
不登校の児童・生徒数が増え続けている今。文部科学省の調査では、2023年度、小・中学校において在籍児童生徒に占める不登校児童・生徒の割合は3.7%で、27人に1人の割合となっています。
特にこの10年ほどは毎年過去最多数を更新し続けており、不登校の子どもたちのケアや学びの機会、居場所をどうしていくかは、大きな社会課題となっています。この問題は学校や教育機関、保護者だけではなく、社会全体の理解や受け止めも重要なポイントとなります。
では、平成から令和に時代が変わっていく中で、不登校の児童・生徒をめぐる環境はどのように変化をしてきたのでしょうか。
今回は、ご自身も1990年代の少年期に不登校を経験し、現在は不登校ジャーナリストとして活躍している石井しこうさんにインタビュー。90年代から現在にいたるまでの不登校のリアルな状況を教えてもらいました。
不登校の子どもたちの居場所や進学先は増加
—— 石井さんはいつくらいに不登校を経験したのでしょうか。
石井さん:中学2年生の頃からです。90年代の半ばですから、およそ30年前ですね。
—— 現在と30年前とで、不登校の状況はどのように変わったと思いますか。
石井さん:大きな変化としては、やはり人数です。90年代は小・中学生で10万人台だったのが、今は30万人台となっています。さらに、日本財団が2018年に中学生を対象に調査した結果では、保健室登校などを含めた不登校“傾向”にある生徒は10.2%に上っていました。僕が不登校だったときにはまだ不登校は珍しかったのですが、今は「そういう子がいる」という認識も広がってきたと思います。
—— 過去を遡ると、不登校の人数は90年代に急増し、そこから2000年代はほぼ横ばい・減少傾向で進んだものの、2010年代からまた増加の一途をたどっていますね。増加の背景については後で伺いたいと思いますが、他に変化はありますか?
石井さん:不登校の子の学びや居場所をサポートする場は格段に増えました。民間のフリースクールや自治体に設置されている教育支援センター、また、不登校の児童生徒に合わせた教育を提供する「学びの多様化学校」(不登校特例校)も設置されました。自分たちの時代だと、不登校の子のための場所なんてほとんどありませんでしたからね。また、通信制高校の多様化と増加が一気に進み、不登校の生徒の進学先も広がっています。
—— 中学校までに不登校を経験していても、進学先はいろいろあるという安心感は出てきましたよね。
石井さん:はい。高校の多様化に比べると、小・中学校のサポートはまだ進んでいないように感じますが、コロナ禍をきっかけにオンラインで参加できるフリースクールなども誕生し、進化し続けているのを感じます。奈良市ではオンライン支援も行う公設のフリースクールも開設されましたが、こうした行政の動きも今後広がっていくのではないかと思います。
—— 不登校児童・生徒の増加に伴って、この30年でその受け皿となる場所もしっかり増えてきたわけですね。ただ、それだと対処療法的にも感じてしまいますが……。

不登校への理解は進むものの、制度の進化はまだ追いつかず
—— では、この30年で変わっていないと感じる面についても教えてください。
石井さん:学校自体は、何も変わっていないと感じます。たとえば、これだけ社会でIT化が進んでいても、いまだに紙の連絡帳を使って保護者とやりとりをしている学校がまだ多いという点を見ても、変わっていないことに驚かされますよ。全員を横並びで一律に教育するという制度も昭和の時代から変わっておらず、それが不登校の増加にもつながっていると感じます。
—— 不登校を社会課題としてとらえたとき、その変わっていない部分に目を向けることは重要ですよね。文部科学省も学びの多様化学校を設置するなど、対策をしているようには見えますが……。
石井さん:国も「誰一人取り残されない学びの保障」などメッセージは出していますが、学校の制度そのものを変える動きは遅々(ちち)として進みません。また、学校に行かないのは本人の甘えだとか、親の育て方が悪いからだといった偏見もまだ根深く残っているように感じます。
—— とはいえ、社会全体としては、30年前に比べると理解は進んできたのではないですか?
石井さん:そうですね。親の受け止め方としても、自分たちの時代は「いつまで休んでいるんだ!」と叱られることもありましたが、今は「不登校で苦しんだ結果、命を落とす子もいる」という認識が広がってきています。「死ぬくらいだったら行かなくていい」「学校に行かなくても学ぶ方法は他にもある」と考える人は増えたと思います。ただ、他人の子にはそう言えるけれど、いざ自分の子が不登校になると狼狽してしまう人のほうが、まだ多いとは思いますが。
—— やはり自分の子どもだと、学力や進路など、心配になってしまうものですよね。
石井さん:でも、数年間不登校だったとしても、その間の学校での履修内容を学ぶのに同じだけの時間が必要になるわけではないんですよ。不登校を経験した人たちと話していると、よく「取り戻すのにどれくらい勉強した?」という話題が出るのですが、だいたいみんな「半年から1年くらい」と言います。授業を受けていないから何も学んでいないということではなく、日々の生活やゲームをする中でも、基礎的な学力がついてくるんです。論理的に物事を考える力や、コミュニケーション能力などは、学校に行かなければ身につかないわけではありません。
—— 何か目的を持って勉強に向き合えるようになれば、そこからはスムーズに進んでいくわけですね。そうした経験者たちの話も、もっと広まっていくといいですね。
不登校の要因は複雑、少しずつ解明も進む
—— 不登校の要因は、この30年で変化してきたのでしょうか。
石井さん:細かく見れば変わった面もあると思うのですが、大きくは変わっていないと思います。いじめを含む人間関係は昔も今も大きな要因です。それから、おそらく30年前からあったであろう要因が、少しずつ解明されてきています。発達障害やHSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド)など、教室の環境が個人の特性に合わなかったり、他の生徒と同じ方法で学習するのが難しかったりする子がいる、ということですね。
—— わからなかったことが少しずつわかってきているんですね。
石井さん:こんな理由が考えられるよねという要素はいろいろ解明されてきてはいます。でも、基本的にはハッキリとは「わからない」状態が続いているんですよ。
—— 一人の子が不登校になる理由は複合的な場合も多く、自分自身でもわからないという子も多いですよね。
石井さん:最近、支援者や専門家の間では、「習い事や塾の時間の長さが影響しているのではないか」という意見も出てきています。30〜40年前には、放課後は子どもたちがお互いの家にある程度自由に行き来して遊んだり、校庭や公園で遊んだりして過ごしていたのが、今はそうした時間がなくなってきています。好きなことがあるなら習い事で、となってしまい、「教える・教わる」関係が学校の外でも続くんですね。それによって過労状態になっている小学生も増えているんです。
—— 学校が終わっても、教わりながら評価されていく時間が続くことでストレスがたまっていくんですね。
石井さん:小学校でつまずかないようにという親心から、学校に入る前からプログラミングや英語教室に通わせても、幼稚園児には当然難しいのでつまずく子のほうが多いですよね。それで「もっと何かやらせなきゃ」とエスカレートしてしまう。その結果、小学校低学年から息切れして不登校になってしまったり、いじめという形でストレス発散をしてしまったりする、そんなケースがよく見受けられるようになりました。
—— 子どもだけのコミュニティで自由に遊ぶ時間が減り、常に他の子と比べられる状況に置かれれば、気の休まる時間もなくなりますし、いじめも起きやすくなりますよね。
石井さん:はい。親も子も、もう少し肩の力を抜いてもいいと思うんですよ。
—— 石井さんの新著『学校に行かなかった僕が、あのころの自分に今なら言えること』(大和書房)でも、そうしたメッセージが随所に見られます。不登校になると「人生詰んだな」と思うかもしれないけれど、そうではない、と。不登校になる・ならない以前に、「そんなに簡単に人生は詰まない」ということは、大人たちが知っておくべきことかもしれませんね。

