顔が見えないからこその安心感って?ーーD×Pの「否定しない」SNS相談の舞台裏

専門家に聞く

2019/07/11

誰にも相談できない悩み。けれど、誰かに相談したいときもある。

最近、私たちの身近にあるSNSを活用した相談の場が増えています。従来は、顔を合わせて行う面談スタイルが主流でしたが、最近はオンラインのやりとりを中心とした「SNS相談」がだんだん浸透しているのです。

今回お話を伺った、NPO法人D×P(ディーピー)は、SNS相談にいち早く取り組んでいる団体のひとつです。利用頻度が高いSNS「LINE」を用いて、15〜19歳の若者を中心に相談に乗っているそう。

一体、なぜD×Pは10代の信頼を集め、多様な相談に乗り続けられているのでしょうか。D×P代表の今井紀明さんに、SNS相談の舞台裏を教えてもらいました。
 

堅苦しいオフライン面談よりも、気軽でハードルの低いSNS相談から

――最近は、自治体などでもSNSを使った悩み相談の事が増えているそうですね。D×Pでは、いつ頃からSNS相談を始められたのでしょうか。

法人全体の取り組みとしてSNS相談を始めたのは、2018年11月です。ただ、2〜3年ほど前から、僕個人のTwitterで若者の相談に乗っていたんですよね。

今井さんに届いていたメッセージの一部


悩みの種類はさまざまで、就職や進学のような将来の話もあれば、いじめや不登校などの抱えている問題なども……。個人的にその相談に一つずつ向き合っていたのですが、団体として相談に乗れる環境があったほうが良いのではないかと思い始めたんです。

――乗れる相談の数も増えますもんね。現在はどのような体制で相談に乗っているのでしょうか。

まず、使用しているSNSはLINEです。ビジネス用にリリースされている「LINE@」を利用して、個人とメッセージのやりとりを行っています。また、運営スタッフは3名です。

今、登録者は160名ほどで、そのうち10〜20人と常時やり取りをしています。

D×Pが行う「SNS相談」の様子

――LINEは日頃のコミュニケーションツールとして馴染みがあるから、若者でも気軽に相談ができるのですね。ただ、顔を合わせて話すわけではないので、信頼関係が築きにくいのではないか、と思ってしまいます……。

案外、そんなことはないですよ。むしろ、今の時代は、SNSで仲良くなってからオフラインで会う流れが珍しくないですよね。むしろ、話したことのない人といきなり直接会うほうが、抵抗がある子が多いのかもしれないとすら思います。

――なるほど……!

それに、LINEなら気軽に連絡ができるから、悩みが解決した後の報告をもらうこともあるんですよ。

ちょうど先日も、冬に相談に進路相談に乗っていた子から、就職したと連絡をもらいました。当時は「就職なんてイメージできない」と言っていたので、僕から「企業を訪問してインタビューをしてみたら?」と提案したんです。それで、企業訪問を繰り返したら、入社したい企業を見つけたらしくて。報告をもらったときは、感極まったことを覚えています。

気軽に使えるSNSだからこそ、一過性ではなく、立ち戻れる場所として活用してもらえているみたいなんですよね。

「否定はしない」「やみくもにアドバイスはしない」相談に乗るメンバーが意識していること

――スタッフ3名で常時20人の相談に乗るとなると、決してラクな取り組みではないように感じます。一人ひとりに信頼関係を作るために、どんなことに意識しているのでしょうか。

例えば、否定しないこと。まず、相談してくれたみんなの気持ちを汲み取ったり、じっくりと話を聞いたりすることから始めるべきだと思うからです。

オンラインでもオフラインでも、知らない人に自分のことを話すのは勇気がいります。なのに、話している途中で「でも」と否定されたら、続きを話したいとはなかなか思えないかなと。

あとは、すぐにアドバイスしようと思わないこと。相談されていると思うと、僕らは「なにか答えを出さなければいけない」と感じてしまいがちです。しかし、焦ってアドバイスしても、本質にはたどり着けません。

表面上は単純な悩みでも、深掘りするとさまざまな課題が潜んでいることがあります。それらを理解せず言葉をかけると、解決できることも解決できなくなってしまうと思うんですよね。

