
ここ数年、医薬品の過剰摂取(オーバードーズ、以下OD)が、若者の間で広がっています。一部のSNS上では「今日は〇錠キメた」「ODでとべる」「今からODします」といった言葉が毎日のように飛び交っているのが見受けられます。
東京都では2024年、ODで補導された少年少女が前年の約2倍に増加し、その約7割が中高生だったとのこと。厚生労働省研究班による2024年度の調査でも、中学生の55人に1人がODの経験があると回答しています。
では、子どもたちはどのような経緯でODに至っていくのでしょうか。また保護者を含め、周囲の大人はどのように見守り、防いでいけばよいのでしょうか。
今回は、精神科医で国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長の松本俊彦先生に、10代によるODの実態を詳しく聞いてみました。
背景にはドラッグストアで気軽に手に入る環境も
—— 中高生の間で、ODが広がっていると言われています。実際に、増加は深刻なのでしょうか。
松本先生:はい。コロナ禍の前から増え始めていましたが、2020年にコロナ禍による緊急事態宣言が発令されてからさらに増加しました。「ステイホーム」と言われても、家の中に居場所がないと感じている子どもにとっては、そこは地獄です。ただ家にいるだけでなく、コロナ禍で高まっている家庭内の緊張を、子どもが受け止めることになったケースも多かったと思います。学校で傷つく子どももいれば、学校があることで生き延びていた子どもも多いと気付かされたのがコロナ禍でした。以前はそうした子どもたちの間ではリストカットが広がっていましたが、自傷行為の別の形としてODも広まってしまったのです。
—— 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所による調査(https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001062521.pdf)を見ると、精神科医療施設における市販薬を主たる薬物とする依存症患者の数が、2012年から2020年にかけて約6倍に増加していますが、それ以降さらに増えているということですね。家庭内に問題を抱えている子どもたちがODに陥ってしまっているのでしょうか。
松本先生:もちろんそれだけでなく、いじめなどの被害を受けた経験や、学校からのドロップアウト、発達障害など、さまざまな生きづらさやメンタル不調を抱えた子どもたちがいます。以前はリストカットだけだったのが、SNSなどを中心にODという方法もあると知って、抱えている苦痛から何とかして逃れよう、和らげようとODをしてしまっているのが現状です。
—— ODが身近になってしまった背景としては、SNSでの拡散の他にはどのようなものが考えられるのでしょう。
松本先生:ドラッグストアが街中に増えたことが一因です。今や、コンビニよりもドラッグストアのほうが数が多く、子どもたちにとっても身近なスポットとなっています。自分の容姿に自信が持てず、早くからメイクをする子が増えていますが、10代の子がメイク用品を買うのはドラッグストアです。
ODの背景要因
- 家庭内の問題
- いじめ・不登校
- 発達障害・メンタル不要
- SNSによる情報拡散
- ドラッグストアでの入手のしやすさ など
—— 身近な場所で、簡単に医薬品が手に入る状況ができてしまったわけですね。
松本先生:以前は、薬剤師がいなければドラッグストアを開店することはできなかったのですが、2009年から登録販売者という資格ができました。市販薬は1類、2類、3類に分けられており、このうち1類は薬剤師が対面で説明して販売しますが、市販薬の95%を占める2・3類は店舗に登録販売者がいれば売っていいことになったのです。ODに使われる市販薬は2類で、簡単に手に入るようになっています。市販薬はインターネットでも買えるようになっていますが、ODをする子はみなドラッグストアで入手しています。18歳未満の場合は一店舗につき小容量の市販薬を1つまでしか購入できませんが、少し歩けば別のドラッグストアに行けるので、実際は複数店舗でいくらでも購入できてしまうのです。
—— 処方箋がなくても簡単に入手できるため、保護者に気付かれることもありません。個数の規制をしても店舗数の増加によって意味をなさない状態になっているのですね。

