10代から始めたい「ユダヤ富豪式」お金の習慣

専門家に聞く

2023/02/13

日本では、2022年度から高校の家庭科の授業で金融教育が必修化され、金融経済の仕組みや金融商品についての基本的な知識や、資産形成などを学ぶこととなりました。

社会の変化がめまぐるしく、働き方や生活スタイルにもさまざまな選択肢が増えている今、人生や生活に深く関わるお金の問題も、早くから学んでおく必要があります。

ただ、先進国の中で日本の金融教育はやや出遅れているようです。

2023年1月に『ユダヤ富裕層が13歳までに学ぶお金のルール』(秀和システム)を出版した金融コンサルタントの川口幸子さんはこう言います。

「欧米では、子どもたちは10歳以前から金融教育を受けています。学校だけでなく、家庭の中でも、お小遣いの渡し方や使い方などを通してさまざまな実践があります。欧米の中でもとりわけユダヤ人社会では金融教育を重視していて、子どもたちは3歳くらいからお金について学んでいきます」

イギリスでは2014年には金融教育が必修化されており、利率計算など金融に関する内容や税金の仕組み、クレジットや借金についてなどの項目をすべて16歳までに教えられます。

ドイツでは小学5年生から本格的な金融教育が始まり、アメリカでは現在、各学校や家庭で金融・経済に関するシミュレーションゲームなどのオンライン教材が、広く使われています。

このように欧米の若者たちは、すでにお金についてしっかり学んだうえで社会に出ているのが現状です。

その中でも、とりわけ古くからお金の教育がしっかり行われてきているのが、ユダヤ系欧米人。世界を見渡すと、ゴールドマン・サックスやロスチャイルドなど、世界経済に大きな影響力を持ってきた大富豪の多くはユダヤ人です。

Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグやGoogle創業者のラリー・ペイジ、スターバックス創業者のハワード・シュルツも、ユダヤ系アメリカ人です。

では、なぜユダヤ人社会では金融教育が大切にされており、子どもたちにはどのようなことを教えているのでしょうか? 川口さんに詳しく教えてもらいましょう。

●お話を伺った人

川口幸子さん
クラウドコンサルティング株式会社代表取締役・金融コンサルタント
3~9歳までアメリカ・イギリスで育つ。8歳から長期的な投資を始め、18歳で初めての起業。実体験から日本にはもっとお金の専門家が必要だと考えるようになり、銀行員、イベント会社経営、不動産売買などを経験してファイナンシャルプランナー資格を取得。お金に関するセミナーなどで講師としても活躍。近著に『ユダヤ富裕層が13歳までに学ぶお金のルール』(秀和システム)など。

生きるためにお金の知恵を培ってきたユダヤ人

今、世界の大富豪ベスト500のうち、ユダヤ人は200人を占めています。ノーベル賞の経済学部門でも、歴代受賞者の6割はユダヤ人。

川口さんは、3歳から9歳まで日本を離れてアメリカに住む祖父母の元で暮らし、その間にヨーロッパの国々にも訪れ、多くのユダヤ系富裕層と接してきたそうです。その生活の中で、大人たちからお金についてたくさんのことを教えてもらったと言います。

ではまず、なぜユダヤ人に富裕層が多いのでしょうか。

「みなさんが歴史の授業で習うとおり、ユダヤの人々は2000年もの間、自国を持つことができず、ヨーロッパで迫害を受け続けてきました。
安全な地を求めて移動しても、いつまた迫害されて住む場所や持っているものを奪われるかわかりません。いつ何があっても生き延びるために、自分の資産をどうしておけばいいのか、その知恵がどの民族よりも必要だったのがユダヤ人だったのです」

いざというときに自分だけでなく家族や友人、仲間たちを助けるためにも、ユダヤ人はお金を大切に考えてきたのだそうです。

「教えの中で最も基本的なことが、〝お金を分ける〟という考え方です。ユダヤ教の聖典『タルムード』には、『富は、土地と商品、現金との3つに分けて所有すべし』という格言が書かれています。一カ所にすべての資産を置いておくのではなく、入ってきたお金はまず配分すること。土地を奪われたとしても、現金が奪われなければ違う土地でまた生きることができます。ある国では現金が紙くず同然の価値になってしまっても、現物資産を持って別の国に行き、生活を立て直すこともできます」

こうしたさまざまな知恵が、ユダヤ人社会の中では子どもたちに長い間受け継がれてきているのだと言います。だからこそ、社会に出たときにはすでに金融の知識や知恵をしっかり持っており、ビジネスや資産形成に成功して、莫大な富を築く人が多いというわけです。

川口さんも、8歳の頃には祖父たちに教えてもらって資産運用を始めたとのこと。

「一方で、日本ではお金のことはタブー視する風潮がありますよね。私が10歳で日本に帰ってきたとき、一番びっくりしたのがそこでした。
他人にお金の話をするのははしたないと思われていたり、子どもも親に家の経済状況について聞けなかったり。夫婦間でも、結婚してから金銭感覚の違いに気付いてケンカの元になってしまうケースはよく聞きます。
でも、お金をタブー視せず子どもの頃からしっかり学んでおくことで、自分だけでなく大切な人の生活を守ったり、人生の目標を着実に達成したりすることができるはずです」

