
最近、闇バイト関連の報道で、中高生が犯罪グループに加担していたケースをよく見聞きするようになりました。
「うちの子は大丈夫」と思っていても、闇バイトの誘いはSNSや友人・先輩とのつながりを通じて、中高生の身近なところに入り込んでいます。ただ、手口や子どもが抜け出せなくなる流れを大人が知っておくことで、早い段階で異変に気づき、相談につなげられる可能性があります。
SNSなどを通じて高額な報酬で実行者を募集し、強盗や特殊詐欺などの犯罪を行うトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)によるとされる犯罪については、警察庁の発表では2025年は1万2000人以上が検挙されており、その中で少年は1300人以上にも上るとされています。 こうした現状を受けて文部科学省は2026年6月、警察庁やこども家庭庁などと連携し、中高生に向けて闇バイトの危険性を伝える啓発メッセージを公表。メッセージでは、「今後の幸せな人生のために~闇バイトで人生を棒に振らないために知っておくべき5つのこと~」として、下記5項目を示しています。
- 必ず捕まります
- 先輩、友達からの誘いでも応じてはいけません
- 銀行口座やスマホを売ってはいけません
- 外国に渡航すれば、二度と戻れなくなるかもしれません
- 今ならまだ引き返せます
しかし、少年たちを闇バイトに引き入れているのは大人であり、それが可能になる環境を作っているのも大人です。
では、子どもたちを犯罪に関わらせないようにするために、大人たちはどうしたらいいのでしょうか。今回は、犯罪心理学を専門とする東洋大学の桐生正幸(きりう・まさゆき)教授にお話を伺いました。
何も知らずに加担し、使い捨てにされる中高生
—— まず、中高生が闇バイトに関わってしまう入り口についてですが、やはりSNSが中心になるのでしょうか。
SNSが中心で、友達や先輩から誘われるケースもあります。ほとんどはその内容を深く聞かずに、軽い気持ちで応募してしまいます。闇バイトは直接半グレ(指定暴力団には所属せずに犯罪を行う不良集団)やヤクザのような人物が声をかけてくるわけではなく、間には二重三重に指示を出す役割、勧誘をする役割などの人物が存在し、末端の実行役ははじめから内容を理解できる形にはなっておらず、少しずついろいろなことを実行させられます。そうしているうちに、後には引けなくなっていく流れです。
—— それは脅されるということでしょうか。
「もっと稼げる案件があるけれどどうだ」とエスカレートしていったり、「親が知ったら悲しむ」「知り合いに危害を加える」などの脅しを加えられたりして、抜け出せなくなってしまうのです。また、最初はインターネット上で悩みを聞いてくれたり、気持ちに寄り添ってくれたりしていた相手が、闇バイトの勧誘であるケースもあります。信頼して依存関係ができたところで誘われて、一度加担してしまったら弱みを握られて逃げられなくするのです。
—— 実行役が中高生であればすぐに捕まってしまう可能性も高いと思うのですが、なぜ少年たちが狙われるのでしょう。
大人の場合は失うものを考えて思い止まることができたとしても、少年にはまだ社会の中で一定の立場や広い人間関係があるわけではありませんから、一歩を踏み出すハードルが低くなります。そして何も知らずに動いてくれて、捕まったとしてもトカゲの尻尾切りがしやすいのです。また、社会の中での人間関係が希薄なため、事前に周囲から引き止められにくい面もあります。今の時代はSNSでのコミュニケーションが中心になっていき、リアルでの人間関係が希薄になりやすいことが、この状況を後押ししている現状です。
—— 実際、2026年5月に栃木県で起きた強盗殺人事件では、男子高校生ら4人の少年が逮捕されていますが、中には「普通のバイトだと思っていた」という少年もいたと報道されており、誰かに相談して引き止められることもなく加担してしまったことがわかりますね。

「気をつけろ」と言うだけでは解決しない
—— 文部科学省、警察庁、こども家庭庁では闇バイトの危険性を伝える啓発メッセージを出していますが、中高生たちが自分自身で気をつけておけば、身を守れるものなのでしょうか。
難しいと思います。大人でも、オレオレ詐欺などの手口がどれだけ報道されても、被害者が絶えないのが現状です。闇バイトはたくさんの餌をまいて募集していますから、見抜けない少年は必ず出てきます。素直であまり人を疑わない少年が巻き込まれるケースも多いはずです。また、はじめから悪事を働こうと思っている少年であれば、闇バイトに加担してトカゲの尻尾切りをされるよりも、自分で計画するほうを選びます。引っかかってしまう少年たちにはさまざまな背景がありますが、社会の側がそこに目を向けるほうが現実的だと思います。
—— 中高生たち自身に気をつけろと伝えるよりも、大人側の行動のほうが重要だということですね。
大人はよく「そんな甘い話があるわけない」と言いますが、たとえばこれまでの環境でずっと経済面や愛情面、人間関係の面などで甘い思いをしたことがなかった少年たちは、満たされていないわけです。そこに甘い話をぶらさげてくる大人がいれば、手を伸ばさざるを得ないのではないでしょうか。闇バイトに引っかかるほうが悪いと考えるのではなく、闇バイトに関わってしまう少年たちを救うというスタンスで見ていかないと、何も解決していきません。
—— そうなると、保護者がしっかり注意しなくてはいけないという話になりますか?
