2026/05/08

「書き障害」の中学生が出版、合理的配慮が広げた「書ける」可能性

生徒・先生の声 

読書が好きで、物心ついたころから本をむさぼり読んでいた朝野幸一(あさの・こういち)さん。しかし、小学生になり漢字の学習が始まると、思い出せない、書けないという壁にぶつかったそうです。
努力はしたものの、うまくいかず、書くことを諦めるようになった朝野さん。背景には、学習障害のひとつである「書き障害」がありました。
しかし、障害の診断や学校における合理的配慮などの経験を経て、2026年2月に『14歳、字を書けない私が「書く」喜びを手にするまで』(新潮社)を出版し、今注目を集めています。

最近はTVドラマ『宙(そら)わたる教室』(NHK)や『愛の、がっこう。』(フジテレビ)で、読み書き障害を知った人もいるかもしれませんが、実際にはまだ認知度は低く、努力不足と見なされてしまうこともあるのがこの障害です。

「何度練習しても字が書けない…」
「うちの子、努力しているのにどうして字が書けないの?」
「やる気がないだけ?」
と感じたことはありませんか?

文部科学省の「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)」によれば、全国の公立の小学校・中学校・高等学校の通常の学級に在籍する児童生徒の中で、「読む」または「書く」に著しい困難を示す小中学生は3.5%。目安として35人の学級なら1人は該当する計算になります。
また、この読み書き障害の可能性を含めて、学習面、行動面の各領域で著しい困難を示す小中学生は8.8%。35〜40人学級には3人という割合になっており、早期の気づきや個別の指導計画、環境整備が必要な状況と言えます。

そんな中、発達障害を含め、障害のある人に対して環境を調整する「合理的配慮」は、2016年から公立学校では義務化され、2024年4月には改正障害者差別解消法によって私立学校も含めて義務化されました。
朝野さんも書き障害に気がついて以降、学校で合理的配慮を受けることになりましたが、それによってどのような変化があったのでしょうか。書くことをいったんは諦めた後に、なぜ本を出版するにいたったのでしょうか。お話を伺ってみました。

「書けない」自分を責め続けた小学生時代

—— 朝野さんが書き障害を認識したのは、いつ頃なのでしょうか。

漢字が書けずに苦しんだのは小学校1年生からでした。小学校1年、3年、5年生のときにWISC(ウィスク)検査(全体的なIQや「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリー」「処理速度」の4つの指標で認知能力を数値化して特性を把握する世界的な知能検査)を受けたのですが、この結果をスクールカウンセラーに見せても具体的なアドバイスはもらえませんでした。結局、書き障害であると診断されたのは5年生になりました。その後、読み書き困難を抱える子どもたちをサポートする団体「一般社団法人読み書き配慮」に出会い、自己理解を深めていきました。

—— 書き障害だと知って、気持ちに変化はありましたか?

なぜこのような状態にあるのか診断を受けるまでわからなかったので、正体があると知って気持ちは楽になりました。それまで母も漢字が書けるようにとさまざまな工夫をしてくれましたが、何時間もかけて努力しても書けるようにならず、自分には生きる価値がない、消えてしまいたいと思うようになっていたんです。でも、書けない理由がわかったことで救われた気持ちになりました。

—— 障害だと気付かなければ、努力が足りないと自分も周りも思い込んでしまいますよね。では周りの人や社会の不理解によって、嫌な思いをしたことはありましたか?

私は中学受験をしたのですが、そのときに合理的配慮を受けられるところがほとんどなかったことが残念でした。私が受験をした2022年当時は、改正障害者差別解消法によって、私立ではまだ努力義務とされていました。私のニーズに合いそうな学校は2校あったのですが、1校は受験前に「ペーパーワークが多いので負担になりかねない」と受験を拒否されました。もう1校は入学後には合理的配慮を提供すると約束してくれたものの、受験では合理的配慮を受けることができませんでした。その後、2024年4月の改正で私立での合理的配慮が義務化されましたね。

—— 現在の受験においては、試験時間の延長や別室受験、文字の拡大、タブレット等ICT機器の使用、代筆回答などさまざまな合理的配慮が提供されるようになってきていますが、当時は受けられなかったのですね。

合理的配慮の具体例

試験時間の延長

別室受験

文字の拡大

ICT機器の使用

代筆回答

結局、公立の中学校に進学したのですが、そこでも発達障害に対する不理解を実感することはありました。私は書き障害のほか、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)といった発達障害もあります。そのため、先生に「頭がいいのにどうして空気が読めないんだ」とよく言われました。また聴覚過敏が強く、周囲の音をすべて拾ってしまうため、神経を削る場面が多かったです。

—— 公立の学校では2016年から合理的配慮が義務づけられていましたが、学校や先生によって理解度や取り組み方に差があるのですね。

はい。加えて、中学校は小学校と違って、校則をはじめさまざまなルールがカチッと決められていたので、そのルールどおりに動けず苦痛に感じましたね。ただ、ノートや定期試験、提出物にICT機器を使えることや、定期試験で別室受験ができるなどの配慮が受けられたことは、本当にありがたかったです。

学校で合理的配慮はどうすれば受けられる?

—— 学校で合理的配慮を受ける場合は、自分から相談をしなければなりませんよね。それは難しくないのでしょうか?

