子どもたちが苦しいとき、SOSを出すには? YouTubeで社会的養護について伝える「THREE FLAGS」

先輩に聞く

2021/01/30

子どもたちが苦しいとき、SOSを出すにはどうしたらいいのでしょうか?

苦しい状況に置かれている子どもたちは意外と身近なところにいて、もしかすると普段気づかれていないのかもしれません。特に昨今のコロナ禍では、「学校に行きたい」「行事ができなくて残念」といった悩みや、「痛い思いをしている」「お腹が空いた」「家のなかで喧嘩が絶えない」といった苦しさなど、さまざまな思いにさいなまれている子どもたちがいることでしょう。

今回お話を伺うのは、YouTubeチャンネルで「社会的養護」に関する発信を通して「後輩たちが希望を持てる情報を届けること」を目指す、「THREE FLAGS」のみなさんです。

「THREE FLAGS」が発信する社会的養護とは?

THREE FLAGS」は、児童養護施設で育った経験のあるBROさん、まこちゃん、ライトさんの3人による情報発信番組をしています。

虐待を受けたことや、苦しさを伝えられなかったこと、周りの大人に助けられたことを経験した“先輩”から、「SOSを出すこと」のヒントをもらいます。

社会的養護とは?

保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことです。 社会的養護は、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子どもを育む」を理念として行われています。

こども家庭庁ウェブサイトより)

“遊びに行こうよからSOSへ”をコンセプトに

「僕はこうだったから大丈夫、と気軽には言えないんですよね」(BROさん)

BROさんは現在、子どもたちの支援を行う団体で理事を務めながら、YouTubeチャンネルにおける発信、タレント・モデル業の活動をしています。過去には虐待を受け、一時保護所や児童養護施設で過ごした経験があります。

BROさん(ブローハン聡さん・画像左)。1992年生まれ 東京都出身。フィリピンとスペインと日本のミックス。フリーでタレント、モデル、弾き語り配信、児童養護施設出身者としての講演活動に取り組む。ジュノンボーイコンテストや東京ボーイズコレクションに出場。

「義父から壮絶な虐待を受けていましたが、SOSを出すことができませんでした。絶対的な権力者だった義父に反抗したら命を脅かされると思っていたので、SOSを出すこと自体が“大きな賭け”になっていたんです。毎日、母が神様に祈っても助からなくて、自分のことは自分で守らなければならないんだと感じました」(BROさん)

虐待や貧困の渦中にあっても、さまざまな理由で社会的養護に入っていない子どもたちは数多く存在していると言います。子どもたちは支援の網に手をかけても、子ども自身が「大丈夫」と言ってしまったり、子どもの声が大人にかき消されてしまったりして離れてしまうこともあります。

「僕が周りを頼れるようになったのは、大人になってからです。1人でなんとかして生きていこうとしていてもまわらなくなってしまって、『児童養護施設 助けて』と検索していました。見つかったアフターケア事業団体にSOSを出そうとしましたが、そのとき数百字のメールを書いたのに、送信ボタンを押すことができなくて。会ったことのない人に自分をさらけだす怖さがあったんです。しばらくして、偶然当事者の友人に誘われて、そこへ遊びに行ったことがきっかけで、自分のことを話せました。

僕は、『遊びに行こうよからSOSへ』をひとつのコンセプトにしています。いきなりSOSを出すには勇気がいるので、まずは“遊びに行こうよ”と言えるような、ハードルの低い横のつながりが大切だと思います」(BROさん)

SOSを受け止めてくれる大人の大切さ

「私はSOSを出したときに、存分に受け止めてくれる大人が身近にいたことが良かったです」と語るのは、生後4カ月から乳児院と児童養護施設で育ったまこちゃんです。

まこちゃん(山本昌子さん・画像中央)。1993年生まれ 東京都出身。生後4カ月から2歳まで乳児院、2歳~18歳まで児童養護施設、18歳から19歳まで自立援助ホームで生活した経験を持つ。”ACHAプロジェクト”という児童養護施設出身者の成人をお祝いするボランティア活動の代表を務める。

