
「今の学校環境のままで、子どもは自分らしく高校生活を送れるのだろうか」
「地元以外にも、挑戦できる進学先はあるのだろうか」
そんな思いを持つ家庭にとって、都道府県を越えて地方の高校で学ぶことができる「地域みらい留学」は、新しい選択肢のひとつです。
2019年度にスタートして以降、地域みらい留学への注目度は年々高まり、現在の参画校は36道府県・約190校にも上っています。
少子高齢化が進む地方において、生徒数が減少していく公立の高校に新しい風を吹き込む役割も担っており、留学生たちは地域のコミュニティに関わりながら、その土地ならではの体験を通じて成長していきます。
「通信制高校ナビ」では2023年にも地域みらい留学を取り上げ、各校の特色や体験談を紹介しました。当時の累計留学者数は約1600人。3年経った現在は、累計約5000人以上の生徒が留学を経験しています。
【2023年の記事はこちら】
都道府県を越えて地域の学校で学べる「地域みらい留学」とは?
今回は、地域みらい留学の広がりや、実際に留学を選んだ生徒・卒業生の声を、7月に開催された合同説明会「地域みらい留学 日本まるごと高校フェス」の内容も含めてお伝えします。
地域の特色を活かしたカリキュラムも魅力
まずは地域みらい留学を運営する、島根県松江市の一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームに、留学者数や参画校が大きく増加し続けている背景について、お伺いしました。
「参画校は毎年増え続けており、2026年度は約190校に上っています。年々留学者数が増えているだけでなく、その生徒たちが地域にそのまま残ってくれたり、地域みらい留学での経験をもとに活躍してくれたりする実績が、自治体が参画を決める大きな理由のひとつとなっています。地域みらい留学を始めたことで、廃校を免れた高校も出てきています。また地域の企業と連携したプロジェクトなどもあり、地域全体が盛り上がっていくきっかけにもなっています」(マーケティング担当・丸谷正明さん・以下同)
留学者数は現在累計で5000人ほどとなっており、多くは首都圏や地方の都市部から集まっているとのこと。昨今「学びの多様化」「探究学習」が教育のキーワードになっていることや、大学の総合型選抜入試の拡大も、留学者数増加の後押しとなっているそうです。
「最近では中学3年生だけでなく、小学生が説明会に来ることもあります。留学に興味を持つ生徒たちは、地方の環境に興味があり挑戦意欲を持っている生徒、今とは違った場所に自分を活かせる環境があるのではないかと期待を寄せる生徒、不登校などを経験して環境を大きく変えたいと考える生徒の大きく3パターンに分けられると思います」
留学生たちは学校や自治体が管理する寮や、地域住民の家庭へのホームステイ、シェアハウスなどで生活をすることになりますが、人気なのは寮生活で、最近では寮を新設する学校も出てきているとのこと。授業内容も、少人数学級で学べるというだけでなく、その地域ならではのさまざまな特色を打ち出したカリキュラムを整えている高校が増えているようです。
「愛媛県立長浜高校では全国で唯一の水族館部があり、校内で生徒たちが“長高水族館” を運営しています。また、福井県立勝山高等学校では恐竜や地球科学を学べる特別科目“ジオ探究”や、福井県立大学恐竜学部と連携した授業などが行われています。熊本県立球磨(くま)工業高等学校の建築科・伝統建築コースでは、元宮大工から神社仏閣などの木造建築技術や文化財修復技術を学ぶことができます。地域みらい留学は、自然豊かな場所で学べるだけでなく、その土地ならではの授業が多く、新たに挑戦したいことを見つけて進学してくる生徒が多いのです」
実際に合同説明会に足を運んでみると、各校がそれぞれに特色を打ち出したブースを出展しており、訪れた生徒たちが、興味を持ったブースで熱心に話を聞く姿が見られました。
「合同説明会には現地で在学中の生徒や卒業生が来ている学校も多く、実体験を聞いたり、留学したら実際に一緒に過ごすことになる先輩と話したりすることで、留学生活のイメージが固まっていくと思います。合同説明会である程度志望校を絞れたら、次は実際に現地訪問をして、そこで3年間暮らせるか確認していきます。興味のある人は夏休みから秋にかけて、説明会や現地訪問に参加してみてほしいです」
7月25、26日に行われた合同説明会では、生徒や卒業生からもお話を伺うことができました。今後(8月、9月)開催される合同説明会に参加を検討している方にとっても、参考になるはずです。

