
さまざまなシーンで活躍する大人たちに、過去の失敗談を伺うこの連載。今回は、2026年3月に新著『君の人生は君のもの シュレディンガーの猫が教えてくれた「思考実現の法則」』(徳間書店)が発売される、量子力学の専門家で作家のまこちんさんこと田畑誠さんにインタビュー。
大学卒業後、プロのレーサーを目指すも挫折し、その後は医療機器関連会社を立ち上げ17年間続けるも、経営が苦しくなり解散した経験を持つ田畑さん。「大きなものから小さなものまで、僕の人生は失敗の連続なんです」と言いながらも、「量子力学的に見れば、宇宙も、僕たち自身も、すべてのものが失敗から生まれているんですよ」とのこと。いったい、どういうことなのでしょうか……?
プロレーサーを目指しながらバイトに明け暮れる日々
—— 田畑さんは、どんな学生時代を送っていたのですか?
田畑さん:新刊『君の人生は君のもの』に出てくる、主人公の潤平くんみたいな学生時代でした。地元で進学校とされる公立高校で、野球部に所属していたのですが、勉強がすごくできるわけでもなく、野球部もずっと補欠で一度も公式戦に出たことはありません。クラスの中で目立つ存在でもなく、パッとしない男子でした。
—— 『君の人生は君のもの』では、そんなパッとしない高校生の潤平くんが量子力学を教えてくれる猫と出会い、人生を好転させていく物語になっています。田畑さんご自身は高校時代はまだ量子力学には出会っていないわけですね。
田畑さん:そうですね。野球部員であることを言い訳にろくに勉強もしない高校生活でした。入学時には全学年410人ほどのうち60位くらいの学力でしたが、1年生の途中からは404位になっていましたね。大学受験も3年生のときには1校も受からず、浪人して東京の塾の寮で生活しました。ところが、門限を破って寮の友達とカラオケに行くなど、そこでもちゃんと勉強をしませんでした。受験が近づいて焦ったものの、時すでに遅しで、第一志望には合格できず、志望順位の低かった九州の公立大学に行くことになりました。
—— 目標に向かって真剣に頑張る経験ができなかった学生時代だったのでしょうか。
田畑さん:あまり深く考えずに生きていましたね。でも、結果的に進学した大学では先輩や友人にも恵まれ、自分にも合っていて良かったと思います。
—— 大学時代に、プロのレーシングドライバーを目指すようになったのでしょうか。
田畑さん:弟がレースを見るのが好きで、一緒に見ていたらカッコいいなと思うようになり、最初は専門の雑誌を読みあさっていました。次第に自分でも乗りたいと思うようになって、アルバイトをしてお金を貯めて、大学3年で初めて自分でレーシングカートに乗りました。
—— レースは結構お金がかかるのではないですか?
田畑さん:マジメに車を整備しようとすると年間1000万円くらいかかるのですが、それはムリなのでタイヤや機材の交換をなるべくせず、節約しながら乗っていました。それでも400万円くらいはかかったので、アルバイトをかけもちして稼ぎましたね。レーシングカートショップでバイトをしたり、夜も深夜3時までスナックで働いたり。僕の家はお金持ちではないので当然援助はありませんでしたが、実家がお金を持っている大学生でも、やっぱり多少は自分でバイトをして稼がないと足りないんですよ。
—— 大学卒業後には、本格的にレーサーを目指し始めたのですね。
田畑さん:レースの道へ進もうと考え、就職活動はしませんでした。最初はガソリンスタンドで働いたりもしましたが、なかなかお金が稼げず、もっと稼ぐために大手運送会社で働き始めました。しかし、当時の運送会社は労働環境が過酷で、ほぼ一日中トラックに乗って過ごすんですよ。レースどころではなく、挫折してしまいました。レーサーになるには、やはりお金が必要ですし、もっと早い段階、子どものうちからレースに出て、大手自動車メーカーに目をかけてもらうなどが必要なんです。狭き門でしたね。僕は25歳くらいで諦めることになりました。
—— 最初の大きな挫折ですね。

