「強い意志」はなくてもいい? 生理学で紐解く、自然と「努力が続く仕組み」づくり

専門家に聞く

2021/07/26

「志望校に合格するために、1日5時間以上勉強しよう!」「部活のレギュラーになるために、もっと練習量を増やそう!」。そうした目標に向けて決意を新たに、努力を続けていく。これは理想と言えるでしょう。

しかし実際は、なかなか習慣を変えられず、ついゲームや動画、SNSなどでダラダラと時間をつぶしてしまう、なんてことも。そんなとき、「自分は意志が弱くて、努力を続ける才能がない」と自信をなくしていませんか?

「『意志の力』だけで自分を奮い立たせるのは、どんな人にも大変。だから、あなたが頑張るのではなく、あなたの脳が働きやすい仕組みをつくるべきです」。そう話すのは、生体リズムや脳の仕組み(=生理学)を活用した人材開発に取り組む、作業療法士の菅原洋平さん。

努力を続けられない原因は「意志の弱さ」ではなく、「脳が働きにくい仕組み」にあると言います。では、その努力を続けるための仕組みとは一体どんなもので、どうすればつくれるのでしょうか。菅原さんに聞きました。

精神論だけで変われるのはごく一部。大切なのは、脳という「内臓」を育てること

――目標に向けて努力しようとしても、ついゲームや動画など娯楽で時間をつぶしてしまう。そもそも、こうした現象はなぜ起こってしまうのでしょうか?

脳に、音や光など外部から入ってきた情報に反応する習性があるためです。たとえば、SNSの通知を目にしたとき、私たちの頭の中では「通知を見るか、見ないか」という選択が生じます。この反応を抑制するには膨大なエネルギーがかかるため、情報に触れる機会が多いほど脳は疲弊します。

特に現代は、ネットとスマホが普及し、手軽に動画やゲームなどを楽しめる時代。情報の選択肢が多いため、脳の反応を抑制する力が弱まり、ズルズルと望まない方向へ流れていきやすいのです。

――脳の仕組み上、誘惑に負けてしまうのは仕方がないことなんですね。一方で、ひたむきに努力を続けられる人もいます。こうした人はやはり「意志」が強いのでしょうか?

もちろん強い意志がないと、達成できないこともあるかもしれません。ただ、意志の力だけで自分を奮い立たせるのは、どんな人でも大変です。

家庭や学校では、脳をうまく抑制するための具体的な知識・技術を教わる機会がほとんどありません。むしろ、「もっと気合を入れてがんばろう」といった“精神論”で励まそうとするケースも多い。そのため、目標達成には「強い意志」が必要だと思いがちなんです。

でも、精神論だけで変われるのは、その下地となる脳の状態がつくられている人だけ。大切なのは、脳という「内臓」の仕組みを知り、自分でうまく育てていくこと。決して、実体のない意志や性格、過去の経験を変えることではありません。

「小さな実験」を通して、脳の仕組みを理解していく

――では、「脳を育てる」ためには、具体的に何をすればいいのでしょうか?

「脳を育てる」と言うと、すごく大げさに聞こえて、どこから手を付ければいいのかわかりにくいかもしれません。そこで脳の仕組みを理解するため、まずは「小さな実験」をしてみましょう。

脳にはさまざまな行動ルートをたどる「電線(神経)」が通っています。同じ行動を何度か続けるとその電線は太くなり、それ以外の電線は細くなっていきます。その結果、主要な電線が確立されるのです。まずはその電線の変化を感じてもらうため、小さなことから変えていくのです。

たとえば、家に帰ってきたら宿題をやらず、だらだらとスマホをいじってしまうという場合。これは「帰宅したらバッグをそのへんに置いて、すぐにスマホに手を伸ばす」という電線が主要となっていると考えられます。

これを変えるために、「家に帰ってきたらまずバッグを開けて、宿題を机の上に出して日付や名前だけ書く。スマホはいつもの充電スペースに置く。別に宿題をやらなくてもいいから、とにかくその一連の行為だけ試してみよう」と伝えてみます。

すると、宿題に手を付けられる子が多いんです。これを何度か続けていけば、これまでの「帰宅後すぐスマホを触る」という電線が細くなり、「帰宅後すぐ宿題に手をつける」という電線が太くなっていきます。ここまで来ると、これまでのスマホを触る行動の電線のほうが不自然な感じになり、帰宅後すぐに宿題をする習慣が自然と身につきやすくなります。

