上手にお願いするには? 『言いかえ図鑑』著者の大野萌子さんに聞く、頼みごとのコツ

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2022/09/06

クラスメイトや同僚、家族、友人、パートナー。日々のあらゆるシーンや関係性において、私たちは「〜してくれませんか?」とお願いすることを避けては通れません。

その際に言葉遣いが少し違うだけで、相手を立てることもできれば、不快にさせてしまうこともあるでしょう。なかには「こんなことを頼んでもいいのかな」「自分なんかが頼むなんて」と思い悩んでしまい、うまく相手に頼みごとができない人も。

では、どうすればうまく「お願い」できるのでしょうか。ベストセラー『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』などを手がけてきた、一般社団法人日本メンタルアップ支援機構代表理事の大野萌子さんに、上手に頼みごとをして他者と良い関係性を築く方法や言葉の選び方、大事にしたい心がけについて伺いました。

断られた後のことを心配すると、頼みごとをしにくくなる

――産業カウンセラーとして働く大野さんは、ご著書の『言いかえ図鑑』シリーズで、「頼み方」のお悩みについて触れられています。そもそも頼みごとが難しいのはなぜでしょうか?

大きな理由が3つあります。1つ目に、遠慮や申し訳なさが挙げられます。「こんなことを私が頼むのは申し訳ない」と考えると、頼みごとをしにくくなりますよね。その背景にあるのは、他者優先の気持ちです。中には子どもの頃から「人に迷惑をかけないように」と教えられてきている人もいて、そういう人ほど誰かに頼るのは悪いと捉えられがちです。「自分のことは自分でやらなければならない」と強く思っていればいるほど、遠慮や申し訳なさを感じて頼みごとができなくなります。

2つ目は、「頼みごとを断られたらどうしよう」と、恐れの感情を抱いていることです。頼みごとを断られたときに、その後の人間関係が変わってしまうことを恐れているんですね。以前、私が「うまく相手にお願いするのが難しい」という相談を受けたとき、「実際に頼んでみたことがありますか?」と尋ねると、「いや、頼んだことはありません」と言われることが多々あります。頼みごとをした相手のリアクションによって、その後の関係性が変わることを必要以上に意識してしまっているのかもしれません。

3つ目は、自分自身の意思を把握できていないことです。自分のことを自分でわかっているようで、実はそうではないことも多いもので……。自分が何を求めて、何を頼みたいのかがはっきりできていないと、当然頼みごとは難しくなってしまいます。

――頼みごとが難しいシーンには、どのようなものがありますか?

ビジネスのシーンで例えるならば、与えられた仕事を期限内に終えられそうになく、人に頼むケース。もともと担当ではなかった人に自分の仕事を頼むのは、抵抗がありますよね。でも、人に頼めずに自分で仕事を抱え込み続けていれば、だんだん苦しくなってしまいます。実際そうした状況に陥った人から、「もう辞めたい」と相談を受けることがあります。

また学校では、断られることを恐れて頼みごとが難しくなるシーンが挙げられます。例えば、友達に試験前に「ノートを見せてほしい」と頼まれたとき。きちんとノートを取っていない上に、字も汚くて見せるのが恥ずかしくて断ったら、「見せてくれないのは、私のことを嫌いだから」と誤解されてしまい、以後の関係性が変わってしまうのです。また、「頼みごとをしたら嫌われるかもしれない」と考えて、余計に頼みごとをしにくくなります。

特に学校は狭い世界なので、子どもたちにとって友達との関係性が変わることは、死活問題にもなり得ます。

頼みごとは、人間関係の構築に有効

――頼みごとを難しく感じてしまう背景には、メンタル面の障壁がありそうですね。そうした障壁をなくし、うまく頼みごとをするためには、どのような工夫ができるでしょうか?