現在、国の方針として児童養護施設は小規模化が推進されていますが、まこちゃんは当時としては先進的だった小さな施設での暮らしを、ポジティブな体験として振り返ります。

「周りの大人からは『あなたはSOSを出すのが上手だ』と言われていました。生後4カ月で保護され、子ども時代には小さなホームに安心できる空間があったので、存分にSOSを出すことができました。

私の場合は、施設を出たあとの18〜22歳の頃が辛かったです。喪失感や、愛着関係への疑問を抱いてしまったんですね。ただ、最初に働いた居酒屋では生い立ちや目標、困りごとを伝えて、保育士の専門学校に通うために1年で100万円貯めました。“助けてほしい”、“ここに困っている”と具体的に伝えていくことに意味がある、と子どもの頃から知っていたのが大きかったです」(まこちゃん)

代表を務めるACHAプロジェクトでは、児童養護施設の出身者に、振袖や袴を着た成人式の前撮りの機会を提供しています。原点は、成人式で振袖を着るのを諦めてしまったまこちゃん自身の体験でした。

「施設で育つと基本的に集団生活になるので、私自身も『自分を見てほしい』と求める気質があったと思います。でも、振袖は諦めてしまっていました。みんなには『あなただけのお祝いの時間だよ』と伝えたいので、できる限り1回の撮影につき1人だけに絞っています」(まこちゃん)

子どもたちは誰でも大切にされなければならない存在

「子どもたちは全員が大切にされる権利があります。でも、閉じられていて、見えないものになってしまうんです」と語るライトさんは、小学5年生から社会的養護を経験しました。

ライトさん(西坂來人さん・画像右)。1985年生まれ。福島県出身。 小学5年生〜6年生の時期を児童養護施設で過ごす。中学生に上がると同時に家庭復帰し、それ以来母子家庭で育つ。東京を拠点に映画監督、絵本作家として活躍。児童養護施設の子どもたちと絵本づくりを通して自己肯定感を育む活動や、広く一般の方に児童養護施設を退所した後の若者達の現状を知ってもらうきっかけになる映画を制作し、講演活動も行っている。

「父の虐待の影響で、一時保護所を経て、児童養護施設に移りました。最初は学校にも行けなくて、唯一の頼れる大人だった母とも引き離されるかもしれないと思うと、不安で仕方なかったんです。

でも、5人兄弟の一番上だったので『お兄ちゃんがしっかりしないと』と思い、抱き合って『大丈夫だよ』と言っていました。雪が降っている寒い日で、暗くてじめじめしていて、より不安が募りました。世の中から隔離されて、見えないように押し込められている感じがしたんですよね」(ライトさん)

そうした原体験から、ライトさんは今、映画監督・絵本作家としてさまざまな作品を発表しています。『レイルロードスイッチ』では、児童養護施設出身者を描きました。

「劇映画では、いろいろな仕掛けや情報を散りばめられるので、感情移入してもらったり、問いを埋め込んだりすることができます。ひとつのエンターテインメントとして楽しんでもらい、興味を持ってくれた人は掘り下げてもらえればと考えています。一方のYouTubeでは、自分で顔を出して当事者として語るからこそ説得力や信頼性があると感じています。

社会的養護にいるときの課題、巣立ったあとの課題が山のようにあるのに、全然伝わっていないなと感じているので、興味をもってもらうきっかけを多く作りたいですね」(ライトさん)

また、ライトさんは国連が定める「子どもの権利」に関する絵本を作って子どもたちに届けたいと考えているそうです。

「子どもたちは生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利を持っています。子どもの権利は義務とセットではなくて、みんなが無条件に持っているものなんですね。実は1990年代から『子どもの権利ノート』が児童養護施設に配られていて、少しずつ認知が広がってきてはいますが、まだ十分とは言えません。

虐待を受けていても、それが虐待だと気づかない子どももいます。『大人たちも間違えることがあるんだよ』『子どもたちの話を大人は聞かないといけないんだよ』ということを知ってもらいたいなと。

僕自身は、いい子ちゃんになってしまって、弱みを見せられなかったんです。僕みたいに主張が少ない子どもは“大丈夫だろう”と思われがちですよね。権利について多くの人に知ってもらって、子どもの話をたくさん聞いて肯定してあげられる大人が増えていけばいいなと思います」(ライトさん)

