通信制と全日制で迷ったら? 大前学園に聞く、自分に合う高校の選び方

生徒・先生の声

通信制高校

2018/08/30

「高校に行こう!」と決めたら、待っているのは学校選び。さまざまな学校があるのはもちろん、全日制、定時制、通信制などいろいろな通学形態があるため、「自分には何が合っているのか」と迷う人もいるのではないだろうか。

自分に合う学校・通学形態はどう選べばいい? 学校選びのポイントは?
2つの学校で計5コースを運営する、学校法人・大前学園の大前繁明理事長に話を聞いた。

●お話を伺った人

大前学園 大前繁明理事長

兵庫県で2つの学校、計5コースを運営する学校法人・大前学園

兵庫県にある大前学園では、2つの学校、5つのコースを運営しています。

1つ目の学校である「西宮甲英高等学院」は、全日制・3day・通信コースの3つがあります。
週5回通学する全日制は商業学科の学校で、1学年の人数は約90名が在籍。3dayでは、制服を着て週3日・半日登校するコースで、1学年の人数は約90名が在籍しています(午前の部が約60名、午後の部が約30名)。
通信コースは半期毎に取得単位数を自分で決め、レポートと単位認定試験と年間数日のスクーリングで高校卒業資格を取得するコースで、1学年には約30名が在籍しています。

2つ目の学校、「猪名川甲英高等学院」では、全日制・通信コースの2つがあり、全日制は週5回通学する農業学科の学校で、1学年の人数は約60名。通信コースは、レポートのサポートを行っており、週1~5回の登校を自由に選択可能。1学年の人数は約30名です。

西宮甲英高等学院(全日制)

猪名川甲英高等学院(全日制)

生徒たちの卒業後の進路は?

そんな大前学園に通う生徒たちの卒業後の進路には、どのようなものがあるのでしょうか?

「大前学園では進路決定率は約90%以上となっており、割合は、進学:就職が5:5程度です。在学中から、校内外でのガイダンス、外部講師からの講話、自己分析、進学・就職に特化した特別授業などの進路イベントが多いため、将来に向き合う機会となっていると思います」(大前理事長、以下同)

「生徒の興味だけで進路を選ばせない」「向き不向きも考慮する」ことに重点をおいた進路指導をしているということで、生徒の個性を見て大学進学が適している場合は、大学進学を勧める場合もあるといいます。

大学進学に関わらず、短大や専門学校からも指定校推薦枠があり、安心して受験を迎える仕組みがあるとのこと。

また、大前学園を卒業後も、専門のスタッフが進路先に訪問し、状況を調査・学園内に共有する取組をしており、卒業生の頑張りの確認や、もし退学・退職した場合でもサポートできることを学園内でも探っているとか。

入学時に、親も子も自信を無くしている


「入学時には、全日コースの生徒や保護者の中には自信を持っていない人も多く存在します。全日コースの生徒のうち、8割は不登校経験者や不登校傾向にあった生徒です。
自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などを抱える生徒もいます。中学校での勉強が上手くいかなかったり、周囲とトラブルがあったりしたため、高校入学時には不安な状態にあるのです。
しかし、大前学園に通ううちに、成功体験や自己達成感を積み重ねることで、『集団生活をうまくやっていける』という自信を持てるようになっていきます。その結果、『大学にも挑戦してみようかな』と考える生徒や保護者が多いのです」

自信がなかった生徒たちが、大前学園で集団生活を送れるようになるのは、状況によって行動が変わるためなのだといいます。

例えば、教室で座っていられない生徒がいるとします。【絶対に席に座っていなければならないという状況】と【できれば席に座っていることが望ましいが、飛び出したりしても、自分を責める人はいないという状況】では、前者の方がストレスレベルが高く、やってはいけないことを実際に行動に移してしまうことが多いそう。

「大前学園では、生徒たちが自身の個性を理解され、受け入れられる環境が整っているため、中学校で上手く集団生活になじめなかった人でも、大前学園では集団生活を送ることができるのです。
だからこそ、新たな自信をつけ、大学進学を考えられるようになっていくのだと考えています」

(提供:大前学園)

「発達障碍傾向があって集団生活が苦手だから、登校の少ない通信制高校が向いている」は思い込みかも?

発達障碍傾向があると集団生活になじみにくい傾向がある。そのため、あまり通学をしなくてもよい通信制高校が合っているのかと思いがちですが、そうとは言い切れないと大前理事長はいいます。

例えば、知能レベルが高くても、ディスレクシア(読字障碍)などの学習障碍があり、試験の点数を取りにくい生徒も存在します。その場合は、試験の紙の文字を大きく表示したり、問題文を長く複雑にせず、なるべくわかりやすく区切って見せたりするといった工夫が重要となります。

また、全日コースでは生徒の通学頻度が高いため、一人ひとりの個性をキャッチしやすく、こういったきめ細かな対応が可能なのだといいます。入学後、教師が生徒に関わっていく中で「発達障碍傾向にあるな」と感じたら、慎重に観察しつつ、保護者に知らせる場合もあるそうです。

「大前学園に限らず、すでに自分の個性・対処法をわかっている人の方が通信制高校に向いているかもしれません。教職員もフォローしますが、基本的には自己管理ができた上で、学習や生活を進めていかなくてはなりませんから。
もちろん、学校やコースによってもさまざまな特徴があるので、一概には言えないですけどね。例えば大前学園では、一学年の人数が少ないため、教師たちも細やかな対応ができています。ほかの全日制高校でも同じような対応ができるかというと、必ずしもそうとは言えないでしょう。特に、人数が多いところだと難しいと思います」

