ホームスクーリングで学ぶとは? 実践者に聞いた学び方と驚きのメリット

保護者の声

専門家に聞く

2023/05/31

最近、ホームスクール、またはホームスクーリングという言葉をよく聞くようになりました。

ホームスクールとは、「学校に通わず(時には学校に通いながら)、家庭を拠点として学習するスタイル」のこと。
「学校を拠点としない」という観点から「不登校」と同じものと解釈されることもありますが、必ずしもイコールの関係にはありません。

なぜなら不登校というと、保護者と子どもが「本来は学校に通うべき(通わせたい)」と考えているケースが多いのに対し、ホームスクーリングをしている家庭の場合、登校を前提としていないことが多いのです。

「こうした定義の甘さは、学校に通わない(通えない)子どもの支援の不備につながっています」と指摘するのは、NPO法人日本ホームスクール支援協会(以降、HoSA)の理事を務める佐々木貴広さん。

「教育現場では『多様性を受け入れよう』、『子どもひとり一人の個性を伸ばそう』という理念を受け入れているように見えて、基本的には『右へならえ』の教育が行われているように感じます。結果的にそこに馴染めない子どもがこぼれ落ちても、フォローする体制は整っていません。
私たちは、そうした家庭を支援するとともに、『日本から不登校という言葉をなくしたい』、『ホームスクールという選択肢を設ける制度づくりに寄与したい』という目標に向かって活動しています」

子どもたちが自分の意思で「学校へ行かない」ことを選択している状態を「積極的不登校」といいます。一方、引きこもり、無気力、家庭環境の問題など学習以前の支援を必要としている場合は「消極的不登校」と呼ばれ、それぞれニーズも違います。
「ホームスクール」は「積極的不登校」のケースを指し、学習環境の整備(コミュニティ、社会認知と教育機会確保制度、特化型教材、指導者育成など)というニーズが生じています。

HoSAなどの団体では、これまでの「不登校」という言葉に代わって、積極的な選択肢としてホームスクールをとらえ、サポートしているのです。

チャットルームを使って保護者同士が悩みを共有

現在、HoSAが積極的に取り組んでいるのは、会員となった家庭がつながるコミュニケーションの場の提供です。

LINEアプリ内のオープンチャット機能を用いた「全国情報共有チャットルーム」には、300名を超える会員が集っています。チャットルームは、「ウチはこんな教材を使っているよ」とオススメの教材を紹介したり、1日の過ごし方に関する相談や、気になったニュース記事やイベント情報などを共有したりする場になっています。

2022年の初めから運用を開始し、現在では学校の教員やスクールカウンセラーなどの教員関係者の人たちも参加するようになったとか。

このチャットルームのコンセプトについて、HoSAの佐々木さんはこう説明します。

「情報共有することで解決できる課題だけでなく、おそらく解決はしないだろうけれど、話したいことがあれば発言してほしいと考えています。
そもそも『お子さんの特性についての不安』や『漠然としたお悩み』には正解がないことが多いですが、そうしたモヤモヤした思いをホームスクール仲間と共有し、困っているのは私たちだけではないんだと感じてもらうことに意味があると思っています」

そして、このチャットルームで交流をする中で生まれたのが、「ゴーストスクール」です。

最近、Uber Eatsなどのデリバリー業が盛んになり、実店舗を持たない「ゴーストレストラン」を開業する飲食店が増えていますが、「ゴーストスクール」はその学校版と言えるもの。

保護者からの「子どもたちも参加できる場を設けてほしい」との声を受け、2022年11月にチャットツール「Discord」を用いて開校しました。

誰もがいつでも参加できる形になっているので、「朝礼」のようなものはありませんが、「全校アナウンス」のコーナーでは、必要な情報を参加者たちにアナウンスすることができ、「助けて!助ける!掲示板」では、ツールの使い方などの困りごとを相談することもできます。

「HoSA全国情報共有チャットルーム」は、300名を超える会員たちが情報共有できる交流の場

リモートツールを用いて保護者同士が会話をする「オンライン保護者会」も活発に行われている

子ども同士が交流できる「ゴーストスクール」では部活動も盛ん

このゴーストスクールの中でもユニークなのは、子どもたちが中心となって活動している「部活動(ホームスクーラー向け)」コーナーです。

仲間を5人以上集めて申請すれば、誰でも新しい部活を立ち上げられるのだとか。

現在盛り上がっているのは、人気ゲームSplatoonをプレイする「スプラ部」。部員たちが一緒にプレイできる時間を調整して、ゲームを楽しむのです。

そのほか、イラスト&デジタルアート部、料理部、工作部、文芸部、音楽部、プログラミング部など、趣味を生かしたさまざまな部活があります。

部活以外の場でも、子どもたちが特に用事がなくてもまったりと時間を共有できる「ホームスクールなう」というコーナーがあり、勉強しているときや部屋でひとりで過ごしているときなど、この部屋に入って雑談をしたりする場所も設けられています。また、保護者同士が井戸端会議をする「保護者コミュニティ」のコーナーも常に賑わっているそうです。

