2025/12/22

発達障害当事者に聞く、学校の困りごとと救われた配慮

生徒・先生の声  先輩に聞く 

近年、発達障害に対する社会的な認知が広がり、学校でも発達障害を含めた障害や特性のある児童・生徒たちに対して環境を工夫する「合理的配慮」が進んできています。
しかし、子どもの学校生活で“どこまで配慮してもらえるのか”“何が合うのか分からない”と悩む保護者や支援者の方は少なくありません。

ただ、発達障害とひと言で言っても困りごとは人によって千差万別。個別にどこまで配慮できるか、現場の先生からも“難しさを感じる”という声が聞かれることがあります。また、発達障害に対して画一的なイメージや先入観があることで、工夫をしてみても個人にはあまりフィットしなかったという例もあるようです。

では、実際に当事者の方々はどんなことに困難を感じ、どのような工夫で乗り越えているのでしょうか。また、よかったと感じた学校側の工夫にはどんな例があるのでしょうか。
今回は発達障害の当事者である20代男性のRさんと、20代女性のSさんに、中学・高校時代を振り返っていただき、お話を伺いました。

同じ「集中力が続かない」でも背景はそれぞれ

—— 現在Rさんは社会人、Sさんは大学生ですが、中学・高校時代を振り返って詳しくお話を聞かせてください。まず、それぞれ学校生活においてどのような困りごとを抱えていたのでしょうか。

Rさん:僕はADHD(注意欠如・多動性障害)で集中力が続かないことと、書字障害で字を書くのが苦手だったため、授業ではノートをとるだけでも大変でした。数学以外の科目はノートをとらなくてはいけない場面が多かったのですが、そのスピードに追いつけず、必死になっている間に授業が終わってしまうんです。一生懸命書いたノートも、後から読み返すと字が汚すぎて読めなかったり……。

Sさん:私はASD(自閉スペクトラム症)で、聴覚過敏がありました。授業中に音がいろんなところから聞こえてしまって、集中力が続かないのです。シャープペンの音や誰かが椅子を動かした音、エアコンなどの環境音などがすべて耳に入ってしまって、そちらに気をとられてしまいました。

Rさん:僕は他のことが頭に浮かんでしまうと意識がそちらに引っ張られてしまう感じで、集中力が続きませんでした。それから、忘れ物が多かったです。

—— 授業中以外、たとえばクラスメイトとのコミュニケーションなどはどうでしたか?

Sさん:友達関係が悪かったわけではないのですが、休み時間でも部活でも、周りの空気を読んで行動することに疲れてしまいました。女子の間では特に調和が重視されるので、「今どう反応したら正解なんだろう?」と必死に頭を使って考えてふるまっていましたが、そのために精神的に疲れてしまいましたね。

Rさん:中学生になってからは、他の子と話していて自分とはちょっと違うなと感じていました。その人個人の考えや気持ちを聞くのは楽しいけれど、昨日のテレビの話や芸能人の話、表面的な会話は苦手でしたね。今は社会人になったので表面的な会話の大切さもわかりますけど。でも、そんな違いを感じつつも学校に馴染んではいたと思います。

—— 運動会や文化祭などの行事はつらくなかったですか?

Rさん:学校行事はそれぞれに役割が与えられていて、「まずはこれ」「次はこれ」とやるべきことが決まっていたのでラクでした。たとえば歴史の授業だと集中できないうちにどんどん時代が次に移って混乱しましたが、行事はひとつのことに取り組めばいいだけなので。むしろ周囲を率先して引っ張ってもいました。

—— 話を伺っていると、お二人は同じように「集中できない」という困りごとがありましたが、その背景は違っているんですね。そうなると、どう工夫すればよいかも変わってきそうです。

道具・環境・学び方の工夫で困りごとは改善できる

—— では、それぞれの困りごとを、どのように解決したのか伺います。まずご自身で工夫された点はありますか?

Sさん:私の場合は、一人で静かな空間で勉強する時間を大切にしていました。塾の自習室は静かで勉強しやすかったです。高校生のときにはスマートフォンの持ち込みがOKだったので、スマホで音楽を聴いて周りの音を遮断して、休み時間に勉強することも多かったです。

Rさん:僕は中1のときにパソコンの入力ができるようになって、字を書くよりパソコンで勉強したほうがいいなと気づきました。

—— 学校側からも、合理的配慮はあったのでしょうか。

Sさん:中学生の頃は、別教室に登校して勉強していました。ノートと教科書を使って完全に自習をするスタイルです。わからないところがあれば通っていた個別塾の先生に聞きました。高校は指導が厳しく、合理的配慮を受けられる雰囲気ではありませんでした。私は起立性調節障害もあったので、授業に出席して単位を取るのも難しく感じ、通信制高校に転学しました。

Rさん:僕の場合は学校の授業でパソコンを使ってノートをとらせてもらえるようになりました。実際にそれだけで、テストの点がぐっと上がったんです。

—— 当時、授業中にパソコンを使っていたのは一人だけだったんですか?

Rさん:僕だけですね。でも周りの生徒からも何も言われなかったですし、特別扱いという雰囲気もありませんでした。そんな周囲の環境も良かったと思います。学校でパソコンを使えるようになってから、翌日の持ち物や宿題の内容などもパソコンで管理できるようになって、ずいぶん楽になりました。それまでは、持ち物をメモしたのに、そのメモがどこにあるかも忘れてしまったりしていたので。

—— Sさんは、通信制高校に転学して勉強しやすい環境になったと感じましたか?

Sさん:はい。通学コースだったのですが、登校する時間が自由だったのでラクでした。クラスも少人数で、友達作りのサポートや友達同士のトラブルにも間に先生が入ってくれて、行き届いた配慮がありました。

—— 今いる環境が難しければ、違う環境を選ぶというのもひとつの手段ですね。

学校の支援 × 本人の相談 ― どちらも欠かせない視点

—— 学校に、もう少しこんな配慮をしてほしかったと思うことや、これからこんな配慮があるといいのではと思うことはありますか?

Rさん:僕の場合はパソコンを使わせてもらえてありがたかったので、他の学校でも普通にできればいいと思いますし、生徒たちにも理解が広がるといいなと思います。特別扱いを強く感じるのは僕はいやでしたし、同じようにいやだと感じる人は多いと思うので。
それから、ノートがうまくとれていない、集中できていない生徒は授業中に先生から見ていてもわかると思うので、早めに個別に声をかけてもらえるといいなと思います。学校の先生たちも大変だと思うのですが、僕は担任の先生がよく話を聞いてくれて、放課後に勉強を見てくれたりもしたので、授業とは別で、先生とコミュニケーションがとれる場があるといいですね。

Sさん:私の場合は高校は別室登校ができなかったので、保健室や他の教室など、別室登校がどの学校でもできればいいなと思います。

—— 今、同じような困りごとを抱えている生徒たちに、何かアドバイスはありますか?

Rさん:こうするとうまくできる、という方法が自分でわかっていれば、先生に相談してみるといいと思います。

Sさん:私は、環境を少し変えてみることが大切だと思います。大勢の生徒と同じように授業を受ける環境が自分に合わなければ通信制高校に進学・転学するのもいいですし、先生やスクールカウンセラーに悩みを相談してみるだけでも、変わることがあると思います。厳しい先生ばかりだと難しいかもしれませんが、信頼できる大人を見つけることができたらいいですね。

—— 自分からも動いてみることが大事なんですね。ありがとうございました。

<取材・文/大西桃子>

この記事を書いたのは

大西桃子

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。

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