今は、若い人でも将来への不安を抱える人が増えています。しかし、正しくお金を理解することで、不安にさいなまれることなく豊かに生きていくことができると川口さんは言います。

そして、お金への理解を深めていくためには、教科書などから学ぶだけでなく、実践してみることが大切とのこと。では、10代からできることとは何なのでしょうか。

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中高生は今すぐ始めよう!3つのお金の習慣

中高生の間に習慣づけてほしいこととして、川口さんは次の3つを挙げてくれました。

①今あるお金、入ってきたお金、使ったお金を、まずは1カ月分ずつノート(携帯メモでもOK)に書いて見える化する

「金額を可視化することによって、ムダを見つけることができたり、もう少し我慢しようという気持ちが起こったり、もっと貯めるための工夫を考えるようになります」

②夢や希望を書き出して、そのためにいくらかかるか考える

「夢ノートは、いくらでも修正してOKです。まずは気楽に書いてみることから始めてみてください。そして、実現するためにはどのくらいの予算が必要なのか計算してみましょう。
学ぶ、資格を取る、旅行する、留学する、就職活動をする、一人暮らしするための家を探すなど、そのすべてにお金はかかります。予算がわかったところで、諦めるのではなく、叶えるためにはどうしたらよいか考えることが大切です」

③入ってきたお金を、「普段の生活で使うお金」「ほしいものを買うなど目的のために必要なお金」「家族や友達のため、寄付のために使うお金」の3つに分ける

「普段使うお金とは別に、夢や目標のために使うお金や、プレゼントや寄付など人を喜ばせるために使うお金を分けて貯金箱などに入れましょう。入ったらすぐに分けておくことによって、ちょっとくらいいいかなという気持ちも起きづらくなり、ムダ使いをなくせます。分けるという意識は目的意識と繋がり、目的のために頑張ろうという意欲も芽生えます」

ユダヤ系欧米人の間では、こうしたことを子どもの頃から大人たちに教わって習慣化しているのだそうです。

「①〜③をまずはコツコツやっていくことで、自分の欲求をコントロールしたり、お金の意味や価値を理解して使うことができるようになったり、目標達成に向けて頭を使って考えていくことができるようになっていきます」

これらを習慣化し、すぐには使わないお金を分けることができるようになれば、そのお金を資産運用に回して増やす習慣へと繋がっていきます。さらに、「人のために使うお金」を意識することで、自分のことだけでなく、他人や社会のことを考えながら行動できるようになっていき、それが結果として社会生活での成功へと結びついていくと言います。

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未成年でも投資は可能、ポイントから始めるのもオススメ

最近では、投資に興味を持つ中・高生もいるかもしれません。先ほどの③の習慣ができれば、すぐには使わない目標のためのお金を、投資に回して増やすことも可能です。

ただ、投資はゲームやギャンブルではありませんから、もちろん正しい知識をしっかり身につけたうえで行う必要があります。

「今は証券会社に親の口座があれば、0歳児からでも未成年口座を開設することができます。ですが、何のためにお金が必要なのか、どうして増やす必要があるのかを子ども自身が認識したうえで投資をしないと、ただのゲームのようになってしまって、正しいお金の扱い方は身につきません」

この点に注意したうえで投資をすることで、社会や経済の動きによって、自分のお金や市場がどう反応していくのかを、体験しながら学んでいくことができます。

「今なら、ショッピングなどで貯まるポイントでも、キャッシュバックの代わりに投資に使うこともできます。PayPayなどのポイントを使って、積立投資をしている人も増えてきています。
最初は、Yahoo!ファイナンスなどを使って知っている会社の株価の増減を観察してみたり、実際にポイント運用をしてみて、半年くらい感覚を培ってから、積立投資などをコツコツ始めてもいいかもしれません」

一攫千金を狙うのではなく、将来進学をしたり、一人暮らしをしたり、大人になったらやりたいこと、買いたいものなどをイメージして、始めてみるとよいとのことです。

「欧米では、貯金と投資の違い、単利と複利の違いといったことも小さな頃から教えられます。雪だるまに、雪の粒をひとつずつ集めてくっつけていくのが貯金なら、転がしてどんどん大きくしていくのが投資です。正しい知識を身につけて早くから投資を学ぶことで、この先の長い時間を味方につけて、将来的に大きな資産を築くことも可能です」

まずは、今手元にあるお金をきちんとコントロールする練習から始めて、社会に出る頃には投資も利用しながら、豊かな人生を送る準備を進めていきましょう。

<取材・文/大西桃子>

川口さんの著書『ユダヤ富裕層が13歳までに学ぶお金のルール』
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この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。