最初は用量を守っていても次第に過剰摂取に
—— 市販薬を使ったODには、どのような危険性があるのでしょうか。
松本先生:ODに使われる市販薬は咳止めや風邪薬、痛み止め、睡眠導入剤、抗アレルギー薬などがありますが、それらの中には麻薬成分や覚醒剤成分が含まれているもの、身体へのリスクが高すぎて今日医療の現場では使われなくなっているものもあります。麻薬や覚醒剤の成分は、薄めれば市販薬に入れてもいいことになっていて、こうした成分が気持ちのつらさを和らげたり、意欲を高めたり、食欲を抑えてダイエット効果を発揮したりします。そのため、普通に学校に通いながらも何かしら苦しさを抱えていて、それを和らげながら勉強や部活を頑張るために薬を使用する子も多いのです。しかし、最初は用法用量を守っていてもすぐに効かなくなります。そこで同じ効果を得るために2倍、3倍と量が増え、ODに陥っていきます。本当はその薬では治せない傷を癒すために飲んでいるので、根本的な解決にはならず、ODが続くことになるのです。
—— その結果、致死量にいたって亡くなってしまうケースもあれば、酩酊状態になったり、内臓を悪くしたりと、健康に重大な影響が出るのですね。
松本先生:麻薬や覚醒剤の成分が入っている市販薬の場合、人によっては幻覚や幻聴が現れることもありますし、かなり深刻な依存が形成されてしまった結果、急に断薬をするとかなり激しい離脱症状が出現することもあります。何よりも、ODの酩酊により衝動性が高まり、死や痛みに対する恐怖感が吹っ飛んだ精神状態の中で自殺行為に至ってしまう人が少なくないのです。しかしその反対に、急に薬を断てば、今度は離脱症状によって鬱状態が悪化したり、あるいは、もともとODで紛らわせていた「死にたい気持ち」が表面化したりして、自殺行動に至ってしまうこともあるのです。
—— ODを繰り返している場合には、急にやめるのも危険だということは、覚えておいたほうがよさそうですね。
「やめなさい」はNG、まずは保護者が相談機関へ
—— では、子どもをODから守るために、保護者や周囲の大人はどうしたらよいのでしょうか。
松本先生:家庭で虐待を受けているなどのケースでなくても、自分には価値がないと思い込んでいる子は、忙しそうな保護者の時間をとってまで相談しようと思えなかったり、心配をかけてはいけないと思っていたりします。それぞれの形で、保護者に相談できない理由があると、ODを実行する前に保護者が先回りして気付くのは難しいと思います。相談をしても、「頑張れ、あなたなら乗り切れる」という励まし方をされて困難を解決できず、相談しても意味がないと思ってしまう子どももいます。
—— 普段から小さな悩みでも相談できる、気持ちを受け止めてもらえる家族関係があるかどうかが、第一関門ですね。
松本先生:健康に生きてきた大人は、自分が思春期だった頃のことを忘れてしまいます。だから、相談されても「やめなさい」と言ってしまうのです。2025年3月に厚生労働省が「ODするよりSD(相談)しよう」というフレーズで広告動画を作って物議を醸しましたが、それがいい例です。当事者からしたら、相談したら傷ついた経験や、相談できない状況があるから、ODによって乗り越えてきたわけですが、その気持ちを理解できなくなってしまう大人がほとんどなのです。「大人に相談するより薬のほうが安全だ」「人は裏切るけれど薬は裏切らない」と思ってしまう子どもの気持ちを、想像する力が必要です。
—— 相談できていたらそもそもODは必要ありませんね。もしかしたら市販薬に頼ってしまっているかも、というSOSの現れ方はありますか。
松本先生:勉強のペースが落ちる、落ち込んでいるときと元気なときとの差が激しくなる、食欲がなくなる、お金使いが粗くなるといったケースがあります。市販薬をたくさん買わなくてはならないので、お金のトラブルが起きたり、パパ活に手を出してしまったりする子もいます。
ODのサイン(SOS)
- 勉強ペースの低下
- 気分の波が激しくなる
- 食欲低下
- 金銭トラブル など
—— ODに気付いたら、どうしたらよいのでしょうか。
松本先生:多くの大人は「やめなさい」と言いますが、そう言われるのがわかっているので子どもは打ち明けることができず、こっそりとODをしてしまうのです。もし話してくれたなら、「正直に言ってくれてありがとう。どんなときに薬が必要なの? どんなメリットがあるの?」と、ODせざるを得ない状況をまず理解することが大切です。
