刺激的な自己啓発書を読んだり、起業家に会ったりする前に、まず自分が何を考えているかを知ろう――今井紀明(D×P)×東出風馬(Yoki)トークイベント

先輩に聞く

2018/05/31

2018年5月19日(土)、京都・今出川で「10代から好きなことを仕事にする」をテーマに、情報端末開発事業を行う東出風馬さんと、高校生支援事業を手掛けるD×P代表の今井紀明さんのトークイベントが開催された。

参加者は約40人。中学生から社会人まで、幅広い年齢層が集まった。

起業への経緯から、会社を作って人を雇用すること、そして「働く」とはどういうことなのか。多岐に渡ったトークセッションの内容をお届けする。

●登壇者

東出風馬(ひがしで・ふうま)

株式会社Yoki 代表取締役社長。1999年、東京生まれ。2016年にTHINKERS FESテクノロジー部門優勝。同年11月にTOKYO STARTUP GATEWAYにて優秀賞を獲得。2017年2月、株式会社Yoki設立。

今井紀明(いまい・のりあき)

認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長。高校生の時、子どもたちのための医療支援NGOを設立し、当時紛争地域だったイラクへ渡航。現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後日本社会から大きなバッシングを受ける。その後、通信制高校や定時制高校の生徒が抱える課題に気づき、2012年にNPO法人D×Pを設立。

Twitter:https://twitter.com/NoriakiImai
認定NPO法人D×P:http://www.dreampossibility.com/

今井:皆さん、今日は来てくださってありがとうございます。認定NPO法人D×Pで、高校生支援をしている今井です。主に定時制高校や通信制高校の生徒たちの「人とのつながり」をつくり、仕事をつくる、就職までつなげる事業を展開しています。東出君、自己紹介をお願いします。

東出:株式会社Yoki(ヨキ)の東出です。今18歳で、慶応義塾大学のSFC(湘南藤沢キャンパス)に通っています。大学は辞めたいなと思っています……。

今井:辞めたいんだね!(笑)

東出:はい……。入学してまだ2カ月ですけど。時間をとられるし、僕がコミュニティに所属するのが苦手なこともあって。あと遅刻してしまうので。

今井:今日、このイベントは遅刻しなかったじゃん。

東出:今日はがんばって来ました(笑)。

今井:そうなんだ(笑)。では、東出君の事業を説明してください。

東出:はい。会社のミッションは、「やさしい情報端末をつくる」です。

今井:どういう意味なのか、もう少し詳しく説明してもらってもいい?

東出:これから、AIとIoTの大革命が起こります。具体的には、センサーやチップ、バッテリーの性能が上がって値段が下がる。そうすると、あらゆるものにセンサーやチップが組み込まれる時代が来るんです。その時に、「人の心の状態」を感知できる情報端末を作りたい、それが「やさしい情報端末を作る」というYokiのミッションです。それで、「HACO(ハコ)」というロボットを製作しています。

株式会社Yokiが開発した情報端末ロボット「HACO」

今井:「HACO」っていうロボットの名前には、どういう意味を込めたの?

東出:AIやIoTの業界って、まだ、基本の型や規格が何になるか定まっていないんです。だから、まずはカスタマイズ性の高いものを作ろうと思って。それで、「これは入れ物だよ、みんなでカスタマイズしていこうよ」という意味を込めて「HACO」としました。

今井:なるほど。

東出:「ロボットって、こういうところで活躍できるんだね!」と思えるような、新しい使い方をしてもらえるプラットフォームを目指しています。技術としては、メインコンピュータがRaspberry Pi、OSはLinuxベースのRaspbianです。ロボットの外装には、好きな形に変えられるレーザーカットの木製パーツを使っています。

今井:中も外も、ユーザーがカスタマイズしやすくて汎用性の高いものを採用しているんだね。

iPhoneの次に普及する情報端末は?

