もし学校をつくるとしたら? 型破りIT社長・家入一真の考える「教育」とは

先輩に聞く

2016/08/17

JASDAQ史上最年少上場を記録した連続起業家の家入一真氏は、元“引きこもり”という経歴で有名だ。

学校に行かなくなったのは中学2年生のとき。「行ってきます」と家を出て、そのまま家の敷地内に隠れていたという。高校も入学してすぐに行かなくなり、数年後に就職した会社も休みがちだった。

学校に、社会に“適合できなかった”。そんな家入氏が考える「教育」とは――。

――家入さんが立ち上げた多くの事業の中には、「studygift」や「リバ邸」など、子どもたちや教育に関わるプロジェクトもありますよね。

「studygiftは、学びたいけどお金がない人にクラウドファンディングで資金を集めるサービス。リバ邸は、学校でも家でも会社でもない“居場所”をつくろうと思って始めました」

▼現代の駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」
http://liverty-house.com/concept/

「僕ができることって、“選択肢のひとつを示すこと”だと思ってるんです。学費がなくて学校に通えないならこういうやり方もあるよ、どこにも居場所がないと思ってるかもしれないけどこういう場所があるよ、と。ただ、僕が示す選択肢が、その人にとっての正解かどうかはわかりません」

――結局、選ぶのは本人ですもんね。

「よく、『家入さんの本を全部読みました』『家入さんと同じように起業しました』って言って僕に会いに来てくれる人たちがいるんです。でも僕は、その人たちの人生に対して責任が取れるわけじゃない。僕はこういう生き方をしてきたけど、それが正しいかどうかは分からないですよ、っていうのが、せめてもの誠実な態度だと思っています」

――引きこもっている人の家族からも、「どうしたらいいですか?」ってよく聞かれるでしょうね。

「それもやっぱり正解はないですよね。無理やり部屋から出すのはよくないのかもしれないけど、無理やり出した結果、それをきっかけに外の世界でなんとか生きていく人もいれば、もしかしたら最悪の結果になる人もいるかもしれないし。かといって『そっとしておこう』って放置してたら、ずーっと何十年もそのままの状態が続くかもしれないし、自分で外に出てくるかもしれないし、それは分からない」

――家入さんは、何がきっかけで引きこもり状態から抜け出したのでしょうか?

「僕の場合は、母親が誘ってくれた、ある展示会がきっかけです。エレキギターで感電して17歳で亡くなった、山田かまちさんという方の個展でした。その人の絵や詩を見て、『同じ年頃の自分は一体何をやってるんだ』と。でもそれも、僕が刺激を受けたというだけで、ほかの引きこもりの方がどう思うかは分からない。だから、引きこもりの方のご家族が相談されてきたときは、『チャンスを与え続けてください』と答えるようにしています」

――「チャンスを与え続ける」。具体的にはどういうことですか?

「『こういう展示会があるよ』とか、『どこか行きたいところはある?』とか。外に連れ出すのが難しかったら『こういう本があるよ、読んでみる?』とか。何かのきっかけや刺激になるかもしれない機会を与え続けることが、まわりにできることだと思います」

――その考え方は、子どもの教育にも通じるところがありそうですね。

「そうなんです。子どもたちにいろいろな機会を与えたり、さまざまなものを見せてあげたりしてほしい。そして、いろんな人と会わせてほしい。親だって完璧な人間じゃないし、なにもかもを分かっているわけじゃない。だから、すべてを親が担当しなくたっていいと思うんです」

――具体的にはどういうことでしょうか?

「キャッチボールをするのはこの人で、絵を教えてくれるのはこの人で、一緒にごはんを食べるのはこの人で、保育園の送り迎えをしてくれるのはこの人で……と分担すればいいと思うんです。職業の話を聞けば専門的な知識を近くの大人から学べる場合もあるだろうし、単純に関わる大人がたくさんいたほうが、世の中に対していろんな見方があることに気付けます。それが、本人の視野の広さにつながるんじゃないでしょうか。昔、村のみんなで子どもを育てていたような感じをアップデートすることって、できるんじゃないかと思います」

――育てる側にとっても、複数人の大人が関わっていた方が1人の負担が少ないですし、もしものときのためのリスクヘッジにもなりそうです。

――子どもに関わる大人といえば、教師の存在が大きいと思うのですが、学校教育についてはどう思われますか?

「親と同じで、教師も完璧な存在じゃないですよね。一概にそれが悪いとは言えませんが、社会人経験なく先生になっている方も多いですし、進路について多角的にアドバイスできるかというと、ちょっと弱いかもしれない。それが駄目と言っているんじゃなくて、教師だけですべてを教えようと思わず、教えられる人、生き方を見せられる人を連れてくればいいと思うんです。親も先生にすべて任せてしまうのではなく、一緒になって教育に取り組む姿勢が大切なんじゃないでしょうか」

――ここでも「分担・分散」の概念が活きてきますね。

「もし僕が学校をつくるとしたら、学校を『いろんな人に出会える場所』にしたいですね。いろんな先生がいて、クラス分けや学年分けなんてない。そして、さまざまな職業、さまざまな生き方をしている人に話を聞くチャンスを設ける。もし、自分の将来の姿や目指すところに近いかも、っていう人に会えたら、子どもたちが自分の将来をイメージしやすくなるかと思います」

――閉鎖的なコミュニティで生きていると、「こういう人もいるんだ」「こういう生き方もあるんだ」と思うチャンスがなかなかないですもんね。いろんな大人に会うことで子どもたちの中に多様性を受け入れるベースがつくられて、柔軟性の高い成熟した社会を実現する一歩になるかもしれません。

――最後に、進路や人生に悩んでいる方にメッセージをお願いします。

「たくさんの人や物事を見て、自分の世界を広げてください。そして、自分の人生を自分で決めましょう。人生って、誰でも一冊の小説にできるくらいの内容があるんです。その本の次の1ページに何を書くか。どう描くか。それを決めるのはまわりの誰かではなく、あなた自身です」

(田島里奈/ノオト)

取材協力

家入一真

起業家。1978年福岡県出身。株式会社キメラ代表取締役CEO。JASDAQ上場企業「paperboy&co.(現GMOペパボ)」創業社長。クラウドファンディング「CAMPFIRE」代表取締役。スマートEC「BASE」共同創業取締役。カフェプロデュース・運営「partycompany Inc.」代表取締役。スタートアップベンチャー投資「partyfactory Inc.」代表取締役。モノづくり集団「Liverty」代表。現代の駆け込み寺(シェアハウス)「リバ邸」を全国に作るなど、リアルやネットを問わず、カフェやウェブサービスなど人の集まる場を創っている。50社程のスタートアップ・ベンチャー投資も行う。著書に「もっと自由に働きたい」「新装版 こんな僕でも社長になれた」「ぼくらの未来のつくりかた」など。

クラウドファンディング – CAMPFIRE(キャンプファイヤー):https://camp-fire.jp/

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2016年8月17日)に掲載されたものです。

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