都道府県を越えて地域の学校で学べる「地域みらい留学」とは?

教育問題

不登校

2023/03/02


少子化が進む今、全国で入学者が募集人数を下回る「定員割れ」となり、統廃合の対象になりそうな公立の学校が増えていることを知っていますか?

そんな中、県外から生徒を全国規模で募集したり、特色のある学科や部活動を新設したりする公立の高校も増えています。

島根県松江市に事務局を置く「地域みらい留学」は、合同説明会などの広報活動を通じて、そうした高校と受験生をつなげるプラットフォームの役割を果たしています。

「地域みらい留学」では、中学卒業後に対象となる高校に進学して3年間を過ごすだけでなく、在籍する高校とは別の地域で高校2年生の1年間を過ごすプログラム「地域みらい留学365」も2020年からスタートし、国内単年留学も可能となっています。

提供:地域みらい留学

そこで今回は、同団体の事務局の小村弘美(おむら・ひろみ)さんに、「地域みらい留学」の特徴や、自分の住む都道府県を出て進学・留学することのメリットなどをうかがいました。

北海道から沖縄までさまざまな地域で学べる

「地域みらい留学」は、一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームが提供する公立高等学校進学の新しい選択肢です。

多くの中学生にとって進路選択は、初めて経験する人生の分かれ道だと思いますが、その決断は、「自宅から通えるか」「合格できる偏差値か」といったことが判断の材料になることが多いでしょう。その狭い縛りを解き、「都道府県の枠を越えて地域の学校に入学し、充実した高校生活を送る」という選択肢を提供するのが「地域みらい留学」の大きな特長です。

2019年度の入学生を対象にスタートして以降、生徒たちを受け入れる地域・公立高校は毎年10校単位で増え続け、2021年度の入学生は約500人で、参画校は32道県92校に及びます。

具体的には、高校3年間を丸々過ごす「地域みらい留学」と、高校2年時に単年留学する「地域みらい留学365」があり、どちらも東京、名古屋、大阪など都会に住む生徒が多く選択しているとか。

「留学を希望する生徒の動機はさまざまです。『スキー部に入りたいので雪国にある学校に行きたい』という子もいれば、『親元を離れて寮や下宿で生活して自律心を養いたい』という子もいます。また、伝統工芸や地域ならではの環境を活かした学科を設けている学校の人気も高いですね」

と事務局の小村さんは説明します。

地域の特色を活かしたユニークな留学制度

その一例として小村さんが紹介してくれたのが、全校生徒148名、普通科と商業科の2課程を置く鹿児島県立喜界高等学校です。

喜界島は、海で生きたサンゴが作り上げたサンゴ礁がそのままの形で陸になっている島で、日本で唯一のサンゴ礁研究に特化した喜界島サンゴ礁科学研究所があります。
同研究所が募集している「サンゴ留学」に今、人気が集まっていると言います。

「サンゴ留学」とは、喜界高校に通いながら、サンゴ礁科学研究所で学ぶ留学制度。

平日に準備や学習を行い、週末に喜界島のフィールドで実験やフィールドワークの研究活動を行います。そして、研究の成果に応じて、学会発表や論文執筆を目指します。

ただ教えられるのではなく、現地での研究活動を通して、「感じる・見つける・伝える・残す」ことを身につけ、自ら探究する力を養います。

提供:地域みらい留学

もうひとつの例は、日本磁器発祥の地であり、日本遺産にも認定された佐賀県西部の有田町の有田工業高等学校です。全日制課程には、セラミック科、デザイン科、電気科、機械科各1学級があり、有田陶器市をはじめ、地元のさまざまなイベントにも積極的に参加しています。

同校では、全国統一陶芸技能検定(ろくろ検定)、セラミック能力検定、CGクリエイター検定、Webデザイナー検定など多くの資格取得のサポート体制を備えていて、陶芸家や自動車メーカーのモデラ―といった専門職への道を開いています。

中でも窯業研究部の歴史は古く、これまで多くの陶芸家を輩出してきました。

部員たちは、各種展覧会に向けた作品制作に取り組んでいます。特に2008年度からは、隣の長崎県にある波佐見高校陶芸部と、登り窯焼成を行っています。炎を感じながらの焼成は、生徒にとって非常に貴重な体験となっています。

提供:地域みらい留学

不登校から一念発起。離島への留学を決意

中学生時代に不登校だった生徒が「地域みらい留学」を選択する例もあるそうです。

ここでは、公式YouTubeチャンネルのコンテンツのひとつ、「経験者が語る 地域みらい留学」に登場した、北海道礼文高校 3年生の掃部暁里(かもん・あさと)さんの事例を紹介しましょう。

千葉県船橋市出身の暁里さんが不登校になったのは、中学2年生のとき。

高校に進学するにあたり、心機一転、学校生活をやり直そうと決意したものの、進路指導の先生から「市内の高校で行ける可能性のある学校は3校くらいしかない」と言われてしまったそうです。

