宇宙でわかっていることはたった5%――いま、天文・宇宙を学ぶ意味

専門家に聞く

2021/03/22

遠くにお出かけするのもなかなか難しいこの頃。同時に自然に触れ、楽しむ機会も減ってしまいがちです。そんなときこそ、夜空を見上げて星や宇宙について学ぶのもよいかもしれません。

これまで「星のソムリエ®」として10年以上、天体観察会や星空ツアーガイドなどの支援を行ってきた株式会社アストロコネクト代表の荒井大作さん。いまは、オンラインで天文・宇宙について学ぶ取り組みを始めています。

科学館などのプラネタリウムとはまたひと味違う「オンラインプラネタリウム」、「ジュニア天文講座」を行った結果、さまざまなリアクションが子どもたちから返ってきたと言います。いま、天文・宇宙を学ぶ意味についてお話を聞きました。

学んだ星を、すぐに見つけられる「オンラインプラネタリウム」の魅力

――オンラインプラネタリウムは、どのように行われているのでしょうか?

2020年4月17日から毎週金曜日夜9時から、その夜に見える星空の解説をYouTubeの無料配信で行っています。

プラネタリウムで半球型の大きなスクリーンに投影される星空は、迫力があります。対して、オンラインプラネタリウムはパソコンやスマートフォンなどそれぞれ異なる環境で視聴される。ですから、どんな小さな画面で見ても楽しんでもらえるよう工夫してお届けしています。

プラネタリウム画面を映しながら解説を行う

――オンラインで楽しめるように、どんな工夫がされているのですか?

配信時間は夜なので、解説している空が今まさに、外に広がっているわけです。ベランダに飛び出せば、学んだ星がそこにあるという臨場感があります。

また、通常のプラネタリウムでは解説員が話している最中には質問できないじゃないですか。でも、子どもたちって疑問を感じた瞬間に聞きたいもの。オンラインプラネタリウムなら、チャット欄にいつでもコメントできるので、他の方のご視聴を邪魔することなく、心おきなく質問をしてもらえます。

――オンラインプラネタリウムを始めたきっかけは?

これまでも、教室や会議室の天井にプラネタリウムを投影する「天井プラネタリウム」や「星空ツアー」など、天文・宇宙に関するイベントの企画や運営を行ってきました。しかし今は、子どもたちを集めて何かをやるのが難しい状況ですよね。そこで、オンラインでも星空案内ができないかと考えて始めたのが「オンラインプラネタリウム」になります。

天井に星空を投影する天井プラネタリウム

コロナ禍の中、もちろん子どもたちに喜んでもらいたい気持ちはありますが、お父さん・お母さんたちの息抜きになるものにしたいという思いもありました。慣れないリモートワークや家にずっといなければならない閉塞感にお父さん、お母さんがギスギスしてしまっては子どもたちもつらい。だから、1週間の疲れを癒す、ほっとできる時間になるよう、金曜夜9時にしたのです。

第1回目はTVで取り上げられたこともあり、2500人以上の方にライブでご視聴いただきました。年齢層も25~45歳くらいの方たちで、しかも男女の比率が1:1だったのです。一般的に天文・宇宙のイベントの参加者は8:2と男性の比率が多いものなのです。なので、実際にお父さん、お母さんたちが見てくださったのではないかと思っています。

星のクイズで楽しく宇宙を学ぶ「ジュニア天文講座」

――夜9時からだと、子どもたちにはちょっと遅い時間ですよね。

はい、そこで、子どもたち向けに企画したのがジュニア天文講座です。こちらも2020年6月から不定期に行っています。Zoomを使って、オンラインプラネタリウムのように映像と星空のお話をして、質問コーナーや星に関する3択のクイズをはさみながら、宇宙について学んでいきます。3択クイズのときは、答えを紙に書いて画面に出してもらったり。

画面越しでも活発に進む講座

みんなで一斉に画面に紙を出すと、誰がどんな答えをしているかすぐにわかります。チャット欄にコメントを書き込むのが苦手な子でも参加できます。

――そういう配慮もあるのですね。ほかに、子どもたち向けの企画は?