不登校でも不登校でなくても、ただの中年になる!
—— 最後に、新著についても少し聞かせてください。30年前に不登校だった石井さんが、今、当時の自分に伝えたいことは何でしょう。
石井さん:不登校だったときには、「学校に行けていない」「アルバイトもろくにできない」「意義のあることもできていない」と悩み、「人生詰んだな」と思っていました。でも、そこから30年経ってみると、自分も周りも同じように、ただのオジサン・オバサンになっているんです。同窓会に行けば勉強がどうこうという話なんて誰もしていなくて、胃カメラをどうするかで大激論ですよ。過去に不登校経験があってもなくても、みんな普通の中年になっているんです。だから、まずは安心してほしいと思います。ただのオジサン・オバサンになるだけですよ、と(笑)。
—— たしかに、子どもの頃は「何者かにならなくてはいけない」と思いがちかもしれませんが、大人になればそういったプレッシャーもなくなりますね。
石井さん:不登校のときは、傷ついた「過去」と、不安な「未来」ばかりに目がいってしまい、苦しくなってしまうんですね。でも、ある程度の年齢になると、「今」という時間を大切にするようになっていきます。やるべきことが増えたり、忙しくなったりすると「今」にとらわれるので、過去や未来をじっくり考える余裕がなくなるとも言えます(笑)。でも、「今」にとらわれることで、自然に「過去」や「未来」を考えることによる苦痛から解放されるんです。
—— わかる気がします。日々の生活に追われて数年先のことなんて考える余裕がなかったり、忙しくて過去の出来事をすっかり忘れてしまったり……。でも、10代では学校や勉強の他に忙しくなるようなことはあまりありませんよね。
石井さん:不登校を経験すると、過去をリセットするために新しい環境に移って頑張ってしまうこともあるのですが、「ここではうまくやろう」と考える時点で、過去から離れられていないんですよね。また、大人から「新しい環境で頑張ろう」と言われても、前の環境で頑張れなかった自分を責められているように感じることもあります。まずは、傷ついて苦しんでいる今の自分を認めてあげることが大事なのではないかなと思います。でも、苦しみがいつまでも続くわけではないということは、信じてほしいと思います。
—— ただの中年になっていくわけですからね。
石井さん:はい。誰しも年齢を重ねると同時に少しずつ健康が失われ、そこそこ紆余曲折を経ながらもただの中年になります。今不登校の子たちにも、この話を信じてもらえるならば、不登校の苦しさはその後も一生続いていくと思い込まずに、長い目で見てほしいと思います。「これからは個性の時代だ」などと言われていても、本当にみんな同じように中年になっていくだけなので。
—— ありがとうございました。新著では、中年になった石井さんから、不登校の子どもや保護者に向けた温かいメッセージがたくさん詰め込まれています。多くの当事者のみなさんに読んでいただきたいですね。
取材協力

石井しこう
1982年東京生まれ。不登校ジャーナリスト。中学2年生から不登校となり、同年、フリースクールへ入会。19歳からはNPO法人で、不登校の子どもや若者・親など400名以上、また幅広いジャンルの識者に取材を重ねる。 現在は不登校ジャーナリストとして講演や取材、「不登校生動画甲子園」の開催などイベント運営でも活動中。
最新刊『学校に行かなかった僕が、あのころの自分に今なら言えること』(大和書房)
<取材・文/大西桃子>
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この記事を書いたのは

ライター、編集者。出版社3社の勤務を経て2012年フリーに。月刊誌、夕刊紙、単行本などの編集・執筆を行う。本業の傍ら、低所得世帯の中学生を対象にした無料塾を2014年より運営。