
中高生で不登校を経験した生徒が、高校時代までの「学校」や「クラス」「教室」といった画一的な環境とは異なる学びの場に期待をして大学に進学、しかし再び不登校になるケースが少なくありません。
文部科学省の「令和6年度 学生の中途退学者・休学者数の調査結果について」によれば、全国の大学・短期大学、大学院、高等専門学校の学生のうち、中退した人の割合は2.10%、休学者の割合は2.95%となっています。
不登校になる背景はさまざまですが、大学生の場合、中高生までの不登校とはどのような違いがあるのでしょうか。また、大学では不登校の学生に対してどのようなサポートが受けられるのでしょうか。
今回は、AIを使った中退防止施策を研究する、東京都市大学の白鳥成彦教授にお話を伺いました。
大学によっては10人に1人以上の中退率も……
—— 大学生の中退率は現在2%ほどとなっていますが、これは多いと見ていいのでしょうか。背後には不登校になっている中退予備軍の学生がいるわけですよね。
白鳥先生:短期大学や高等専門学校、大学院を含む大学等の中退率2.10%という数字はあくまでも全体の平均値となり、大学によっては10〜15%、また30%が中退する大学もあります。そのため、不登校の対策を重視する大学も増えてきているのです。傾向としては、国立よりも私立、さらに入試難易度の低い大学のほうが中退率が高くなっています。ひと昔前のように、一部の研究を深めたい人が入るのが大学ではなく、現在は大学進学が一般化しています。「近いから」「友達が行くから」「入りやすいから」と選んで入学した人が、学業についていけなくなってしまうケースも多く見られます。
—— 不登校や中退の要因にはどのようなものがあるのでしょうか。
白鳥先生:文部科学省の令和6年度の調査結果では、中途退学の理由で最も多いのが「転学・進路変更等」で22.3%となっています。次いで「学生生活不適応・修学意欲低下」が16.3%、「就職・起業等」が14.8%、「経済的困窮」が13.2%となります。転学・進路変更といってもその先でまた通えなくなる人も多くいます。
—— 学生生活不適応と近い理由で、通っている大学が合わないと感じて進路変更をする人もいるわけですね。中高生までよりも大学で増えるのが、経済的困窮でしょうか。
白鳥先生:アルバイトを頑張りすぎて講義に出られなくなってしまったり、奨学金を受けても親に使い込まれてしまったりして、中退してしまう学生もいます。
中途退学の理由
転学・進路変更等(22.3%)
学生生活不適応・修学意欲低下(16.3%)
就職・起業等(14.8%)
経済的困窮(13.2%)
—— コロナ禍で不登校が増えたという話も聞きますが、実際はどうだったのでしょう。
白鳥先生:確かに、授業がオンラインになり、サークルにも参加できず、物理的なコミュニケーションがない中で、大学によっては不登校が倍増したところもあります。しかし、現在はその揺り戻し(戻る動き)も見られ、リアルの講義を求める学生や、オンラインとリアルのハイブリッドで自分に合った時間割を作れる学生も増えている印象です。コロナ禍をきっかけに、多様な学生に対してよりパーソナライズしやすい環境ができたとも言えます。ただこちらも、大学によると思います。
—— 大学の不登校率に関しては、調査がまだあまり進んでいないのでしょうか。
白鳥先生:そうですね。今までは不登校になった学生をケアする必要があまりなかったのです。サポートがなくても毎年大勢の学生が入学してきますし、教員は恵まれた環境で育った人が多く、中退する学生がどのような環境にいるのかよくわかっていない。大卒と高卒では生涯年収が大きく異なるとされている中で、やめる理由がわからなかったのです。また、「うちの大学の中退率はこれくらいです」「不登校の学生が何%います」というデータは公表してもネガティブキャンペーンにしかなりません。しかし、現在は少子化の中で多様な学生を受け入れなければならない時代なので、そうも言ってはいられなくなっています。
—— データは公表されていなくても、中退対策を充実させている大学が増えてきているのですね。

通信制高校出身者と中退の関係は?
