
ここ数年、通信制高校を選択する生徒が増え続けていますが、 通信制を選ぶ背景は人によってさまざまです。不登校を経験し、学習や学校生活をやり直したい。好きなことに打ち込める時間がほしい。自分のペースで勉強を進めていきたい。そんな多様な思いを受け止める通信制高校で、先生は生徒たちをどのように見ているのでしょうか。
今回はメディアプラットフォーム「note」で、教員生活の様子や教員としての思いを綴っている「さんきち先生」にインタビュー。通信制高校の生徒ならではのユニークさや、生徒たちの成長をどのように見ているかなど、語っていただきました。
悩んで選んだ高校だからこそ、目的意識を持って過ごせる
—— まず、さんきち先生が通信制高校の教員になった経緯を教えてください。
私はもともと教員になりたいという気持ちがあり、大学まで部活中心の学校生活を送っていたので、就職の際には非常勤講師で体育の先生になろうと思っていたんです。ただ、部活以外の世界を知らないまま教員になってもいいのかと疑問に思い、方向転換をして、一度会社員になりました。国内大手総合電機メーカーでマーケティングの仕事に就いてから、教員に転職したんです。転職後は通信制高校を中心にキャリアを積んで、現在は全日制高校で学校管理職を務めています。
—— 先生が見てきた生徒たちのお話を伺いたいのですが、どのような背景で通信制を選んだ生徒が多かったのでしょうか。
中学校までに不登校を経験した生徒が6〜7割で、他には芸能やスポーツなど、学校外の生活に時間を割きたいという生徒もいました。専門分野で打ち込んでいることがある生徒はもちろんですが、 不登校の生徒でも「学習をやり直したい」というモチベーションが高く、目的意識を持っている生徒が多いと感じました。
—— 不登校経験のある生徒も、通信制高校では通うことができていましたか?
通信制高校は登校日数を選べる学校も多いのですが、私の場合は週に5日登校するコースを受け持っていました。不登校を経験した生徒たちも、入学前の学校説明会やオープンキャンパス、体験登校などに参加して、事前に高校の雰囲気に慣れてから入学してきます。進路についてしっかり悩んで考えたうえで選んだ高校なので、決意と覚悟をしっかり持って、頑張って通ってくれる生徒が多かったですね。
—— 高校生の間にしっかり学力を身につけて、大学や短大、専門学校などの進学を目指す生徒も多いのでしょうか。
はい。私が勤務していた高校では、高卒就職をする生徒もいましたが、進学を目指す生徒のほうが多かったです。今は大学入試も総合型選抜を取り入れる大学が増えていて、3年間取り組んできたことを見てくれます。これは、好きなことに打ち込める時間がとれる通信制高校の生徒にとって大きなチャンスだと思います。
資格や専門分野での学びが成長につながっていく
—— これまで見てきた中で、学校の勉強以外にはどのようなことに打ち込んでいた生徒がいたのでしょうか。
ITに強い生徒は結構多く、情報系の検定試験にチャレンジする生徒や、ITパスポート試験に合格し、仲間と一緒に大学主催のビジネスアイデアコンテストで最優秀賞を受賞した生徒もいました。高校から習い始めるという観点で、簿記など商業系の資格に興味を持つ生徒もいて、資格や検定など目に見えて成果がわかるものをひとつずつ積み上げていくことが、自信につながっていたように感じます。
—— 学校では、資格試験などのサポートもしていたのですか?
