アプリやカードゲームで「イライラ」を手放す? 「怒り」とうまく付き合うアンガーマネジメント術

専門家に聞く

2020/08/13

友達とケンカした、親にうるさく言われた……。そんなとき、ついイライラしまう人は多いでしょう。でも、怒りの感情を持ち続けていると、自分自身が嫌になったり疲れたりすることがあります。怒りやイライラとうまく付き合う方法はあるのでしょうか。

「6秒ルールやアンガーログなど、怒りをコントロールする方法はいろいろありますよ」と話すのは、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会の篠 真希さん。

アンガーマネジメントとは、怒りの背景を理解し、自らの力で感情をコントロールするスキルのこと。篠さんに、怒りが発生するメカニズムやイライラを制御する方法、スマホでできる対策を教えてもらいました。

ネガティブな感情が重なると、怒りの炎が大きくなる

そもそも、なぜ怒りやイライラといった感情が生まれてしまうのでしょうか? そこには、出来事に対する「偏った意味づけ」が関わっています。

「たとえば、Aさんに『おはよう』と挨拶したのに、反応がなかった場合。その状況だけなら、『聞こえなかったかな?』と思う程度で済ませるでしょう。ところが、『昨日のあの事を怒っているんだ』『Aさんは私のことが嫌いだから、聞こえないふりをしたんじゃないか』など勝手に解釈し、偏った意味づけをすると、怒りにつながってしまうのです」

▲怒りが発生する段階

また、自分の中にある「こうあるべき」が裏切られると、ライターでいう着火石となり、怒りのスイッチが入ってしまいます。さらに、体調が悪い、不安、焦り、悲しいなどの条件が重なると、同じ出来事であっても怒りの炎が大きくなります。

「たとえば、歩きスマホをしている人がいたとしましょう。平常時なら『歩きスマホはダメなのに』と少しイラっとする程度で終わり。しかし、自分が急いでいて、その人が邪魔だとすると、『ちゃんと前を見て歩いてよ!』と怒りが大きくなってしまうのです」

▲怒りの炎が大きくなるイメージ

「とくに10代は、ホルモンバランスが崩れやすいので、精神的に不安定だったり、モヤモヤを抱えたりすることが多くなります。いわばライターの燃料の部分が満タンになっている状態といえるでしょう。そのため、ちょっとしたことで怒ったり、泣けてきたりしやすいのです」

同じ年代でも、怒りっぽい人と、そうでない人がいます。なぜ、こうした違いが出てくるのでしょうか。

「生まれつきの性格だけでなく、保護者との関係によるところも大きいでしょう。親子で怒り方が似ているケースはすごく多いですね。また、幼少期にあまり守られず育った場合、『自分で自分を守らなければ』という意識から、子どもは闘争モードに入りやすいことがわかっています。つまり、人から攻撃を受けたとき、自分でやり返さなきゃと考え、相手を攻撃してしまう。それでスッキリしたり自分の要求が通ったりすると、その行動が成功体験として残り、繰り返してしまうのです」

『怒り=悪い感情』ではない? 怒るときの3つのルール

篠さんには、仲間はずれやいじめ、ネットでの中傷など、中高生から多くの相談が寄せられます。

「一番多いのは、友人関係の悩みです。『仲がいい友達は、自分と同じように考えている』という思い込みを持ちがちですが、実際は違う価値観を持っているんですね。また、親との関係にも変化が生じる時期でもあります。とくに親側が子どもの成長を受け入れられなくて、衝突が生まれるという話を聞きますね」

『嫌なことをされた』『誰も守ってくれない』と感じて、被害妄想が生まれてしまったり、そのフラストレーションをネット上で、強い言葉をつかってぶつけてしまったり……。その怒りの裏には、理想と現実のギャップや漠然とした不安感などの「モヤモヤした感情」があるケースが多いそう。