—— いきなりやめさせようとしてはいけないのですね。
松本先生:前述のとおり、急に断薬をすることで離脱症状が出ることもありますから危険です。そもそもODは、「今すぐ死にたい」気持ちを紛らわせて、死を少し延期しているだけにすぎません。急に手放せば、死が近づくだけです。発見したときに頭ごなしに叱責するなどは、逆効果になるだけです。
—— 話を聞いて、精神科や心療内科などの医療機関に繋げればよいのでしょうか。
松本先生:いきなり医療機関に連れて行かれることに子どもは納得しないでしょうし、医療機関に繋がっても根本解決にはなりません。まずは、子どもではなく保護者自身が相談機関に繋がることが大切です。まずは各都道府県に設置されている「精神保健福祉センター」に行ってみてください。心の問題に特化した保健所のような場所ですが、そこに家族が相談に行くことで、どう対応していけばいいか助言をもらえます。ODは急にやめられるものではありませんから、1回行くだけではなく継続的に通うことが重要です。
—— 状況を見極めながら、焦らず徐々に改善していくことが大切なのですね。
松本先生:まずは少しでも量を減らすこと、より安全なODにすることから始めていきます。医療機関に繋げるにも、どのタイミングがいいか、どんな言い方がいいか、相談しながら進めていきましょう。そのうちに進学などの転機でパッと手放せることもありますが、基本的には数年間など長期の対応になると考えてほしいです。その期間を保護者の力だけで踏ん張っていくのは難しいので、保護者を支援してもらうことも重要です。
—— たしかに保護者も、自分のせいだと責めて、つらくなってしまいそうです。
松本先生:しかし、子どものODがわかったことで、家族がよりよい形になるチャンスだととらえることもできます。どんな家庭にも問題はあるはずで、それが目に見えたのですから、真摯に向き合うことが大切です。専門機関に相談しながら、両親がケンカばかりしていたり、忙しくてコミュニケ—ションがおろそかになっていたりといった状況を、改善するきっかけにしていきましょう。
保護者が取るべき初期対応
- 頭ごなしに否定しない
- まず理解する
- 保護者自身が相談機関へ行く
—— 悲観的にならず、冷静にゆっくり対応していくことが大切ですね。ありがとうございました。
取材協力

松本俊彦先生
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所部長/国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター病院 薬物依存センター センター長。日本精神科救急学会理事、日本社会精神医学会理事、日本アルコール・アディクション医学会理事、日本学術会議アディクション分科会特任連携委員。著書に『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)、『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』(講談社)などがある。
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。
通信制高校・サポート校を探す
ピックアップ
「ありえない」そう思っていた通信制高校へ進学を決めた家族の理由
【詳しく知りたい!】サポート校と通信制高校の違いってなに? 中央高等学院...
通信制高校多すぎ! どの学校に行くべきか選べないあなたへ
通信制高校を知って道が開けた 鹿島学園 先輩インタビュー
「自分でいいイメージに持っていけばいい」卒業生が語る通信制高校で学んだ...
通信制高校から専門学校へ―「不利」が武器に変わる3つの視点
人気記事
名前を変えるのは意外と簡単? 改名の手続き方法を専門家に聞いてみた
セックス経験のある高校生は10%超 学校では教えてくれない「性」の本当の話
頭の中を埋め尽くす「罪悪感」をどう解消する? 心理学の視点から考える、...
世界は9月! なぜ日本は4月に新学期がスタートする?
【大人の失敗から学ぼう Vol.02】受験失敗で自殺を考えた過去… 未来を変えた...
通信制高校・サポート校を探す
- Home
- 当事者インタビュー・調査
- 専門家に聞く
- 10代に広がるオーバードーズ、保護者はどう向き合えばいいのか




