過去の日記、炎上、逮捕歴――デジタルタトゥーを残さないため、当事者・保護者ができることは?

専門家に聞く

2021/10/04

インターネット上に一度公開された、個人情報や誹謗中傷などの記録が残り続ける「デジタルタトゥー」。過去のブログ記事からアプリに投稿した写真、SNSでの炎上、リベンジポルノ、逮捕報道までその種類はさまざまです。

デジタルタトゥーは名誉毀損やプライバシー侵害の観点だけでなく、就活や結婚などにも悪影響を与えることから、近年大きな問題となっています。特にネットが小さい頃から身近にある世代にとって、「若気の至り」が一生の傷として残り続けるのは恐ろしいもの。

中高生が人生に影響を及ぼす、デジタルタトゥーを残さないために何ができるのか。もしデジタルタトゥーが残ったら、どう対処したらいいのか。デジタルタトゥーに関する事案を取り扱う、モノリス法律事務所・代表弁護士の河瀬 季(かわせ・とき)さんに伺いました。

中学〜大学生はSNSに起因したデジタルタトゥーが多い

――まずは基本的なことから確認させてください。そもそもデジタルタトゥーには、どのようなものがあるのでしょうか?

当人の過失度合いという軸で、いくつか分類できます。まずは当人の過失が弱いケース。たとえば、元交際相手が振られた腹いせに、相手の性的な写真や動画を無断でネット上に公開する「リベンジポルノ」。これは、倫理的・権利的にすぐに削除依頼できるものです。

当人の過失が強いケースで言えば、逮捕歴や前科。新聞社などのニュースサイトで報道された情報は、原則として一定期間が経つと非公開となります。しかし、ブログやSNS、掲示板サイトへ転載された情報は残り続け、デジタルタトゥーとなります。

中間的な事例では、SNSの炎上が挙げられます。特に多いのが、バイト先の飲食店で食材を粗雑に扱ったり、危険な行為をしたりする「バイトテロ」の投稿です。こうした悪ふざけの投稿はSNS上で拡散されると、完全に削除するのは難しいもの。ただ、投稿者の住所や氏名まで特定されて拡散された場合、プライバシーの侵害に当たるため削除要請をしやすいと言えます。

デジタルタトゥーは、当人の過失度合いが強いほど、削除請求しづらくなる

「悪いことをした罰として、デジタルタトゥーが残り続けるのは仕方がない」という考えもあるかもしれません。ただ、最高裁判決では、前科は人の名誉および信用に深く関わるものであるから、これをみだりに公開してはならないと判示しています。たとえ前科があっても罪を償っているので、「忘れられる権利」「更生を妨げられない利益」があるのです。

――モノリス法律事務所では、中高大学生からデジタルタトゥーに関する相談が寄せられることはありますか?

ありますね。ほとんどが彼らの保護者からご相談をいただく形ですが、バイトテロやリベンジポルノの投稿などSNSに起因するトラブルが多いです。

ネットの恐ろしさは、見ず知らずの人から距離が近い人まで区別なく存在していることです。実際の事例で言うと、元交際相手からのリベンジポルノはもちろん、同じ学校に所属しているものの、ほとんど面識のない人からの誹謗中傷とかもあります。学校でのちょっとした発言に傷つけられたといった理由で、ネット上で報復をしているわけです。

モノリス法律事務所・代表弁護士の河瀬 季(かわせ・とき)さん

――デジタルタトゥーが残ることによって、どのような悪影響が生じるのでしょうか?

大きく分けると、契約関係と人間関係での悪影響があります。契約関係は、賃貸や就活などにおいて契約ができなくなること。明確な理由を伝えられずに断られる場合は、デジタルタトゥーが起因している可能性があります。

もう一つは、家族や交際相手、勤務先などの人間関係の問題。自分に前科があることが広まると、交際相手の親から結婚を反対されたり、勤務先から退職を勧告されたりすることがあります。もしかすると、自分の子どもがいじめられることもあるかもしれません。

デジタルタトゥーは、本人だけでなく周囲の人にも迷惑がかかるもの。こうした不利益を被らないためにも、適切な対処を心がけましょう。

もしもデジタルタトゥーが残った際、自分で消そうとしてもいいのか?