自宅から参加できる1泊2日の「オンライン合宿」を行ってみました。昨年はコロナの影響で夏休みが短く、子どもたちが学校外の体験をするチャンスがなかなかありませんでした。そこで、少しでも子どもたちが楽しめる機会になるようにと考えたものです。

――オンラインで合宿ですか?

リアルな体験をしてもらおうと、事前に合宿のしおり、参加証と望遠鏡製作キットを参加者に送りました。オリエンテーションでは、みんなでしおりを見ながら、これからの2日間にやることを伝えていきました。

実際に使われた、オンライン合宿の参加セット

昼間のプログラムでは、国立天文台で電波観測の仕事をしたことのある人やこれから宇宙の仕事をしてみたいデザイナーの方など、さまざまな分野の専門家をゲストに呼び、話をしてもらいました。

さらに、オンラインで説明をしながら、みんなで一緒に望遠鏡を組み立てました。夜になったら、それぞれのいる場所から自分で作った望遠鏡で月や木星を見る……。こんなふうにオンラインとリアルな体験のハイブリッドな形をとりました。

オンラインの説明でも全員ばっちり組み立てられたそう

――なんだかワクワクしますね!

子どもたちは自分が作った望遠鏡で月のクレーターや木星の衛星を見て、もちろん喜んでくれました。同時に、一緒にいたご家族のみなさんもとても感動したそうです。星を見ること自体が初めてだったうえに、その望遠鏡は我が子が作ったものだったのですから。

――それは感動的です!

誰かが宇宙と出会うことで夢や希望や感動を届けたい

――ジュニア天文講座の受講はどのくらいの年齢層の方が?

基本的に小学生対象ですが、下は幼稚園年長、上は中学3年まで幅広く受講していただいています。

中学3年の参加者の方は、何回か出席してくれていたのですが、「やっぱり自分は宇宙のことをやりたい」と、高等専門学校を受験し合格したと連絡をくれました。「将来は人工衛星をつくる!」と言っていましたよ。

――それはうれしいですね! 受講者さんの将来に繋がった、と。

いま、理科の授業は小学3年生で始まりますが、天文・宇宙の授業はほんのわずか。だから、宇宙に触れる機会は本当に少ないんです。興味がある分野について学ぶ機会を届けられたのはよかったと思います。

――荒井さんご自身は小さい頃から宇宙に興味があったのですか?

私は、高校に入ってからですね。むしろ中学生までは考古学や恐竜に興味がありました。

大きな天文台がある高校で、天文部に入って望遠鏡で星を見るようになりました。大学まで天文部だったのですが、部活のメンバーは天文学に興味・関心を持つ人が多かった。でも、私はカメラメーカーに就職したんですね。

――それはなぜ?

部活では一般の方向けに望遠鏡で月などを見せる観望会を行っていました。そこで、月を見せると、小さな子どもやおばあちゃんも感動して、私に「ありがとうございました」と言ってくださるんですね。その望遠鏡を作ったわけでもないのに、自分でも人に喜ばせられるのはすごいことだと思いました。

それで、望遠鏡やカメラを作って、たくさんの人にその映像を届けることができたらと思い、カメラメーカーに進みました。

映像の仕事に携わってから、花や動物、風景の写真はどんなに美しくても苦手な方が一定数いると知りました。しかし、天文・宇宙の写真はそういった方がとても少ない珍しいカテゴリーなのです。

でも、日常生活の中ではなかなか出会わないのも天文・宇宙の写真。それが、すごくもったいない。それで、子どもたちに宇宙に出会う機会を届けられたら、男の子も女の子も関係なく、夢や希望、感動に繋がるのではないかと思い、現在の活動を進めています。

質問は「人生にとっての大発見」

――ジュニア天文講座では、子どもたちに質問をどんどんするよう伝えているそうですね。

私の講座の中では「質問をするのは恥ずかしいことじゃないので、どんな質問も自信をもってしてください」と伝えています。質問が出てくるのは、「質問の芽」がもともとその子の中にあったということ。それって、発見じゃないですか。質問は、その子の人生においての発見なのですよ。

