【マンガ紹介】トランスジェンダーのこと知ってる? 『放浪息子』

本などから学ぶ

2016/10/10

『放浪息子』(志村貴子/KADOKAWA)

あなたは「女の子になりたい男の子」や「男の子になりたい女の子」をからかったり、「気持ち悪い」と遠ざけたりして、傷つけたことはないだろうか? あるいは、あなた自身が傷ついた経験はないだろうか?

マンガ『放浪息子』(志村貴子/KADOKAWA)は、自分の生まれ持っての「性」に違和感を持つ「トランスジェンダー」を理解する手助けとなる作品だ。

▼『放浪息子』(志村貴子/KADOKAWA)既刊15巻(完結)
https://www.amazon.co.jp/BEAM-COMIX/dp/4757715226/

“みんな”が思う性と自分で思う性

女の子に間違われるほどのかわいらしい風貌で、お菓子作りが趣味の小学5年生、修一は実は女の子になることに憧れている。一方、同じクラスのよしのは女子から「かっこいい」と言われるほどハンサム。男の子になることに憧れていて、男装して街に繰り出すこともある。生まれた時に認定される「性」と自分が「こうありたい」と思う「性」が一致しないのがトランスジェンダーだ。この作品は思春期特有の体と心の変化や、周囲の認識と自意識のズレ、すれちがいに悩み、傷つきながらも成長していく2人を中心に描かれる。「多様な性」という難しいテーマを扱っているが、繊細な線とソフトなタッチ、明るい絵柄で、身構えずに一気に読めてしまう作品だ。

性のバリエーションとグラデーション

成長に伴いやがて2人はそれぞれ恋を知ることになる。さて、あなたは2人がどちらの性に恋愛感情を抱くと予想するだろうか? 女の子になりたい人が男の子を好きになるとは限らない(つまり、女装をしている男性=ゲイとは限らないということ)。もちろん逆も然りだ。そんな風に考えたことがなかった人こそ、この作品を読んで「性的指向(どんな性を恋愛対象とするか)」と「性認識(自分の性がどんなものであるか)」についてさまざまなバリエーションとグラデーションがあることを知ってほしい。無関心でいることに慣れてしまわないうちに。静かな暴力にいつの間にか加担しないために。

遠ざける前に、ちょっと待って

人は時に自分と違う考え方、価値観の人を物理的にも心理的にも、遠くに追いやってしまいたい衝動にかられることがある。それは自分の心を守るための本能であると同時に、一方で、自分の世界を閉ざしてしまう行為でもある。自分と同じ価値観しか認めない社会を想像してみよう。例えば、あなたが大好きなマンガの話を友人にした時に「わたしもそのマンガを読んでみたけど、正直好みじゃなかった。でも、こういうマンガがあってもいいよね」と言われるのと、「そんなつまらないものは要らないから燃やしてしまえ」と言われるのとどちらが良いか、答えは明白だろう。自分が理解できないことにこそ、だからこそ耳を傾け、対話をし、理解ができるようになれば、あなたの人生は今よりずっと深く、豊かなものになるはずだ。

昨年、東京都渋谷区で同性カップル証明を交付する条例が成立するなど、性の多様性について日本でも広く話題になり、考える機会が増えつつある。少しでも興味を持ったら、まずはこの作品を手に取って、知ることから始めてみよう。

(岩崎由美/マンガナイト+ノオト)

<記事で紹介したマンガ>

『放浪息子』(志村貴子/KADOKAWA)既刊15巻(完結)

https://www.amazon.co.jp/BEAM-COMIX/dp/4757715226/

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2016年10月10日)に掲載されたものです。

この記事をシェアする