
高校卒業後の進学率が年々高まる日本。文部科学省「令和6年度学校基本調査」では、高等教育機関(大学や短期大学、専門学校など)への進学率(過年度卒を含む)は87.3%と過去最高を記録しています。大学進学率だけでも59.1%と、半数を超えています。
しかし進学を考えるとき、避けては通れないのが学費の問題です。授業料など年間でかかる費用は数十万から百数十万円となり、経済的に大きな負担と感じる家庭も多いはずです。実際、日本学生支援機構の「令和4年度 学生生活調査」 によれば、大学(昼間部)で55.0%、短期大学(昼間部)で61.5%の学生が、奨学金を受給して通学しています。
一方、奨学金の存在を知っていても、
「借金を返すのは大変そう」
「将来ちゃんと返せるかわからないし……」
「学力が高くないと給付型はムリだよね」
と、よく調べないままに諦めてしまう生徒もいるのが現状です。
そこで今回は、奨学金についてより詳しく知り、選択肢のひとつとして考えるために、奨学金プログラムを提供している認定NPO法人カタリバ(以下カタリバ)に話を聞いてみました。
諦める前に、自分に合った資金調達手段を探そう
カタリバでは、グローバルファッションブランド「COACH(コーチ)」の社会貢献活動を統括する「コーチ財団」とともに、進学に挑戦したい高校生を対象にしたプログラム「Dream It Real×カタリバ奨学金」を2024年から手がけています。
これは、進学費用について相談できる相手がいなかったり、奨学金の申請手続きに不安を感じていたりする高校生に伴走し、奨学金の応募に関する個別相談や進路相談、自立するためのファイナンシャル・プランニングをサポートするプログラムとなっています。
プログラムを担当する渡邉慎也(わたなべ・しんや)さん、石井丈士(いしい・たけし)さんにお話を伺うと、立ち上げた背景には「周囲に頼れる人がいない」「奨学金について十分な情報が得られていない」高校生たちの存在があったそうです。
「日本学生支援機構(以下JASSO)では、貸与型の第一種・第二種奨学金(一種は無利子、二種は有利子)に加え、2020年4月から返済が不要の給付型奨学金と高等教育の修学支援新制度を導入しています。しかし、まだ社会全体に情報が行き届いておらず、それ以前の『奨学金は利息も高いし返済がつらい』というイメージを持っている家庭も多いんです。経済的に厳しい家庭で、親に『うちは大学には行かせられないよ』と言われて、諦めてしまう高校生もいます」(渡邉さん)
「高校でも、進学のお金に関するサポートまではなかなか時間を割くことができず、生徒たちが十分な情報を得られていないケースが多く見られます。また、学習面で躓(つまず)きを感じている生徒が『成績が足りないから奨学金はムリ』と諦めてしまうケースもあります」(石井さん)
JASSOの給付型奨学金は、「学ぶ意欲」と住民税非課税世帯などの「経済的要件」のふたつが満たされていることが受給条件となっています。成績については主に高校での評定平均値が3.5以上を基本としていますが、経済状況によっては必ずしも基準が適用されるわけではありません。ただ、そうした情報を得る前に、「ムリ」と諦めてしまう高校生が多いのが現状だと言います。
- 学ぶ意欲
- 経済的要件(住民税非課税世帯など)
- 成績基準(主に高校での評定平均値が3.5以上)
また、奨学金はJASSOだけでなく、大学や短期大学が提供する学内奨学金、各自治体や企業、財団などによる独自の奨学金もありますが、申請のハードルは高いのでしょうか。
「選択肢として情報を集めるのはいいと思います。民間の奨学金は、ひとり親家庭の学生や、親や家族に大学卒業者がいない家庭から初めて大学に進学する学生(ファースト・ジェネレーション)など、対象や要件を明確にしているところが多いので、自分に合うものが見つかったら応募してみるのもひとつの手です。高校の成績を問うものもあれば、問わないものもあります。ただ、倍率が高いことが多いですし、数を打てば当たるというものでもありませんので、しっかりと準備をして応募することが大切です」(石井さん)
JASSO以外の奨学金情報を得るには、奨学金のポータルサイト「ガクシー」などがありますが、まず知ってほしいのは「進学するにはさまざまな手立てがあり、本来、誰でも進学はできる」ということだと、お二人は言います。

お金のことを自分ごととして捉えるサポート
では現在、カタリバの奨学金プログラムには、どのような生徒が集まっているのでしょうか。