経営者として再出発するも、17年で断念
—— レーサーを諦めた後に起業されたとのことですが、会社経営はどれくらい続けられたのでしょうか。
田畑さん:17年ほどです。貯めていたお金を元手に28歳の頃、縁あって医療機器関連の販売会社を立ち上げました。ビジネスを教えてくれる経営者や先輩のおかげもあって、調子のいいときには年商数億円を売り上げた年もありました。しかし、次第に売り上げが下がり、資金繰りが苦しくなって解散することになったんです。
—— うまくいかなかった理由は何だったのでしょう。
田畑さん:簡単に言えば、経営に向いていなかったんです。人をマネジメントすることが苦手で、組織で売り上げを伸ばしていくことに向いていませんでした。ですから、会社組織をうまく動かしている経営者のみなさんは本当に尊敬しますね。会社は好調のときもありましたが、長くは続かず、意気消沈しました。同時に取引先も離れていき、会社はあるのに仕事がない状態になっていきました。決定的だったのは、その状況を打破しようと新しい社員を一人採用したところ、その人が他の社員たちとうまくかみ合わず、既存の社員たちが離れていってしまったことでした。
—— それで会社をたたむことにしたんですね。
田畑さん:ちょうど残っている顧客を引き取ってくれる会社があったので、会社を閉じることができました。後のことはそれから考えようと思っていましたが、会社を閉じて、社長という肩書きがなくなったら、すごく解放感を感じましたね。
—— 量子力学には、会社経営をしていた頃から興味を持ち始めたのでしょうか。
田畑さん:そうです。量子力学って面白いなと思い始めてから、独学で学んでいきました。当時はそれを仕事にしようという気持ちはなかったのですが、会社を閉じると同時に〝まこちん〟のニックネームでブログを開設して、量子力学について発信し始めました。
—— その間はどのように収入を得ていたんですか?
田畑さん:会社をたたんでからは所持金が1000円を切る日もあり、派遣社員として働くことにしました。今でも覚えているのが、インターネットで「社宅 無料 派遣」と検索したんです。そこで寮のある会社で派遣社員として勤めることになりました。派遣社員として働いた2年半は、朝起きて働き、夜は帰って寝るという、とても人間らしい生活ができていました。その間も毎日ブログは書き続けていたところ、次第に読者が増えていったんです。
—— その結果、量子力学をテーマに講演したり、執筆したりすることをお仕事にされるようになったのですね。
田畑さん:はい。ホテルのラウンジやセミナールームを利用してお茶会などを開催すると、たくさんの人が来てくれるようになりました。僕の場合、もともと大学では言語学を学んでいて、理系でもなければ量子力学を専攻したわけでもなく、物理学の研究に携わった経験もありません。でも、量子力学のエッセンスをどのように人生に活かせばいいか、科学の世界と一般の人たちの生活とを結びつける翻訳者のような立場で、みなさんの役に立てるのではないかと思いました。
—— レーサーや会社経営での挫折を経て、好きなこと、やりたいことを仕事にすることができたんですね。

失敗は「最短ルート」をたどるから起こる
—— 田畑さんは今、レーサーになる夢を諦めたり、会社をたたんだりした経験を、どのようにとらえているのでしょうか。
田畑さん:新著でも触れているのですが、物理学の視点で見ると、私たちの肉体や、身の回りにある物質はすべて、量子の組み合わせでできています。量子とは、物質やエネルギーをどんどん分解していって、いちばん細かくした単位のことです。そして、量子が移動するときには、目的地が決まっていれば、そこにたどり着くまでのすべてのルートをいったんすべて網羅すると言われています。これを「量子重ね合わせ」の性質と言います。そのうえで、全ルートの中から最短のルートが選ばれて、量子は目的地にたどりつきます。これを「最短ルートの法則」と言います。人の人生もこれと同じで、失敗に見えるようなことがあっても、やりたいことにたどりつけたと感じるときには、全ルートの中から最短ルートが選ばれたに過ぎないんです。
—— つまり、紆余曲折があったとしても、実はそれが最短だったのだということですね。
田畑さん:もしかすると、目的地にたどりつくまでに迂回ルートをたどっていれば、失敗したり、つらい思いをしたりすることはないのかもしれません。でも、それだと目的地にたどり着くまでにもっと時間がかかっていたはずです。「これがやりたい」という目的地が見つかったときには、人は最短ルートの法則で、ちょっと強引に目的地まで引っ張られるからこそ、デコボコしたところにぶつかったり、険しい山道を登らされたりするのだと思うんです。
—— 失敗のように見えても、それはゴールにいち早くたどりつくために必要なルートだからなんですね。
田畑さん:そう考えて振り返ると、会社をたたむときにも、取引先が離れてしまったり、組織作りで失敗したりしなければ、経営者に向いていないのにずるずると続けてしまって、もっとたくさんの人に迷惑をかけてしまったかもしれません。いいタイミングで顧客を引き取ってくれる人が現れたのもあり、たたむことができたんです。
—— 結果的に、経営者をやめてすぐに今の生き方にたどりつけたのですから、説得力があります。
田畑さん:もうひとつ量子力学の考え方を紹介すると、私たちの目に見えているあらゆる物質や宇宙が生まれた理由は、「対称性が破れたから」と言われています。量子の状態がアンバランスになったために、余ったものが散らばって物質ができた、と解釈されているんです。つまり、新しい何かが生まれるときは、何かのバランスが崩れたときだと言えます。人の人生で言えば、何か失敗をしたとき、怒られたとき、嫌な思いをしたりさせられたりしたときに、何か新しいものが生まれるんですね。
—— 何事もなく平穏に生きていたら、新しいものは何も生まれない、と。
田畑さん:失敗したくないから一歩を踏み出せないという人も多いと思うのですが、失敗しなければ新しいものは生まれないので、ぜひ中高生のみなさんにも、失敗することなどおかまいなしに興味のあることにチャレンジしてみてほしいですね。そうすれば、結果的にちょっと痛い目を見たとしても、最短ルートの法則で目的地にたどりつくことができ、新しい世界を開くことができるはずです。
—— 量子力学を知ると、失敗という概念が前向きなものに変わりそうですね。ありがとうございました。
取材協力

田畑誠(まこちん)さん
1972年静岡県沼津市生まれ。北九州市立大学外国語学部卒業。大学卒業後、大手運送会社に勤務しながらレーシングドライバーの道を志すがうまくいかず、貯めた資金を元手に、2001年に医療機器関連の販売会社を設立。年商数億円規模の会社に成長させる。その過程で出会った「量子力学」の魅力にとりつかれ独自で研究し、実践を重ねていく。2018年から量子力学の知識と知見をベースに「宇宙一わりやすい量子論解説」をブログで発信、大人気ブログとなる。現在SNS総フォロワーは19万人超。著書に『宇宙一わかりやすい「量子力学」大全』(KADOKAWA)など。
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。




