
お子さんが学校に通いづらくなったとき、選べる学びの場は少しずつ増えています。
そのひとつに「学びの多様化学校」があります。
これは児童生徒それぞれの実態に配慮して、文部科学省(以下、文科省)が定めている学習指導要領を基本としながらも、「特別の教育課程」を編成できる学校です。
前身は2005年から設置された「不登校特例校」で、2023年に現在の名称に変わり、2026年4月時点では全国に84校になりました。文科省は、将来的には全国に300校設けることを目標としています。
昨今では、不登校の児童生徒が増加するとともに、学びの場も多様化が進んでいます。学びの多様化学校は、学校教育法第1条に定められた正式な「一条校」で、文部科学大臣の指定を受けています。小・中・高校それぞれで、卒業資格を取得できます。そのほかにも、一条校ではないフリースクールやオルタナティブスクールなども、学びの場の選択肢として注目度が高まっています。
こうした多様な学びの場が増えていく中で、最近では旧来の学校のあり方を見直すべきだという声も、増えてきています。そもそも、学校が多様な子どもたちにとって安心して学べる場所なら、これほど不登校は増えないのではないか、という意見もあります。
そこで今回は、これからの学校教育はどうあるべきなのか、学びの多様化学校の実践から考えてみたいと思います。
お話を伺ったのは、基礎教育保障学会の岡田敏之(おかだ・としゆき)会長です。学びの多様化学校で校長を経験し、現在は文科省の「学びの多様化学校マイスター」としても全国各地で講演や自治体への助言を行っています。ご自身の経験も踏まえて、これまでに見えてきた学校教育全体の課題について、お聞きしました。
授業時数も評価も違う?学びの多様化学校の中身
—— まず、学びの多様化学校は他の学校とどう違うのか、教育内容を教えてください。
一般的な学校では文科省が定めた学習指導要領に則って教育を実施します。学習指導要領では各教科の指導内容や標準授業時数などが定められていますが、学びの多様化学校では、学習指導要領を基本としていますが、不登校児童生徒の実態に配慮した「特別の教育課程」を編成することが認められています。そのため、児童生徒一人ひとりの学習状況や、興味・関心、抱えている課題などに応じて、学習内容や授業の進め方、時間の配分などを工夫し、より柔軟な教育を行うことができます。
たとえば、中学校の授業時数は年間で1015時間と定められていますが、学びの多様化学校では年間770時間程度に減らすこともできます。また、独自の教科を設定することも可能です。
こうした一人ひとりのニーズに応じた学習内容に加え、生徒指導上においても生徒に寄り添って丁寧にサポートをしています。
—— 一人ひとりのニーズに合わせるということは、クラス全員で一斉に同じ授業を受けるわけではないということですか?
不登校による学習の空白はそれぞれに異なるので、一斉授業はなじみません。ですから、学校によっても授業の方法は異なりますが、たとえば、基礎的な部分だけは一斉授業で行い、それ以外はそれぞれの進度に応じて学習するなどの形をとっている学校もあります。また、常に教室にいて授業を受けるだけでなく、カードゲームができるようなフリースペースや、読書スペースなどが用意されていて、教室に入らずに過ごせる学校もあります。重視されているのは、学習させることではなく、居場所をつくり学習意欲を引き出すことです。
—— では、定期テストを受けたり宿題を提出したりして、その結果に応じて内申点をつけるといったこともないのですか?
