2026/06/23

“私立中学生の3%が不登校”の衝撃。静かな異変を見逃さない親の関わり方

専門家に聞く 

不登校の児童・生徒数が年々増えている今。文部科学省の「令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、中学生全体では6.8%が不登校となっています。小学校の間に不登校を経験した児童は地元の公立中学校に入学するケースが多いため、公立中学校における不登校の生徒の割合は7.1%と、35人学級であれば2〜3人が不登校という計算に。

一方、私立中学校に通う生徒も3.1%が不登校となっており、35人学級ならクラスに1人が不登校という計算になります。

「せっかく頑張って中学受験を乗り越えたのに、学校に行けなくなった」
近年、こうした悩みを抱える家庭が増えています。

では、中学受験を乗り越えて入学した後に、どのような背景で不登校になるのでしょうか。競争や人間関係における疲弊、校風が合わないなど、多様な理由が考えられますが、保護者はどのようなことに気をつけ、子どもたちをどのようにケアしていけばいいのでしょうか。

今回は子どもの発達や子育てを、脳科学と生活習慣の視点から支援する「子育て科学アクシス」で多くの親子をサポートしている、文教大学教育学部教授、小児科医・発達脳科学者の成田奈緒子氏にお話を伺い、アドバイスをいただきました。

劣等感、競争へのプレッシャーからストレスが限界に

—— 昨今、私立中学校でも不登校数が増えており、ここ8年で2倍になっています。実際、成田先生のところに相談に来られる生徒の中でも、私立中学校の生徒は増えていますか?

はい、増えています。中学受験を終えて、第一志望に合格した生徒も来ていれば、第二、第三希望の学校に入学した生徒もいます。

—— それは、入学してみたら学校が合わなかったということなのでしょうか。

ケースはさまざまですが、校風が合わないと感じている生徒の場合、偏差値のみを基準にいろいろな中学を受験していることが多いですね。塾に言われるがままに複数校を受験して、合格した学校に入学したけれど、入学式の日に初めてその学校に足を運び、さらに同じ小学校の仲間もおらず、不安の中で登校しなければならない。そのしんどさが溜まっていき不登校になっていくといったケースをよく見ます。

—— 第一志望の学校でも、そうしたことが起こるのでしょうか。

たとえば、上位校に入学したけれど授業についていくのが大変で、定期テストの順位が下位になってしまい、入学後も競争に駆り立てられた結果、不登校になるケースもあります。テストの順位がどうであれ楽しく通える生徒もいますが、受験のときと同じように家庭の中で「順位を上げないとだめ」「このままでは大変なことになる」と保護者が一生懸命に学習管理をしようとして、子どもの精神を追い詰めていくことも多いです。

—— 学校での人間関係や校風に違和感があり、そこから不登校になるというよりも、家庭の中で学校や学習をどのような価値観でとらえているかが影響してくるということですか?

そういうケースを多く見ています。特に首都圏では中学受験熱が過熱していて、地域によっては半数以上が中学受験をしたり、私立の中学校に進学することが当たり前になっていたりするところもあります。そうなると、子どもの間でも小学生のうちから競争心が芽生え、お互いに優劣を付け合うようになります。進学先が上位校であればあるほど、人としても優れているという価値観になっていくんですね。その価値観のまま受験を経験して中学に進学した結果、不適応を起こすケースが大半なんです。落ち着いた先が第三、第四志望の学校で、「こんな学校に来るはずじゃなかった」「自分は失敗した」と、敗北感や自己否定感を持ったまま入学し、学校が自分の居場所だと感じられない生徒も多くいます。

—— 受験勉強を頑張った末、燃え尽きてしまって行けなくなるケースもあるのですか?