――そもそもデジタルタトゥーは、弁護士など専門家でないと消せないのでしょうか?

自分でできるケースもありますが、専門家に相談するほうが安全です。やはり専門家でないと、交渉相手の選定と適切な交渉をするのが難しいので。

たとえば、ある掲示板で自分の個人情報が投稿された場合、その掲示板の投稿に関わる人物としては以下の4人が挙げられます。

①レンタルサーバーの運営者
②レンタルサーバーを使い、レンタル掲示板サービスを運営している者
③レンタル掲示板サービスを使い、1つのスレッド(※)を立てた者
④当該掲示板で、個人情報を投稿した者

※ネット掲示板において、特定の掲題のもとに設置された単位ページのこと

ネット掲示板で個人情報が投稿された際、削除できる4人

削除パスワードが設定されている掲示板の場合、この4人全員が個人情報を消すことができます。じゃあこの場合、いったい誰と交渉すればいいのか、という課題が常に発生するんです。

こうしたネット特有の構造は一般にはわかりづらくて、適切な交渉相手を選べないケースが多いんです。安直に④の個人情報を投稿した者と交渉しようとして、当該掲示板に書き込みをしてしまうと、再炎上するリスクも大いにあります。それに、適切な交渉相手を選んだとしても、しっかりと法的な論拠を示して交渉するのは難しいもの。

これらの理由からデジタルタトゥーを消す際には、専門家に依頼するのがベターと言えます。

――なるほど。では、SNSでの悪ふざけの投稿が炎上した際でも、炎上をおさめるために何らかの弁明をしないほうがいいのでしょうか?

そうですね。下手に弁明をすると、さらに炎上する可能性が高いので、おすすめできません。そもそもネットの特性上、一人対多数になりやすいので、圧倒的に不利なんですよ。たとえ弁明する正当な理由があったとしても、余計な一言から揚げ足を取られてしまうケースもあります。

だから、もしも炎上してしまった場合は、速やかに炎上の投稿を削除、あるいは、アカウントごと削除して静観するのがまだ安全と言えます。もしも何らかの弁明が必要な場合は、専門家に相談したほうがよいでしょう。

学校行事や制服に関する情報を上げてはいけない? デジタルタトゥーを防ぐルール

――現在の中高生はネットが身近にあり、顔出しでの投稿もよく見かけます。セキュリティの観点から危険性があるように思いますが、こうした状況を専門家の立場からどう捉えていますか?

これは各家庭で自己決定を何歳からするか、という話だと思うんですよね。たとえば、子ども向けのネットリテラシーでは、以下のようなことがよく言われます。

<子ども向けのネットリテラシーでよく言われること>
・何が嫌いかではなく何が好きかで自分を語ろう
・嫌な思いをする人がいることを発言しない
・具体的な個人名を出さない
・ネットで知り合った人に会わない
・なるべく匿名空間に身を置こう
・多くの人間の行動にならおう

確かにこれらを心がけていれば、安全にネットを使えるかもしれません。一方で、私たちは批判すべきものを批判することで、社会を維持・発展させてきました。加えて、ネットはさまざまな出会いがあったり、学びを得られたりする場所です。

よく言われるネットリテラシーに完全に従うと、批判すべきものであっても一切批判できず、人間関係を広がりません。その結果、社会への貢献もできず、ネットの良さも損なわれてしまうと思うんです。

だからこそ、どこかの段階でネットの使い方を変えていく必要がある。ネットリテラシーがまだ身についていない12歳くらいまでは安全なやり方で使うようにし、18歳くらいからは自由にしていいなど、各家庭で話し合いをするとよいでしょう。

――いろんな方針の家庭があると思うのですが、具体的にどんなことを話し合うとよいでしょうか?

