「必ず、味方をするから」――フリースクールRiz代表・中村玲菜さんが学校嫌いの子どもに伝えたいこと

不登校

2018/12/31

「学校には行きたくない」と、心の声を発する子ども。そんな声を聞いて、「子育てを間違ってしまったのではないか」「親として失格だ」などと、戸惑ってしまう親御さん。

文部科学省の調査によると、不登校になる子どもの数は最大で約14万人。そんな子どもたちが、居場所を求めて訪れる場所があります。それがフリースクールです。カリキュラムはなく、好きな時間に登校して下校する。子どもたちの自主性を育む場所です。

今回お話を伺ったのは、東京目黒区にあるフリースクール「Riz」代表の中村玲菜さん、21歳。彼女が今フリースクールを運営する理由とは、一体なんでしょうか。そして、中村さんが「生きる」を迷う子どもたちへ伝えるメッセージとは。

子どもがやりたくないことはやらなくていい場所

――今日はよろしくお願いします。はじめに、フリースクール「Riz」のことを教えてください。

「Riz」は2018年6月に立ち上げた、不登校経験者がスタッフを務めるフリースクールです。なんらかの事情で学校に通うことが困難になってしまった中高生の受け入れを行っています。現在は4名の中学生が通いながら、それぞれの興味があることを自由に取り組んでもらっています。

――カリキュラムや時間割などが指定されているわけではないのでしょうか。

そうなんです。不登校になった子どもは集団に馴染めなかった経験から、自分の気持ちを隠したり、相手の顔色をうかがったりします。そんな“演じる”時間は疲れるし、その子が心から休める場所にはなりません。

好きな時間に来て、好きなことをして、好きな時間に帰る。フリースクールには、これといった決まりがありません。何かを強制するのではなく、まずはフリースクールに通うことそのものを好きになってもらいたいんです。

その後に、もし夢を叶えるために知識や学歴が必要になったら、学習面もしっかりサポートします。

――なるほど。子どもたちは、どんなことをして日々を過ごしているのですか?

いろいろですよ。なにか好きなことがあれば、それに熱中してもらっています。例えば、ゲームを作りたいからプログラミングに勤しむ子もいますし、中国語や数学を学ぶ子もいます。反対に、好きなことが特に無い子には、家でよくやっていることを聞いて「一緒に遊ぼう?」と提案しています。そうすると、絵を描く子もいれば、動画を観る子もいますね。

――本当にさまざまなんですね。フリースクールに入学する前と今とで、子どもたちに変化は見られていますか?

そうですね。入学する前は変に大人びていた子が、「Riz」へ通うなかで本来の子どもらしさを取り戻しているのが垣間見える瞬間があります。例えば、わたしが冗談を言ったときにケラケラと笑ってくれたり、「遊ぼう?」と誘っても「いやだ!」と断られてしまったり(笑)。

あと、朝起きるのがずっと苦手だった子が、フリースクールに通い始めてから、自分で起きて荷物を準備して出かけるようになったと親御さんから聞きました。「Riz」を通して子どもが変わっていくことは、とてもうれしいですね。

「大丈夫。わたしもそうだったよ」――すべては自己開示から始まる

――まだ「フリースクール」の存在自体、十分には認知が広がっていないように感じています。子どもたちは、すんなりと通えるものなのでしょうか。

通うことそのものに抵抗を示す子は少ないです。「通うと決めたのに、もしもまた行きたくなくなったらどうしよう」と感じている子が多いですね。なので、「来たくなかったら無理に来なくていいからね」と子どもたちへ伝えています。

ただ、不登校の子は大人への警戒心が強い場合が多いですし、最初はやはり緊張してしまうものです。だから、わたし自身が積極的に自己開示をすることで、「ここなら大丈夫かもしれない」と感じてもらうよう努めています。

――具体的には、どのように自己開示を行っていくのですか?

一番は、「わたしも学校に行っていなかったんだよ」と伝えることです。一度不登校を経験した子どもの多くは、先生やご両親からの「学校に行きなさい」という言葉を攻撃だと捉えてしまう。だから、まず私たちは「Riz」に来てくれた子たちを攻撃する存在ではないことをゆっくり知ってもらっています。

あとは、自身が好きなものの話をしてもらうことも多いですね。アニメや漫画などについて子どもたちが話してくれたら、わたしたちも知っている話題を元に会話を続けています。そのために、普段からアニメ、漫画、音楽、ドラマなどをチェックして、話せるネタを蓄えるようにしています。

――すごいです……! 一人ひとりに寄り添い続けることで、中村さんご自身が疲れてしまうことはありませんか?