人はそれぞれ特徴があり、苦手なこと、得意なことは違う

通信制課程というと、不登校や人とのコミュニケーションが苦手な人が進学する先、というイメージもまだまだ根強いものがあります。しかし、大前学園の通信コースでは、保護者も生徒も、入学時に自信をなくしている生徒や保護者は4月の入学時点ではほとんど見られません。

これは、通信コースに4月から入学してくる人は、「やりたいことがあるから通信制を選んだ」という生徒が多いためとのこと。目標を持ち、中学校ではできなかったことを高校では自分のペースでやってみたいとポジティブな理由での入学が増えているのだといいます。

しかし、年度の途中で通信制高校に転入・編入してくる場合は「中学卒業後に一度普通高校に入学したが、うまくいかなかった」という方が増加します。そのため、生徒・保護者ともに、落ち込んでいたり、疲れていたりするケースが多いのだとか。

「そういう場合は『今うまくいかなくって、よかったじゃないですか』と言っているんです。人生の中で、誰しもうまく波に乗れなくなる時期があると思うのですが、それがどこで来るか、というだけの問題なんだと思います。もし学校を卒業した後で折れたら、もっと大変だったかもしれません。
だって、それまでずっと我慢したり無理したりしていることが表面化してくるわけだから、後になればなるほど、本人にとってキツイはず。保護者の方が一緒についていられる中学、高校時代にうまくいかなくなってラッキーだったと思うんですよ」

たしかに、「なんだかうまくいかなくなってきたぞ」と感じたら、それを自分を見つめ直すチャンスにすることもできますよね。周囲との齟齬を感じたら、ぜひ「自分はどんな人間なのか」「何を嫌だと感じるのか」「どういうことが好きなのか」を考えてみることで、見えてくるものは多そうです。

そして、自分がどんな人間なのかが少しずつわかれば、周囲に「自分はこんな人間なんだ」と伝えることや、周囲に対処法を一緒に考えてもらうこともできるようになります。

「西宮甲英高等学院の全日コースの生徒は、卒業後、大学でも生き生きと活動する人も多いんです。それはおそらく、学院在学中に【人はそれぞれ違う】ということを自然に受け入れられるようになったからだと思います。
だから大学に進学し、いろいろなバックグラウンドを持つ人と接したときにも戸惑いが少ないのでしょう」

(提供:大前学園)

自分の苦手なこと、得意なことを理解される環境を選ぶ

先述した状況によって行動が変わるという話は、実は通信コースも同じなのだそう。学校に必ずしも通学しなくていいという状況になることで、逆に行きたくなるという心理が働くようです。

実際に、猪名川高等学院の通信コースに所属する生徒たちの約2割は、週3日以上登校しています。これは、学校に行くという行動を自分の意志で選択できていることが大きな要素といえそうです。

もちろん、スクーリングの少ない通信コースに入学して、実際にあまり通学をしないという選択も可能なので、本人の個性とか、好みとか、事情にもよるものはあるでしょう。

学校以外に日常的に通う場所がある、バイトをたくさんしている、やりたいことがあるなど、人によって登校への考え方はさまざまで、それが尊重される環境が通信制にはあります。

ただ、人がたくさんいる場所が苦手といった、自分の個性や好みをよく把握できていると、学校やコースが選びやすくなると大前理事長はいいます。

「西宮甲英高等学院の全日コースは週5日登校で、制服があり、シンプルに少なくをモットーとした学則ルールもあります。それが合う人もいれば、どうしても嫌だという人ももちろんいる。大事なのは、いろいろな学校を調べて、見学して、自分に合う学校やコースを選ぶことです。
自分が何を嫌だと感じるのか。苦手と感じているけど、できれば克服したいのかどうか。自分がどうしたいのかがわからないと、自分に合う場所も見つけづらいですから、まずは自分がどう感じているのかをよく見つめてみてほしいですね」

(提供:大前学園)

通信制高校は「コミュニティで」、全日制高校は「職場」!?

とはいえ、全日制高校へ行った方がいいのか、通信制高校を選ぶべきなのか迷う人は少なくなさそうです。

大前理事長は、通信制高校は【コミュニティ】、全日制高校は【職場】のようなイメージで考えてみてもいいのではないかといいました。

「通信制高校は、ラフに所属できるコミュニティで、通学しても通学しなくてもいい気軽な感じ。少しだけ学校に行ってスタッフとしゃべったり、友達ができたりすることもある。全日制高校は、毎日通う職場、会社みたいな感じ。
こういうふうに表現すると、『高校は全日制高校に通うのが当たり前』と思っている保護者の方にもイメージが伝わりやすいかなと思います。生徒自身がどういう通学形態や学校に合うか、生徒も保護者もよく考えてみてほしいです」

オープンスクールでの個別相談の場では、生徒と保護者が自分で認識していないことが教職員と話す中で明確になったり、客観的な意見が出たりすることがあるそう。

見学をしたから必ずその学校に入らなければいけないということはありません。自分にどんな学校が合っていそうか、この学校だったらどんな対応ができるのか。まずは一度オープンスクールなどに参加してみてはいかがでしょうか。

(編集:北澤愛子 制作協力:ノオト)

取材協力

学校法人 大前学園

兵庫県で西宮甲英高等学院、猪名川甲英高等学院と2つの学校、5つのコースを運営する学校法人。平成元年に、故・大前春一氏の寄付財産により開校。

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2018年8月30日)に掲載された記事を再編集したものです

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