
ここ数年、「ルッキズム」という言葉をよく耳にします。ルッキズムとはもともと、数十年前にアメリカで作られた造語で、外見差別をなくす運動の中で生まれた、「look(外見)」と「ism(主義)」を組み合わせた言葉だと言われています。すなわち、人を外見で判断したり、差別したりすることを指します。
株式会社博報堂が「博報堂 Woman Wellness Program」において、日本国内に住む15〜74歳の女性1034名を対象に2025年に実施した「女性の外見とのつきあい方とルッキズムに関する意識調査」では、この「ルッキズム」という言葉を知っている女性は全体で51.3%でしたが、10〜20代においては67.5%と、若い人ほど認知度が高い結果となっています。
SNS が普及した今では、自分の写真を投稿したり、他者の見た目を評価したり、また他者からの評価を目にする機会も増えています。そんな中で、「外見を評価される」ことに不安を感じ、自己評価を下げてしまう10代も少なくありません。中には気にしすぎるあまり、鬱状態や摂食障害になってしまったり、学校に行けなくなったりするケースもあります。
上記の調査では、「以前より、人間の見た目の良さや美しさが重視される傾向が強まっている」と感じる10代女性の割合は70.2%と高く、社会の風潮によって不安感が加速しているのかもしれません。
では、今の10代はそうした不安にどう対応していけばよいのでしょうか。また周囲の大人はどのようにサポートできるのでしょうか。
今回は、ルッキズムからくる困難の現状や、その解消に向けてのヒントを、東京未来大学こども心理学部で講師を務める大村美菜子先生にお話を伺いました。
なぜSNSはルッキズム不安を大きくしてしまうのか
—— まず、外見が重視されるのはここ最近の風潮なのでしょうか。
大村先生:いいえ、外見至上主義自体は以前から世の中にあります。私自身は容姿とメンタルヘルスについて20年ほど前から研究していますが、もちろんその頃からテレビ、広告、雑誌などメディアの影響もあり、容姿を重視する社会的傾向はありました。ただ、ここ数年でより強くなってきていて、それが社会問題化されてきているのです。
—— それはやはり、SNSによる影響が大きいのでしょうか。
大村先生:そうですね。SNS上で容姿について批判されている人を見たり、自分自身が批判されたりする中で、悩んだり傷ついたりする人が増えています。たとえば、ふくよかな人と痩(や)せている人が並んでいる写真に「公開処刑」という言葉を投げかけるなど、面と向かっては言えなくてもSNS上なら深く考えずにコメントしてしまう人が多くいます。こうした言葉を見て、「痩せていないとだめなんだ」と圧力を感じる若者は多いと思います。
—— ルッキズムをもとにした批判に日々触れてしまうことで、自分に自信が持てなくなってしまうのですね。最近の若者が繊細になっている、あるいは自己肯定観が低いなどと言う人もいますが、そうさせている環境があるわけですよね。
大村先生:当然、大人がそのような社会を作っているからだと言えます。もともと思春期にあたる中高生くらいの年齢は過敏で、人の評価に流されやすい傾向があります。人が一生の間で最も自尊感情が低くなるのが思春期だという研究結果もあります。10代は「自分は何者か」というアイデンティティを形成していく発達段階にあり、自分の良いところ、得意なところは何かがまだハッキリとわからない時期です。だからこそ自分に自信が持てなかったり、人間関係がうまくいかないときに「容姿に起因しているのでは」と思ってしまったりすることが多々あるのです。そこにSNSが普及したことで、より劣等感を抱きやすい環境ができてしまったわけです。
SNSによって不安が強まる要因
自分の写真を簡単に投稿できる
他者の見た目を評価する投稿を目にする
他人からの評価を日常的に目にする
—— SNSに加えて、美容整形が身近になってきたことも関係しているのでしょうか。
大村先生:SNSでは画像を加工して投稿する人も多いですが、実際の容姿ではないので、そのギャップに落ち込む人も多くいます。そこに美容医療の情報もたくさん流れてきて、気軽に美容整形ができるように感じてしまいます。「このギャップを埋めるために自分もやってみよう」と一歩を踏み出してみると、今度はここも気になる、とエスカレートしてしまうケースもありますね。
—— コロナ禍でマスク生活になって以降、他人に顔を見せることに抵抗を感じて、今でもマスクを外せなくなっている10代もいます。こうした子もルッキズムの影響を受けていると言えますか。
大村先生:根本は同じですね。マスク姿で外出する若者たちは、コロナ禍前から「マスク依存」などといった言葉で話題になっていました。自信がない容姿を隠せたり、人と話すときにマスクがあることで心理的なバリアを張れるような感覚になれたり、マスクをすれば目を大きく見せられると感じるなど、さまざまな理由でマスクを外せない子がいましたが、コロナ禍以降にマスクが外せなくなった若者たちも、同じ状態だと思います。
—— 一度マスク生活を送ってしまったことで、外見に関するコンプレックスや不安が大きくなってしまった人もいそうですね。
大村先生:ただ、進学など環境が変わるタイミングで、突然外せるようになる人も多いですけどね。

日常生活に支障を来たす「身体醜形症」になることも
—— 容姿を気にしすぎることで、日常生活や体調に悪影響を及ぼしてしまうケースもありますよね。
大村先生:容姿へのこだわりが強い傾向を「醜形恐怖心性」と言います。これはあくまでも健常者における容姿へのこだわりですが、さらに強くなると、「身体醜形(しんたいしゅうけい)症」という病気になってしまうことがあります。鏡を見るのをやめられず学校に行けなくなる、容姿のことで悩んで眠れなくなるなど、日常生活や健康に困難を生じるような症状が出てしまいます。身体醜形症は強迫症のひとつで、手を洗ってもまだ汚れているような気がして何度も洗ってしまうのと同じように、自分の顔が醜いのではないかと追い詰められていくわけです。