「公募は2025年にスタートし、応募総数は120件を超えました。その中から家庭の状況など、進学のハードルが高いと定義づけられる要素を優先要件として、提出されたエッセーの内容なども踏まえて選考し、75名を採択しました。生徒たちはひとり親世帯が8割、非課税世帯が5割、ファースト・ジェネレーションが7割、また外国にルーツのある生徒が3割といった構成になっています」(石井さん)
- ひとり親世帯:8割
- 非課税世帯:5割
- ファースト・ジェネレーション:7割
- 外国にルーツのある生徒:3割
奨学生は9月に募集され、10月半ばには選考終了し、11月1日にはキックオフの集会が行われたとのこと。これからどのようにサポートしていくのでしょうか。
「経済的なサポートとしては、受験料や交通費・宿泊費など受験に関わる費用、入学金や一人暮らしに必要な費用など進学に関わる費用を、奨学金として給付します。また、オンラインでお金の相談をしながら、他の奨学金に応募する際の伴走、自立するために必要なファイナンシャル・プランニングのサポートなども行います」(渡邉さん)
- 経済的支援
- 相談・伴奏
- ファイナンシャル・プランニング
進学にあたって、どのような費用がどれくらい必要になるのかを一緒に考えていく過程で、お金のことを自分ごととして捉えて自立につなげてほしいと渡邉さんは言います。
「高校生の場合、進学にいくらかかるか数字を調べることはできても、その金額を稼いだり払ったりするイメージはまだできない人が大半です。株式会社マイナビの2025年の調査(https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250421_95170/)では、高校生のアルバイト就業率は27.4%で、平均月収は44,881円となっています。学費のためにアルバイトをするとしても、月にどれくらい働けて、いくら稼げるのかという感覚が身についている高校生はほとんどいないのではないでしょうか。そのため、奨学金を利用して進学することにも『数百万円を返済するのは大変そう』と漠然としたイメージで諦めてしまう。そうではなく、周囲の人に頼りながら、お金について具体的に学んでもらえたらと思っています」(渡邉さん)
プログラムを通して、自分でお金のことを考える力を身につけていくことができれば、社会に出てから貸与型の奨学金でもしっかり返済する計画を立てやすくなりそうです。

費用を把握して「相談する」ことが自立への第一歩
最後に、進学を希望しつつも経済的な不安を抱えている高校生たちに向けて、アドバイスをもらいました。
「まずは、自分の進路選択においてどれくらいの費用が必要で、それをいつ払わなければいけないのか調べるところからスタートしてください。それをもとに家族に相談できればいいですが、難しい場合は学校の先生など身近な大人に相談してみましょう。奨学金を提供している機関でも、問い合わせや相談には丁寧に答えてもらえるはずです。周囲の人に頼る力も、社会で生きていくうえで必要です」(渡邉さん)
「大学等の費用を工面する方法はたくさんあります。奨学金だけでなく、日本政策金融公庫による国の教育ローンや、中央労働金庫の教育ローンなどもあります。給付でも貸与でも、進学したい気持ちがあれば応援する制度はありますし、進学すればそれ以降は大学などにも学費の相談ができる窓口があります。人に相談するためにも、まずは自分の状況を把握して、説明できるようにしておくとよいですね」(石井さん)
むやみに不安を抱えるのではなく、相談しながら具体的に計画を立てていくことが大切とのことでした。では奨学金を考える時期としては、いつからが最適なのでしょうか。
「家族の間ではできるだけ早めに話ができるとよいですが、民間なども含めて応募が始まるのが高校3年生の夏〜秋となりますので、それまでには費用を調べて準備できているとよいですね」(渡邉さん)
奨学金などの学費のサポートが必要になりそうな人も、そうでない人も、まずは早めに進学の選択肢に必要な費用を調べるところからスタートしてみてください。
取材協力
認定NPO法人カタリバ(https://www.katariba.or.jp/)
※2025年度Dream It Real xカタリバ 奨学金
https://katariba.notion.site/dream-it-real-2025
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。