――なるほど。習慣化しようと身構えたり、「宿題をしなければならない」と追い込んだりせず、ほんの少しだけ行動ルートの起点を変えてみるんですね。

はい。まず大事なのは、自分の行動が些細なことで変わる実感を得ることです。

そもそも、脳は新しい行動にすごくエネルギーを使います。だから、なるべく前と同じ行動をとってエネルギーの消費を抑えようとする。これこそが「習慣」と呼ばれるものの正体です。

だからこそ、まずはとにかく小さなことから始める。「宿題しよう」ではなく「テキストだけ開こう」とか、「部屋を片付けよう」ではなく「デスクだけ何も置かないようにしよう」とか。すると、それがどんどん習慣化されていって、元の行動をとるのが不自然になってくる。自分の意思に関係なく、新しい行動のほうが快適になるんです。

脳の基礎をつくるために、「4・6・11」の法則で睡眠を整える

――現在、菅原さんは東京・神田にある心療内科・ベスクリニックに勤めています。そこには中高生も訪れるそうですが、どんな悩みが寄せられることが多いのでしょうか?

ベスクリニックでは「睡眠外来」を設けているため、「昼夜逆転の生活をなおしたい」「朝起きられるようにしたい」などが多いです。

睡眠って手順通りに行動していくとガラッと変わるので、「脳を育てる」体感を得やすいんです。加えて、脳のパフォーマンスにも大きく関わり、集中力や行動力にも変化を及ぼします。だから、睡眠は脳の基礎をつくるためには、欠かせない要素なんです。

――では、より良い睡眠を得るためにはどうすればいいのでしょうか?

大前提として、「4・6・11」の法則で、睡眠を考えることが大切です。

<4・6・11の法則>
●起床後、4時間以内に強い光を見る
起きてすぐに強い光を見ることで、「メラトニン」という神経伝達物質(ホルモン)の分泌が止まる。メラトニンは分泌されると眠気が生じ、止まると眠気が覚める。メラトニンの分泌を止める機能が高まるのが起床後4時間以内であり、特に起床後1時間に朝日を浴びるのがベスト

●6時間後に1~30分間、目を閉じる
一般的な生体のリズムでは、起床後8時間程度で眠気がやってくる(朝7時に起床であれば、午後3時頃)。そこで眠くなる前の約6時間後に、脳の休憩(仮眠)をとることで眠気をコントロールしやすくなる。脳は視覚を遮断しないと休憩できないため、「目を閉じること」が不可欠。ただし、夜の睡眠に影響を与えないよう、30分以内とする

●11時間後に身体を動かす
深部体温を大きく下げることで、スムーズな入眠がしやすくなる。一般に起床11時間後に体温が最も高くなるため、このタイミングで運動することでさらに体温が上がり、眠るときスムーズに下がりやすくなる

――手軽で、いますぐに取り組めそうですね。この法則を踏まえた上で、普段の外来ではどのように声かけしていくのでしょうか?

まずは、普段の睡眠の記録を書くことを勧めています。そして、「どの時間帯にもっとも頭が冴えているか」を問いかけ、生体リズム上、もっとも脳のパフォーマンスが高まる起床4時間後との「時差ボケ」を調べます。

時差ボケの理由としてよく聞くのが、お気に入りの漫画の配信が0時だから、友達とゲームをやる時間が深夜だからとか。つまり、やりたいことに対して時間合わせてしまっているんですね。でも、そこで「やりたいことが充実してできているか?」と聞いてみると、「ダラダラしちゃうし、失敗もするし、嫌なことばっかり起こる」といった不全感を訴える子が多い。

だから、「脳が冴えている起床後の時間帯にやりたいことを持ってくれば、パフォーマンスも上がるんじゃない?」と提案してみるんです。朝起きたら、ベッドから出てゲームをするようにしようとか。すると、意外にもあんまり長くやらなくなるんですよ。

――え、それはどうしてでしょうか?

やっぱり頭が冴えている時間帯だから、短時間で成果が上がり、すぐに満足できるみたいです。もっと先へ進むと、「そもそもゲームってそんな必要じゃなかったな」「もっと満足度の高いことをやってみたいな」と考える子もいる。

その点、睡眠に限らず不全感を抱く子の多くが、自分の人生において何がしたいかという「目的」を見失っているようにも感じますね。そもそも何かしらの目的を持っている子は、すでに早起きして、一生懸命取り組んでいたりしますから(笑)。

「やらない」選択もあっていい。他人の評価でなく、自分の目的に立ち返ろう

――脳をうまく扱う方法については、理解が深まりました。一方で、頭ではわかりつつも、思うように行動できないこともあると思います。そんなとき、どう考えればいいのでしょうか?

