朝、どうしても起きられない……。その原因かもしれない「起立性調節障害」ってどんなもの?

専門家に聞く

2020/04/07

めまいや立ちくらみが頻繁に起こる、朝起きられない、身体がだるい……。これらの症状は、「起立性調節障害」が原因の可能性があります。

聞きなれないかもしれませんが、起立性調節障害は思春期に発症しやすい病気の一つ。根本的な原因は自律神経バランスの乱れとされており、症状が強い場合は日常生活が困難になることも。

今回は、起立性調節障害の原因や症状、発症が疑われたときの対処法をご紹介します。
 

起立性調節障害ってどんな病気?

起立性調節障害は、自律神経のバランスが乱れることによって引き起こされる病気です。

代表的な症状は、立ち上がったときや長時間立っているときに生じる立ちくらみ、めまい、失神。そのほかにも、朝起きられない・夜眠れない、慢性的な頭痛、身体のだるさや疲れやすさなどです。

個人差があるとされていますが、「起立性調節障害」という名前の通り、「起立」したときや長時間「起立」しているときに症状が現れやすくなります。

10〜16歳ごろに発症しやすく、発症率は女の子の方が男の子より約2倍高いとのこと。小学生の20人に1人、中学生の10人に1人は起立性調節障害を発症しているというデータ(※1)もあり、決して珍しい病気ではありません。
 

起立性調節障害は、どうして起きるの?

起立性調節障害には「自律神経のバランス」が大きく関わっています。

自律神経ってなに?
私たちの身体のさまざまな機能は、自律神経によって調節されています。自律神経には交感神経・副交感神経という2種類の神経があり、それぞれ相反する働きをするのが特徴です。
簡単に言えば、
交感神経は、身体を活発・活動的にする神経。
副交感神経は、身体を落ち着かせる神経。

たとえば、緊張したり興奮したりするときは交感神経が強く作用して心拍数を上昇させますが、気分が落ち着くと副交感神経が働いて心拍数を下降させるのです。

私たちは普段、立ったり座ったりという動作を何も意識することなく繰り返しています。

その時、身体には何が起こっているのでしょうか? 立ち上がるときには、血液は重力にしたがって足の方へ流れていこうとします。すると、脳に流れる血液が減少。脳に送られる血液量が減ることで、脳が酸欠状態に……。これを防ぐため、交感神経が即座に働きます。つまり、立ち上がったときは血圧をアップし、脳への血流を維持しようとするのです。

しかし、起立性調節障害の状態では、この仕組みがうまく働かなくなるため、立ち上がったり、長時間立ったりしていると立ちくらみやめまいなどを引き起こしやすくなります。重症な場合には、一時的に意識を失ってしまうことも。

また、自律神経は体内時計に合わせ、一定のリズムをもっています。そのため、それらバランスが崩れてしまうと、体内時計のリズムが乱れやすくなります。

起床時に交感神経が上手く働かなくなるため朝起きられない、日中ダルい、といった症状を引き起こすのです。また、夜間は逆に副交感神経が活性化する時間が遅くなるため、なかなか眠れず夜更かしが増えるケースも多いとされています。
 

どんなときに発症しやすいの?

起立性調節障害は、自律神経のバランスが未成熟な思春期に起こりやすい病気です。

しかし、思春期の子すべてが発症するわけではありません。自律神経のバランスには、ストレスが大きく関与していると考えられています。

思春期は友人関係、学業、進路などさまざまな不安や悩みを抱えやすいもの。さらに、家族や友人などに悩みを気軽に打ち明けにくくなる時期でもあるため、子どもたちは大人が思っている以上に大きなストレスを抱えているケースも少なくありません。このような、心身や社会性の未熟さが自律神経調節障害のリスクになると考えられます。

また、起立性調節障害の約半数は遺伝的な要因が関係していることも明らかになっています(※1)。ご家族のなかで「朝礼のときに倒れた」などのエピソードがある方は要注意です。

思春期に起立性調節障害を発症すると…?

起立性調節障害の症状の重さはさまざまです。

軽い立ちくらみなどがたまに起こるだけの方もいれば、昼夜逆転の生活を治すことができず日常生活に支障を来すこともあります。

このような重い症状が思春期にあらわれると、学校の遅刻や早退、欠席をくり返し、最終的には学校に行けなくなるケースも。実際、起立性調節障害を発症している子どもの3人に2人は不登校とのデータもあります。(※2)

また、起立性調節障害は病院の検査では発見されにくいのも特徴の一つ。そのため、周囲から不調を理解されず、「なまけ者」、「だらしない」などと誤ったレッテルを張られてしまうことも少なくありません。さらに、ご両親との関係が悪くなり、家庭が安心できる場でなくなるのもリスクです。

起立性調節障害はどう対処すればよい?

起立性調節障害が疑われる症状に悩んだら、できるだけ早く小児科や内科を受診することが大切です。

実は、心臓や脳の病気でも自律性調節障害と同様の症状が引き起こされることがあります。そのため、まずは命に関わることもある病気でないことを確認するためにも医師の診察を受けましょう。

精神的な症状が強い場合、心療内科や精神科、思春期の発達を専門的に診療する医療機関を紹介されることもあります。医師の指示に従って検査や治療を進めていきましょう。

病院ではどんな治療をする?

残念ながら、現状では起立性調節障害に高い効果を持つ薬はありません。そのため、病院では立ち上がるときの体勢やスピード、水分・塩分摂取量、運動習慣、生活リズムなど全般的な指導を行いながら症状の改善を目指します。

それらの生活指導をしても症状の改善がない場合、血圧を上昇させる薬や気持ちを落ち着かせて夜間の眠気を誘う薬などによる薬物療法を行うケースも。

家庭や学校はどう対処すればよい?

ご家庭では体調が悪く朝起きられない時、無理に起こして学校に行かせるのはNG。それがストレスとなって症状が悪化することも少なくありません。学校にも病気について説明をし、遅刻の多さや保健室登校などへの理解と配慮を求めましょう。

また、ご家庭では医師の指示に従った生活改善などが大切。特に、夜間はゆっくり休めるような環境を整え、病気の原因となっている可能性のあるストレスを取り除いてあげましょう。

参考文献
※1)日本小児心身医学会「起立性調節障害(OD)」
http://www.jisinsin.jp/detail/01-tanaka.htm

※2)済生会「子どもに起こりやすい起立性調節障害」
https://www.saiseikai.or.jp/medical/column/od/

(企画・取材・執筆:成田亜希子  編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材協力

成田亜希子

2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。プライベートでは二児の母。

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2020年4月7日)に掲載されたものです。

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