テストや宿題も学校によってまちまちですが、私の知る限りでは、数字による評定をつけている学校はほとんどなく、基本的には文章評価で通知表を渡しています。ただ、高校などへ進学する際には内申点が必要になることが多いため、入試にあたっては、数字での評価が必要になってきます。高校入試については、内申点ありきではなく、また、学びの多様化学校だからといって特別扱いするのでもなく、中学校での成長や高校での学びへの意欲なども含め、不登校経験のある生徒の多様な学びを適切に評価する仕組みづくりを、今後行っていただきたいと思っています。
—— 不登校の児童生徒の学びの場所には、ほかにフリースクールやオルタナティブスクールなどもあります。学びの多様化学校は「学校」に通いたいという子どもたちが通っているのでしょうか。
学校に「通いたい」と思っている子どももいるでしょうし、「通わなければならない」と強迫観念に駆られている子どももいるでしょう。そして、保護者は「通ってほしい」と思っています。
不登校の児童生徒も状況はさまざまで、どのような場所で居心地よく過ごせるかは人によって異なります。学習できることを重視するか、居場所として過ごせることを重視するかも異なるので、さまざまな選択肢のひとつとして学びの多様化学校が存在します。
この学校を選ぶ児童生徒は、勉強のことを考えずに、居場所として通える場所を求めているケースもあれば、安心して学びたいという思いがあるケースもあります。ただ、学校に通おうとして傷ついてきた子どもたちがほとんどなので、学びの多様化学校では「学校らしくない学校」を目指しているところも少なくありません。
—— 教室の中で決められたとおりの授業を一斉に受け、常に評価を気にしなければならない環境が、子どもを追い詰めることもあります。そうした面は取り除かれているのですね。

先生を選べる学校も?生徒との距離を縮める工夫
—— 教員の児童生徒への関わり方も、工夫されているのでしょうか。
学びの多様化学校の教職員は、高圧的な指導や大声での叱責などは決して行うことなく、一人ひとりの多様な児童生徒に寄り添いながら、そのニーズに応じた支援をされています。生徒と教員との距離を縮めるために、たとえば、現在アドバイザーとして関わっている三重県立みえ四葉ヶ咲(よつばがさき)中学校では、互いにニックネームで呼び合ったり、決まっている担任とは別に、「マイコーチ」として生徒自身が話しやすい教員を選ぶことができたりします。マイコーチは管理職や常勤教諭であれば、誰でも指名できます。岐阜市立草潤(そうじゅん)中学校のように、生徒が担任の先生を選べる学校もあります。
—— 一般的な学校では、先生との相性が良くなかったり、困ったときに先生に相談しづらかったりすることも、不登校の背景にはあるかもしれませんね。信頼できる先生に寄り添ってもらえる仕組みがあると、安心できそうです。
各自治体には、教育委員会が設置・運営する「教育支援センター」という機関があります。不登校の児童生徒を対象に、学校生活への復帰や社会的自立を目的に学習支援や居場所づくりを行う機関ですが、以前は「適応指導教室」という名称でした。この名称からもわかるように、これまでは児童生徒を「学校の枠組みに適応させる」ことが重視されてきました。しかし、現在では、学校に児童生徒が合わせるのではなく、児童生徒に学校が合わせるという考え方が必要になってきています。それを先進的に実践しているのが、学びの多様化学校だと言えます。
—— 不登校を経験した児童生徒には、メンタル面のサポートも必要かと思います。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど、相談できる専門家はいるのでしょうか。
自治体の財政状況などにもよりますが、通常の学校よりも手厚く配置されている傾向にあります。毎日スクールカウンセラーが来ている学校もあります。学びの多様化学校での児童生徒の出席率は、学校や時期によっても異なりますが、私の知る限りでは多くは約8〜9割となっています。不登校を経験した子どもたちが集まる学校で、この出席率はかなり高い割合だと思います。
—— 同じ「学校」であっても、指導方法や先生たちとの関わり方の違いで、通いやすさが大きく変わるのですね。
これからの学校は、何を変えればいいのか?
—— 学びの多様化学校が増えさえすればいいというわけではありませんよね。既存の学校のシステムが子どもたちになじまなくなってきていることも、不登校の増加の背景にあるのではないでしょうか。
文科省は、学びの多様化学校を将来的に300校にすることを目標にしています。これは、通学を希望するすべての児童生徒が、居住地によらずアクセスできるようにすることが目標であり、子どもたちの選択肢が増えるという点では非常に望ましいことだと思います。しかし、ここで、ひとつの懸念が浮かんできます。
「特別な子ども」を「特別な学校」に振り分けるような発想が広がれば、「学びの多様化学校」と「通常の学校」との間に不要な線引きが生じ、「通常の学校」で認められる「当たり前」の範囲がますます狭まり、結果として学校に通いづらさを感じる子どもをさらに増やしてしまうおそれがあります。そうではなく、どの子にとっても安心して学べるようにするためには、多様性を受け入れ、一人ひとりの学びを保障する風土を通常の学校にも創っていく必要があります。
—— 学びの多様化学校での実践を踏まえて、学校全体は具体的にどのように変わっていくべきだと思いますか?