自然あふれる環境やインターンで、前向きに挑戦できる自分になれた
山形県立遊佐(ゆざ)高校・2年生の石塚柊丞(いしづか・しゅうすけ)さんは、中学校まで過ごした神奈川県を離れ、高校では地域みらい留学を選択。その理由をお伺いしました。
「中学時代まではチャレンジしようとして周りからバカにされたことがあり、前に出ることが怖くなり、無気力になっていました。そんなときに、親から地域みらい留学のことを聞いて、自分を変えられるのではないかと興味を持ったんです」
遊佐高校に決めた理由は、1泊2日の体験プログラム(現地訪問)での先輩や周囲の大人たちとの関わりだったそうです。
「体験プログラムはほとんどの人が保護者同伴で来ていたのですが、僕は一人で参加しました。一人で過ごすことに抵抗はなかったのですが、地域の人たちがすごく優しく関わってくださって、人間関係の温かさを感じました。今は、シェアハウスという形で他の留学生と一緒に生活していますが、仲間同士で支え合ったり、コーディネーターさんがサポートしてくれたりと、人との関わりを本当にありがたく感じています」
遊佐高校では海に行ったり地元の名所・胴腹(どうはら)の滝を訪れたりする郷土探訪や、地元企業でのインターンシップなど、地域ならではのカリキュラムが導入されています。石塚さんはその中で、自身の大きな成長を感じているようです。
「以前は失敗を恐れて挑戦することを避けていましたが、遊佐高校ではチャレンジする楽しさを知り、失敗よりも“楽しそうだからやってみよう”という気持ちで動けるようになりました。人前で話すことにも抵抗がなくなり、自分が変わったことを実感しています」
卒業後の進路も、山形に残って地域の人たちともっと関わってみたいと考えているとのこと。地方ならではの温かいコミュニティや、都会や大規模な学校ではできないさまざまなチャレンジが、高校生たちを大きく成長させていくようです。

一人ひとりに役目が与えられる地方留学生活
現在、オランダの大学に通う佐藤皓太郞(さとう・こうたろう)さんは、保護者の転勤に伴って各地を転校しながら中学校までを過ごしてきました。高校では地域みらい留学で、高知県立嶺北(れいほく)高校へ進学。地域みらい留学を選んだ理由としては、日本の偏差値教育に対する違和感があったそうです。
「偏差値での競争を頑張るよりも、人間力を身につけることが社会に出てから役立つと考えていました。勉強はやれば比較的短期間で結果に現れますが、人間力を上げることのほうが難しく、時間のかかるものです。高校生活では人として成長する機会を重視したいと考えました」
地域みらい留学の合同説明会では、最初は嶺北高校が紹介していたカヌー部に興味を持ったと言います。
「嶺北高校では早明浦(さめうら)湖で活動するカヌー部があり、町のバックアップを受けて活動しています。先輩の中には、地域を離れて大学に進学しながらもカヌーを続け、大学卒業後に町に戻ってカヌー教室を開いている人もいます。興味を持ったのはそれだけでなく、地元の食事が美味しかったことも魅力でした。何と言っても現地訪問で食べた“土佐あかうし”が本当に美味しくて、それが嶺北高校への進学を後押ししました」
佐藤さんは留学生としては2期生にあたり、入学当時は1期生の先輩が9人、同期生は8人が県外から来ていたそうです。寮生活もまだ手探りで整備していく時期で、「大変なことも多かった」と話します。
「当時は大人たちも、留学生を受け入れながら手探りで環境整備をしていく状況でした。僕は自治寮の寮長となり、ルールを決めたり、どうしたらみんなが過ごしやすい生活になるか考えたりする役回りでした。一緒に過ごす仲間たちとたくさん話し合い、一人ひとりが役割を持って逆境の中で頑張ってきた経験が、自分の成長につながったと思います。同期だけでなく、寮に併設されている公営塾『燈心嶺(とうしんりょう)』の先生たちも、僕たちに近い距離で支えてくれたのがありがたかったです」
公営塾の先生は、海外の大学への進学を決めた際にも準備をサポートしてくれたり、帰国して嶺北に戻ったときに自宅に泊めてもらったりと、今でも親密な付き合いが続いているそうです。
周囲の大人たちにしっかり向き合ってもらいながら、自分たちの力で生活し、それぞれの生き方を考えていく。そんなかけがえのない高校時代を送ることができるのも、地域みらい留学の魅力です。

都市部からの生徒との交流が、地元の生徒の学びに
北海道標津(しべつ)高校のブースには、地元から進学した2年生の廣木椛月(ひろき・るな)さんと福士理寿(ふくし・りず)さんがガイドとして参加していました。学校内のオーディションを経て、PRが上手な2人が選ばれたのだそうです。
「地域みらい留学では今、1年生5人、2年生4人の計9人の留学生が通っています。道外から来る子たちから都会の話を聞くと、びっくりすることが多いです。私たちは町の体育館で遊んだり、自転車で海に行ったりするのが遊びですが、都会の遊びとは全然違いますよね」(福士さん)
「違う環境で育った子たちと関われるのは新鮮で、気づかなかった標津の良さを知ることもできます。学年をまたいだ交流も多く、留学生たちには楽しく過ごしてもらえたらと思っています」(廣木さん)
標津高校は寮が完備されており、土日には釣った魚を料理してみんなで食べることもあるのだそうです。授業もフィールドワークが多く、野付(のつけ)半島での海洋教育や自然環境学習、ゴミゼロ運動、またアイヌの文化や歴史を学ぶ授業なども。
壮大な自然や特徴ある文化が伝わる地で学べることは幅広く、自分の好きなことを深く掘り下げることができそうです。

★地域みらい留学 日本まるごと高校フェス
地域みらい留学や、新しい環境での学びに興味のある人は、ぜひ合同説明会に足を運んでみてはいかがでしょうか。- 東京開催:8月22日(土)、23日(日)
- オンライン開催:9月12日(土)、13日(日)
詳細はこちら:https://lp.c-mirai.jp/
取材協力
一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム
地域みらい留学事務局
https://c-mirai.jp/
この記事を書いたのは

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。