では、怒りを感じたとき、どう対処すればいいのでしょうか。一番避けたいのは「反射」で行動してしまうことだと言います。

「相手の言動にムカッとして、勢いで言葉を返したり手が出たりする。それが反射です。『なんなのよ!』と言い返すのは攻撃であって、目的は達成されないんですね。怒りやイライラは、目の前にある状況を変えたいときに発生します。本当は、解決のために方向を変えたいわけですよね。しかし、反射では解決に向かわず、むしろ状況を悪くすることのほうが多いのです」

篠さんから、怒るときの3つのルールを教えてもらいました。

・人を傷つけない
・自分を傷つけない
・モノをこわさない

「3つのルールを守れば、怒っても構いません。感情的になって暴言を吐いたり、人をぶったりするのはダメですが、『怒りを感じる=悪いこと』ではないんですよ」

では、怒りをうまく伝えるには、どうすればいいのでしょうか。

「怒りではなく、『そう言われると傷つく』『嫌な気持ちになる』と、感情を伝えるようにしてください。『その言い方はやめて』『ウソはつかないで』など、相手が変えられることを言うのはOKです。また、『次はこうしてほしい』と未来形でリクエストするのもおすすめです。たとえば、『Bさんがあなたの悪口を言ってたよ』という話を聞いたとします。もしそれが嫌なら、『私はそういう話を聞きたくないから、次からは言わないで』と伝えれば済むかもしれません。自分がしてほしいこと、してほしくないことを伝えたほうが、コミュニケーションがスムーズになるでしょう」

怒りは「我慢」ではなく「コントロール」する

怒りをむりやり消そうとしたり、気持ちにフタをしたりする「我慢」と、うまく制御する「コントロール」は、どう違うのでしょうか。

「相手に変わってもらう、状況を変える……。そういう目的達成に対して自分ができる行動や努力をせず、はじめから諦め、感情にフタをしてしまう。それが我慢です。あとは、『自分が悪い』『我慢すれば丸くおさまる』と、1人で勝手に解決しようとするケースは多いでしょう。しかし、我慢していると精神や体調面に悪影響が出てきます。

まずは、怒っている自分の感情を受け入れましょう。そして、反射や攻撃で応じるのではなく、どうすれば解決できるかな、と目的に向かった行動やコミュニケーションを試みる。それが怒りをコントロールするということです」

怒りを我慢せず、冷静になって行動に移す。しかし頭では分かっていても、どうすればいいのか分からない場面は度々あります。なかには、『相手に感情を伝えていいの?』と戸惑う子や、怒りを感じるとパニックになることも……。

「小さいころから、『怒っちゃダメ』と育てられていたり、怒ったあとに友達との関係が悪くなったりすると、『怒りを抱える=悪いこと』だと認識してしまう。そうすると、怒りが湧いてきたときに慌ててしまうんですね。『危険なものを持っちゃった』『私は悪い人間なんだ』など、自分を責める反応が起こると、なかなか冷静に対処できません」

怒りが湧いてきたとき、落ち着いて行動するにはどうすればいいのでしょうか。怒りをコントロールするための具体的なテクニックを聞きました。

「6秒待つ、深呼吸する、落ち着く言葉をつぶやく、などいろいろあります。いったん怒りを受け入れ、衝動性をやり過ごすようにしましょう。気持ちが静まるのを待って、理性や判断力が戻ってから行動すれば、問題解決に繋がりやすくなります」

もう一つ、おすすめの手法が「プレイロール」です。

「尊敬できる先輩や、あんな大人になりたいなと思う人を頭に描いておき、演じる。それがプレイロールです。『あの人だったら、こんな状況でもキレないだろう』『こんなふうに返事するはず』と考えれば、冷静になれるかもしれません」

アプリとカードゲームで、自分の怒りを把握する

ほかにも、スマホを活用して怒りやイライラをコントロールする方法があります。

「好きなアイドルやスポーツ選手の写真、気分が良くなる画像をスマホですぐ見られるようにしておくとよいでしょう。相手への攻撃心が緩和されます。あとは、日時、出来事、感情、自分のとった行動を『アンガーログ』として記録するのもおすすめです」

