May J.、シシド・カフカを担当! エイベックスの有田雄三さんに聞く、音楽ディレクターになる方法

先輩に聞く

2017/12/19

私たちが日常的に耳にするさまざまな音楽。音楽が出来上がるまでには、制作から発表までほとんどをひとりでこなすアーティストもいれば、アーティストを中心に作曲家や作詞家、スタジオエンジニア、プロモーション担当者など、多くの人が関わるような数百人規模の大きなプロジェクトもある。

音楽プロデューサーやディレクターの仕事も、こうしたプロジェクトを支える重要な役割だ。

音楽プロデューサー/ディレクターとは、そもそもどんな仕事なのか? どうすればなれるのか? エイベックスでMay J.、シシド・カフカ、moumoonなどを担当した有田雄三さんに話を聞いた。

音楽プロデューサー/ディレクターはどんな仕事?

――まず、音楽プロデューサー/ディレクターについて教えてください。

音楽プロデューサー/ディレクターとは、アーティストのブランディングや販売戦略を考え、音楽制作の陣頭指揮を執る職業です。会社ごとのルールや、フリーランスでも名乗る人によって呼び名が違うだけで、プロデューサーとディレクターで明確な違いはありません。

――どうすれば音楽プロデューサー/ディレクターになれるのでしょうか?

所属アーティストを持つレコード会社やマネジメント会社に入社して、制作部門配属になることです。

――レコード会社に入社するのは、狭き門のように感じますが。

もちろん、誰でも入れるわけではありません。音楽に対する知識、熱量、経験など、いろんなものが必要です。

ちなみにエイベックスは、数年前から新卒一括採用をやめています。未経験者を採用しないという意味ではなく、29歳までに強い志(こころざし)を持って様々なことにチャレンジしてきた人を「“志”一括採用」として採用しているんです。

音楽業界って、本当に泥臭い業界なんです。アーティストがいて、マネージメントがいて、サポートするミュージシャンがいて、作曲家、作詞家、編曲家がいて、プロデューサーがいて、スタジオエンジニアがいて、宣伝担当がいて、メディアの方々がいて、CDショップの店員さんがいて、ファンがいる。中心にいるアーティストから距離が離れれば離れるほど、その熱量は下がっていく。どこまでその熱量を高いまま保てるか、ただそれだけなんですよ。たくさんの人を巻き込むのは、強い思い、熱量が必要です。

だから、中心に近いところにいるレコード会社の社員は、ものすごい熱量を持っていないといけません。そのために、志で採用するんです。

「東京に行って、負けてもいいから挑戦してこい」

――有田さん自身はどのように音楽ディレクターになったのでしょうか。経歴を教えてください。

僕は、福岡で生まれ育ちました。ずっとスポーツをやっていて、高校もスポーツ推薦で入ったのですが、途中で音楽にのめり込んでしまって。それで、母親に「大学には行かない。音楽を職業にしたい」と言ったら、「本気の覚悟があるならこれで一番欲しいギターを買ってきなさい」と、僕のために貯めていてくれた30万円を渡してくれました。

高校を卒業したあと、しばらく実家で暮らしていたのですが、東京に出てみようと思って。父親に「東京に行って音楽で勝負したい」と言ったら、「そうか、ようやくその気になったか」と。どういう意味か聞くと、父親は「東京に行って、成功してほしいんじゃない。負けてもいいから挑戦する人生を選んでほしいんだ」と言うんです。その言葉で送り出してもらって、東京に引っ越しました。

東京では、コンビニとCDショップでアルバイトする傍ら、曲を作りライブを行う日々。自分の音楽活動をしながら、ヒット曲分析や知り合ったプロミュージシャンの方のお話を聞く中で「もしかしたら、自分はほかのアーティストをプロデュースする方が向いているのかもしれない」と思い始めました。