YouTubeで発信することによって人とつながることができた

さまざまな体験を経てきた3人が「THREE FLAGS」として結束し、YouTubeで情報発信することで、今ではたくさんのつながりができたそうです。

「体験や思いを共有できる仲間の子どもたちとつながることができました。今は小中学生でも施設のなかでパソコンを開く機会もあり、外の情報に触れられる場合があります。コロナ禍で直接人に会うのが難しくなっているなかでも、望めば当事者の声を聞けるし、大学や行政の方々にも届けられるので、やりがいを感じています」(まこちゃん)

BROさんは、意外な反応が届いたことに手応えを感じていると話します。

「思ってもいなかったのは、現在苦しいと思っている保護者の方からも連絡をもらったことです。『私は虐待をしてしまったかもしれない』と。僕らは、大人たちを責めたいとは思っていません。社会のしわ寄せのせいで大人自身が虐待せざるを得ない状況にいるとしたら、虐待が起こる前に問題があるじゃないか、と。大人が立ち直るきっかけも作らなきゃいけないと捉えています」(BROさん)

子どもたちがSOSを出せる社会とは?

子どもたちが苦しいとき、SOSを出すにはどうしたらいいのでしょうか。

「子どもたちの世界って閉じられていると思うんです。学校や住まいだけで限られた大人と接していると、『こうしなきゃいけない』といった思いに縛られてしまうと思うんですね。『あなたが悪い』と制限されてしまったり、しつけや虐待を受けてしまったり……。

難しいんですけど、たくさんの大人につながる選択肢を僕は提示していきたいです。『こんなことに困ってるんです』と可能な限りたくさんの大人に言えれば、その子にとって命綱が増えることになると思います」(ライトさん)

BROさんは、ライトさんに同意しつつも、複雑な心境を話してくれました。

「ライトさんが言うようにSOSを出してほしい。ただ、僕が子どもの頃、周りに信頼できる大人はいませんでした。大人になって社会を知ってから俯瞰して見えるものと、自分が渦中にいるときの見え方にはズレがあって、子どもたちにとっては大人の言葉が入ってこないんですね。ニアミスというか。

だから、明日生きられるかどうかといった状況にある子どもには、『SOSを出して』というのが酷な言葉になってしまうかもしれない。難しいですね。

ただ、大人はそれぞれが誰かのきっかけになれる存在だとは伝えたいです。支援というほどではなくて、目の前に転んでいる人がいたら助けるような些細なことと同じです」(BROさん)

大人も子どもも、まずは自分を大切にできる社会へ

「まずは、大人も一人ひとりが自分のSOSを大切にしてほしいなと思っています。自分に優しくするところから、人に優しくすることができてくるのかな、と。

今日笑顔で楽しく過ごしていても、明日死にたい自分がいるかもしれない。そう感じている子どもたちがいます。みんな“もっと頑張らなきゃ”と思いがちなんですけど、生きてるだけで、息をしているだけで、十分頑張っているよ、と心から伝えたいです」(まこちゃん)

頑張って生きている子どもたちが、多くの大人との関わりを持ち、どこかで信頼できる誰かにSOSを発することができたらーー。社会的養護のなかにいる子どもたちも、そうでない子どもたちも、はたまた大人たちも、苦しい現実でなんとか伸ばした手がつなぎとめられる社会になってほしいと切に願います。

「この世界に、君を助けたいと思っている人、関わりたいと思っている人、手を差し伸べたいと思っている人が絶対にいる。それだけは知っておいてほしいです」(BROさん)

(取材・文=遠藤光太、編集=鬼頭佳代/ノオト)

専門家のプロフィール

THREE FLAGS

社会的養護の当事者の視点から社会を考え、新しい未来を作るための”声”を発信するYouTube番組を運営。メンバーは、BROさん(ブローハン聡さん)、まこちゃん(山本昌子さん)、ライトさん(西坂來人さん)の3名。

https://three-flags-kibou-noroshi.jimdosite.com/

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2021年1月30日)に掲載されたものです。

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