今井:東出君は、どうしてこういうプロダクトを作るようになったのかな。

東出:小さい頃から物を作るのが好きで、蒸気機関車とか飛行機の模型を作っていました。それから、アリとかザリガニとか生き物を飼ったり、地面に穴を掘ってパイプを通して、造園をしたりしていました。

今井:うん、うん。

東出:ある時、スティーブジョブズの名言集を本屋で見かけて。パラパラっとめくったら、そのまま一気読みしてしまったんです。その本に書かれていた、プロダクトデザインにかける思いやプロダクトをリリースする時に考えていることにすごく共感して。それで、「ジョブズはiPhoneを作った。その次の情報端末はなんだろう?」と考えた時に、人の感情を読み取れる「やさしい情報端末」だ、と。それが中学2年生の終わりくらいで、IoTという言葉も知らない時でした。

ホリエモンの本は、ある意味で危険

今井:参加者から質問も出ているので、ちょっと見てみようか。「会社名の由来は?」。Yokiって、どういう意味?

東出:『神去なあなあ日常』(三浦しをん/徳間書店)っていう、林業を題材にした小説に出てくる、山仕事が得意な人物の名前です。「与える喜び」と書いて「与喜(ヨキ)」。そこから付けました。

今井:東出君は、本を読むことが好きなんだね。それも、ビジネス書より、小説とか人文書とか、そっちの方が好きなのかな。

東出:そうですね、自己啓発系のビジネス書はほとんど読まないかも。

今井:起業の本は読まなかったの?

東出:『起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと』(磯崎哲也/日本実業出版社)は読みました。これは、起業を目指している人にはぜひ読んでほしいです。

今井:その本、僕も読んだよ。ビジネス系の本をあまり読まないのは、どうして?

東出:自分の考えていることをまだわかっていないのに、他の人の強い考え方が入ってきてしまうのはどうなんだろうと思って。まずは、自分はどういう考えを持った人なのか、自分はどういう感じ方をする人なのか、それを知ることの方が先じゃないかなと思います。

今井:なるほど。

東出:例えば、ホリエモン(堀江貴文)さんの本は、強くて、刺激的で、ある意味危険だと思います。売れるように、みんなが読みたいように本を作っているんだから、強烈でおもしろいのは当たり前だとも思う。まずは、古典や昔の小説を読もうよって言いたいです。時代のフィルタにかけられている本のほうが、基本的に価値があると思います。

今井:昔の小説っていうと、例えば?

東出:僕は、夏目漱石の『こころ』が好きです。現代の小説だと、下町ロケットなどの池井戸潤作品なども好きです。小説の余白から感じられる人間っぽさや人生観が、生きていく上で役に立つのではないかと思っています。

起業家や有名人に会うことが、自分にとって本当に重要かよく考えて

今井:僕は高校生にアドバイスする時に、「いろんな人に会うといいよ」とよく言っているんだけど、東出君はどう思う?

東出:その先に何かがあればいいと思います。でも、中には「人に会う」こと自体が目的になっている人もいるんじゃないかな、と。

今井:確かに。

東出:起業とかそういうところに集まっている人って、同じ人種というか、一つの括りに入っている人たちなので、話していても自分が覆されることがあまりないというか……。そこの中にいる人たちの考え方が、ある同じ方向に固まって、どんどん狭くなっていくんじゃないかと。

東出:もちろん人に会うのが大事じゃないとは言わないですけど、誰に会うか、どんな場所に行くかは、よく考えた方がいい。例えば、新しいSNSを立ち上げる時に、起業したい人たちが集まる場所に行くより、農家のおじいちゃんおばあちゃんに会いに行く方が、僕としてはしっくりくる。自分と同じ意見である確率が高い人たちのところに行っても、サービスへの斬新な意見はもらえないというか。

今井:それは東出君が実際にとってきた行動なのかな。

東出:いや、そもそも僕は人に会わないです。いろいろな人に会うのは大切なことだと思うけど、僕はできない。

今井:本当に、僕と逆のタイプだ。

Twitterで言われたことに、3日間落ち込む

今井:「10代の起業」についてはどう思う?

東出:10代にとって、だとよくわからないですけど。起業の話だと、誰にとっても「起業」が最適な方法ではないと思います。自分もYokiのプロジェクト以外に、ゲストハウスを作るプロジェクトをやったり、働き方にフォーカスしたプロジェクトをやったりしていますが、それらをすべて株式会社化するのがいいかと言われると、今は違うなと思っています。

今井:起業というか、会社化するかしないか、という問題かな?