燃え尽きているというよりも、周囲の大人から競争を強いられ続けることへのストレスや、入学時点から挫折感を味わい続けるストレスが溜まり続けた結果、動けなくなってしまうケースがほとんどです。第二、第三志望以降の学校であろうと、公立中学校であろうと、自分で納得して入学できていれば、人間関係などのトラブルはある程度は保護者や学校に相談をして、乗り越えやすくなります。しかし、最初からネガティブなイメージで通っていると、乗り越えられるはずのトラブルも大きな不安材料となって抱え込み、不登校につながってしまいます。

—— 私立中学校の生徒の場合、受験の結果を本人や家庭でどう受け止めるかが大きなポイントとなりそうですね。

受験後に不登校につながる主な背景

校風とのミスマッチ

第一志望以外への進学による挫折感

学力競争へのプレッシャー

家庭での過度な学習管理

中学受験専門塾での価値観を、まず大人が捨てよう

—— 保護者は、中学受験を経て進学した子どもに、どのように接していけばよいのでしょうか。

まず、中学受験塾では、保護者が勉強を管理するのが当たり前になっている場合が多いので、そこからの脱却が大切です。スケジュール表を作って塾の課題をさせるのも保護者、課題の答え合わせや間違えた問題の解き直しも保護者がつきっきり、モチベーションまで保護者が管理し、成績が悪ければ保護者のほうが焦る。中学受験塾におけるこうした「当たり前」から抜け出せなければ、子どものストレスはいつか爆発します。保護者による管理を続けると、子どもの成功も失敗も子ども自身のものではなく、保護者のものになっていき、子どもの成長やメンタルに悪影響を及ぼしていきます。

—— 過干渉に注意するということですね。

はい。過干渉を助長する環境になってしまっている塾もあるので、注意が必要です。思春期は本来、自立を促していくべき時期なのに、逆行してしまうんです。また、過干渉になりがちな人は、もともと不安になりやすい性質であることが多いです。さまざまなことに不安を抱えやすいために、「こんな学校に行くべき」「受験勉強はこうすべき」「子育てはこうすべき」と、「べき論」に振り回されがちです。成功者に見えるような人が言う「べき論」をもとに、「そうならなければ我が子は幸せになれない」と思い込んでしまい、過干渉になっていく。子どもを思っての行動なのですが、本来、自分の幸せや成功は本人が決めるものであるという前提を忘れてしまいがちなんですね。

—— 周囲の大人が「偏差値が高く、有名な学校に行ったほうが勝ち」という価値観から抜け出すことも重要になるのでしょうか。

そもそも、第一志望以外の学校も、きちんとリサーチをして、「この学校はこんなところがいいよね」「この学校も楽しく過ごせそうだね」と、どの学校に行っても充実した学校生活が送れるイメージを持って受験をしてほしいと思います。受験は水物ですし、一回の不合格でその先の人生がすべて不幸になるわけがありません。本人が「この学校のここがいい」「ここなら頑張れそう」と思いながら通えるように、家庭内でよく話して進学することが大切です。

—— 劣等感を持たせるような声がけをしていないか、保護者が見直すことが重要ですね。

実際、中学受験塾に通い始めると、「公立に行く子はカス」「○○中はあり得ない」などと平気で口にしてしまう小学生もいます。これは明らかに大人の影響です。こうして偏差値で優劣をつける価値観に染まってしまうと、いずれ子ども自身が苦しい思いをするようになっていきます。その状態で不登校になるとなおさら、「自分はもう生きていけない」「価値がない」と思い込み、メンタルの立て直しが難しくなります。

受験時の生活習慣や価値観を見直すことがポイント

子どもの不調を感じたら、まずは睡眠の見直しを

—— 不登校が始まるタイミングとしては、やはりゴールデンウィーク明けや夏休み明けなど、長期休暇の後が多いのでしょうか。

はい。最初は頑張って通えていても、ゴールデンウィークが終わり5月、6月頃から息切れをしてしまう生徒は多いです。また、私立中学校の生徒の場合、家の近くではなく電車やバスなどを使って数十分や1時間ほどかけて通う生徒も少なくありません。毎日通ってみたら通学が精神的にも肉体的にもつらくなってしまうケースもよくあります。その疲れが溜まって5〜6月に疲弊してしまったり、1年生の間は頑張って通えたけれど、2年生からいよいよ無理、となってしまう生徒もいます。