「たとえば先日、絵のうまい子が1枚のイラストを投稿しました。『昨日、一緒にSplatoonをやったのが楽しかったから、そのときのメンバーをキャラクターにした絵を描いてみました』というメッセージを添えて。
ホームスクールをしている子どもは、リアルな場で人と接するストレスから解放されている反面、どこかで人とのつながりを欲している側面もあります。ゴーストスクールで知り合った仲間は、顔も本名もわからないけれど、そんなささやかなつながりが大きな喜びになることもあるんです」

開校から4カ月で、ユーザー数は170名を超え、秋の文化祭シーズンには「ゴーストスクール文化祭」も計画されているそうです。

ゴーストスクール内の「料理部」の様子。作った料理写真には「おいしそ~」など、さまざまなリアクションが送られている

「子どもファースト」の環境で成長を実感

今回は特別に、ゴーストスクール内に「通信制高校ナビ 取材部屋」というコーナーを設けていただき、ホームスクーラーの人たちの声を聞かせていただきました。

最初に話してくれたのは、新小3、小1、年少、2歳の4児の母、ふみママさん。

きょうだいの中で一番上の長女がホームスクーリングを選んだきっかけは、小学校の入学からしばらくして始まった、学校への行き渋りだったそうです。

「母親の目から見て、大きな出来事はなかったように思いますが、少しずつ溜まったフラストレーションが自然に溢れてきた、という感じでした。なんとか登校しても泣いてしまうことがあったようで、友達から『どうして?』とか『だめなんだよ』みたいに言われることを、とにかく苦痛に感じていたようです」

実はふみママさんは、大学卒業後に学童に就職して、何百人もの子どもと接する場で働いていたのだとか。そこで、本当の意味での「十人十色」、「千差万別」を目の当たりにして、「子どもの対応には絶対的な正解はない」ということを実感したと言います。

「にもかかわらず、日本の公教育の現場には『みんな同じが当たり前』、『出る杭は打たれる(できすぎてもできなすぎてもだめ)』、『連帯責任』といった理不尽を子どもに強いる空気があって、我が子がそのような環境で幸せになれるのだろうか? という疑問を持っていたんです。
ですから、ホームスクーリングに切り換えるにあたって、大きな迷いはありませんでした」

それでは、具体的にどんな学習を行っているのでしょうか?

ホームスクーリングでは、1日のスケジュールを立てたり、いつ、どの教材で勉強するかといった選択が重要ですが、なんとふみママさんは「すべて娘に任せる」という方針を立てたといいます。

「教材は、学校の教科書やドリル、それから先生が届けてくれるプリントが中心で、特に新しい教材を揃えることはしませんでした。唯一、小2の3学期に算数と国語のオンライン授業を始めましたが、これは本人が『やってみたい』と希望したからです。とにかく、『学びは常に子どもが中心であるべき』という考えがありました。
親である私は、いろいろな選択肢を準備しておいて、娘が『こうしたい』と言ったら、『じゃあ、こういうのはどう?』と提案をする。やりたくないときに『やりなさい』と強制しても、娘をつらい顔にさせるだけ。それよりも、生き生きとした顔や楽しそうな笑顔を見られる環境作りを心がけました」

ホームスクーリングを始めて数カ月後、娘さんの学ぶ姿勢に変化が現れたと言います。自分のペースで勉強することを覚えた結果、娘さんが「勉強する楽しさ」、「生きる術」を身につけていくのを目の当たりにしたのだそうです。

娘さんの成長は母親としての自信にもつながり、「次はこんなことをしてみよう」とか、「こんなふうに声をかけてみたらどうだろう」と、幅広い視野で生活の仕方や学習法を提案できるようになったと言います。

「もうひとつ、驚いたことがありました。長女が小3になり、次女が小学校に入学するタイミングで『私も妹と一緒に学校に行く』と言い出して、通学を再開したのです。新入学を前に不安そうにしている妹の様子を見て、『私が助ける!』とお姉さんらしさを発揮したのかもしれません。
もちろん、またフラストレーションが溜まって家に戻りたくなることもあるかもしれませんが、そのときはそのときでまたホームスクールに切り換えればいいと思っています。学校での教科学習が学びの唯一の選択肢ではなく、ホームスクールを選んでも子どもは成長していけるということは、すでに経験済みですから」