学校としても資格取得を推奨していました。教員が各資格の勉強を教えるわけではありませんが、情報収集や目標設定を手伝ったり、図書スペースに問題集を置いたりしていました。生徒の得意分野や興味のある分野を見ながら、「これに挑戦してみたら?」と勧めることも多くありました。
—— 数学や英語といった基本的な科目には苦手意識があっても、新たに始められる資格などの勉強には興味を持ちやすいのでしょうか。
数学や英語は、小学校、中学校と積み重ねが必要な科目で、不登校などを経験していると学習が遅れてしまうため、やはり苦手意識が強い生徒が多いです。高校の授業でしっかりやり直しができるとしても、「遅れを取り戻す」というマイナスからのスタートになるので、ネガティブな気持ちになってしまうんですよね。ただ、まずIT系の資格に挑戦してみて、合格したことで自信がつくと、「英検も受けてみようかな」と、学校で習う科目にも前向きになっていきます。最初は気力や体力が充実していなかった生徒でも、高校生活の中で自分が頑張れることを見つけることで、大きな成長のきっかけとなるんです。
—— 何か打ち込めることが見つかると、他のことにもよい影響を与えていくんですね。
そうですね。ただ必ずしも、人とは違う特別なことを無理に見つけようとする必要はありません。通信制高校に通う間に、登校日数が週1日だったのが2日に増えた、オンラインで勉強して苦手な科目を克服できたなど、小さなことでも「自分で決めて動く」ことが大切だと思います。 学校外の活動でも、趣味を通じて仲間をつくったり、アルバイト先で評価されたりなど、前進できた自分を評価してもらえたらいいですね。自分なりの目標設定をして、それをクリアしていく経験を増やしていくことにこそ、価値があるはずですから。
通信制高校で見られた成長
登校日数が増えた
苦手科目に向き合えるようになった
アルバイトや趣味で自信をつけた
資格取得に挑戦した
—— 学び方や時間の自由度が高い通信制高校だからこそ、自分で決めて動く経験をたくさん積むことができ、成長につながっていくのですね。

「自分で決める経験」が将来の強みになる
—— さんきち先生が考える、通信制高校の生徒のユニークさとはどんなところですか。
通信制高校の生徒たちは、世間一般の王道と言われるレールに乗って進学してきた生徒ではありません。つまり、毎日学校に通ってテストで少しでもいい点数を取り、少しでも高い偏差値の高校に行こうと選んで来るわけではないということです。生徒たちは何かに不安を感じてきたり、挫折を経験したり、今の学校制度に疑問を持っていたりする中で、しっかり悩んだうえで自ら選択して入学してきます。それは、今後の人生に役立つ経験ではないかと私は考えています。人より少し早く、自分の人生を真剣に考え、悩んだ時期があるというのは、大きな強みだと思います。
—— 自分の人生において重要なことを、自分自身で考えて選ぶ経験が、早くにできているということですね。
自分でしっかり選んで入学しているので、高校で何をしたいか、どうなりたいか、どう過ごしたいか、目的意識が明確な生徒が多いんです。私の場合は、大学進学のとき浪人を経験したのですが、そこで初めて自分はどう生きるのかを真剣に考えました。どう生きたいかを考えることで、何をしなければいけないかが明確になっていきます。そのタイミングが3年早く、高校入学の時点で来ていると考えると、高校3年間はものすごく伸びしろのある過ごし方ができると思うんです。
—— 先生は一般企業で働いた経験もあります。通信制高校の生徒たちは社会に出ても活躍できると感じますか?
今は働き方も多様になっています。毎朝決まった時間に出社して週5日働き、年功序列で収入や役職が決まるような働き方がこれまでは一般的でしたが、今後はそれぞれの個性や強みを組み合わせて仕事を動かしていく、ジョブ型の雇用形態も増えていくと言われています。そうなると、通信制高校で自分の強みを見つけたり、学び方を自分で選んだりした経験がある人は、有利になっていくのではないでしょうか。自分で目標を設定して努力する姿勢を身につけていることは、社会に出てからもプラスになるはずです。
—— 決められたとおりに学校に行けばいい、会社に行けばいいではなく、ひとつひとつを自分で選んで行動する力が求められていくわけですね。最後に、通信制高校に通っている生徒たちには、高校生活をどのように過ごしてほしいですか。
自分は何をしたいか、じっくり考えてほしいですね。通信制高校はいまだに、「全日制高校よりも下」「大学に行くのは難しい」などと言われることがありますが、実際には、進学や将来の選択肢を広げている生徒も多くいます。高校生活をどのように送ったかによって、結果は変わります。通信制、定時制、全日制というのはただの制度上の区分に過ぎませんし、これからはその境目もなくなっていくと私は思いますから、気にしても意味がありません。それよりも、せっかく通信制を選ぶのであればその強みを活かして、打ち込めることを見つけて目標をつくってほしいと思います。
—— ありがとうございました。
取材協力
さんきち先生
大学卒業後、国内大手総合電機メーカーでマーケティング職を経験し、長年の夢だった教師に転職。通信制高校を中心にキャリアを積み、現在は学校管理職として「教育で世界を変える」をモットーに教育改革に挑む3児の父。
▽note「アラフォー先生の“惑々(わくわく)”日記
https://note.com/sankichi_sensei
<取材・文/大西桃子>
この記事を書いたのは

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。