—— 子どもの行き渋りや、メンタルの落ち込みを感じたときには、保護者はどうすればいいのでしょうか。

まず、中学受験を経験した生徒は生活リズムが崩れていることが多いので、生活習慣を見直してほしいです。日常的に夜9時や10時まで塾で勉強して、その後夕食、少し課題を進めて就寝は深夜0時など、小学生の間にすでに健康を損なうスケジュールで生活してきた生徒も少なくありません。その生活時間のまま、通学のために早く起きなければならなくなり、睡眠時間がさらに削られていることが、メンタル不調につながっているケースがかなり多いんです。

—— まずは睡眠時間の確保が必要ということですね。

中学生であれば、8時間は睡眠時間が必要です。体の健康とメンタルの健康はリンクしていますので、疲れが見えているようなら、まずきちんと寝かせることが必要です。

—— ゲームやスマホなどで睡眠時間を削ってしまう生徒も多いかと思いますが、どうすればよいでしょう。

そこでゲームやスマホを禁止するのではなく、学習に集中するためにも、前向きな姿勢をつくるためにも、もちろん体の健康のためにも、まずは睡眠が重要であることをきちんと伝えてください。一方的に取り上げるのではなく、どうしたら8時間の睡眠を確保できるか話し合うことが大切です。不調が見えていたら、あえて学校を休ませる勇気も必要です。「今日は学校を休んでゴロゴロしない?」と、小さな疲れの間に体力を取り戻していってもらいたいと思います。子どもには無限にエネルギーがあるかのように思えますが、疲労は何歳でも溜まりますので。

—— 友達とのトラブルや、学校への不満などがある場合は、どう受け止めたらよいでしょうか。

まず、家で愚痴を言える環境にしておくことです。睡眠と食事がしっかり整っていて体が健康で、家庭が安心できる場所であれば、多くのトラブルや不満は自分で乗り越えることができます。保護者が子どもの気持ちを受け止めて、家でエネルギーを回復できる状態になっていれば、また元気に外に出ていくことができます。子どもの言葉をオウム返しするだけでもいいので、気持ちを否定しないことが大切です。学校を休む選択をした場合も、大人は「行かないと将来大変なことになる」「高校や大学への進学が難しくなるよ」などと言いがちですが、そこをこらえて「休みたいんだね」「ゆっくりしよう」と受け止めてほしいです。

保護者が気をつけたいポイント

睡眠時間を確保する

子どもの愚痴を否定しない

学校を休む選択も認める

偏差値中心の価値観を見直す

子ども自身の意思を尊重する

—— そもそも、不登校になったからといって将来幸せになれないわけではありませんしね。

今は、学校の外にもフリースクールのような居場所もありますし、高校も通信制高校など、たくさんの選択肢があります。今の時代は、不登校になったからといって、その後の選択肢がなくなるわけではありません。保護者も「子どもと一緒に過ごせる時間が増えた」とポジティブにとらえていいと思います。

—— 子どもの不調の前に、保護者がまず自分の価値観やメンタルを変えていくことが大切ですね。ありがとうございました。

取材協力

成田奈緒子先生

文教大学教育学部教授、小児科専門医、医学博士、公認心理師、「子育て科学アクシス」(https://www.kk-axis.org/)代表。
豊富な臨床経験と米国セントルイスワシントン大学医学部などでの基礎研究の知識をもとに、基礎的な医学知識から実際の教育現場で役立つ子ども・保護者支援の実践方法まで幅広く教育。また、脳科学・生理学・心理学を融合した幅広い分野での研究活動、特に自身が主宰する「子育て科学アクシス」での臨床研究活動を精力的に行う。
近著に『子ども脳疲労: 不機嫌・ダラダラの原因は「脳の疲れ」だった』(日本文芸社)、『その「習慣」が子どもの才能をダメにする』(SB新書)などがある。

<取材・文/大西桃子>

この記事を書いたのは

大西桃子
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。
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