通信制高校は、学校教育そのものを変える可能性がある――いま抱えている課題、そして未来は?(手島純さんインタビュー・後編)

通信制高校

専門家に聞く

2019/07/30

不登校や発達障がいの生徒など、多様なニーズへの対応を進める「通信制高校」。最近では、著名なスポーツ選手も数多く入学するなど、注目を集めています。

「通信制高校は、学校教育そのものを変えていく可能性を秘めているんです」と語るのは、星槎大学教授・手島純さん。通信制高校はもちろん、全日制や定時制高校で教鞭を取り、通信制高校に関する著書もある専門家です。

通信制高校の歴史や役割について伺った前編に続き、後編では通信制高校による多様な取り組み、いま抱えている課題、そして未来の展望を解説していただきます。

ITを活用して人気を集める「N高等学校」など、さまざまな取組みが登場

――最近の通信制高校の動きを見ていると、全日制高校にはない多様な取り組みが生まれているようです。例えば、学校法人角川ドワンゴ学園による「N高等学校(通称、N高)」が登場したときは、大きな話題となりました。

N高の登場には私も驚きました。最初の頃は「VRを使った入学式」など、斬新な取り組みへの批判もあったようですが、こういった動きはさらに広がっていくんじゃないかと思っています。ITの進化に伴い、学校も変化していくのは当然の流れでしょう。

――何が多くの生徒を引きつけたのでしょうか?

全日制高校の生徒のなかには、生徒指導でがんじがらめにされ、個性を失われるような環境に嫌気がさしている子もいます。そういう生徒にとって、N校は魅力的に感じられる存在なのかもしれません。

多様性を重視する社会になりつつあるのに、一部の高校では昔ながらのやり方で服装や頭髪を厳しく指導する。私も全日制高校で教員をしていましたが、「こんなことをやっていたらダメだ」と強く感じたことが何度もありました。

新たな通信制高校のあり方に注目される背景には、そういう矛盾があるのではないでしょうか。

通信制高校は、いまのニーズに敏感であるべき

――では逆に、通信制高校にはどのような課題があるのでしょうか?

課題については公立と私立で異なる状況にあります。

まず前提として、私立の高校は、生徒数が増えれば収益が増え、教員の給料や待遇も良くなります。学校を運営していくために、生徒数を増やしたいと考えているのではないでしょうか。

一方、公立の通信制高校は、生徒数が多くても少なくても教員の待遇は変わりません。したがって、公立は生徒を増やそうとするモチベーションが低くなります。公立から新たな取り組みが起こりにくいのは、そういった理由もあるでしょう。

しかし、公立も歴史的に大切な役割を担ってきたことは事実です。通信制高校ができた当初は、卒業資格を得るために公立通信制高校の関係者が大変な努力をした。通信制高校の歴史は、公立なくして絶対に語れません。

――今後、公立の通信制高校はどうすべきなのでしょうか?

私は、公立の通信制高校がどんどん減らされていくんじゃないか、と危惧しています。いまの生徒たちのニーズに応えられているのか、公立だからこそできることを、もっと追求すべきでしょう。

例えば、子育てをしながら学びたい生徒のために、託児所を設置している公立通信制高校があります。また、体育が苦手な子のために、ペタンクや気功などを取り入れている学校もある。それらをフックに、成人ふくめ新たな生徒を呼び込むのも一つの策です。

ほかにも、少年院や離島へ出向いて授業をしたり、勉強を教えたりしている公立通信制高校もあります。そういった独自の取り組みは、どんどんアピールしけばいいでしょう。

今後は外国人の方が増えていく可能性も高いでしょうから、そういった生徒へのサポートも必要ですよね。全日制高校へ行けなかった生徒をさらに受け入れるなど、社会のセーフティーネットとして、やるべきことはたくさんあると思います。

――では、公立以外(私立など)の通信制高校の課題はいかがでしょうか?

