の話題になると、次のような感想を持つ人もいます。

  • 「お金がなくても、勉強することはできる」
  • 「お金がなくても、親がいろいろな場所に連れて行ったり、本を読み聞かせたり、子どもの教育のためにできることはたくさんある」
  • 「本人のやる気の問題で、格差が出ることは社会問題ではない」

いわゆる、自己責任論です。

こうした考えに対して、ヒオカさんは「もう一歩踏み込んで考えてみてほしい」と言います。

「お金がないので部活もできない。外食や旅行に連れて行ってもらえない。習い事や通信教育を受けたいと頼んでも『諦めて』と言われる。進路の話をしても、『私立はだめ』『奨学金で大学に行って』と言われてしまう。この状態がずっと続くと、自分には選択肢がないんだなと、いろいろなものを諦めるようになってしまうんです」

つまり、モチベーションについても、周囲の大人たちが「挑戦してごらん」とサポートしてくれる環境がある子とない子とでは、大きな差が出てしまうということです。

「周りの子たちの趣味の話にすら、ついていけなくなるんです。たとえば好きなアーティストがいればライブに行ったり、グッズを買ったりしたくなりますよね。でも、買えないことがわかっているので、関心があったとしてもそれ以上踏み込まないようにするんです

音楽をやりたいと思っても、楽器を買うお金も、置く場所もない。パソコンに興味を持っても、パソコンを置けるような自分のスペースもなければ、インターネット環境もない。選択肢の少ない環境下で、「諦め」の姿勢が身についてしまった子どもたちに「やる気の問題」と言うのはあまりにも酷な話です。

「親が頑張ればいいという意見にしても、障害や病気などで高い収入が得られるほど働けなかったり、非正規雇用で時給を稼ぐためになかなか家にいられなかったりする家庭で、親が子どもの体験を広げようと努力をするのには限界があります」

保護者も子どもも、自分たちの力ではどうにもならない現実があるからこそ、国や自治体の政策や、学校や地域の人たちの行動によって、子どもの学ぶ機会をできるだけ平等にしていってほしい、とヒオカさん。
どんな子どもでも好奇心をさえぎられず、豊かに成長できる社会は、きっと日本の将来にもいい影響を与えるのではないでしょうか。

いかに多くの情報に触れるかが、未来を切り拓くカギ

では、もしも今、「自分の家では、あまりいろいろな体験をさせてもらっていないかも」と感じている子がいるなら、何か工夫できることはないのでしょうか。ヒオカさんに尋ねてみました。

「本だけは読んでおいて損することはありません。学校や町の図書館は、情報の宝庫です。私は公立大学に進学することができましたが、受験も情報がとても重要です。進学塾に通えない中、私の場合は図書館に置いてある大学受験雑誌の『蛍雪時代』がとても役に立ちましたし、モチベーションを上げてくれました。
勉強に関わることだけでなく、図書館に行けば、世の中にはどんな仕事があるのか、どんな学問があるのか、社会はどんな物事でつくられているのか、自然と情報が入ってきて、世界が広がります

確かに、じっくりと読まなくても、タイトルを眺めて歩いてみるだけでも得られる情報はたくさんあるのが図書館です。さらに、スマートフォンやパソコンが使える環境があるのなら、こんなアドバイスも。

「SNSで、自分の状況について発信してみるのもいいと思います。『やりたいことがあるけどダメって言われた』『お金がないからやりたくでもできない』。そんな情報を発信することで、『お金がなくてもこういう道があるよ』『それなら給付金の制度があるよ』と、知らなかった方法を誰かが教えてくれることもあります。同じような環境の仲間と出会って、モチベーションを高め合えることもあるかもしれません。
もちろん、悪い大人に引っかからないように十分に気をつける必要はありますが、自ら発信することでやっと得られる情報も多いんです」

できないことにばかり目を向け続けて、諦めることに慣れてしまう前に、少ない選択肢の中から突破口を見出せるように、情報を得るための行動を起こすことがポイントだと言います。

もちろん、子どもたちがさまざまな情報に自由かつ安全にアクセスできるような環境づくりは、大人たちの役割ではあります。でも、もし「何か自分でできることはないか」と思うのであれば、好きなことややってみたいことを見つけるためにも、まずはたくさんの情報を得るところから始めてみてください。

取材協力

ヒオカさん

1995年生まれ、自己責任論と闘うフリーライター、Spot Rightsプロジェクト代表。子どもの貧困や貧困の連鎖などをテーマとして、「無い物にされる痛みに、想像力を」をモットーに執筆や講演活動を行う。

note :https://note.com/kusuburuboku/

<取材・文/大西桃子>

この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。