—— 白鳥先生は研究の中で、中退の可能性が高くなる学生についてデータ分析をされているのですよね。
白鳥先生:はい。高校のタイプや高校での欠席日数などから中退の可能性が高い学生を予測しています。中退の可能性が高くなるファクターのひとつには、通信制高校出身や、高校での出席日数が少なかった人が挙げられます。また、親が大学に進学しておらず、家族の中で自分が最初の大学進学者となる「第一世代」であることや、経済状況が苦しい家庭の学生も、中退率が高くなるという相関関係が見られます。
—— 通信制高校出身の学生は中退率が高いのですね。現在、高校生の10人に1人が通信制高校に通っていますので、そこから大学へ進学する人も当然増えていますよね。
白鳥先生:因果関係ではなくあくまでも相関関係ですが、ファクターのひとつではあります。高校時代は自分のペースで通学できていたところ、大学では毎日授業に行かなくてはならず、それが困難となり中退してしまうケースがよく見られます。ここ数年で通信制高校出身の学生は増えていますので、大学も多様な学び方をしてきた学生に対応していく必要がありますね。
中退リスク要因
通信制高校出身
高校での欠席日数が多い
第一世代大学生(家族で初めて大学に進学するケース)
経済的困難
—— 大学入学後、不登校になり始める時期に傾向はあるのでしょうか。
白鳥先生:不登校になるタイミングとして最も多いのが、大学1年生の春学期、ゴールデンウィークの前までとなります。この時期に不登校になった学生のうち、後期に通学できるようになった学生は約14%とわずかです。残り86%の大半は、休学など不登校の状態が続くか、中退となります。
—— 初期の段階で、入学したけれど合わなかった、疲れてしまった、と感じてしまう人が多いのですね。出だしが肝心ということでしょうか。
白鳥先生:そうですね。春学期の後に戻ってきた14%の学生については、オンライン授業に切り替えて乗り越えた人もいます。また、友達に声をかけてもらって戻ってきた学生もいます。
—— 授業スタイルを柔軟に切り替えることができると、学生も通いやすくなりますね。
不登校が心配な場合、大学選びで確認すべきこと
—— では、大学側は不登校になった学生に対して、どのようなサポートをしているのでしょうか。
白鳥先生:大学にもよりますが、コミュニケーションを重視して伸ばすような授業や、逆にコミュニケーションが苦手な学生用の指導プランを用意していたり、またオンラインでの講義を増やしたりと、工夫しています。大学卒業に必要な単位数は124単位となりますが、これを1年目からたくさん取るのではなく、ゆっくり取得していけるようなカリキュラムを組んでいる大学もあります。
—— 通学に不安を感じたときに、相談に乗ってもらえるのでしょうか。
白鳥先生:カウンセラーを配置している大学がほとんどですし、自分に合った授業の組み方から相談に乗ってくれる大学も多いです。通信制高校に指定校推薦枠を設けている大学もありますし、多様な学生を受け入れる環境を整えているところが増えていますよ。
—— 不登校の不安を抱えながら大学進学を考えている高校生の場合、進学先を検討するときにどういったポイントを確認すればよいのでしょうか。
白鳥先生:オープンキャンパスに行くことが大切です。キャンパスツアーや模擬授業、在学生との交流会などを実施していますが、そのときに安心して通えると感じるかどうかがポイントですね。不安がある人は、どういったケアが受けられるのか個別相談で聞いてみてください。そこで安心できる答えがもらえるかどうかも、選択の材料になると思います。
—— 事前に大学の雰囲気やサポート内容を知っておくことは大切ですね。
白鳥先生:いきなり大学生になるのではなく、入学前のオープンキャンパスなどに何度か足を運んで、準備期間をとっておくと安心だと思います。不安に思うことを質問しても、それが入試結果を左右することはありませんので、事前にしっかり聞いておくとよいですね。
大学のサポート体制
授業プラン
オンライン講義の有無
ゆるやかな単位取得設計の可否
カウンセラーの配置 など
※大学によって異なるため、事前に比較しておくことが大切です。
—— 大学は通うのもやめるのも自己責任というイメージもありますが、今は手厚くサポートしてくれる大学も増えているのですね。
白鳥先生:「18歳になったら」「高校を卒業したらもう大人」で、自立しなければいけないと考える人も多いのですが、誰もがいきなり18歳から大人になれるわけではないですよね。私たち大人も、「今日まで子どもでしたが、明日から大人です」と言われて大人になったわけではありません。また、大人も転職したり子どもができたり、ライフステージが変わるときには最初からすべて上手くできるわけではありませんよね。せっかく進学したのなら、一人一人のペースを大切にしながら成長し、卒業を迎えてもらうことも、大学の大切な役割だと思います。
—— ありがとうございました。
取材協力

白鳥成彦先生
東京都市大学 共通教育部 教授、教育開発機構 教学アセスメント・IRセンター センター長。 東京工業大学 環境・社会理工学院修了、博士(工学)。 嘉悦大学を経て、2024年度より現職。高等教育機関におけるデータをもとにした、教学マネジメント、中退防止施策を研究テーマにしている。日本における競争的資金として、「中退防止施策の介入効果を把握する中退予測モデルの開発」等を活用して研究を進め、大学における中退がなぜ起き、どのように防止できるのかを考え、IR施策、中退防止施策の実践を行っている。
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。