私の場合は、一般社団法人読み書き配慮が提供するプログラム「KIKUTA(キクタ)」に入塾して、合理的配慮の申請をサポートしてもらえました。KIKUTAでは、ICT機器の使い方、特性の理解、学校との交渉テクニックを学ぶことができます。自己理解においては、自分を客観的に観察して、何ができて何ができないか、得意・不得意、どうすれば解消や軽減ができるのかを研究していく必要がありますが、これを負担に感じる人もいるかもしれません。保護者の理解も必要になりますが、私の場合はそこはうまくいきました。学校との交渉もハードルが高く、他の生徒のケースでは、「ICTを使って解いた試験の結果は信用できない」「忙しいから無理」と言われてしまうこともあったようです。私は比較的すんなり進められたほうだと思います。

自己理解で整理するポイント

何ができるか

何が難しいか

得意・不得意

軽減方法

—— ひとくくりに「読み書き障害」「ADHD」などと言っても、人それぞれ何をどれくらい困難に感じるかは異なるので、学校には具体的に伝えないと、動いてもらえないわけですね。

そのために資料を作成したり、却下されたときにどう反論するか考えたり、配慮を受けるにはたくさんの準備が必要です。学校との交渉には保護者が必要なので、家庭内でしっかり相談して意見をすり合わせていかなくてはいけません。

—— 保護者と考え方が違ったり、理解してもらえなかったりすると、ハードルが高くなってしまいますね。KIKUTAでは保護者も含めてプログラムを受講できるのでしょうか。

はい。当事者を対象にしたスクールであると同時に、保護者同士のコミュニティにもなっていました。当事者も保護者も、同じような立場にいる他の人の声が聞けることにも、大きな価値があったと思います。

—— 今、読み書き障害のある生徒が身近にいる学校の先生や保護者に、どんなことをリクエストしたいですか。

結論から言うと、子どもが幸せになるためにはどうしたらいいかを考えて行動していただければと思います。究極的に言えば、教育の目的は子どもを幸せにすることではないでしょうか。学校では、合理的配慮を断る選択が子どもの幸せを促進することにつながるのかというと、必ずしもそうではないと思います。

「書けない」から「書きたい」へ変わった理由

—— 『14歳、字を書けない私が「書く」喜びを手にするまで』(新潮社)ではご自身の経験を綴っていますが、出版することで自分が変わったなと感じることはありましたか?

自分の文章に自信がつきましたね。書き障害のために文字を手書きすることは苦手でしたが、タイピングはスムーズにできますし、書いてみて、それまでにも増して「自分は書くのが好きなんだ」と気付いたんです。書店で自分の本が並んでいるのを見て、思わずニヤニヤしてしまうことも多々……。人生において、今回の出版は確実にマイルストーンになっていると思います。

—— 朝野さんにとって、書くとはどんな行為なのでしょうか。

出版にあたって、独立研究者として著作・講演活動をされている森田真生さんと対談させていただいたのですが、そのときに森田さんは、書くことを「自分を書き換える行為」だとおっしゃっていました。そのお話を聞いて、たしかに書くという行為は自分を変えていくことなのかもしれないと考えました。私の場合は、朝野幸一という筆名を使って文章を書き出すことで、朝野幸一というペルソナを生み出しています。もともと客観的な視野を持っていると言われることが多いですが、書くことを通じて自分でも知らなかった自分を見つけていけると感じました。

—— 今回はご自身について描いた1冊でしたが、他に書きたいものはありますか。

エッセイや小説も書いてみたいと思っています。本著では、日本ではまだあまり知られていない読み書き障害について、その存在を広めていくことが目的でした。今後は、その次の段階として、読み書き障害で苦しんでいる人を早期に発見して、サポートするためにはどうしたらいいのか、探求していきたいと考えています。

—— 現在は15歳ですが、大人になったらどんな仕事をしたいですか。

自分には会社員は向いていない気がするので、自分の好きなことを仕事にできたらとは思います。文章を書いて食べていきたいという気持ちはありますが、できるかどうかは別の話ですよね。ただ……今は目の前の宿題など、やるべきことがたくさんあって、そこまで考える余裕はないかもしれません。長距離走が得意なので、高校生になったらランニングを始めようかな、など直近で挑戦してみたいこともいろいろあります。

—— たしかに、10代にしかできない経験もたくさんありますよね! 今を楽しく充実させることが大切ですね。最後に、同じように読み書き障害のある生徒に向けて、メッセージをいただければ。

障害があることはすごくつらいでしょうし、他の人と違うことをプレッシャーに感じたり、自分が嫌いになってどうしようもなくなることもあると思います。だけど、したたかに生き抜いてほしいと思います。私も合理的配慮がなければ本は書けませんでした。自分の苦にならないことをあきらめずに探して、強みを育てていってほしいです。

—— ありがとうございました。

取材協力

朝野幸一さん

2010年生まれ。東京都下に生まれ、幼少期から中学時代までを過ごす。漢字を学ぶ頃から、文字を手書きすることが苦しい「書き障害」に悩み、小学5年生のときに、障害と認定された。発達障害の症状があり、空気を読むこととうるさい環境が苦手。得意なことは読書と執筆。趣味はピアノとカメラ。『14歳、字を書けない私が「書く」喜びを手にするまで』(新潮社)が初めての著書となる。

<取材・文/大西桃子>

この記事を書いたのは

大西桃子
ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。
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