容姿への不安が強くなったときに起こりうること
鬱状態になる
摂食障害につながる
鏡を見るのをやめられなくなる
眠れなくなる
学校に行けなくなる
—— ルッキズムの影響を受けすぎるとそうなるのでしょうか。
大村先生:生活や心身に影響を及ぼしていくかどうかは、本人の特性も影響しています。まじめな人や、完璧主義の人などはその傾向が強くなりますし、家庭環境も関係してきます。過去に友達に言われた言葉で傷ついたことがきっかけで、身体醜形症になってしまう人もいます。
—— 摂食障害とも関連性はありますか。
大村先生:はい。まず世の中にはダイエット情報が溢れていて、細い体型のほうがいいという価値観が蔓延していますよね。SNSでも「細い体を作る方法は?」といった投稿が溢れていますが、それらを数回見ると、アルゴリズムによって関連する情報ばかりが流れてきます。これによって、「もっと痩せないといけないんだ」「自分はまだ太っている」と思い込み、摂食障害になっていくケースもあります。
—— 10代だけでなく、大人でも「痩せている人のほうが優れている」感覚を持っている人は多いですよね。そうした大人たちの感覚に、思春期の子どもたちが振り回されているわけですね。
「もし友達だったら?」と第三者目線で考えてみよう
—— では、ルッキズムに過敏にならず、不安感から脱却するにはどうしたらよいのでしょうか。
大村先生:思春期の子どもはそもそも、容姿に限らず、勉強の成績や人とのコミュニケーションなど、さまざまな面で人からの評価が気になってしまう時期です。アイデンティティを見つけていく時期なので、まだ自分の得意なことや良いところもわからず、自信が持てないのは当然。まずはそれを理解しておくことが大切だと思います。そして、大人になる過程で、その不安や悩みは軽減されていくことも、知っておいてほしいです。
—— 自分だけではなく、同年代の子たちもみんな同じように不安だということですね。
大村先生:はい。自分に自信が持てず、他者からの評価が気になる年代なのです。そのうえで、自分に自信がないと感じたときに、その原因を容姿だけに結びつけてしまっていないか、少し客観的に考えてみるとよいと思います。「友達が同じ悩みを持っていたらどう声をかけてあげる?」と考えてみると、違う視点が見えてくるのではないでしょうか。
—— 友達にかけるような言葉を、自分にかけてあげるのですね。
大村先生:また、自分の得意なことをする時間をもう少し増やしてみるのもよいですね。容姿に限らず、自分のここがいいなと思えることを自分自身でほめてあげることも、続けていくと不安を和らげてくれます。ただ、自分の長所を把握できている人や、簡単に長所を伸ばせる人は多くはありませんよね。その場合は、好きなことや趣味に時間を割いてみてほしいです。
SNSを使う時間が長い人ほど、容姿にこだわりが強い傾向があるという研究結果もありますので、SNSではなく別のことに時間を使ってみてください。
—— と言っても、SNSが日常に欠かせない中高生も多いと思います。SNSを使うのであれば、容姿に関する投稿を見ないようにする工夫も必要になりそうです。
大村先生:アルゴリズムによって同じような投稿ばかりが流れてきてしまうので、それを逆手にとって、たとえばかわいい動物の画像を見るようにして、ルッキズム的な投稿は流れてこないようにするなどの工夫もよいと思います。
不安を和らげるためにできること
友達だったらどう声をかけるか考える
得意なこと・好きなことに時間を使う
自分で自分をほめる視点を持つ
SNS以外の時間を意識的に増やす
SNSで見る内容を選ぶ(動物・趣味など)
—— 子どもが容姿に執着しているように感じる場合、保護者など周りの大人はどうすればよいのでしょうか。
大村先生:たとえば、鏡の前で髪の毛ばかり気にして出かける準備が進まない様子などを見ても、「そんなの気にしないでさっさと行きなさい」と言ってしまうと、子どもは「寄り添ってもらえない」「深刻な悩みなのにわかってもらえない」と、一人で抱え込んでしまうようになります。ですから、否定せずにいったん「何が気になるの」と受け止めることが大切です。
—— 他人はそうは思わなくても「自分は醜い」と感じてしまうのが身体醜形症だということを考えると、そう感じてしまうことを頭ごなしに否定しても解決にはならないですね。
大村先生:受け止めたうえで、第三者の目線で「お母さんはもう整っていると思うよ」「お父さんはその体型がいちばんいいと思うけど」と伝えてほしいです。「〝私は〟こう思う」という言い方がポイントで、これを心理学の用語では「I(アイ)メッセージ」と言います。
—— 「お母さんはそう言うけど、私はそうは思えないの!」と反発してしまいそうですが……。
大村先生:それでも、子どもの気持ちは受け止めつつ、「私はこう思う」とIメッセージを伝え続けてください。たしかに、保護者よりも友達など同世代から言ってもらえるほうが受け入れられやすいですが、Iメッセージを伝え続けることで、第三者の視点で自分を俯瞰して見るきっかけになります。
—— 容姿を気にすることを悪いことと決めつけるのではなく、視野を広げていくサポートをしてあげられるとよいですね。ありがとうございました。
取材協力

大村美菜子先生
立正大学大学院心理学研究科博士後期課程修了後、東京都品川区教育相談員、聖路加看護大学相談室カウンセラー、目白大学助教を経て、現在は東京未来大学講師を務める。 臨床心理士、公認心理師。研究テーマは健常者における容姿へのこだわりである醜形恐怖心性。
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。