――まずはじっくり話を聞いて、そこから、一緒に答えを見つけるために歩みを進めるイメージなのですね。

そうですね。だから、最初はほとんど雑談ってこともありますよ。好きなことや趣味の話から始めて、お互いの人柄を知るんです。

あと、細かいところですが、基本は即レス。すぐに返事をくれる人かどうかは、信頼に直結するためです。

――運営メンバーそれぞれの個性や特徴を出すこともあるのでしょうか。

SNS相談にのるD×Pスタッフ

人間味を出すことは常々意識していますね。基本的に、相談者の話を聞くことを重視しますが、時には自分の体験談や意見なども織り交ぜているようです。

複数のスタッフで運営しているので、相性が合わないときは別の担当者が引き継ぐこともありますね。相談者が心地よく安心して話せる環境作りは、何よりも重視しています。

――そうして向き合っていく中で、相談者に変化が見られるものなのでしょうか。

見られます。ただ、どのように、どのくらいの期間で変化があるのかは、人それぞれで一概には言えません。

相談に乗るなかで、次のステップとなり得るものをそれぞれに想定しているので、ゆっくりでもいいから歩んでほしい思いでいっぱいですね。

――今井さんの印象に残っている変化なんかもあるのでしょうか。

印象的だった、ある高校生がいます。初めて相談の連絡をくれたときは通信制高校に通っていたのですが、引きこもりがちで「学校に行きたくない」の一点張りでした。ところが、対話を重ねるうちに絵や海外に興味があると教えてくれたんです。

そこで、無料で海外のスタディツアーに参加できる機会を提案しました。最初はためらっていたのですが、興味が勝って勇気を出して海外に行ったんです。

――大きなチャレンジですね……!

ええ。ただ、さらには驚くのはその後です。帰国後、あれだけ拒んでいたはずの学校に「行きたい」と自ら言い始めたんですよ。その上、今は高校に通学しながら趣味も楽しんでいます。彼女が元々持っていたバイタリティに目を見張りましたね。

悩む子どもたちの力になりたいから、D×Pは大きなコミュニティの輪を作る

――SNS相談を始めてから、相談してくれた子どもたちからはどのような声が届いているのでしょうか。

「親身に話を聞いてくれる」「スマホひとつで相談できるからすごく便利」「悩みができたらとりあえず連絡しようと思える」などなど。うれしい言葉ばかりですよ。

まずはなんでも相談してほしいと思っています。その後、もし他団体のほうが解決しやすい悩みだと判断したら、僕らからコンタクトを取ってつなぐこともあるんです。

――たしかに、悩んだときに相談できる場所ってなかなか見つからないものですよね。

そうなんです。だから、今後はSNS相談のみならず、相互に助け合えるネットワークの構築にも注力していきたいと考えています。

たとえば、SNS相談に乗っているD×Pのメンバーは、研修は行っていますが、カウンセラー資格を持っているわけではありません。

でも、カウンセラーの専門知識が必要とされる場面が訪れることはあります。だから、様々な専門知識を持つ方におつなぎすることもあります。カウンセラーではない僕らだからできること、カウンセラーだからできることの両方を理解し、「つなぐ人」が必要だと感じます。D×Pは、そんな存在になりたいのです。

――人や組織とのつながりを生む。コミュニティ作りに似ていますね。

そうですね。つながりを軸に、仕事や住む場所を全国で提供できるようにもなりたいです。

ちなみに、現在はD×PのSNS相談と学校や市区町村の連携も進んでいます。少しずつではありますが、輪を広げられたらいいですよね。

――SNS相談はきっかけのひとつなのですね。真の目的は、悩んだり迷ったりする子どもが気兼ねなく頼れる場所を作ることである、と。

僕らが相談に乗っている子どもたちは、人に言えない悩みを抱えて生きています。誰に話したらいいのかもわからず迷っています。

でも、不安を抱えたらすぐに連絡してほしいんです。就職、進学、不登校、いじめ、家庭環境のこと。なんでも良いです。必ず相談に乗るから、まずは連絡が欲しいです。そして、一緒に良い道を見つけていきましょう、と伝えたいです。

(取材・執筆:鈴木しの 編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材協力

今井紀明(いまい・のりあき)さん

認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長。高校生の時、子どもたちのための医療支援NGOを設立し、当時紛争地域だったイラクへ渡航。現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後日本社会から大きなバッシングを受ける。その後、通信制高校や定時制高校の生徒が抱える課題に気づき、2012年にNPO法人D×Pを設立。

Twitter:https://twitter.com/NoriakiImai

認定NPO法人D×P:http://www.dreampossibility.com/

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2019年7月11日)に掲載されたものです。

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