「授業のあり方」や「子どもへの関わり方」を、学びの多様化学校のノウハウから取り入れてもらうことが必要です。また、不登校や不登校傾向にある子どもたちの実態をよく理解することも大切です。
たとえば、みえ四葉ヶ咲中学校で生徒たちの「学びのアセスメント」で認知特性の優位性や思考スタイルの機能を調査したところ、全体の傾向として、情報のアウトプットの方法としては「話すことが得意」で、思考スタイルでは言われたことを守るよりも自らアイデアを出す「立案型」が大半でした。また一人で考えるよりも誰かと一緒に思考する「共同型」のほうが多いという結果になりました。
不登校の子どもに対して、おとなしくて話すのが苦手、周りの人と一緒に何かをするのが苦手、といったイメージを持っている人も多いと思いますが、実は違ったのです。
—— 本来は自ら考えて発言したり、積極的に行動したり、周りの子たちと協力したりしたい子どもたちが、学校の中で縮こまってしまうことがあるのかもしれません。そうさせない環境づくりが必要ということですよね。
現在の一般的な学校では同調性を重んじるあまりに、個性が発揮しづらくなっている面があります。これを改善するのであれば、画一的な一斉授業をやめることも考えなくてはなりません。
今は、ICTを使ってそれぞれの児童生徒に応じた課題を設定したり、プリントを用意したりすることも簡単になってきています。
現在、次期学習指導要領の改訂に向けた議論が進んでいますが、今回は、年間の総授業時数を維持したまま、小中学校の判断で各教科等の標準授業時数をある程度減らし、柔軟に教育課程を編成できるようにする「調整授業時数制度」等も盛り込まれています。「多様性の包摂」も大きな柱のひとつです。
—— 個性の強い子を横並びに矯正していくのではなく、そのまま受け止める環境にするため、一律の縛りを緩めるということですね。
学びの多様化学校は、京都市立洛友中学校やみえ四葉ヶ咲中学校、香川県三豊市立高瀬中学校のように、夜間中学校に併設されているケースもあります。夜間中学校には10代から80代まで、さまざまな背景を持った生徒が集まります。国籍も多様で、障害のある人もいます。そうした学校では、いろいろな人がいるのが当たり前という前提で、生徒たちはコミュニケーションを楽しみながら学んでいます。自分自身の学びを誰かと比較したり、競争したりする必要もありません。その状況こそ、インクルーシブ(多様性を包摂する)教育なのだと思います。
—— 学校全体を大きく変えていくとなると、先生たちの負担も大きくなるのではないでしょうか。
既存の学校に慣れてしまった先生たちの考え方を変えることが一番難しいのではないかと思います。子どもたちが学校に合わせようとしてくれることに甘んじていると、苦労するでしょうね。しかし、どれだけ学習指導要領を変えても、指導する先生たちが変わらなければ意味がありません。そのためには、学校に任せきらず教育委員会がしっかり主導していくことも大切ですし、大学等での教職課程や教員採用試験の見直しも必要です。
—— 一斉授業によってできるだけみんなにいい点数をとってもらう、つまり受験に勝てることをよしとする考え方が根底にあるかと思います。そうなると、入試改革も必要になるのではないでしょうか。
本来ならそうです。現状、高校入試や大学入試は大きなネックになっていると思います。入試があるから、合格圏内に入れるように指導しなくてはならない。でも不登校になって学習空白ができると、それも厳しくなってくる。そこで大人たちは頭を悩ませるわけですが、先生方は焦らず、児童生徒が希望の学校に進学できなかったとしても、それ以上に「学ぶことが楽しい」と思えることが大切であると理解してもらえるよう、自分たち自身も意識を変えなくてはなりません。「学ぶことが楽しい」と思えたとき、また「今の学びが将来にどうつながるのか」を理解したときに、子どもは主体的に学びます。
—— 形式を変えることよりも、先生たちが本来の学校のあるべき姿をとらえ直していくことが、学校を変える近道になるのかもしれませんね。
多様な学びの場ができている昨今では、旧来の学校になじめた子、学力競争に勝てた子だけが将来幸せになれるわけではないということは、すでにわかってきていることだと思います。今後は、不登校の子どもたちを「学校になじめるように指導する」のではなく、学校側が多様性を尊重し、協働的な学びや個別最適な学びの場を提供していく方向へ、変えていければと願っています。その新しい教育の「実践拠点」が、学びの多様化学校だと思います。
—— ありがとうございました。
取材協力

岡田敏之氏
基礎教育保障学会会長。中学校教諭を経て2012年に京都市立洛友中学校校長に就任。2015年、京都教育大学教授に就任。以降、複数の大学等で教員養成や生徒指導等の研究に取り組む。現在は文部科学省・学びの多様化学校マイスター、学びの多様化学校全国研究協議会,顧問なども務める。
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。