▲日本アンガーマネジメント協会が提供するアプリ「アンガーログ」の画面。iPhone版、Android版がある。

「私たちが提供している『アンガーログ』は、出来事とともに自分の気持ちを書くアプリです。怒りを感じた出来事を書き留めるだけでなく、嬉しい、不安、悲しいなどのスタンプを選んで押していきます。冷静になって読み返すと、自分の怒りのクセが見えてくるでしょう。たとえば、怒ったときの言動をふり返ると、『あの言葉、意味あったのかな?』『本当は怒っていたんじゃなくて、焦っていたんだ』など、怒りに隠れた自分の感情に気づくことができ、新しい行動の選択肢が生まれるかもしれません」

もう一つ、中高生向けの『アンガーマネジメントゲーム』も紹介していただきました。日常生活で怒りを感じたとき、どう考えて行動すればいいのか、遊びながら学べるカードゲームです。

▲アンガーマネジメントゲーム for teen/出典:一般社団法人日本アンガーマネジメント協会

ゲームの進め方はシンプル。まず、『あいさつをしようと指導している先生本人が、あいさつをしていない』などの出来事が書かれたカードを1枚引きます。それを見て、どれくらい怒りを感じるのかを温度にたとえて考え、一緒にプレイしているメンバーがそれぞれ温度計カードを出します。

▲アンガーマネジメントゲーム for teen/出典:一般社団法人日本アンガーマネジメント協会

「そうすると、『こんなことで怒るの?』『すごく嫌じゃない?』といった話が生まれます。他にも、『友達が、自分の文房具や服をマネしてくる』『自分の写りだけが良い写真をSNSにアップする』など。実際に話してみると、価値観の違いがはっきり分かるんですよ」

日常生活でよくある題材をテーマにしていますが、あくまでゲームなので、違う意見であっても受け入れやすいそうです。

「体験した子どもたちは、『友達同士でも、こんなに考え方が違うんだ』と言いますね。ふだん価値観の違いを表に出すことって、あまりないでしょう。このゲームであれば、気持ちを言葉にするのが苦手でも、異なる価値観をシェアできます」

現在、このカードゲームは非売品ですが、日本アンガーマネジメント協会の認定講師が開催する講座で体験できます。最近ではテレビ会議ツールを使ったオンライン講座も始めているそう。気になった方は、篠さんのブログをチェックしてみてください。

自分のクセを知ることで、怒りはコントロールできる

筆者もさっそくアンガーログのアプリを使ってみたのですが、感情を気軽にメモできるので続けやすく、カレンダーに表示されるスタンプで客観的に振り返ることができました。

「あのとき、うまく言い返せなかった」「八つ当たりしてしまった」など、怒りの感情を処理する方法が分からずモヤモヤした経験は、誰もが心当たりがあるはず。

でも、一呼吸おいて気持ちを静める、アンガーログで感情を記録するなど、怒りをうまくコントロールする方法はたくさんあります。怒るときのパターンを把握し、自分にあった方法を探してみましょう。

(取材・執筆:村中貴士 企画・編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材先

篠 真希(しの まき)さん

大学卒業後、総合商社秘書室勤務。退職後、夫の転勤に伴い7年間海外に居住。帰国後、子供の生活環境の変化・学級崩壊などを経て、子供の感情マネジメントに関心を寄せ、アンガーマネジメントを学ぶ。日本で初めての「母親のための入門講座」を開催すると同時に、幼少期からのアンガーマネジメント習得の必要性を提唱し「キッズインストラクター養成講座」の立ち上げに従事。2017年からは、思春期の子どもを対象としたティーン講座の開発・普及に従事。著書に「子どものアンガーマネジメント」など4冊、韓国語や中国語などにも翻訳されている。

https://ameblo.jp/aguardianangel/

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2020年8月13日)に掲載されたものです。

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