通信制高校の先生ってどんな人? 生徒や学校についての本音を聞いてみました
生徒・先生の声
通信制高校
2019/11/20
通信制高校への進学や転学を考えているけれど、どんな先生たちがいるのか、先生たちはどんなことを考えて生徒たちと接しているのか知りたいという人は少なくないでしょう。
通信制高校ナビが実施したユーザーアンケートでも、「通信制高校に期待すること」として、「先生」に関連する内容を挙げた人は少なくありませんでした。
そこで、今回は全国の通信制高校・サポート校の先生たちにアンケートをお願いし、本音を教えてもらいました。
なぜ全日制や定時制ではなく通信制高校を選んだの?
まずは、先生たちはなぜ全日制や定時制高校ではなく、通信制高校を選んだのでしょう。聞いてみると、通信制だからこそやりがいを感じる、という声があがってきました。
「より幅広い層の生徒に関われると思ったからです。全日制では”受験”というひとつの競争に絡め取られてしまいますが、広く自由に学ぶことや人生について考えることに寄り添うことができるのは通信制高校だと考えました」
「大学で教育心理学などを学んでいく過程で、不登校や引きこもりが要因でスポットが当たらず、サポートが必要なのに足りていない子どもが増えているという現状を知りました。私も何らかの形で力になりたいと考えたときに、部活動の指導やクラスを運営することよりも、個々の人生に寄り添うほうが自分には合っていると考えて、今はサポート校で個別に受験指導をしています」
「生徒たち一人ひとりに寄り添いたい」という思いを持っていらっしゃるようですね。これは安心感につながるのではないでしょうか。
生徒たちに接するときに気をつけていることは?
通信制高校には、不登校やいじめの経験を持つ生徒も少なくない中、先生たちはどんな点に気をつけて生徒と接しているのでしょうか?
「”全日制の生徒だったら”とか”○歳なのに”と、他と比較するような考え方を持たないこと。どんな些細なことでもその子にとっては初めての経験であることが多く、一人ひとりの背景も異なるので、それを忘れずに提案をすることを忘れないようにしています」
「できないことよりも、なるべく今できていることに着目して指導にあたっています。生徒のことを否定しないことを信条に、質問をする時に”なぜ~”という言い回しを避けるなどしています。指導側としては率直な疑問であっても、責められているように感じる人が多いので。また、本人も気づいていない希望や想いの部分を汲み取ることも大切です。そうした気付きによって変わる生徒も多いので、課題に関すること以外の雑談の中で探していくことも重要だと感じています」
「決まったルートや既成概念にとらわれず通信制を選んだ生徒さんたちが多いので、本人の意思や希望を尊重してあげたいという気持ちは常に持ち続けて指導しています。なので、もしかしたら”指導”という言葉は適切ではなく、対等な”関わり合い”と言い換えたほうがよいかもしれません」
ルールに則って一律に接するのではなく、生徒たちの個性や、それぞれの希望に合わせて丁寧にかかわるということを、みなさん大切にされているとのことでした。
成績よりも、「一歩前進」が嬉しい! でも苦労することも……
次に、先生たちは生徒たちと関わる中で、どんなことにやりがいや喜びを感じているのか、嬉しかったエピソードをお聞きしてみましょう。
「3年間担任していて、どんな提案をしても断ってきた生徒が、3年生の最後に留学を申し込んでくれたことがありました。出発まで不安を口にしていましたが、帰国後に『楽しかった』『挑戦してよかった』と言ってくれたんです。初めてのことには不安がつきもので、だからこそ挑戦せずに逃げてしまいがち。でも、挑戦してできたことで、自信がついたのではないかと思います」
「話を聞いていく中で『思考が整理されて何をすればよいかわかった』と言われたときにはやりがいを感じます。
苦手だった担当科目が得意科目になったり、志望校に受かってくれたりするのは当然とても嬉しいですが、直接学びとは関係ないことでも、『あまり言ったことなかったけど、先生に話せてよかった』と言われると感無量です。生徒の気持ちの受け皿になれたと思う瞬間、この仕事を誇りに思います」
「私の教えている学校では毎日、生徒さんにフィードバックをお願いしているのですが、その中で『友達ができ、話すことに夢中になれた』、『前から挑戦したいと思っていたことができた』といった内容を見ると、非常に嬉しくなります」
このように、成績が上がったとか進学が決まったということよりも、生徒たちが一歩一歩成長していくこと、新しいことに挑戦してくれることに、喜びを感じる先生が多いようですね。
でも、先生たちにも、ちょっぴり大変だなと思うときはあるはず。それはどんなときか、本音を教えてもらいました。
通信制高校の先生、ここが少し大変……
「不登校の経験を持つ生徒が多いので、過去にあったつらい体験が蘇ってしまうような局面もあり、言葉遣いや会話内容には注意しなければならないことでしょうか。そうした過去を持つ生徒さん側も変わろうと努力してくれているので、支えになるような言葉かけを意識しています」
「個々に向き合う以上、常に覚悟していなくてはいけないのは”自分の言動ひとつで生徒がやる気をなくしてしまう”ということです。言い方だけでなく、タイミングにも細心の注意を払う必要があります。メンタルが落ち込みやすいタイプの生徒も多いので、配慮しつつ励ましていくことには苦労することもあります」
生徒たちとじっくり向き合えば向き合うほど、生徒のメンタルに影響を与えることになるのが先生というもの。さまざまな背景のある生徒たち、思春期の傷つきやすい生徒たちと接するために、先生たちも神経を使うことが多いそうです。
やっぱり課題もあり。通信制のココを変えたい!