少し前はありましたよ。あまりに子どもに共感しすぎて、話を聞いているだけで涙が止まりませんでした。けれど、わたしが背負いすぎてしまっても、悩みを抱えている子は決して救われないんです。みんなが必要としているのは、助けであって共感ではないから。

だから、今は目の前で悩んでいる子たちの助けになれるように、客観的な意見を伝えたり、モヤモヤした思いを言語化したりするサポートを行うようにしています。

「休学しながらフリースクールを運営したら、昔のわたしはどう思うかな?」と考えた

――そもそもの話ですが、中村さんご自身も不登校を経験されているんですよね。「Riz」を立ち上げるきっかけは、何だったのでしょうか。

わたしは中学1年生のときに、いじめがきっかけで不登校を経験しました。その経験から、「学校に行きたくない。でも、不登校は良くないことだ」などと思うようになりました。そんなわたしと似た悩みを抱える子どもたちを助けられる教員になる夢を抱いていたんです。ところが、大学の教育学部に進んで、あることに気がつきました。それは、「わたしのやりたいことは、教員では叶えられない」というものです。

――どうしてでしょうか。学生のそばにいる存在として、できることは多そうですが……。

教員の仕事量では、子どもの思いに寄り添えるとは思えませんでした。教員の仕事は勉強を教えることですし、その対象はクラス全体の30人。それに、親御さんとのやりとりやPTA、部活、そのほかの雑務などやることはとても多い。そうなると、教員は望んでも子どもと接する時間がほとんど取れないんです。

それで、自分の目指す道に少し迷い、休学を決めました。そんなとき、当時働いていたアルバイト先の方が「フリースクールを運営してみてはどうだろう?」と提案してくれたんです。子どもに勉強を強制せず、規模も小さく始められる。これしかない。そう思いました。

――それでは、大学を休学しながらフリースクールを立ち上げたのですか?

いえ、中退しました。もし昔の自分が「休学しながらフリースクールを運営している」と聞いたら、どう思うかなって考えたんです。そうしたら、「結局、自分のことがかわいいんじゃん」って思う気がして。要するに、戻れる場所を作ることで、自分がいつか甘えてしまうかもしれないと感じたんです。

――だから大学を中退した、と。中村さんは、どうしてそこまで思いを強く持ち続けていられるのでしょうか。

どうしてでしょうね……。わたしは中学生の頃から、同じような思いや悩みを抱えた子どもの居場所を作りたいと思ってきました。不登校を経験したあと、両親と相談して、一度、中学校を転校しています。その転校先は、わたしにとっては素晴らしい環境でした。友人も、先生も、部活も勉強もなにもかもが楽しい毎日で。

不登校を経験した子どもの多くは、「学校は嫌なものだ」と感じてしまうもの。しかし、本来の原因は「学校」にあるのではなく、「学校の中のなにか」にあるんです。その小さな“なにか”が火種となって、いずれ、学校そのものを拒絶してしまう。

わたしは不登校を経験し、そのあとに学校が楽しい場所であることを知りました。だからこそ、同じように悩む子どもたちに伝えたいことがあるんです。そして、もう人生の半分以上の時間を、同じ思いに捧げてきました。強い思いがあるのかどうか分かりませんが、自分がやるしかない。そう思っています。

居場所はここにある。でも、私たちは誰にこの声を届けたらいいのか分からない

――中村さんや「Riz」が、これから描いていきたい未来はどのようなものですか?

いろいろと考えていることはあります。ただ、「Riz」はまだ立ち上がって半年しか経っていません。これから、今よりももっと認知を広げて、フリースクールを一つの選択肢として考えてもらえるようになれたらと思っています。

また、わたし個人としては、10代の自殺者をゼロにしたいです。現在は、毎年300人くらいの自殺者がいるそうですが、わたしはその子たちを助けたい。

自殺って、受験に失敗したとか、ほんの小さなことが引き金になるんです。でも、その本当の理由は「居場所がないから」だと思うんですよね。心が落ち着く場所や話を聞いてくれる人がいるかどうか。そして、「Riz」はそういう場所になりたいと思っています。

――子どもが安心できる居場所を作ることが、なによりも大切なんですね。それでは、最後に、不登校の子を持つ親御さんや、学生に向けたメッセージを教えてください。

親御さんに伝えたいのは、一人で解決しようとしないでください、ということ。親の務めは、子どもの居場所を作ることです。愛していることを伝えることです。子どもが不登校になるのは、変なことでもなんでもありません。どうか自分の責任だと抱え込まずに、近くの人を頼ってもらえるとうれしいです。

そして、悩んでいる子どもたちへは、悩んだときには連絡をください、と伝えたい。今、日本に13万人の不登校の子どもがいることをわたしは知っています。だから、みんなの居場所を作って待っています。

でも、居場所を作っても、届ける術が少ないんです。悩んでいる子がどこにいるのか分からないから。SNSやWebで一生懸命に届けても、まだまだこの声は届いていかない。だから教えてほしい。「つらいんです」って、たった一言、メッセージをください。必ず、味方になります。

(取材・執筆:鈴木しの 編集:鬼頭佳代/ノオト)

取材協力

中村玲菜さん

神奈川県生まれ、21歳。中学生時代にいじめ・不登校を経験し、子どもの居場所づくりに携わることを決意。18歳で学校にも家にも居場所のない10代のためのコミュニティサイト「ティーンズプレイス」を設立し、現在は中高生向けフリースクール「Riz」代表を務める。

※本記事はWebメディア「クリスクぷらす」(2018年12月31日)に掲載されたものです。 なお、記事中の「Riz」の運営は現在は終了しております。

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