前提として、悪いのは脳をうまく扱う「方法」を知らないことであって、うまく扱うこと自体に良し悪しはありません。方法を知った上で「やらない」選択をして、人生を楽しめる人はそれでいいんです。目標に向かって努力を続けることだけが、人生の楽しみ方ではないので。

ただ、いずれの選択においても、他人からの評価に紐付けないことが大事で。うまくいかない患者さんはよく「一番になれば褒められる」「先生に怒られるからやらなきゃ」と話すんです。でも、誰かの評価によって人生が左右されるのって、よくよく考えるとおかしいじゃないですか。だから、他人と競争・比較したりせず、自分がどうしたいかを考えてみてほしいです。

――「他人の評価を気にしない」というのは、やっぱり難しく感じます……。他人との競争や比較をしないために、何かコツはありますか?

外来の患者さんによく勧めているのが、自分がしていることや学んだことを、他人に共有・提供する機会を設けること。

わたしたちは、自分が社会の中でどんな役割を果たし、どんな貢献をできているかを実感できると、「腹側迷走神経」がよく働くんです。これは心身をリラックスモードにする副交感神経の一種で、うまく機能することで心身の負担が少なくなり、高いパフォーマンスを発揮できるようになります。

トップアスリートの方たちと話してみると、実はあんまり競争意識ってなくて。むしろ、競技を通してこんなことを伝えたい、といった「目的」が明確だと感じることが多いんです。結果、それが自身の成長につながり、高いパフォーマンスを発揮できている。

だから、中高生なら学校の行事や部活とかで自分がどんな貢献をするか、どんなことをしたいかを考えてみて、自分なりの「目的」を探してみてほしいです。その目的が明確になれば、他人との競争や比較が必要なくなるでしょう。

脳の仕組みを理解していけば、他人のことも面白く思える

――最後に「自分は意志が弱い」「努力を続ける才能がない」といった悩みを抱える中高生に、メッセージをお願いいたします。

学校で講義する際によく話すのが、すべての人に平等に与えられた条件が「時間」だということ。勉強や運動ができる人を見ると、「あの人は才能が違う」とコンプレックスを抱えることがあると思います。でも、同じ時間を与えられていることに差はなくて、その時間をどう使うかは明らかに技術です。

そして、脳の基本的なスペックと仕組みは、みんなほぼ同じ。だから、もしも何か上達したいなら、うまく時間と脳を扱っていく必要があります。どう扱うかは自由だからこそ、自分の望む選択をしていきましょう。

脳の仕組みを踏まえて行動を変えていくと、次第に「頑張れないのは、意志や才能、性格の問題じゃなかったんだ」という自覚が芽生えていきます。すると、どんどん自分への関心が生まれ、「朝起きたら外でストレッチしてみよう」などと自分の身体を使った小さな実験が増えていく。さらには、「あの人はこういう行動をしているから、勉強できるんだ」と、他人のことも客観的な視点で面白く思えてきたりもします。

よく企業研修では、「脳の多様性」についてもお話するんです。自分の脳を育てられるのは自分だけなので、そこに多様な成長が生じる。だから、人それぞれ考え方や戦略が違って当たり前で、そうした違いを楽しむことこそが仕事の醍醐味。

これは学校行事や部活などでも同じでしょう。違う考えや戦略を持つ人が集まって、一つの目標を達成するのは本当に大きなこと。自分ひとりじゃ絶対できないので、ぜひ他人との違いを楽しみつつ、その中での自分の「目的」を見出してみてほしいです。

(企画・取材・執筆:野阪拓海/ノオト 編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材先

菅原洋平さん

作業療法士、ユークロニア代表。1978年、青森県生まれ。国際医療福祉大学卒業後、作業療法士免許取得。民間病院精神科勤務後、国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事。その後、脳の機能を活かした人材開発を行うビジネスプランをもとに、ユークロニア株式会社を設立。現在、ベスリクリニック(東京都千代田区)で外来を担当する傍ら、企業研修を全国で行い、その活動はテレビや雑誌などでも注目を集める。ベストセラーとなった『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社)や『すぐやる! 「行動力」を高める“科学的”な方法』(文響社)など、多くの著書がある。

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2021年7月26日)に掲載されたものです。

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