――質問は発見、いいですね。

リチウムイオン電池の研究開発を手掛ける吉野彰さんは、2019年にノーベル化学賞受賞したときに「これからも原点に戻って研究し直してみたい。なぜなら、まだまだわからないことだらけだから」とおっしゃったそうです。ノーベル賞を受賞する方でも、わからないことにワクワクする。わからないことを恥じる必要はないのです。

宇宙のことでいえば、NASAであろうとJAXAであろうと、どんなにえらくて頭のいい大人であっても、わかっているのは宇宙全体の5%だけ。95%は全くわかっていません。

だから、子どもたちが「宇宙でこんなことがしたい!」といったときに、誰も「そんなことはできないよ」とは否定はできないんです。つまり、宇宙は子どもと大人が同じ目線で語れるカテゴリー。あんなことがしたい、こんなこともしてみたいと、どんな夢をもってもいいのです。

宇宙が身近なものになるのは遠い未来ではない

――夢が広がりますね。

夢が広がるのと同時に、これからはあらゆる分野の仕事が宇宙へとつながっていく可能性があります。

民間のロケットや人工衛星がどんどん宇宙に飛び立つようになって、もし、事故がおきれば、それは国家間ではなくて個人の問題になるので、弁護士が必要になるでしょう。「文系だから宇宙は関係ない」とは言い切れません。

また、国際宇宙ステーションの中は非常に臭いそうです(笑)。今後、多くの人が宇宙旅行に行けるようになったら宇宙空間での環境整備も重要になります。そうすると環境工学や建築分野の出番です。

ほかにも、これまでLやXLが主流だった宇宙服のサイズも多様性を求められるでしょう。そこで、同じ柄のサイズ違いを作るのが得意なアパレル業界のプロフェッショナルが宇宙の領域でも活躍していくのかもしれません。

50年後や100年後の話ではありません。これから、10年、20年後には「君のその夢、そのアイディア、力を貸してほしい」となるはずです。今の子どもたちは、そんな立ち位置にいるんですね。

宇宙によって世界中につながっている実感を

――荒井さんが今後やっていきたいことはありますか?

天文・宇宙に興味関心のある子は、昔も今も少数派、マイノリティーなんですよ。特に女性は小さい頃に「宇宙が好き」だと言うと、「そんなもの、やってどうするの?」などと言われ、さびしかったり、怖くて口に出せなかったりという思いをしたという話も聞きます。今でも、そんなふうに感じている子どもたちが多くいるのかもしれません。

だから、天文・宇宙の好きな子どもたちが自由に集まって、宇宙や星の話が安心してできる場を作っていけたらいいと思っています。実は、ジュニア天文講座にデンマークからの参加もありました。

――デンマークからですか?

デンマークと日本の両方から参加できる時間に講座を行ったのですが、子どもたちは、国を越えて宇宙に興味のある同世代の仲間がいるのだと実感し、交流していました。

そして、一緒に参加していたお父さん、お母さんたちの中にも、「天文・宇宙に興味のあるのは自分の子どもだけで、普段は学校でさびしい思いをしているのではないか」と心配されている方もいらっしゃいました。ですが、オンライン講座では宇宙の好きな子どもたちがたくさん集まり、元気に質問しているのを見て安心されたそう。子どもにとっても親にとっても安心できる、そんな場を引き続き作っていきたいですね。

(取材・執筆:わたなべひろみ  編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材先

株式会社アストロコネクト 代表荒井大作さん

天文講座・天体観察会の企画・運営支援の他、写真撮影講座、各種講演・イベントの講師及びファシリテーターを務める。星空ツアーガイド歴は10年以上。2020年よりYouTube Liveで配信中の「オンラインプラネタリウム」のプロデュース・解説、「ジュニア天文講座」の講師を務める。フォトマスター1級。星空案内人 正案内人【星のソムリエ®】 ※星のソムリエ®、は星空案内人資格認定制度運営機構が管理・運用する商標です。

http://www.enyujuku.com

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2021年3月22日)に掲載されたものです。

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