何カ月か経ったときに、アルバイト先のコンビニでエンタメ情報誌をめくったら、エイベックスの社長の松浦勝人のインタビューが載っていて。そこに、「音楽制作者を目指す人向けのコンテストを開く」と書いてあったんです。

デビュー前の育成アーティストのヒット・プランニングを募集すると。あとで聞いたら、全国から何千通と応募があったらしいです。なぜか自分の提案は通ると信じ込んでいて、締め切り後、僕のところにはずっと連絡が来なかったんですけど、「連絡が遅いな~」と思っていました(笑)。

そうしたら、締め切りから2カ月ほど経って、やっと電話がかかってきたんです。「あのコンテストには落ちたんだけど、エイベックスの音楽レーベルで働かない?」と言われて。それで担当者に会いに行きました。

最初に配属されたのは、エイベックスグループのレーベルの一つ「rhythm zone(リズムゾーン)」の宣伝部。PRチラシを作って、ラジオ局などのメディアへ所属アーティストのプロモーションをする部署です。それで、あるアーティストのPRチラシを作るように指示されたのですが、そのときまわりの人たちはイラストレーターなんかのソフトを使ってかっこよく作っているのに、僕は高卒のフリーター上がりで、そんなソフト使ったことがない。それなら……と、CDショップのバイトで培ったPOP制作の要領でPRチラシも手書きで作ってみたら、それが思いのほか効果があったみたいで。ほかの人も手書きでチラシを作るようになったりしました。

2年ほど宣伝部署で勉強させていただいて、そのあともともと希望していた音楽制作セクションに異動になりました。制作セクションにいたのは10年。その間に担当したアーティストは、May J.、シシド・カフカ、moumoonなどです。

――今後、音楽業界でどんなことをしていきたいと思っていますか?

実は、今年の4月に音楽事業部から異動し、僕は音楽ディレクターの職を離れました。今は、エイベックス株式会社のグループ戦略室に新設されたデジタルR&Dセクションで、エンタメとテクノロジーの融合で「お客さんの感動体験をどうやって広げるのか?」をテーマに研究開発の責任者をしています。

さらに、音楽の利益分配における仕組みも変えていきたいと思っています。ミュージシャンや編曲家、エンジニアさんなど、才能を持った人たちが正当な対価を得て音楽を生み出すことへ没頭できる環境を今の時代に則したかたちで整えたいと思っています。

音楽を志す人や、それを支える音楽業界全体が夢に溢れ活気ある場所であり続けられるように尽力していきたいです。

好きなアーティストを、自分の仕事で支える

――最後に、中高生にメッセージをお願いします。

僕がどうしても伝えたいのは、「根拠のない自信ってめちゃくちゃ大事だよ」ということです。僕がいつでも目の前のことを全力でやれて、アルバイト時代も前向きに生きていたのは、「自分は音楽の世界で生きていく」という、まったく根拠のない自信があったから。

人や親から何か言われたり、自分で自分の将来を思い悩んだりして、精神状態が良くないときもあるかもしれないけど、とにかく進むしかない。だから、自分の得意なこと、好きなことを信じて、全力で生きていってほしいなと思います。

エイベックスには、もともとそのアーティストのファンで、この人を応援したい、支えたいという思いを持って入社してくる人がたくさんいます。好きなアーティストがいたら、ファンであるだけじゃなく、もしかしたらあなたの得意なことで仕事として支えることができるのかもしれない。それは音楽の仕事で支えるだけじゃなく、ファッションやメイク、CDデザイン、マネジメントなど、あなたの得意分野でアーティストを支えることができるんです。

好きなことがあったら、それを信じて自分の能力を高めていく。そうしたら、ひょんなことから道が拓けるかもしれません。僕が、コンビニで立ち読みした雑誌で、現在の上司・松浦勝人に出会えたように。

(田島里奈/ノオト)

取材協力

有田雄三

エイベックス株式会社 グループ戦略室 デジタルR&D

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2017年12月19日)に掲載されたものです。

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