それもありますが、保護者だけの責任にしてすむ話でもありません。家庭にもさまざまな事情があり、努力だけでは解決できない場合もあるでしょう。また、中には親からお金を持ってこいと強要されているケースもあります。子どもが悪い、親が悪いと決めつけても意味はなく、社会構造の問題だととらえて解決していく必要があるのです。
中高生の居場所がある地域社会の再構築を
—— それでは、少年たちを闇バイトから守るためにはどうしたらよいのでしょうか。
社会学の中では「ソーシャル・ボンド理論」というものがあります。これは個人が家庭や学校、地域などの社会との「絆(ボンド)」を強く持っていると、社会的ルールや規範から外れる行動を抑制できるという考え方です。この理論を踏まえると、やはりリアルな社会の中での人とのつながりが重要だと考えます。昨今では特に地域社会でのつながりが希薄になっており、子どもだけでなく親子が地域の中で孤立している例も少なくありません。こうした構造を見直す必要があります。
—— 地域の中でも子ども同士、大人と子どもとのつながりが構築できるような環境が必要だということですね。
子育て世帯に向けた小さな子どものための居場所はあっても、中高生の世代が地域と関われるような場所は少なくなってきています。登下校の見守りや子ども食堂などもありますが、これらがすべてボランティアで成り立っていることもよくないと思っています。行政は防犯に予算を使うなら、これらの活動にもっと割り振っていくべきです。
—— 行政にも、もっとやるべきことがあるはずだ、と。
教育、子育て、福祉など分野をまたいで包括的に動いていくことが大切です。たとえば、多くの自治体で空き家が問題になっていますが、空き家を自治体で買い取って中高生が過ごせる居場所をつくってもよいと思います。格差社会の中で苦しい環境にある子どもたちが孤立していることも背景のひとつとなっているため、孤立防止へのサポートも必要でしょう。また、学校での学習の中で、少年法について学んだり、少年鑑別所の様子を見学したりする機会もあるとよいですね。
—— たしかに、子どもたち自身が対象になっている少年法なのに、学ぶ機会があまりないですね。
何をしたら犯罪になるのか、罪を犯したらどうなるのかを知っておくことは重要です。そして、何かおかしいなと思ったときに相談できる人とのつながりを作っておくこと。生成AIがその相談相手を担っていくのもよいと思いますが、インターネットなどを通じて社会の悪いところが目に入りやすい昨今ですから、普段から大人たちがもっと世の中のいい部分を見せていくことも大切ですね。必ずしも高い食べ物だけが美味しいとは限らないということ、お金だけで人は幸せになるのではないということなど、伝えていくべきことはたくさんあるはずです。
—— 保護者だけでなくすべての大人たちのあり方が、子どもたちに影響を与えていくわけですね。ありがとうございました。
通信制高校ナビ編集部より
子どもが「高額バイト」「荷物を運ぶだけ」「口座を貸してほしい」などの誘いを受けているかもしれないと感じた場合は、本人を責める前に、まず安全を確保し、早めに相談につなげることが大切です。警察相談専用電話「#9110」や、学校・地域の支援窓口など、家庭だけで抱え込まないための相談先を確認しておきましょう。
取材協力

東洋大学社会学部社会心理学科
桐生正幸教授
1960年山形県生まれ。文教大学人間科学部人間科学科心理学専修。山形県警察本部科学捜査研究所主任研究官、関西国際大学人間科学部教授および防犯・防災研究所長を経て、東洋大学社会学部社会心理学科教授。一般社団法人ココロバランス研究所理事,日本犯罪心理学会全国理事、日本応用心理学会理事などを務める
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。