東出:そうかも。モチベーションをうまく保たないと、会社するのは難しいですよね。

今井:僕の場合、D×Pを立ち上げてからずっとモチベーションは変わらずにやってきたんだけど、東出君はどうなの?

東出:いや、もう、全然モチベーション高くないですよ(笑)。やり始めちゃったからやめられない、みたいな(笑)。「めんどくさいな~」っていつも思っています。

今井:ええっ。なんでそう思うの?

東出:うーん……。たぶん、傷つきやすいタイプなのかな。Twitterでちょっと言われたこととかにも3日間くらい落ち込んで。

今井:外部からの刺激で、モチベーションが変動しやすいタイプなのかな。僕もよくTwitterで「死ね」とか言われるけど、そういうことを言う人って、過去にいろいろなことがあった人なのかなって僕は思う。で、そういう人こそ、D×Pに関わってくれればいいなって。巻き込むにはどうすればいいかなって考えています。

報酬がなくても助けてくれる“エンジェルプログラマ”

今井:最後に、東出君にとって、「働く」ってどういうことかな。

東出:今、自分の会社を手伝ってくれている人たちを僕は「エンジェル」と呼んでいて。プログラマだったら、「エンジェルプログラマ」とか。

今井:ビジネスの世界で「エンジェル」っていうと、ベンチャーやスタートアップに金銭などの投資をしてくれる存在だよね。

東出:はい。僕の言う「エンジェル」は、「お金は後払いでいいよ」って言って、技術とか知恵を貸してくれる人たちのことです。昔は1人でプロダクトを作ろうとしていたんですけど、自分の力だけでは無理だな、と思って。その時にFacebookで呼びかけたら、そういう人たちが反応してくれたんです。

今井:働くこと、報酬をタイムラグなくもらうこと、正社員でいること。そういうことへの意識が変化しているのを感じるね。

今井:うちは今メンバーが25人いて、正社員は8人なんだけど、最近は「雇用すること」についても、いろいろと思うところがある。社員を雇用することって、本当に正しいのかな、雇用することで逆に人の可能性をつぶしているんじゃないか、とか。

東出:うちはほとんど社員雇用していなくて、ほぼ業務委託。正社員はゼロで、役員は僕1人です。

今井:そういう雇用形態は、実験的にやっているのかな?

東出:そうですね、働き方を一人ひとりに合わせた形にしたいっていう想いもあって。自分の会社内で、社員とか雇用とか働き方について、試している感じです。

今井:東出君自身は、どうやって働いていきたいと思ってる?

東出:自分が会社をやっているとよくわかるけど、一つの会社だけに属しているって、すごく危険な状態なんですよ。「会社はあなたの生活を保障できないよ」って思う。

今井:わかる。

東出:なので僕自身は同時に10個くらいの方向を持ちたいと思っていて、実際にいくつもお金になるプロジェクトをやっています。その10個の中で一番リソースを割いているのが株式会社Yokiの活動です。プロジェクトごとに集まっては解散していくようなものでもいいですし。

今井:D×Pも創業当時からメンバーの副業を推進していて。実際にメンバーは別のグループに顔を出したり、違うプロジェクトに関わったりしている。D×Pの活動をやりつつ、副業で時計職人をやることを目指しているメンバーもいる。自分で仕事を作り出す経験も大事だよね。うちの中心メンバーは特に、いろいろな活動をしていますね。

東出:Yokiのアドバイザーにも、不動産関係の仕事をしながら、ネイルサロンをやっている人がいます。

今井:そういうことが普通になっていくんだろうね。

(取材・執筆:田島里奈 編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材場所

タリキチ

タリキチは京都大学と同志社大学付近に位置する、100平米ほどの“秘密基地”。 25歳以下の起業家たちの活動を、より効果的にするためのサポートを行なうスペース。

地下鉄今出川駅から徒歩0分、同志社大学から徒歩0分、京都大学から徒歩15分、ダッシュで5分ほど。

Wi-Fi、エアコン、その他さまざまなファシリティを完備、メンター、エンジニアが常駐。ミーティングルームではメンターや投資家との壁打ち、ライブラリーでは参考になる書物に囲まれながら、静かに読書・作業ができる。

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2018年5月31日)に掲載されたものです。

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