「学歴という命綱を手放してアートの道へ行くと決めた」大学生プロ写真家の、好きをいま仕事にする方法

生徒・先生の声

2021/06/07

好きなこと、やりたいことがあるけれど、将来仕事にすることまでは考えられない。そんなのムリに決まってる! 

夢はあっても、そんなふうに考えてしまう中高生も多いのではないでしょうか。でも、そうやって諦めてやりたいことから離れてしまうのは、すごくもったいないことかもしれません。

今回は、高校時代に「インスタグラムにかっこいい写真を載せたい!」という思いから写真撮影を始め、高校在学中からプロのフォトグラファーとして活躍するようになったKotaro Yamadaさんにお話を伺いました。

「今はインターネットを使っていろいろなことができますし、やりたいことに多少のお金がかかるとしても高校生なら稼ぐ方法はある。やりたいなら動かないと損だなと思っています」

と話すKotaroさん。現在は大学に通いながら写真だけでなく、映像制作も仕事にしていると言います。これまでどのようにチャンスを手にしてきたのか、詳しく聞いてみましょう。

©Kotaro Yamada

インスタグラム投稿から始まったプロへの道

―― Kotaroさんと写真との出会いはいつだったのですか?

インスタグラムを始めたのが高校1年生のときで、最初はスタバのコーヒーなどちょっとオシャレっぽいものを撮るという感じでした。でも、いろんな人の投稿を見ていく中で、すごくカッコいい写真を撮ってお金を稼いでいる人もいることがわかってきたんです。

―― 写真を気に入ってくれた人に販売したり、フォロワーを増やしてインフルエンサーとして商品などをPRして報酬を得たり、という人たちがいますね。

でも、稼ぐことよりも、自分もカッコいい写真を撮ってみたいという気持ちがまずあって、出かける先でいろんな写真を撮るようになりました。とにかく毎日1枚は投稿しようと決めて、続けていましたね。最初はスマホで撮っていたんですが、当時はまだiPhone5で画質もあまりよくなかったんです。それで、家にあった古い一眼レフを引っ張り出してきて、独学で撮り方を覚えました。使いこなせるまでに1年くらいかかりました。

―― 具体的にどんな写真を撮るようになっていったんですか?

“ストリート”といわれるジャンルで、街並みや通行人など日常的な路上の風景を切り取っていく写真です。このジャンルでインスタに投稿している人たちと交流するようになり、「一緒にあのスポットに撮りに行こう」など、グループで撮影に行くこともよくありました。ストリートで有名なスポットというのがあって、そこへ行けば同じように写真を撮りに来た人に出会えました。

―― 写真仲間も増えていったんですね。

はい。交流する中で、すごい写真を撮っている人が、それを仕事にして大手メーカーなどの広告写真を撮るようになったというような話を聞くこともありました。自分も高3の冬にはインスタのフォロワーが1万人を超えて、インフルエンサーとして仕事をもらえるようになりました。服をカッコよく撮ってほしいとアパレルメーカーなどから依頼がくるようになったんです。報酬はお金というよりも、その商品をもらえたり、カメラバッグをもらったりという形が多かったです。

また、僕は音楽も好きなので、当時出入りしていたクラブからも仕事をもらえるようになりました。昼のイベントでDJの写真を撮ってほしいとか。

―― 高校生にして、プロの道を歩み始めたわけですね。

大学進学で高学歴を得るよりも、やりたかったこと

―― 高校生の頃、進学はどのように考えていたんですか。

僕は愛知県名古屋市の中高一貫校に通っていたんですが、高校卒業後は名古屋を出たいと思っていました。進学校だったので、なんとなく「MARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政大学の総称)に行けたらなぁ」なんて考えていたんですが……、いざ具体的に考えてみると、そこへ行ってもやりたいことが思い浮かばなかったんです。一方で、写真にのめり込んでいくにつれて、映像制作にも興味が出てきて、そういう道に進みたいと考えるようになりました。

―― 写真の他に、映像にも挑戦していたんですね。

iPhoneで撮った写真をつなぐというところから、自分で勉強していました。それで、映像制作が学べる東京の大学に推薦入試で進学することにしたんです。ポートフォリオの提出と面接で合否が決まるのですが、そこへ特待生として入学することができました。

―― 親御さんや学校の先生は何も言わなかったんですか?