大事なのは「常に子どもファーストの姿勢でいること」だと、ふみママさん。いつでも学びの場を自分で選べるようにしておくことが、子どもの成長につながっていくようです。

デジタルデバイスをフル活用して、充実したホームスクーリングを実現

もうひとり呼びかけに応えてくれたのは、小4の娘さんの父、むらさんです。

むらさんの娘さんは、もともとひとり遊びを好むおとなしい性格の子だそうですが、むらさんのドイツ留学に伴って3歳から6歳までを異国で生活。帰国後、小学1年生の7月から途中入学し、ドイツへの出国時と合わせて2回の引っ越しを経験、慣れ親しんだ環境や友達との別れを経験してきたそうです。

「担任の先生の理解と相性のよさも手伝って、娘も次第に環境の変化に対応できるようになったのですが、小学3年生になって担任の先生が変わったことをきっかけに、それまで積み重ねてきたことが一気に崩れ、学校という場所が安心できる場所ではなくなってしまったのです」

とはいえ、ホームスクールへの切り替えには大きな葛藤があったと言います。というのも、むらさんの妻は現役の公立学校の教員で、学校教育のメリットを享受できなくなることへの抵抗感が大きかったのです。むらさんご夫婦は、ときにはケンカに発展するくらいの深い議論を重ねたそうです。

「最終的には『娘が安心して過ごせることを優先させる』という結論に達し、ホームスクーリングを始めることにしました。幸いだったのは、コロナ禍のさなかで私自身がフルリモート勤務になり、娘のホームスクーリングを支援する環境が整っていたこと。
スマホとタブレット、スイッチ、パソコンなどのデジタルデバイスをフル活用して『eboard(無料)』や『すらら(有料)』などのオンライン教材をはじめ、学習アプリや書籍を娘の意欲に合わせて活用しました」

もちろん、リモート勤務とはいえ、打ち合わせなどで1~2時間ほど仕事にかかりきりになり、充分な時間を割けられないこともあるそうです。それでも、娘さんがHoSAの「ゴーストスクール」に参加している間は、Zoomミーティング中でもチャットでメッセージを返すなど、できる限りのフォローをするように心がけているのだとか。

「息抜きのために娘と一緒に近所を散歩することもありますが、そこでの会話も学びの場だと考えています。そもそも私の父が、子ども時代の私の『なぜ?』という質問に真摯に向き合い、一緒に考えてくれる人だった影響もあって、ひとつの答えを与えるのではなく、同じ問いに何度も『なぜ?』を繰り返して理解を深める会話を心がけています。
娘が絵を描くのが好きだったこともあって、ホワイトボードを購入し、図で説明したりするときに得意のキャラ絵を描き加えてもらったりして、一緒に楽しみながら学んでいます」

こうした日々の中、むらさんは10年ほど前に取得した中高音楽専修の免許に加え、高等学校教諭一種免許の取得のため通信制大学で科目履修し、新しい知識を取り入れながら、より良いホームスクーリングのあり方を模索しているとのこと。

「当初は精神的に不安定な状態が続いていた娘も、少しずつ本人のペースで自発的に学習することができるようになりました。さらに、HoSAのゴーストスクールのような、共通の仲間が集うオンラインコミュニティという居場所を見つけてからは、精神面で安定するようになりました。
それとともに、妻が抱えていた不安もかなり解消されていき、ホームスクーリングを選択して良かった、という認識が家族の中で共通認識となりました」

こうしたホームスクーラーの各家庭のノウハウが蓄積し、共有されていく中で、日本から「不登校」という言葉がなくなる日、ホームスクールが制度として認められ、選択肢のひとつとして確立する日は、確実に近づいているに違いありません。

取材協力

NPO法人日本ホームスクール支援協会(HoSA)

2000年に発足し、ホームスクールを実践する家庭への支援活動を行う。全米最大のホームスクール・ロビイスト団体でもある米国ホームスクール法的擁護協会(ワシントンDC)とも提携。教材の開発、会員証など身分保障の充実、会員のホームスクール家族の交流の場づくりなどを行っている。

<取材・文/内藤孝宏>

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この記事を書いたのは

内藤 孝宏
フリーライター・編集者

「ボブ内藤」名義でも活動。編集プロダクション方南ぐみを経て2009年にフリーに。1990年より30年以上で1500を超える企業を取材。また、財界人、有名人、芸能人にも連載を通じて2000人強にインタビューしている。2男1女の父。次男は不登校を経験している。