頼みごとをすることも、断られることも、立派なコミュニケーションだと捉えることですね。頼みごとを断られたときに距離を取る人が多いようですが、断られても必要以上に意識せず、それまで通り接することが大切です。それまで通りに接しなくなると、頼まれた側も「どうしたんだろう?」と感じ、気まずくなってしまいますからね。怒りや悲しみを感じたとしても、相手を必要以上に恨むのでもなく、関わり方を変えないのが一番なんです。

頼みごとは、さまざまな都合で断られることもあるのが当たり前。「断る/断られる」の関係になっても、お互いに素直になれた方が楽だし、楽しいですよね。発想を転換して、頼んだり頼まれたりすることで、新しい関係性を結べると考えてみましょう。

そもそも頼られることは基本的には嬉しいことのはずで、人の役に立てることは人にとってポジティブな原動力になるんです。だから、頼みごとは人間関係の構築には非常に有効なんです。

それは勉強でも、同じことが言えます。誰かに頼まれて教えてみると、教えた人の能力も上がっていく。頼まれて誰かの力になれることが、自分の力にもなる相乗効果があります。

もちろん、頼みごとのタイミングを考える必要はあります。当然、忙しいときは避けるなどの配慮も必要です。ただ、相手が嫌いなことを無理強いする場合でなければ、基本的にはOKだと考えていいと思います。

――頼みごとが苦手な人は、どのようなことから始めればいいでしょうか。

小さな頼みごとから試してみるのがおすすめです。時間やお金がかかる頼みごとは、当然ハードルが高くなります。ですから、「そのぐらい頼まなくても自分でできる」と思えるような簡単なことから、“頼みぐせ”を作っていきましょう。

学校の友達が「コンビニに行ってくる」と言ったら、「コンビニ行くなら、私のも頼んでいい?」と頼んでみる。家で家族に頼みごとをするのが苦手なら、「麦茶を入れてほしい」と。何でもないことから始めれば、少しずつ頼みごとのしやすい人間関係を構築していけます。頼むことへの抵抗感をなくしていくのが重要です。

頼みごと一つで相手と良好な関係になるコツ

――頼みごとをスムーズにするために、どんな言葉遣いをするのがいいでしょうか?

まずは、「あなただからお願いしたい」と伝えるのがいいと思います。「誰でもいいから頼んでいるのではなくて、あなただから」と素直に伝えれば、頼まれたほうは気持ちよく引き受けやすくなります。

「みんなに断られてしまって、あなたにお願いしている」と伝えてしまったら、相手は「誰でもよかったのかな」「自分は最初に頼んだ相手ではなかったんだな」と感じて、嫌な気分になってしまいますよね。嘘をつく必要はありませんが、「あなたにお願いしたい」といった姿勢で頼むのがいいと思います。

また、「何をお願いしたいか」「どのぐらいの時間を要するか」「いつまでにお願いしたいか」などを具体的に伝えるのも大切です。

反対に、「ちゃんと」「ちょっと」「徹底的に」などの曖昧な表現で伝えるのは避けた方がいいですね。何をどうしてほしいのかわからないと、相手も戸惑ってしまいます。何を、いつ、どうしてほしいのか、しっかり伝えましょう。

例えば、「ちょっといいですか?」と言うのではなく「10分ほどお時間ありますか?」と言いかえる。なかには「ちょっといいですか?」とお願いして、1時間以上にわたって相手を拘束してしまう人もいますよね。終わる時間がわからないと予定を立てられないので、頼まれても気軽に聞けなくなります。時間を伝えていれば、相手がすぐには対応できなかったとしても、「30分後に時間を取れます」と提案してくれるかもしれません。

頼みごとの期限も同じで、「できれば早めにお願いします」ではなく、「月末までにお願いします」と言いかえる。具体的に伝えることで、相手は気持ちよく引き受けることができます。

――たしかに、曖昧な言葉遣いや回りくどい表現は、相手を困らせてしまうことがありますよね。

ほかにも避けた方がいい表現には、「暇だったらで構わないんだけど」や「できればでいいので」など、フォローにならない曖昧な前置きが挙げられます。そんなふうに言われたら、私だったら「じゃあ、やらなくてもいいかな」と思ってしまいます(笑)。

お願いしたい気持ちを前面に押し出すことが大事だと思います。「忙しいのは分かっているけど、こういうふうに困っていて、これをいつまでにお願いしたい」と率直に伝えるのがいいですね。

――コロナ禍の影響もあり、テキストコミュニケーションの場面も増えています。テキストで頼みごとをするときのポイントを教えてください。

メールやチャットなどのテキストで頼みごとをする場合、ニュアンスが伝わりにくいことが問題です。一方で、まわりくどく伝えるとよくわからないし、長い文章は忙しい人には読んでもらえません。