「そこで、どうせなら地元以外の学校に通って自分を成長させたほうが面白いんじゃないかなと思ったんです」と暁里さんは語ります。

学校を選ぶにあたり、暁里さんが、もっとも興味を惹かれたのが北海道の礼文高校でした。

「県外受験を受け入れている学校の情報を全部で50校ほど見てまわったんですけど、どれもピンとくる学校が見つからなくて。焦り始めたとき、地域みらい留学のイベントブースでたまたま最後に見たのが礼文高校でした」

礼文島は、北海道稚内市の西方60キロメートルの日本海に位置する最北の離島です。暁里さんにとっては「一度も考えたことのない土地」でしたが、礼文高校が海外交流事業としてカリフォルニア州に2週間程度のホームステイを行っていること、パンフレットに載っている美しい自然の写真が頭から離れず、「行きたい欲」がどんどん膨らんでいったと言います。

「2週間後には、両親と一緒に礼文高校に見学に行きました。ただ、困ったのは入試ギリギリのタイミングで、中学の出席日数が足りないため、推薦状をもらえないと言われてしまったこと。でも、どうしても礼文高校に行きたかったので、校長先生に直談判して自分の思いを伝えたんです。『わかりました。君を応援します』と言って校長先生が推薦状を書いてくれたときはホッとするとともに、両親をはじめ、先生方の支えに対する感謝の気持ちが湧いてきました」

提供:地域みらい留学

誰も自分を知らない島で必死に自己アピール

こうして、晴れて第1期留学生として礼文高校に入学した暁里さん。全校生徒は58人で、うち18人の新入生の人数構成は島内生と留学生が「ほぼ半々」だったとか。

「島内生は留学生に対して、『どこから来たの? 千葉ってどんなところ?』とグイグイ質問してくるので、こっちも負けじと必死に自己アピールしまくりました」と語る暁里さんは、部活では放送部に所属。島の職員に代わって島内放送を任されたことで、ちょっとした「島の有名人」になったとか。

「島内の人たちから『いい声だね』、『よかったよ』と褒められたり、『もっとゆっくり読んだほうがわかりやすいよ』なんてアドバイスしてもらったり。学校と島内の人たちとの距離がすごく近くて、地域に見守られているのを感じるんです」

放送部のほかにも、部員の減少で廃部の危機に瀕したバスケ部の一員になったり、2年生からは生徒会長を務めたりと、充実した高校生活を送っています。

「地元の船橋にいたら、絶対に経験できなかったことが島にはあります。不登校になったとき、地元の学校に通って大学に進学し、就職するという人生のレールから外れてしまったなという負い目がありました。でも、レールから外れたことで、人生にはいろんな選択肢がある、可能性があるということに気づけたのはよかったなと思います」という暁里さんの言葉が印象的でした。

提供:地域みらい留学

よく吟味して、自分に合った学校を選ぼう

暁里さんのように、「地域みらい留学」を選択し、不登校を克服する例は決して少なくありません。でも、もちろん、克服に至らない例もないわけではありません。

そうならないための注意点は、「進学先の環境や制度をよく吟味すること」だと事務局の小村さんは言います。

「ひと言で『地域みらい留学』といっても、受け入れ先の地域、学校の制度は個別に異なります。ですから『必ず現地を見学して、確かめてください』とアドバイスしています」

地域みらい留学では、基本的には親元を離れて生徒のみで生活する形になりますが、住居は寮監やハウスマスターが管理する寮を設けているケースもあれば、そうでないケースもあります。

地域によっては寮がなく、アパートを借り上げて提供しているところや、ホームステイ形式で地域住民の家庭に下宿する形をとっているところもあります。

そうした環境の違いは、実際に現地に足を運んでみないとわかりません。

「都会の高校には、スクールカウンセラーやソーシャルワーカーなどがいる高校が多くありますが、地方の高校にはいない場合もあります。進学校を選択する場合でも、進学塾が地域にないケースが多くあり、その補填策として地域が運営する公営塾を設けているところもあります」と小村さん。

ともあれ、進路選択という人生の分かれ道を選ぶにあたって、「地域みらい留学」は魅力ある選択肢のひとつであることに変わりはありません。
うまく活用すれば、今の環境とは違う高校生活が送れるかもしれません。

人生にはたくさんの選択肢があります。高校選択自体も大きな選択のひとつですから、自分で道を狭めず、まずは色々な選択肢を調べてみることからはじめてみてはいかがでしょうか。

取材協力

地域みらい留学

一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームが提供する公立高等学校進学の新しい選択肢。高校魅力化プロデューサーの岩本悠氏が2006年、学校存続問題に揺れる隠岐島前高校(島根県)で行った魅力化事業を前身として、これを2017年から全国規模に拡大して現在に至る。2020年4月からは内閣府(まち・ひと・しごと創生本部)との協働事業として、日本初の高校2年時の国内単年地域留学「地域みらい留学365」がスタートした。

<取材・文/内藤孝宏>

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この記事を書いたのは

内藤 孝宏
フリーライター・編集者

「ボブ内藤」名義でも活動。編集プロダクション方南ぐみを経て2009年にフリーに。1990年より30年以上で1500を超える企業を取材。また、財界人、有名人、芸能人にも連載を通じて2000人強にインタビューしている。2男1女の父。次男は不登校を経験している。