最初に話し合ったほうがいいのは、「出してはいけない情報が何か?」。普段匿名でネットを使っている人が事件などを起こした際に、名前や勤務先などが特定されるケースがあります。そういう人たちの共通点は、出してはいけない情報を出してしまっていること。

たとえば、家の近くにあった面白おかしい建物を撮って、SNSに写真を上げること。一見問題なさそうに思えますが、この写真によってどのあたりに住んでいるのかが特定されることがあるんです。

だからこそ、出してはいけない情報を明確しなければならない。特に中高生の場合は、顔・名前・学校に紐づく情報は出さないようにしましょう。

<中高生がネットへの投稿を控えたほうがいい情報>
●学校に関する情報
運動会や文化祭などの学校行事のほか、「平日に友達と遊園地に行った」という情報から創立記念日が割り出されて、学校が特定されるケースも。同様の理由から、制服の写真も映さないほうがよいでしょう

●現在地に関する情報
カフェや観光地にいることをリアルタイムで発信すると、現在地が特定されてトラブルに巻き込まれる可能性も。もしも投稿するなら、その場所を離れた後か翌日以降がベター

●家の周辺に関する情報
自分の家の近くで火事が起きた、面白い建物があったなどの情報から、家が特定される可能性があります

――子どもはもちろん、保護者でもこうしたネットリテラシーを完璧に身につけるのは難しいと思います。ネットリテラシーを学ぶために、何か参考になるものはありますか?

やはり過去のネット上のトラブル事例などから学ぶのがベストでしょう。総務省や内閣サイバーセキュリティセンターなどでは、ネット上のトラブル事例をまとめたページがあります。こうしたページを見ながら、各家庭で話し合うとよいでしょう。

▼インターネットトラブル事例集(総務省)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/jireishu.html

▼インターネットの安全・安心ハンドブック(内閣サイバーセキュリティセンター)
https://www.nisc.go.jp/security-site/handbook/index.html

▼スマホ・ケータイファミリーガイド on WEB(au by KDDI)
https://www.kddi.com/family/index.html

――最後にネットが身近にある若者や保護者に対して、メッセージをお願いいたします。

私自身、18歳の時にネットでの出会いがきっかけでIT業界に入りました。その経験があったからこそ、いまはIT・ビジネスに強い弁護士として活躍できています。もしもネットでの出会いがなければ、18歳をふらふらと過ごし、いまの仕事にも就けなかったかもしれません。

その意味で、ネットは有効に活用できれば、とても良いツールになります。特に地方在住などで狭い人間関係の中で過ごしている人にとって、ネットを通して世界中の人々とつながれるのはとても有意義なことでしょう。

一方でデジタルタトゥーをはじめ、ネットには負の側面もあります。本来的に人間は失敗を繰り返し、成長していく生き物です。ただ、デジタルタトゥーは何らかの失敗、あるいは、失敗ですらない出来事が一生の傷として残ってしまう。だからこそ、ある一定の段階までは保護者としっかり話し合い、失敗を防ぐためのルールを設けたほうがいいでしょう。

情報流通の速度とアクセスのしやすさが高まった現在、デジタルタトゥーは今後ますます大きな社会問題になるでしょう。些細な「若気の至り」が大きな傷にならないよう、注意しながらネットを使っていただければと思います。

(企画・取材・執筆:野阪拓海/ノオト 編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材先

河瀬 季さん

弁護士法人モノリス法律事務所代表弁護士。東京大学法科大学院卒業。イースター株式会社代表取締役。株式会社KPIソリューションズ監査役。株式会社BearTail最高法務責任者。東証一部上場企業からシードステージのベンチャーまで、IT企業を中心に約120社の顧問弁護士(役員、執行役員)を務める。「元ITエンジニアで企業経営経験のある弁護士」として、法律関連記事の執筆や講演活動等も行う。JAPAN MENSA会員。

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2021年10月4日)に掲載されたものです。

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