ですから、口頭で伝えるときよりも具体的かつ率直に書くことが大事だと思います。「何を」「いつまでに」といった情報を箇条書きにするのもいいですね。

用件だけが書いてあると、冷たく命令されているように感じる人もいます。「恐れ入りますが」「お忙しいところ申し訳ありませんが」といった言葉を最低限使いながら、情報を率直に伝えましょう。

絵文字やスタンプは、昔はマナー違反とされがちでしたが、今では仕事でも使う人が増えています。使うときは、話し言葉と同じように「イエスなのかノーなのかよくわからない」と相手に感じさせていないか、確認しながら使ってみましょう。

――頼みごとをやってもらった後、声がけのポイントはありますか?

まずは感謝を示すことが重要です。みなさんも思い当たるところがあるかもしれませんが、頼みごとをしたとき、期待通りのものが返ってくることは少ないです。期待していたのが“10”だったとして、“8”しか返ってこなかったとします。そんなときに、足りていない“2”の部分に目を向けるのではなく、“8”の部分に注目し、労う言葉をかけてみましょう。

日常生活でもよくありますよね。例えば、家族にトイレットペーパーの購入を頼んだら、いつも使っているダブルではなくシングルを買ってきて、揉めてしまったとか。シングルかダブルか、気にしない人はわからなくて当然です。

そんなときは、まず買ってきてくれたことに感謝を示して、柔軟に対応した方がいいと思います。もしどうしても間違ってほしくないのであれば、「ダブルのトイレットペーパーを買ってきてほしい」とあらかじめ具体的に伝えましょう。

日頃から、小さな頼みごとを積み重ねる

――明確に期限を伝えて頼みごとをしても、相手が守ってくれないこともあります。そんなときの対処法や伝え方を教えてください。

締め切りが守られていなければ、はっきりと言う必要があります。「締め切りは昨日までです。どうなっていますか?」と。遠慮して「いつぐらいになりそうですか?」と尋ねたら、やんわりとした答えしか返ってきません。「難しそうだったらおっしゃってくださいね」と言ったら「難しい」と言われてしまうことも……。こうした場面では、まず事実を明確に伝えて、再び「◯日までにお願いします」と伝えましょう。

遅れがちな人には、事前のリマインドもおすすめです。「明日までです」とあらかじめ伝えてみましょう。もちろん、「いつも遅れているのでリマインドしました」とわざわざ書く必要はありません。あくまでも機械的に「明日までです。よろしくお願いします」と伝えてみてください。

相手を責めると問題がこじれるので、控えるのが得策です。ただ、気持ちは伝えていいと思います。もし相手が約束を破ってしまったら、事実を伝えた上で、「(私は)残念です」と主語を「私」にして伝えましょう。これを“Iメッセージ(アイメッセージ)”と言います。我慢できなければ、相手を責めるより前に「私は」の目線で表現してみてください。

“Iメッセージ”は、友人関係でも大切です。例えば、友人にネガティブなことがあったのをあとから打ち明けられた場面。「言ってくれればよかったのに」と相手を責めるのではなく、主語を「私」にして「力になりたかった」と気持ちを伝えてみましょう。「困ったことがあったら連絡してね」と付け加えれば、次は力になれるかもしれません。

――円滑に頼みごとをするために、日頃からどういった心がけをしておくといいでしょうか?

普段から小さな頼みごとをして、周囲と人間関係を作っていくことが大事です。相談事も同じで、いきなり重い相談はできないんですよ。「今日のお昼ご飯、何食べる?」といった軽い雑談が日常にあって、それを積み重ねていったあとに、重い相談を持ちかけられるようになります。

自分自身も小さな頼みごとをして、相手の頼みごとも引き受けたり断ったりしながら、持ちつ持たれつの関係を作っていきましょう。頼みごとに恐れを抱いている人もいますが、人間関係を構築する手段だと捉え、小さなことから頼んでみることをおすすめします。

(取材・執筆:遠藤光太 企画・編集:桒田萌/ノオト)

取材協力

大野萌子さん

一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、公認心理師、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。防衛省や文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで講演・研修を実施。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)などがある。

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2022年9月6日)に掲載されたものです。

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