外から見えない「心の傷」をどう癒す? トラウマ・PTSDとの向き合い方を教えてくれる本5選

本などから学ぶ

2019/04/02

自然災害や事故、犯罪被害などの強い衝撃による傷、そして身近な人との関係によって受ける慢性的な傷つき。外から見えない「心の傷」は、思いがけぬときに負ってしまうことがあります。

今回は、「トラウマ(心的外傷)」や「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」とは何か、そして傷ついた心と向き合う方法を教えてくれる5冊を紹介します。

「なるべく心に負荷をかけないもの」を注意深く選んでみましたが、もし読み進めるのがつらくなったら、一度本を閉じて休みながら読んでください。

『赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア 自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本』(白川美也子/アスクヒューマンケア)

トラウマがどういうもので、どうやって向き合えばよいのかを、童話『赤ずきん』を題材に物語形式で説明された一冊。

主人公の「赤ずきん」は、かつてオオカミに食べられそうになった経験がトラウマになっている女の子。作品中では自助的活動のなかで成長し、支援者になった女性として描かれています。もう一人の主人公「オオカミさん」は、加害者かつ複雑性トラウマを受けた被害者として描かれており、赤ずきんちゃんとの出会いでトラウマからの回復を経て、支援に向かいます。

物語を通して、臨床的な回復の体験を得られること、「単回性のトラウマ」や「複雑性PTSD」、慢性化したトラウマによる症状「DESNOS」といった一見難しい概念を知られるのも本書の特長です。

「300gのお肉をもらったら料理をして自分の糧にできるが、30㎏の肉をもらったら冷凍するしかない。トラウマ記憶は体験として一度に咀嚼するには大きすぎるので脳の中で冷凍保存される」など、わかりやすい例え話がたくさんあります。トラウマに関わる当事者や家族、支援者に優しく寄り添ってくれる一冊です。

▼『赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア 自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本』(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/4901030221/

『正しく知る心的外傷・PTSD ~正しい理解でつながりを取り戻す~』(水島広子/技術評論社)

本書は、主に対人関係ではなく、震災や事故などによるトラウマを想定して書かれています。読みやすく配慮された段落使いや文章量、イラストは理解を深める手助けになるでしょう。専門用語や厳しい言い回しなどもないため、恐怖心を持たずに読み進められます。

著者によると、心的外傷とは「『まあ、何とかなるだろう』という感覚からの離断」だそう。心的外傷は「心の傷」ではなく、「離断」として見るほうが、より実用的で現実に近いと言います。

心的外傷から回復するには「まあ、何とかなるだろう」という感覚が大切。そのために他者や自分自身の力とのつながりを取り戻すことが必要です。そのなかで、自分で工夫できること、周りの人たちが果たせる役割が、事例とともに細やかに紹介されています。

当事者、支援者、直接被災していなくとも何らかの形でストレスを感じてしまう人。「様々な立場」にいる個人に誠実に向き合う著者の姿勢がうかがえる一冊です。

▼『正しく知る心的外傷・PTSD ~正しい理解でつながりを取り戻す~』(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/4774147702/
定価(本体1,480円+税)、ISBN 978-4-7741-4770-3

『精神科医がつかっている「ことば」セラピー ―気が軽くなる・こころが治る』(上月英樹/さくら舎)

精神科医である著者が実際に治療に使っていたり、著者自身が支えられたりした言葉を厳選し、掲載した本書。誰もが知る心理学者や文豪の名言はもとより、俳優やタレント、歌手などさまざまな人による113の言葉と解釈が記されています。

例えば、「まずあなた自身が幸せになって! 母親のことは後回しになさい!」という言葉。これは、ダメな母親からのトラウマから逃げる方法についてのマツコ・デラックスさんの答えです。

著者によると、「トラウマが誰かの影響であると意識されるようになったのであれば、その人からの呪縛からは7~8割は解放されたと考えてよい」そう。抱えている“生きづらさ”が人間関係で生じたトラウマによるものだと気づいたなら、そのときが自分の心の傷と向き合うタイミングなのかもしれません。著者のこの解釈は、心の回復の第一歩を踏み出すきっかけを与えてくれることでしょう。

読むだけで心のつかえが取れるような本。時間があるときにじっくり読むもよし、心に負担がかかっているときにパラパラと読むもよし。その時々で、自分の心に響く言葉に出合えるはず。

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『自分を好きになりたい。 自己肯定感を上げるためにやってみたこと』(わたなべぽん/幻冬舎)

幼少期のしんどい親子関係から自己肯定感が低くなり、「自分が嫌い」という感情を抱えて生きてきた著者。本書は、つらい状態から脱するために、自ら考え試してきたことをまとめたコミックエッセイです。

幼少期に受けた心の傷との向き合い方、回復のプロセスが丁寧にわかりやすく描かれています。例えば、過去の悩みを振り返るシーンでは、「(著者の)子供の頃の私」が吹き出しのように心から飛び出してきます。そんな「子供の頃の私」に対して、著者は「親」になったつもりで、温かく声をかけ、当時の気持ちを肯定する行動していきます。すると、自分がいいと思った時計や服を身に付けられるようになったり、人からほめられたことを素直に喜べるようになったり……。今まで筆者が苦手だったことが少しずつできるようになっていくのです。

作中に登場するジャズの先生の言葉「自分だけでも自分の味方でいてあげて」や、夫の言葉「人は誰かを許さないままで幸せになってもいい」からは、作品を通して読者に真摯に向き合おうとする著者の気持ちが伝わってきます。

子どもの頃に受けた心の傷は、思っている以上に深いもの。もしつらい体験を思い出したら、本書で描かれているように、一休み。自分と対話する時間を大切にしてみてください。

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『トラウマ類語辞典』(著・アンジェラ・アッカーマン、ベッカ・パグリッシ 訳・新田享子 イラスト・小山健/フィルムアート社)

類語辞典は、似た意味を持つ言葉をまとめた辞典のこと。本書は、118個の心の傷を「犯罪被害のトラウマ」「失敗や間違いによるトラウマ」「幼少期のトラウマ」などに分類し、各トラウマに関連する感情や状況を「類語」としてまとめた一風変わった辞典です。

それぞれのトラウマは、さらに「行動基準の変化」や「トラウマに向き合う・克服する場面」など7つに分割され、それぞれのトラウマに関連する具体的な単語やイメージが列挙されています。

もともとは、さまざまなキャラクターを生み出す物語創作者のために作られました本書。示されているのはあくまでも一例であり、専門的な医学的根拠に基づいたものではないため、そのまま全てが現実社会にあてはまるわけではありません。しかし、自分のトラウマを表現する言葉を探す手がかりや、想像に及ばない他者の痛みや経験を知るヒントになるでしょう。

心の傷に思いをめぐらすうちに、自分自身の心が苦しくなってしまうかもしれません。本書を読む前に、冒頭にある「書き手のためのセルフケア」をぜひ参考にしてください。

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https://www.amazon.jp/dp/4845917211/

心の傷の感じ方・癒し方は人それぞれ

トラウマの受け方は、一人ひとり違うもの。

「こんな感じ方をするなんて、自分はどこかおかしいのではないだろうか」と思ったときには、一人ひとりの感じ方・癒し方は違っていてそれでいい、と思い出してみてくださいね。

(企画・選書・執筆:水本このむ 編集:鬼頭佳代/ノオト)

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2019年4月2日)に掲載されたものです。

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