では、今の通信制高校・サポート校のあり方に対しては、どんなことを考えていらっしゃるのでしょう。課題に感じることは何かという質問には、こんな答えが。
「全日制が当たり前の選択肢ではないという考えが広がってほしい。通信制高校もひとつの選択肢として認知されれば」
「”通信制ってよくわからない”というふうに思われているのを感じることがあります。学校としてはもっとオープンに発信していってほしいと思うことがありますね。今はネットがありますし、生徒さんたちもネット文化に親しみが強いので、今までは難しかったようなイベントも、オンラインで開催することがもっとできるはずです」
「『通信制でも”普通”の高校生活が送れるよ』ではなく、通信制だからこそ得られる楽しさや体験をもっともっと作っていけたらいいなと思います。通信制高校の中には真面目に頑張る生徒もいれば、何かとサボりがちな生徒もいる。
そのあたりは普通の学校と同じではありますが、生徒の個性の幅はとても広い。だから、実社会と同じような多種多様さの中で学べる場であるということもアピールしたいです」
通信制高校に対してマイナスなイメージを抱く人もまだ多いのが現実ではあるけれど、今は多くの学校が生徒たちの個性と向き合い、それを伸ばしていくことに力を入れています。前向きに通えるように、イメージを変えていきたいという先生たちは多いようです。
さらに、行政や学校が改善すべき点としてこんなことも。
「生徒側にも教員側にも金銭的な負担が大きいことが課題だと思っています。生徒や家族からみれば学費負担は軽いものではないですし、反対に教員側も給与が控えめ。大きなやりがいはあるものの、生活面での苦しさのある人が多数だと思います。もっと行政による補助があるとよいのですが」
生徒たちが安心して通えて、充実した教育を受けられるために、見直さなければいけない点もあるとのことです。
通信制だからこそ、さまざまなことに挑戦してほしい
最後に、通信制高校やサポート校への進学・転学を考えている人、通っている生徒たちに、メッセージを伺いました。
「まず、勉強以外の時間を有効に使ってほしいです。一般的な中高生と比べると1日に拘束を必要とされる学習時間はそれほど多くはありませんので、課外で何をインプットするのかが大事だと思います。遊びでもいいので、自分にとって楽しくて必要なことへ時間を存分につぎ込んでほしいです。
また、出会いを大事にしてほしい。特に通信制に集まる仲間たちは何かに突出して秀でていたり、さまざまな価値観に富んでいたりします。そのつながりは通信制でしか得られないような貴重なものなので、ぜひ積極的にコミュニケーションを取っていってほしいですね」
「通信制最大のアドバンテージは、時間にゆとりがあること。それをフル活用してほしいです。好奇心があってもなかなかチャレンジできないことができるはずなので。興味があること、思いついたことを実行に移すための時間があるのですから、ほんの少しの勇気できっと世界が広がっていきます。
もし将来やっていきたいことの方向性が漠然とでもわかれば、受験指導というサイドから全力でサポートしていきたいし、それが私たちの喜びです」
「1日1日を大切に高校生活を送ってほしい。そして、全日制ではできない経験をたくさんしてほしい。自分ではまだわからないかもしれないけれど、周りの大人が言うことは8割正解。だまされたと思って、挑戦してみほしい」
先生方、ご協力ありがとうございました!
<取材・文/中島理 >
この記事を書いたのは
1981年、北海道生まれ。バーテンダー・会社員を経てライターへ転身。ムックを中心に編集や執筆に携わる。引きこもり経験を持ち、若年層の進学・就労にまつわる心の問題に関心。