特に反対されることはなかったですね。高校の美術の先生はポートフォリオの制作を手伝ってくれましたし。

―― 進学校だと、周りの同級生たちは大学入試に向けて勉強していたと思うのですが、そういう空気も気にならなかったですか?

もともと制服もない自由な校風で、好きなことにのめり込んでいる同級生も少なくありませんでした。それに、大学の付属校だったので、推薦でそのまま大学に進学する人も多かったんです。僕も、大学に推薦で上がる生徒が集まる文系のクラスにいたので、周りはあまり受験という雰囲気ではなかったんですよ。

―― 偏差値の高い大学に行くことよりも、クリエイティブな道に進むことに不安はなかったのでしょうか。

不安はありました。インスタグラムのスマホ投稿から始まってプロになる人というのはまだそんなに前例がありませんでしたし。高学歴を失うことで、もしこの先、大手企業の会社員になりたいと思ったとしても入れないだろうなとも考えました。でも、写真や映像以外にやりたいことはなかったので、学歴という命綱を手放してアートの道で、自力でやっていこうと決めたんです。

©Kotaro Yamada

行動する中で「好き」が見つかる

―― 今はどのような活動をされているんですか?

高校卒業後、2019年に東京に出て来たら、急に仕事が増えたんです。クラブの専属カメラマンとなって毎週撮影に行ったり、アパレルのプロモーション写真を撮ったり、ミュージックビデオを手がけたり。それで大学に行く時間がほとんどなくなってしまいました。それでプライベートでニューヨークに行きたいという思いもあって休学したんですが、新型コロナウイルスの影響で行けなくなってしまい……、今は引き続き休学中です。

―― 仕事の幅も広がったんですね。今後やりたいことは何でしょう。

今、ミュージックビデオをチームで制作しています。今までチームで動いたことはなかったんですが、やってみると仲間同士で刺激し合えるところにメリットを感じて、今後はそれぞれ強みを持った仲間とチームづくりをしてみたいなと思っています。会社組織にしたいというよりも、仕事する仲間を集めて、プロジェクトに応じてチーム編成していくみたいな形で。

―― 写真や映像の仕事はずっと続けていきたいですか?

それはわかりません。一生やると決めているわけではないので、この先また興味のあるものが出てきたら、そちらの道に進むかもしれません。

―― Kotaroさんのように、高校時代からやりたいことを見つけてその道へ進んでいくためには、何が必要なのでしょう。

うーん、高校時代からやりたいことを見つけなくてはいけないわけではないですよね。でも、いろいろなことに手を出してみることは大切だと思います。僕もたまたまインスタグラムを始めて興味を持ったところからのスタートでした。また、クラブに遊びに行ってたくさんの大人と知り合う中で、「この人の生き方、カッコいいな」と思える人がいたり、世の中には多様な生き方の人がいると教えてもらったりしたことで、やりたいことをやろうと思えた部分もあります。それに、学校生活を楽しむ中でも面白いと思えることに出会う可能性はあると思います。

―― Kotaroさんも学校生活での楽しみがありましたか?

僕の場合は文化祭でポスターやパンフレットを制作することになって、そのときにAdobe(アドビ)のソフトを初めて使ったんです。それでモノをつくることの楽しさを学べました。でも、高校生のうちにピンとくるものに出会えなかったとしても、進学してから考えればいいと思います。大学って、やりたいことを見つける時間が与えられる場所でもありますし、高卒では入れない業界もありますから、チャンスを広げるつもりで。

―― 焦らずに「今、興味のあること」に対して能動的に行動することで、何かがつかめるということですね。今日はありがとうございました。

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「高校生でプロの道に」というとハードルが高いようにも思えますが、今はインターネットやSNSを使ってやりたいことを深めていったり、仕事につながったりすることもある時代です。まずは少しでも興味のあることがあれば、一歩踏み出して自分もプレーヤーになってみること。あるいは興味のあることに出会えるまで、今できることにさまざま手を出してみること。それがいずれ自分なりの道につながっていくのかもしれません。

<取材協力・資料提供>

Kotaro Yamada

2000年生まれ、Director、Photographer。

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<取材・文/ 大西桃子 >

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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。