2015年、株式会社立通信制高校【※】であるウィッツ青山学園高等学校が、就学支援金を不正に受給した事件があり、新聞やテレビでも大きく報じられました。

【※】学校を設置できるものは、国・地方公共団体・学校法人に限られているが(学校教育法第二条)、2002年の「構造改革特別区域法」で、株式会社も学校設置者として参加できるようになった

就学支援金とは、家庭の教育負担を軽くするために、生徒の代わりに国が学校に授業料を支払うもの。同校はその支援金を違法に受給し、利益にしていった。さらに、教育内容も非常にいい加減なものだったのです。

私はそのニュースを聞いて、非常にショックを受けました。せっかく通信制高校が注目され、良い方向へ進んでいこうとしていたにもかかわらず、こんな事件が起きた。「通信制高校はうさんくさい学校である」といった、間違った認識が広まってしまうかもしれない。これはまずいと思い、現場の先生や研究者たちと一緒に『通信制高校のすべて――「いつでも、どこでも、だれでも」の学校』(彩流社)を書きました。

この反省を生かし、社会的な使命をしっかり把握したうえで運営してほしいと思っています。安易なお金儲けに走らないようにしなければいけません。

▲『通信制高校のすべて――「いつでも、どこでも、だれでも」の学校』(手島純・編著、彩流社)

公立も私立も、いまのニーズに敏感であってほしいですね。例えば、不登校の問題でいえば、かつては「生徒を学校に戻さなきゃいけない」、「どうすれば学校へ行かせることができるのか」という考えが主流でした。でも、最近は「不登校という選択肢も、あっていいじゃないか」という雰囲気になってきていますよね。

あるいは、引きこもりの問題もクローズアップされています。そういった子に対しても、通信制高校がどんどんコンタクトをとっていけばいいと思います。

――では、どのようにして通信制高校を選べばよいのでしょうか? 選ぶポイントや注意すべき点を教えてください。

通信制高校は授業料もバラバラで、学習環境についても多種多様です。ビルの一角を借りているところもあれば、教室1つだけで運営しているところもあります。

いろんな学校があるので、本当に生徒自身が気に入るかどうか、きちんと確認しましょう。理念が立派でも、パンフレットやインターネットの情報だけで決めるのはダメです。必ず現場へ行って、先生の対応や学習環境を自分の目でチェックしてください。できれば一つだけでなく、複数の学校を見て選んでほしいですね。

通信制高校が、学校の在り方を変えていく

――今後、通信制高校はどう進化していくと思われますか?

N高が注目されるなど、通信制高校は今まさに進化の途中ですよね。学校の既成概念を壊す存在として進化していけば、やがて全日制高校も変わっていかざるをえないでしょう。

いま、東京都の公立高校は軒並み定員割れしています。2017年度より、都内の私立高校の授業料が実質無償化されたことで、生徒が私立に流れてしまったんです。すると、どうやって生徒を集めるか考えなければならない。いわば、全日制高校は外堀を埋められている状況になっているんです。

――通信制高校が、全日制ふくめ高校全体の在り方を変えていく可能性がある、ということですね。

あと今後は、遠隔教育が広がっていくでしょう。例えば、病気やケガをして長く入院すると、現状のシステムでは「留年」になってしまう可能性があります。

しかし、インターネットやテレビ会議システムを活用して遠隔でも授業を受けられるようになれば、そういった問題が解決できるかもしれません。通信制高校は、そのような取り組みも模索しているわけです。

スマホやタブレット、インターネットなどの最新技術で学校の在り方を変えていく。それを先導していけるのが通信制高校だと思います。

――最後に、通信制高校に興味を持っている生徒や親御さんに向けて、メッセージをお願いします。

いま通信制高校の卒業率は、概算ですが私立で約80%、公立で約60%です。数字に差がある理由は、おもにサポートの違い。私立はきちんと卒業させて、次の進路につなげることによって、学校の信頼や評価を上げています。でも公立は、私立ほどサポートできていないのが現状でしょう。

自学自習がメインの通信制高校では、勉強を継続していくのは難しい。そんな中で私立の卒業率80%というのは、かなり高い数字だといえます。もちろん、公立にも授業料の安さや多様性を受け入れる環境など、良い点がたくさんあります。

もし迷っている方がいたら、通信制高校も選択肢の一つとして、ぜひ考えてみてください。

(取材・執筆:村中貴士 編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材協力

手島純(てしまじゅん)さん

星槎大学教授。民間会社経験後、教職に転職。神奈川県立高校社会科教員として、全日制・定時制・通信制高校に35年間勤務する。その後、大学兼任講師を歴任し、現在は星槎大学教授。日本通信教育学会(理事)、日本共生科学会に所属する。主な著書に『これが通信制高校だ』(北斗出版)、編著書に『通信制高校のすべて』(彩流社)等がある。

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2019年7月30日)に掲載されたものです。

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